二次元裏@ふたば

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28440 B26/09/17(木)17:40:43No.1469255551そうだねx2 19:29頃消えます
「お待たせしました」
 大きな青磁の丸皿を、ラビアタはテーブルに置いた。
 笹の葉で美しく飾られた皿の中央には、ピンク色をした肉厚の刺身がきれいに盛られている。
「これが?」
「はい、洪魚膾(ホンオフェ)……エイのお刺身です」
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
…126/09/17(木)17:41:04No.1469255627+
 魚の刺身とあらかじめ聞いていなければ、生ハムか何かのようにも見える。透明感のある濃いピンクで、ふちに近い部分だけがクリーム色だ。刺身のまわりには、キムチ、サンチュ、薄くスライスしてゆでた豚肉がバランス良く飾られている。
「旧時代の韓国では、お祝いの時に食べる料理でした」
「ふうん。いいじゃないそういうの、特別ってことね」
 テーブルの向かいに座ったエキドナが、満足そうに笑った。
 小さなテーブルは三人座れば満席だ。ラビアタに視線で促されて、まず俺が一切れとった。エキドナが待ちかねたように箸を伸ばして三切れほどすくい取っていき、最後にラビアタが品良く小さな一切れをとる。
「さ、どうぞ。室温でダレないうちにお召し上がりください」
「じゃ、いただきます」
「いただくわ」
 コチュジャンベースらしき真っ赤なタレをちょっとつけて口に入れると、
(けっこう固いな……?)
 というのが、最初の感想だった。
…226/09/17(木)17:42:15No.1469255893+
 マグロの刺身なんかでスジが入っていることがあるが、あれのもっとごつい……スジというより、軟骨だろうか。ゴリゴリ噛みつぶす必要がある感じだ。スジとスジの間にある肉そのものはねっとりと柔らかく、噛んでいるうち口の中へ溶け出してくる。
(でもまあ味は普通というか、なんだろこれ? どこかで……)
 などと考えつつ、数回噛んだときにそれは来た。
「ンむ!? ごっほ……えふ……!」
 臭い。
 ものすごく臭い。臭いというよりむしろ熱い。アンモニアの臭いだ。猛烈なアンモニア臭が口の中に充満している。
「……!?…………!? ごほ、ぶっほ、ゴホ!」
 エキドナも口を押さえて目を白黒させたと思うと、盛大に咳き込んだ。気持ちはよくわかる。口の中がアンモニア臭で満たされて、下手に息を吸うと噎せてしまうのだ。慎重に鼻から吸って口から吐く、ということを何度か繰り返し、口の中の臭気を落ち着かせようと試みる。
「ラビ……あのゴホッ、これって……」
…326/09/17(木)17:42:36No.1469255962+
 ラビアタは澄ました顔で口を動かしている。こっちは口の中がスースーしてきた。いや、スースーを通り越してヒリヒリしてきた。いったいこれは食べ物なのか? 傷んでいるのじゃないか? いや、ほかならぬラビアタが出してくれたのだ、妙なもののはずはない。きっと俺がまだわかっていないだけで、何か味わい方があるはすだ。そう信じて必死に咀嚼を続けていると、
「いや……うん…………?」
 だんだんと、口の中に臭さとは別のものが感じられてきた。
 納豆のような。チーズのような……いや、魚の丸干しをかじった時のような。いつだったかソワンが作ってくれた、エビの殻をすり潰して作るという濃厚なソースにもちょっと似ている。しばらく考えて、やっとわかった。
 旨味だ。舌がビリビリとしびれてくるほどの、とんでもなく濃厚で強烈な旨味だ。
「ご主人様、こちらを」
 タイミングを見計らったように、ラビアタが小さなお椀にマッコリを注いで差し出してくれる。口に含むと、甘酸っぱさが臭いをさっと流してくれて、旨味だけが口の中に残る。
