二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1790003780782.png-(151639 B)
151639 B26/09/22(火)00:16:20No.1470729253そうだねx1 01:57頃消えます
彼に初めて携帯電話を渡した日のことを、昨日のことのように覚えている。
「おはよう、スー。今日も早いな」
「そんなことを言って、いつもきみが一番乗りだろう?きみより早く学園に来れた試しがないよ」
私も彼も若い頃から朝早く起きてしまう質で、皆が登校してくる一時間前には学園にいるのが常だった。朝練をするウマ娘さえグラウンドにいないときに二人分の珈琲を淹れていると、この学園が私たちだけのために開かれているように錯覚するのだが、そのことは誰にも言わない。
「俺が言っても説得力はないかもしれないが、家でゆっくりしていてもいいんだぞ?きみは帰りも遅いじゃないか」
「大丈夫だよ。もうすっかり朝型になっちゃったから。
それに、こうしてると何か得した気分になれるんだ」
…126/09/22(火)00:16:35No.1470729344+
「やることと言っても俺と話すくらいだろう?本当にそれでいいのかい」
「それが楽しくて早起きしてるんだけど、おかしいかな」
自分でもずるい訊き方だと思った。こんな言い方をすれば、彼は必ず私と過ごす時間を価値あるものだと肯定してくれるだろうから。
「…本当?」
「もちろん」
「…そうか。ありがとう。
なら、これを渡しても迷惑にはならなそうだね」
それに、こう切り出さなければどう言って渡してよいのか、わからなかったのだ。こうして勇気をもらわなければ、案の定腑に落ちないという顔をしている彼を見ると、居た堪れなくてとても最後まで伝えられなかっただろう。
「これ…携帯電話?」
「すまない。俺も遠慮したんだが、お祖父様に押し切られてしまってね。お守りのようなものさ」
…226/09/22(火)00:16:51No.1470729432+
当時は携帯電話が今ほど普及しておらず、学園も職員用の携帯電話を支給することなどしていなかった時代だった。こんなものを渡されても彼は困るだけだろうと思ったのだが、結局私の手には無骨な電話機が二つ残ったのだった。
「スーも持つの?」
「…まあね。いつでも連絡が取れるようにということらしいが、何かあるならきちんと顔を合わせて話すよ。徒に鳴らしたりはしないから、お祖父様の顔を立てると思って持っていてやってくれないか」
せめて色は別にしてくれという願いだけは聞き届けてもらえたのだが、改めて考えると業務用の機器を態々色分けするという方が、何か疚しいことを意識しているような気もする。だが彼は、心の中で独り相撲を取る私を他所に、差し出された携帯電話をあっさり手に取った。
…326/09/22(火)00:17:05No.1470729502+
「スーの番号、教えて」
「えっ?…ああ、わかった」
彼があまりにすんなり状況を受け入れたものだから、却って私が慌ててしまった。番号が正しく入力されて、無機質な着信音を当たり前に鳴らす携帯も彼も平然としているのに、私だけが恥ずかしいくらいに心を乱している。
「もしもし、聞こえる?」
けれど彼の顔を見ると、仕方ないじゃないかと言い訳がしたくなる。電話越しに話しているのに、優しく、少しいたずらっぽく笑いかけてくる彼の顔を、私はきっと忘れられないのだろう。
「…ふふっ。
もちろん。電話の意味がないくらいね」
通話を繋げながら隣同士でソファーに座る私たちは、きっとさぞかし滑稽だろう。
「きみまで笑うことはないじゃないか」
「いや、スーの言う通りかもなって思ってさ。電話を使っても、結局は会って話がしたくなっちゃう気がする。
そう思ったら、なんだか可笑しくて」
…426/09/22(火)00:17:20No.1470729596+
この携帯電話はお守りだ。滅多なことでは使わないだろう。
