二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1711640568919.jpg-(534274 B)
534274 B24/03/29(金)00:42:48No.1172521525そうだねx6 03:01頃消えます
形あるものはいずれなくなる。私にとってその言葉は哲学的な説教ではなく物理学的な事象として現れる。即ち、この掌に収まるあらゆるものは砕け、潰れ、その形を失う。では、形のないものはなくなることはないのだろうか。
引退して以来、そういった思考が時折頭によぎる。朝の日差しに羽ばたく黒歌鳥のようにシルエットだけを残して、後には一枚の羽も残さずに。
散漫に飛ぶ旅鳥の思索は最近、ある姉妹の会話を啄んでいた。
「ね!お姉ちゃん最近よく笑うようになったよね〜」
「……それは、ヴィブロスのおかげだよ」
シュヴァルグランとヴィブロス、かつて私と競い合ったヴィルシーナの二人の妹。心の鳥は二人の言葉を建材とし、巣を作ろうとしている。
「あ、ジェンティルさんだ〜!」
「こら、ヴィブロス。……す、すいません……」
「構わなくってよ。どうしたのかしら」
「どーもしないよ? 話しかけただけ!」
「そう」と会話を切り、二人を改めて見つめる。普段はツインテールにリボンを絡めた三女のヴィブロスは髪を下ろしており、次女のシュヴァルグランの手にそのリボンが握られている。結び直していたらしい。
「仲が良いのね」
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/03/29(金)00:43:03No.1172521609+
「えっ?……あ、これは……」
そういう間にもシュヴァルグランはヴィブロスの髪を丁寧に結び、ゆっくりとリボンをかける。手慣れた鮮やかな手付き、けれど彼女は納得していないようだった。
「……やっぱり、姉さんの方が上手いや」
「シュヴァちも上手だよー、ねっ、ジェンティルさん!」
「私には見分けがつかないわね」
それを聞くや否や、二人にひまわりのような笑顔の花が咲いた。私はあなたたちを照らしはしないというのに。
「さっすがー!見る目ある〜」
「おい、ヴィブロス……」
構わない、と私は首を振った。姉妹の間には不可視で不可侵の空気が流れている。あるいはそれこそ、形のないものなのが。
「えっと、それじゃあ、失礼します。……僕たち、姉さんにプレゼントを買いに行くんです」
「プレゼント?あの子の誕生日はこの前じゃなかったかしら」
「うん!でもでも、お姉ちゃんにいいことがあったからね、おめでとー!のプレゼントっ!」
黒歌鳥が翼を広げ、頭の奥で囀った。姉妹の会話の断片に、求めた何かがあるのかもしれない。
「……お邪魔じゃなければ、私もついていっても?あの子には、感謝しているもの」
224/03/29(金)00:44:21No.1172522023+
意外なことだったのだろう。私自身にとってもそうなのだから、二人には尚更。
揃って大きく目を広げた姉妹は笑ってしまう程に長女と似ており、同じ鋳型で生まれた者がこんなにも普段の印象を変えられるのかと感心すら覚えた。
「ぼ、僕たちは大丈夫、です……けど……?」
「ね。なんか、ね!?」

プレゼントはすんなりと決まった。右手の薬指につける指輪。指輪はそれぞれ嵌める指によって意味が異なるが、それは関係がないと姉妹は口を揃える。
「いつかお姉ちゃんの指ぜーんぶに、私とシュヴァちの指輪あげるの!」と獅子吼するヴィブロスにシュヴァルグランは呆れたように笑ったが、否定もしなかった。
恐らく、幸せとは贈り物ではなく、それが身につけられているという状態なのだろう。
「でも、いつの間に姉さんの指のサイズを……?」
「ふっふーん♪シュヴァちもさりげなーく好きな人の指のサイズくらい測れないとだよ?気になるあの子の……」
「う、うるさいな……。関係ないだろ」
形のないもの、とは、記憶や感情だ。つまり心と、そこに刻まれたもの。
「ね、ジェンティルさん!リボン選ぼ!」
ヴィブロスの言葉とともに、黒歌鳥は羽ばたいた。
324/03/29(金)00:44:33No.1172522103+
「リボン?」
包装ならこの店でもやってくれる。高級感のある黒い箱に、これまたしっかりとした作りの紙袋。どちらも私が握れば等しく潰れてしまうが、そんなことをしたいとは微塵も思わない、美しいものだった。
「あの、僕たち……、いつもプレゼントにはリボンをつけているんです。……姉さんが、そうするのが好きだから」
それも意外な話だった。リボン。リボン、とくるりと視線を動かすと、ヴィブロスの髪に巻き付いたそれに気付く。
「大事なものにリボンを結べば……これは、とっても大事なんだよって伝わる、から……」
「えへへ〜、シュヴァちもつければいいのに」
「僕には似合わないから、いいよ……」
かわいいと思いますわよ、と冗談めいて囁いた。三人は再び街を歩く。姉妹の会話は途切れ途切れで時折ぎこちなくて、けれどそれも織り込んで作り上げられていた。
幸せとは、必ずしも美しいコンチェルトではない。ただ共に演奏しているという事実なのだろう。
リボン選びは難航した。
「ん〜……こっちの青いのがいいかな〜?」
「箱が黒いから、ちょっと冷たいイメージにならないかな?」
「んんん〜……」
424/03/29(金)00:44:58No.1172522247+
アナロジーで考えるなら、幸せとはリボンの色や形ではなく、リボンがあるということ。二人は当然のようにそれを知っていながら、どうしてこんなにも悩むのだろうか?