「おお……!」
…426/09/17(木)17:42:56No.1469256029+
「エキドナはお酒が苦手だから、こちらね。甘酒を炭酸で割ったものよ」
 エキドナが椀を受け取るやいなやぐっと煽る。白い喉がぐいっと動いて、口の中のものをむりやりに飲み下したのがわかった。
「…………っぷハァッ……! ハッ、ハッ、え゛ほッ、え゛っほ……何よこれ? 食べ物なの?」
「エイやサメの仲間は、死ぬと体内でアンモニアができるの。釣ったばかりの新鮮なエイを密封して温かいところで保管しておくと、このアンモニアが防腐の役目をして、発酵が進んでこのホンオフェができるのよ」
「それつまり、放置して腐りかけたエイってことじゃないの……!?」エキドナは涙目になって長い舌を垂らしている。
「ご主人様はいかがでしたか?」
「あ、うん。臭いことは臭いんだけど、なんかすごい旨味があるな」
「それがホンオフェの味です」ラビアタは嬉しそうに手を合わせた。「熟成がすすむと肉のタンパク質が分解されて、とても沢山の旨味物質……アミノ酸が生まれるんですよ」
「ははあ」
…526/09/17(木)17:45:42No.1469256704+
 もう一切れとって、鼻の先にもっていく。さっきはすぐ口に入れてしまったので気づかなかったが、確かにつんとくるアンモニア臭がする。というか、相当する。この料理を出すのに、ラビアタが食堂でなくわざわざ別の部屋をとった理由がわかった。
 口に入れてみる。何度か咀嚼し、アンモニアの臭いがきつくなる前にぐっとマッコリで流し込む。発酵して溶けるほどに柔らかくなったエイの身と、甘酸っぱいマッコリがちょうどいいバランスで口の中に残ると、絶妙な味わいになる瞬間がある。なるほど、ちょっとわかってきた気がするぞ。
「次はこちらを試してみてください」
 ラビアタが菜箸で豚バラを広げ、その上にホンオフェとキムチを乗せてくるくる巻いたものを小皿に作ってくれる。
「一口でどうぞ」
 と、いうのでガバッと口に入れてみると、豚肉の脂とキムチの辛味が臭さをうまい具合に打ち消してくれる。そしてホンオフェの強烈な旨味が豚とキムチの味を増幅させる。
「おおお……!」
 そこをマッコリで追いかける。うまく言えないが、口の中に何かものすごくゴージャスな味が出現した。
「これ、うまいな! うまいよこれ!」
…626/09/17(木)17:46:00No.1469256791+
 あっという間に飲み込んでしまって、二つ目を今度は自分で作ってみる。ホンオフェとキムチを巻いた豚バラを、さらにサンチュで巻いてみた。爽やかな歯ごたえが加わって、また少し違ったうまさだ。
「よかった。三合(サマプ)という食べ方です。エキドナもどう?」
「う……いただく、わ」
 エキドナの皿には最初にごっそり取ったホンオフェがまだ一切れ残っている。それをチラッと見てから、エキドナはラビアタが巻いてやったサマプを受け取って一口に頬張った。
「あ……うん。こっちはまだ食べられるかも……」
 言ったそばからじんわりと目尻に涙が浮かぶ。「やっぱり無理」
 甘酒のグラスをぐいぐい煽るエキドナに小さく笑ってから、ラビアタは俺の方を見た。
「残りは私達でいただいてしまいましょうか」
「そうだな」
 皿の大きさの割には、もともと量は少なめだった。癖の強い料理だし、そんなに大量に食べるものではないのだろう。残りのホンオフェを平らげた俺たちは、最後にちょっと残ったキムチとマッコリで口の中を洗い流し、食後のお茶を飲んで深い満足の息をついた。
「いやあ、うまかった。さすがラビアタ、珍しい料理を知ってるな」
…726/09/17(木)17:46:25No.1469256879+
「ありがとうございます。エキドナはどうだった?」
「……私は……ちょっと……」
 しおれたような顔をしてしみじみと茶をすするエキドナに、俺はつい笑ってしまった。ラビアタも小さく笑ってから、すっと真顔になって背筋を伸ばす。