「…嬉しいことを言ってくれるね」
だが、彼の心の裏口の鍵を私だけが持っていると思うと、心が浮き立つような気分になった。
…526/09/22(火)00:17:34No.1470729672+
今や携帯電話は誰もが持つ道具となり、ネットワークはこの星の地表を余すところなく覆っている。
だが、海を越えて出向かなければならない仕事は相変わらずなくなりそうにない。もう少し便利になったらこうして世界中を飛び回る必要もなくなるのかなと思うと、嬉しいような寂しいような不思議な気分になる。
「…ん」
しかし、眠ることだけを考えるのなら日本の自宅に勝る場所はない。両手足の指で数え切れないほど海外に出かけておきながら、今でも寝床が合わないと眠れなくなる贅沢な体には本当に参る。
幸い、眠れないからと言って携帯を触り続ける趣味はない。このまま寝床に横になって眠気が訪れるまで耐え忍ぶ覚悟を決めた以上、通知を鳴らした枕元の携帯も一瞥の後に捨て置くつもりでいた。
「…あっ」
ホーム画面に表示されていたのは、滅多に使わないメッセージアプリの着信を告げる通知。
相手は、彼だった。
…626/09/22(火)00:18:00No.1470729829+
眠れはしないが気怠さが残る中途半端な意識が、一気に覚めてゆくのがわかる。急いでアプリの画面を開くと、そこには一枚の写真が添付されていた。
「…ふふ」
学園の近くの丘から見える、街の景色の写真。それを見て日本はちょうど朝だったなと、今更のように思い出した。
朝焼けに照らされた青空と街は、あの時から少しも変わらない美しさだった。
朝のロードワークのときに、ここをゴールにしようと言ったのは彼だったっけ。ベンチに腰掛けて頬を抜ける涼しい風を感じていると、決まって彼は冷たい飲み物を買ってきてくれたのだった。
…726/09/22(火)00:18:21No.1470729925+
『今撮ったのかい?』
『うん。すごく綺麗に晴れてる』
彼も今や後輩に指導をする立場だ。休日の早朝に、自らウマ娘の自主練習に同伴することはないだろう。
私に付き合って一緒に朝の街を走ったことを今でも覚えてくれているのだなと、都合のいいことを考える。その思い込みが、用もないのに話しかけるきっかけを作ってくれたことに感謝しながら。
『少し話してもいいかな。
こちらは夜なのだけれど、どうしても眠れないんだ』
…826/09/22(火)00:18:35No.1470730011+
送ったメッセージに既読が付いて、通話の着信ありの表示が出るまでには十秒もかかっていなかったと思う。
「ああは言ったけど、いいのかい?起きたばかりだろう」
「いいよ。気持ちよく晴れたから走ってみただけで、今日はやることないから。
それに、スーの声聞けてうれしいし」
彼の声を聞くと心が安らぐのは、爽やかな小鳥の囀りが音声に混じっているからではないだろう。
「…私もだよ。きみの声を聞くと安心する」
いつ帰ってきても、私に会えてよかったと言ってくれるその声に、私はいつまでも甘えてしまっている。
…926/09/22(火)00:18:53No.1470730108+
「あまりいいホテルじゃないのか?」
「いや、逆だよ。豪華すぎるんだ。気を回してくれるのはありがたいが、一人で泊まるには広すぎる」
日本のレース界の地位を高く評価してくれていると思えば光栄なことだが、どれだけ旅をしても『日本的』な価値観が染み付いている私には、高級ホテルの最上階の個室は豪奢に過ぎる。少しおざなりに対応してくれるとこちらも気楽でいられるのだが、これだけもてなされると豪華さで威圧されているような気分になるのだった。
「あのときは俺もそうだったな。俺のは唯の貧乏性だけど」
「今でも思い出すよ。二人で一緒にホテルのランクを抑えてくれと言ったときには、お祖父様は狐につままれたような顔をしていたな」
生まれも育ちも違うのに、良くも悪くもどこか地に足がついた価値観が根っこにある。周りにある何もかもが違いすぎたあの時は、そのことが何よりも頼りに思えたものだった。