「……こちらはどうかしら」と私が手に取ったのは、燃えるような夕焼けの色がマジックアワーの黄昏を経て徐々に夜へと向かうような幻想的な色のもの。
あるいは、夜明けへと時が向かう色。あるいはそのどちらでもない幻想的な時間だった。黄昏時と彼は誰時の曖昧に飛ぶ真っ黒い鳥は、形の推論だけでなく形への比喩を要求していた。
「どれどれ……ねー!見て見てシュヴァち、これよくない!?」
「う、うん……。ありがとうございます、ジェンティルさん」
店を出ると、太陽はすっかり傾いていた。二人と別れてからも私は考える。
形のないものとは、何か。それは握ることができないもので、リボンをかけることができないものだ。なぜなら握ることそのもので、結ぶことそのものだから。それでもリボンを選ぶのはなぜだろうか。
それでも、あの日、ヴィルシーナへと手を伸ばしたのはなぜか。その手が握られた瞬間に覚えた気持ちは何か。
形のないものはなくなることがないのだろうか。
524/03/29(金)00:45:08No.1172522294+
わからない。
なぜなら、あの三姉妹のようなことを私は幸福だとは思わないから。推察はできても体験はできなかった。
けれど、ヴィブロスの髪を整えていたシュヴァルグランが、そのシュヴァルグランをからかいながらも楽しませようとしていたヴィブロスが、あるいはずっと前から決めていたであろう指輪を受け取った二人が、リボンを箱にかけようと四苦八苦していた二人が、そしてそんな二人を支えにし、支えられて私に挑み続けたヴィルシーナが、それぞれ思うように生きてあの関係を維持しているとはまるで思えなかった
リボンは紐帯だ。彼女たちが互いを結びつけ、離れないようにするための。そこには吐息のように自然な配慮が数えきれない程に繰り返されているに違いない。
今頃ヴィルシーナは箱に結ばれたリボンを解いているだろいか。それから、指輪を身につけているだろうか。それを知る術は私にはなかった。ただ一つだけ言えることがあるのなら、ヴィルシーナが喜んでいるといい、ということだけ。
リボンを握った。掌からわずかに飛び出た青色が、翩翻と風に揺れた。
624/03/29(金)00:46:21No.1172522666そうだねx9
ジェンティルさんとシュヴァルとヴィブロスが仲良く姉さんに何かする話を考えたけどなんだかよくわからない方向に行ってしまったので供養します
おやすみ
724/03/29(金)00:48:00No.1172523175そうだねx3
うーむ凄く綺麗なお話で困惑している
824/03/29(金)00:50:32No.1172524069そうだねx2
ジェン→ヴィルいいな…
924/03/29(金)00:54:08No.1172525344そうだねx4
🔹ナリタトップロードじゃない…
🔷ナリタトップロードじゃなかったわ
1024/03/29(金)01:03:30No.1172528219そうだねx6
>🔹ナリタトップロードじゃない…
>🔷ナリタトップロードじゃなかったわ
膨張もするんだ…
1124/03/29(金)01:03:34No.1172528238そうだねx1
書き込みをした人によって削除されました
1224/03/29(金)01:08:06No.1172529573そうだねx2
fu3287730.txt
ついでに前に書いた幼馴染捏造ヴィルジェンと
fu3287732.txt
スレに投下するのが間に合わなかった小さくなったジェンティルさんと
fu3287734.txt
ヴィブロス→シュヴァルに言ってる「好きな人の指〜」のくだりのイメージになってるクラシュヴァも良かったら読んでくれると嬉しいです
かしこかしこ
1324/03/29(金)01:09:58No.1172530107+
>ジェン→ヴィルいいな…
二人に着いていくと口にしたのはヴィルシーナの事を知りたいと思ったからなのいいよね…
1424/03/29(金)01:12:19No.1172530766そうだねx2
>ただ一つだけ言えることがあるのなら、ヴィルシーナが喜んでいるといい、ということだけ。
ここのドンナはもう答えを握ってるのに自分自身はそれにまだ気づいてないようなそういう青臭さを感じる描写がめっちゃ好き
1524/03/29(金)01:12:34No.1172530826そうだねx2
そうそうこういうのでいいんだこういうので
1624/03/29(金)01:16:45No.1172532030+
さてはお料理上手な姉さんも書いてたな?