「エキドナ。あなたが始めた美食会というサークル、素晴らしい活動だと思うわ。本当よ。でもね、世の中にはまだまだあなたの知らない料理がたくさんあるし、その中にはあなたにはまだ美味しさを理解するのが難しいものもあるの。あなたはまだまだ成長中なのよ。本当に美食を極めたいなら、謙虚さも大事にしないとね?」
「…………」
 長い沈黙があった。それから、エキドナはじわりと俺の方へ目を向けた。
「確認するけど司令官、あなた本当に美味しいと思って食べていたのね? 私を引っかけるために我慢して演技していたとかいうことはないんでしょうね?」
「するわけないだろ、そんなこと」俺はムッとした顔を作ってみせた。
「……わかったわ。ごめんなさい。確かにちょっと最近、浮かれていたみたい」
…826/09/17(木)17:46:37No.1469256924+
 悔しいような苦いような、なんとも言えない顔でエキドナは椅子に沈み込み、深いため息といっしょに案外素直な謝罪の言葉を吐き出した。
「よろしい」ラビアタがやさしい笑顔になった。
「それ、もったいないから俺が食べちゃっていいかな」
 俺はエキドナの小皿に一枚残ったままのホンオフェを指して言った。エキドナが決まり悪そうに頷いたので、俺はひょいと口へ放り込み、すかさずマッコリで追いかける。うん、やっぱりこの食べ方が一番好きだな。
「美食の世界って……奥が深いのね」
「あなたが思っているよりも、ずっとね。今度、私も美食会のゲストに呼んでちょうだい。とびきり美味しいポテトチップスを作ってあげる」
「ポテトチップス?」エキドナは怪訝そうに顔を上げる。「わざわざ手作りするの? そんなものを?」
「あら、そんなものなんて思っているなら、まだまだね」ラビアタはニヤリと微笑んだ。
…926/09/17(木)17:46:51No.1469256990+
「ありがとうございました、ご主人様。お付き合いいただいて」
「うん、俺もエキドナのことは聞いてたからね」
 エキドナの始めた食い道楽サークル「美食会」が順調に発展し、今では十人近い会員を擁して毎月例会を開いているという話は聞いていた。それは大いに結構なのだが、会長であるエキドナがしだいに調子に乗ってきて、
「自分は食の快楽を極めつつある、究極の美食家である」
というようなことを言い出すようになってちょっと困っている、という噂も、同時に耳に入ってきた。一度など食堂で、ソワンが厨房にいるにもかかわらず、
「メニューが単調で退屈だわ。もっと舌を満足させることを考えてほしいものね」
などと放言したという。
 ソワンのこめかみが苛立ちでピクつくのを見たと、ポルティーヤが蒼白になって俺の所へ駆け込んできた。これはちょっと釘を刺しておいた方がいいだろうと、ラビアタと相談して一席設けることにしたのだ。
「食べることに関しては、エキドナはまるで子供なんです」ラビアタは少し困ったような顔で言った。
…1026/09/17(木)17:47:05No.1469257045+
「バミューダの実験施設でのあの子の扱いは、本当にひどいものでした。味なんて何もないような合成飼料が日常の食事で、それしか食べたことのないあの子は『不味い』という感覚さえ知らなかったんです。オルカの食事も、ご主人様がいらっしゃるまでは決して良いものとは言えませんでしたし……ですからエキドナがちゃんとした料理を味わうのは、本当にこの数年が初めてのことで。舞い上がってしまう気持ちもわかるんです」
 旧時代のバイオロイドの食事が総じて悲惨なものだったというのは、オルカで皆と暮らしていればいやでもわかる。エキドナはその中でも特にひどい部類だったらしい。「快楽」にやけにこだわるあの性格も、そうした暮らしの反動として生まれたのかもしれない。
 そう考えると、頭ごなしに叱るのもなんだか違うと思える。エキドナの味覚は、ようやくまともな意味での成長をはじめたばかりなのだ。