…1026/09/22(火)00:19:09No.1470730210+
「…今でも、眠れなくなるの?」
確かめるのが恐ろしいと言うように、彼の声が俄に小さくなった。
「…ん?ああ、心配しないでくれ。今日はただ落ち着かないだけさ。あのときとは違うよ」
体力を消耗している筈なのに、少しも眠くならない。漸く寝付いたと思っても、2時間も経てばすぐに目が覚めてしまう。
あの時は眠ることにさえも難儀していた。眠らなければいけないのに、眠ると時折見る悪夢が何よりも恐ろしかったのだ。
「…けれど、私は変わっていないな。少し困ると、すぐきみに甘えてしまう」
それでも、彼と話すと不思議とその日はよく眠れた。彼も不安に押し潰されそうだっただろうに、レースの前の日には私が寝付くまで、ずっとそばにいてくれたのだった。
…1126/09/22(火)00:19:22No.1470730290+
彼を私の仕事に付き合わせたことはない。
私の挫折と経験を未来に活かしたいというのは、私の望みだ。それに彼を付き合わせることはできない。
「いいよ、気にしないで。
まだ、スーのために何かできるってことでしょ。うれしいよ」
そう思わなければ、彼はきっとなんでもすると言ってしまうだろう。そして私は、彼の優しさにいつまでも浸ってしまうのだろう。
きっと私は、私自身をいつまでも許せなくなる。彼の顔を見る度に、自分の醜さを思い出してしまう。
…1226/09/22(火)00:19:39No.1470730399+
あのときもきみは、眠れない私にこうして寄り添ってくれたね。
行き場のない苦しみをどれほど吐き出しても、私と一緒に勝ちたいと言い続けてくれたね。
だから私は、最後に少しだけ自分を好きでいられた。自分の無力さにどれほど失望しても、きみのためなら走り続けられると思えたから。
そんなきみのことが、いつまでも好きだ。
「…ありがとう。
もう少しだけ、付き合ってくれないか。きみがよければ、だけど」
…1326/09/22(火)00:19:49No.1470730449そうだねx2
もう、夢を見るのは怖くない。悲しいことを思い出しても、きっときみが守ってくれる。
「もちろん。
明日、ちゃんと頑張れるようにね」
だから、またきみの夢を見てもいいかな。
夢の中なら、いくらでも好きと言えるから。
…1426/09/22(火)00:20:27No.1470730647そうだねx3
おわり
凱旋門賞も近いからしっとりスーさんでととのいたい
…1526/09/22(火)00:24:16No.1470731877+
両想いだけど罪悪感が上回っていつまでも先に進めないふたり
…1626/09/22(火)00:27:00No.1470732767+
トレーナーくんに縁談が持ち上がらないことに安心した後にそれに安心する自分に気づいて自己嫌悪するスーさんください
…1726/09/22(火)00:29:02No.1470733361+
弱者男性の妄想すぎる…
…1826/09/22(火)00:30:30No.1470733766そうだねx1
学園を卒業するときに仕事でもらったものだからと携帯を返すスートレ
やはり仕事の関係なのだなと少し寂しく思ってると個人の携帯の番号を聞かれて仄暗い喜びを覚えるスーさん
…1926/09/22(火)00:59:43No.1470740961+
どんな高級料理よりもヨーロッパの食事が喉を通らないときに作ってもらった優しい味が好きなスーさん
…2026/09/22(火)01:04:51No.1470742088+
スートレも他の子を何人も担当してきちんと結果も出させてあげたとしてもスーさんのことになると目つきが変わるから皆に察されていてほしk
…2126/09/22(火)01:09:55No.1470743182+
お酒飲めないしラーメン一杯でお腹いっぱいになるし枕が変わると眠れないあざとジジイ


1790003780782.png