1724/03/29(金)01:18:40No.1172532569+
この3人の絡みもっと増えろ
1824/03/29(金)01:19:30No.1172532769+
♥素敵な妹さんたちね
1924/03/29(金)01:20:13No.1172533003+
>さてはお料理上手な姉さんも書いてたな?
今読むと幻覚ジェンティルさんが誰こいつ過ぎて笑っちゃうから許して
2024/03/29(金)01:21:01No.1172533269そうだねx1
過去作読んだよ!出しゃばってくるふわふわお姉さんでダメだった
2124/03/29(金)01:21:57No.1172533510+
>♥素敵な妹さんたちね
🔷私の妹達に何する気よ…!
2224/03/29(金)01:23:09No.1172533849そうだねx5
>>♥素敵な妹さんたちね
>🔷私の妹達に何する気よ…!
❤️一緒にプレゼントを買いに行くわ
2324/03/29(金)01:25:55No.1172534602+
これジェンティルは三姉妹の事羨んでる解釈も出来そうでいいなぁ…
強者の孤独…
2424/03/29(金)01:26:31No.1172534732そうだねx4
でも僕は、姉さんがリボンを褒めた後に僕とヴィブロスから「ジェンティルさんが選んだものだよ」と聞かされた時の反応が見たいですよ(シュヴァルグラン氏)
2524/03/29(金)01:26:37No.1172534753+
>過去作読んだよ!出しゃばってくるふわふわお姉さんでダメだった
でもふわふわお姉さんがでしゃばらなければぬるぐちょのシーンになってたよ?
2624/03/29(金)01:29:36No.1172535532そうだねx3
>でも僕は、姉さんがリボンを褒めた後に僕とヴィブロスから「ジェンティルさんが選んだものだよ」と聞かされた時の反応が見たいですよ(シュヴァルグラン氏)
でもさぁシュヴァち〜?
そのネタバラシをするのはもっとジェンティルさんと一緒にお出かけしてたくさんのプレゼントをあげた後の方がいいと思うな〜
2724/03/29(金)01:32:58No.1172536385+
>これジェンティルは三姉妹の事羨んでる解釈も出来そうでいいなぁ…
これを幸福だとは思わないってモノローグにあったけど心の根底では羨ましさもあったんじゃないかなあ
2824/03/29(金)01:33:48No.1172536586そうだねx2
>でもさぁシュヴァち〜?
>そのネタバラシをするのはもっとジェンティルさんと一緒にお出かけしてたくさんのプレゼントをあげた後の方がいいと思うな〜
確かに…貰ったプレゼントがどれも自分の嗜好にとても合う物であるという事実が確たる証拠として芽生えた方からの方がいいか…やるねヴィブロス
2924/03/29(金)01:33:51No.1172536598+
わからないものをわかろうとする努力って好意があっての上での行動なんですよね
3024/03/29(金)01:34:21No.1172536720そうだねx2
姉妹は姉さんをどうしたいの…
3124/03/29(金)01:36:03No.1172537107+
真面目に心理描写を紐解く感想とじゃあくな姉妹が姉さんの心を打ち砕こうとしてんのが入り乱れて混沌としておる
3224/03/29(金)01:38:12No.1172537562+
シーナがドンナに強い執着を抱いてるのと同等くらいにはドンナも似たように心を奪われてるのいいよね…というぐらいしか俺にはまだ分からない…
3324/03/29(金)01:40:05No.1172537997そうだねx3
>姉妹は姉さんをどうしたいの…
大好きなお姉ちゃんのいろんな顔がもっと見たい
3424/03/29(金)01:40:47No.1172538155そうだねx2
>でもさぁシュヴァち〜?