「調子に乗ったりするのも、健全に育ってる証拠ってことか」
「そうですね。その意味では、彼女にとって良い兆候とも言えます。ソワンとトラブルになっては大変なので、今回はちょっと強引な手段をとりましたが……」
…1126/09/17(木)17:47:23No.1469257113+
「子供舌には、大人の料理をぶつけると」
「まあ、ご主人様ったら」ラビアタは苦笑いをした。「でも、仰る通りです。ホンオフェはやっぱり癖の強い食べ物で、旧時代末期ごろにはもう韓国でもそれほど食べられなくなっていました。ご主人様のお口に合ってよかった」
「けっこう美味かったよ、ほんとに」実を言うと最初の一口を飲み込むまではちょっとやせ我慢していたが、それは黙っておくことにする。
「……実は申し上げなくてはならないことがあって、あれを食べるとしばらくの間、口や胃からアンモニアの臭いがします。ですから、キスなどはお控え下さいね」
「あ、なるほど」
 自分の手にハーッと息を吐いて嗅いでみる。何も感じないが、自分の息だからかもしれない。さいわい今日はこのあと何も予定はないが、デートでも入ってたらまずかったな。
 ……などと思っていたら、ラビアタが意味ありげな上目遣いで俺を見た。
「もちろん、同じものを食べた者どうしなら問題ありませんけど……ね?」
 あれ?
「……もしかして、最初からそれを織り込んでた?」
…1226/09/17(木)17:48:35No.1469257393+
「さあ、どうでしょう?」
 まあ、いいか。そういえば、しばらくラビアタとゆっくりする時間もなかったし。俺は彼女のむっちりした腰をに手を回し、一番近くにある寝室へ向かった。
 そのあとは吐息も体液も、すぐに混じり合ってしまったので、お互いが臭いかどうかは最後までわからなかった。

 数日後、カフェの片隅でポテトチップスの袋をなぜか憂鬱そうに眺めているエキドナとバンシーを見かけた。
 何ごとかと思って聞いてみると、なんでもラビアタ手製のポテトチップスを食べて以来、市販品では満足できなくなって困っているらしい。
「なんとかしてあれをカフェの常設メニューに……いえせめて季節限定メニューに加えられないでしょうか」
「司令官、あなたからも頼んでくれない?」
 なるほど、美食の世界というのは本当に厳しくも奥深いのだなあ。深く納得した俺は、すがるような目を向けてくる二人に丁重な言葉で「自力で頑張って」という意味の返事をすると、アウローラにカフェラテを一杯注文した。

End
…1326/09/17(木)17:49:21No.1469257563そうだねx2
先日久しぶりにホンオフェ食べてうまかった記念
過去作まとめ
fu7276531.txt
…1426/09/17(木)17:50:50No.1469257920そうだねx1
グルメ回待ってたぜ
…1526/09/17(木)17:55:32No.1469259130+
アンモニアなのか
…1626/09/17(木)18:08:50No.1469262602+
よく公衆便所みたいな臭いと言われますが
司令官は立場上汚い公衆便所を知らないと思われるのでそのたとえは使いませんでした
マッコリと合わせると本当にうまい
…1726/09/17(木)18:13:25No.1469263695+
お料理と言えば今回のイベントで久し振りにソワンが出て来たね
お料理ネタに使えるキャラも増えたし
…1826/09/17(木)18:25:36No.1469266844そうだねx1
異次元料理作る担当はもうアタランテがいるだろ!なんで増やすんだよ!
…1926/09/17(木)18:37:30No.1469270239+
いいね
…2026/09/17(木)19:20:03No.1469283525+
エキドナは公式漫画読むと本当におつらいから…


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