>そのネタバラシをするのはもっとジェンティルさんと一緒にお出かけしてたくさんのプレゼントをあげた後の方がいいと思うな〜
余り物のリボンが増えていく。それらをつなぎ合わせると、一本の新しいリボンになった。ヴィルシーナへと贈る幾つものプレゼント、形のない幸せを包むための紐帯は、立派に役目を果たしていたらしい。
「耳飾りにでもしようかしら」
気まぐれを口実に、リボンを結ぶ。思えばいつも、私の仕事はリボンを選ぶまで。最後の仕上げは二人の妹の仕事だった。
いつしかリボンは贈り物のメタファーになっており、そして、それを自分に結ぶことの意味が何を意味しているか、考えもしなかった。鏡を見るその時までは。
「……何かしら、これは」
これじゃあ、これじゃあまるで。
右手の薬指と人差し指と小指、左手の人差し指と中指。それから、私がこの遊びに興じる前から姉妹が場所取りをしていた指たち。それらを除けば、ヴィルシーナの残された指は左手の薬指のみ。
指輪の代わりに、このリボンを結んでやろうかしら。
ぴん、とリボンをほどきながら、そんなことを考えた。
みたいなジェンティルサイドの話も欲しいですね
3524/03/29(金)01:43:32No.1172538775+
蹴散らした相手も突き放された相手も沢山いるのになぜかいつも思い出すのは後ろに食いついてきたあの子なのいいよね…
3624/03/29(金)01:44:14No.1172538949+
闇の姉妹…
3724/03/29(金)01:46:56No.1172539531そうだねx4
>指輪の代わりに、このリボンを結んでやろうかしら。
遊びに興じると言った割にはどこか本気さも混じってる感じがしてすごく…すごい…
3824/03/29(金)01:48:09No.1172539789そうだねx1
文章がえっちだな
スケベじゃなくてえっち
3924/03/29(金)01:50:38No.1172540359+
ナリタトップロードしないの?
4024/03/29(金)01:50:51No.1172540404+
>「耳飾りにでもしようかしら」
こう言ったときドンナ自身も気づかぬ内に少しはにかんでるのが姿見越しの横顔に映る一コマが想像できる
4124/03/29(金)01:52:43No.1172540822+
>リボンは紐帯だ。彼女たちが互いを結びつけ、離れないようにするための。
リボンに対してこういう感想を抱いてたジェンティルさんが気まぐれだとしてもそれを身に付けようと思ったのってつまりそういうことなんですよね!?
4224/03/29(金)01:59:54No.1172542296そうだねx4
私の両手には九つの指輪がある。シュヴァルとヴィブロス、二人の最愛の妹が何かにつけてくれた指輪が。
贈りものはいつでも素敵で嬉しくて、心が込められているならなおさらだ。寂しい左手の薬指は、自分の番を今か今かと待っている。
そして、その日は唐突に訪れた。二人の妹が、ジェンティルドンナと楽しげに話しているのを見かけたその日。
「あ、お姉ちゃーん!」
元気よく手を振るヴィブロスに応じ、少しだけ早足にになる。言語化のできない恐れが背筋を走る。
「あら、二人とも。早かったのね。……あなたも。ジェンティルドンナ」
「ええ、ちょうどあなたのことを話していましたのよ」
彼女はいつも通りの不敵な笑顔を浮かべ、私を見下ろす。そう、結局ずっと、私は彼女を見上げていた。
「姉さんも帰り?……よかったら、ちょっと話がしたくて……」
(文字数と時間が足りないので割愛するけどこの後傅いたジェンティルさんに手を取られて生まれて初めて彼女を見下ろしながら左手の薬指にリボンを巻かれた挙句「私が予約しておきますわ」と言われる卒業間近のジェンティルドンナとそれを見送る姉さんがいてもいいよね……)
4324/03/29(金)02:02:48No.1172542838そうだねx3
これじゃまるでシュヴァルとヴィブロスがキューピッドみたいじゃないですか
4424/03/29(金)02:05:28No.1172543327+
耳飾りのリボンするっとほどいてプレゼントするのめちゃくちゃ絵になると思う
4524/03/29(金)02:08:05No.1172543761+
ヒョエ…
4624/03/29(金)02:10:14No.1172544108そうだねx2
>いつしかリボンは贈り物のメタファーになっており、そして、それを自分に結ぶことの意味が何を意味しているか、考えもしなかった。鏡を見るその時までは。
>「……何かしら、これは」
>これじゃあ、これじゃあまるで。
プレゼントは私…ってコト!?
4724/03/29(金)02:18:12No.1172545264+
この3人の怪文書が書かれたって事実だけで笑ってる
4824/03/29(金)02:21:28No.1172545742+
>この3人が仲良くしている怪文書を読みたい
昨日こんなレスしたやつがいたから…
4924/03/29(金)02:29:15No.1172546937+
随分カロリーの高い仲良しだ…
5024/03/29(金)02:31:08No.1172547206+
>昨日こんなレスしたやつがいたから…
ありがたいよね…


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