二次元裏@ふたば

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167596 B26/07/11(土)22:03:12No.1448272056+ 23:23頃消えます
トランセンドの生ラッシュが止められない。
『ストリートファイター6』。ドライブゲージを消費して一気に距離を詰める「ラッシュ」は、このゲームを象徴するシステムだ。
トランセンドは、そのラッシュを生で仕掛けることに異様なまでに長けていた。
画面ではトレーナーのJPとトランセンドのDJが向かい合っている。
中距離からDJが緑色のオーラをまとって踏み込んでくる。
トレーナーはしゃがみ中パンを置いた。
しかし一フレーム遅かった。カウンターヒット。
そのまま強ジャックナイフまでつながり、画面にKOの文字が躍った。
126/07/11(土)22:03:39No.1448272235+
「おやおやトレちゃ〜ん。ご自慢の杖はどうしたのかな〜?」
にやにや笑うトランセンドの隣で、敗北したJPが長い杖を肩に担いでいる。
わかっているのにどうにもならない。
生ラッシュを止めようと置き技の頻度を増やすと、DJはするりとジョスクールで後ろへ逃げていく。
焦れて技を振らなければ、今度は生ラッシュで一気に距離を詰められる。
生ラッシュとジョスクール。その二つだけで、こちらの読みはことごとく崩されていく。
226/07/11(土)22:04:00No.1448272376+
今も密着を嫌がって投げようとしたところをジョスクール→下段派生→中ソバットで狩られている。
蝶のようにジョスクールで舞い、蜂のように生ラッシュで刺してくる。
マラカスを持つ陽気なダンシングボクサー、DJが勝利画面で白い歯を見せた。
「20対2とはねえ。怠慢でごわすなあ。うりうり」
20勝先制の勝負、トレーナーは2勝しかあげることができなかった。
エドモンド本田を真似たトランセンドが百裂張り手を繰り出してくる。
正直、かなりショックだった。JPは現環境でも最上位のキャラクターだ。
「そーんな気落ちしなさんな。ほーれ、ちゅーしてあげよっか、ちゅー」
ほっぺにちゅーしてこようとするトランセンドを理性の力で押しとどめた。
スト6は遊びじゃない。スト6はプライドだ。トレーナーは固くリベンジを誓った。
326/07/11(土)22:04:27No.1448272564+
「それでトレちゃん、どーやってウチを攻略しようというのかね」
「まねもんくんを使う」
後日、トレーナー家の一室にてトランセンドと作業通話をしながら攻略法を伝えた。
まねもんくんは、対戦データを学習して本人そっくりに戦うAIだ。
「意味ないよ。だってウチ、ガチガチに人対策していってるもん」
「人対策?」
「そ、トレちゃん用の攻略ノート作ってるから。ランクマとは動きが違うよん」
「じゃどうすればいい?」
「あれまあ、それを考えるのがトレちゃんの役目ではないかね?」
426/07/11(土)22:05:00No.1448272786+
「JPの強みは遠距離だ。なんとか端に離してしまえば……」
ぶつぶつと独り言を言うトレーナーに、トランセンドが呆れたようにため息をついた。
「トレちゃんはさあ、動きに意図が感じられないんだよね」
「読み合いが単調ってことか? それほど自覚はないが」
「そうじゃなくてね。女の子と付き合ったこと、ないっしょ?」
「な……」
「図星?」
「な、なんで俺の女性経験の話になるんだ。スト6の話だっただろう」
「スト6に投げ、打撃、ガードの三すくみがあるように、女の子のあしらい方も、押し、引き、放置の三種類があるんだよん」
discordのトランセンドのアイコンはサイバーな猫型ロボットになっている。
「トレちゃんはね〜、いっつも放置しかしないんだよね。それじゃモテないよ」
526/07/11(土)22:05:30No.1448272996+
作業通話が終わった後も、トランセンドの言葉が頭の中で反芻していた。
女性経験の話は抜きにしても、自分に積極性が足りなかったのは火を見るより明らかだ。
トランセンドは押す。生ラッシュを多用していきなり距離を詰めてくる。
トランセンドは引く。ジョスクールで攻撃をかわし無理矢理に活路を見出す。
対してこちらはDリバするか、バックステップすることしかできない。
リプレイを何度も見返した。まねもんも倒した。勝ち筋も整理した。
それでも、何かが足りない。
626/07/11(土)22:05:55No.1448273151+
気が付くと次の日には新幹線に飛び乗っていた。
行き先は東北。震災当時、トランセンドが何度もボランティアに通った寺である。
「トランさんは墓石を拭きながら、よく『ごめんね』と呟くんです」
住職は掃除道具を片付けながらそう言った。
「退屈は嫌いだとよく話していました。でも、この平和だけは失いたくないとも」
墓石を磨き、炊き出しを手伝い、花を供えるトランセンドの姿が浮かぶ。
ゾクゾクする刺激を追い求めながら、その反対側では平穏を願っている。
その矛盾こそがトランセンドの核であった。
「どうです。お土産に山椒はいかがかな。こちらでも取れるのですよ」
「山椒ですか……?」
「ええ。適度な量の山椒は料理を引き立てます。我々も、刺激に無縁ではないのです」
山椒。帰りの電車の窓から海が見えた。
726/07/11(土)22:06:21No.1448273320+
キャラクター選択画面ではJPが杖をついて傲然とふんぞり返っている。
「てっきりキャラ替えしてくるものだと思っていたけど、JPでいいのカナ?」
おやおやとJPの口癖を真似するトランセンドは可愛いが、反応している暇はない。
決戦の日、トレーナーは高まる鼓動を抑えるように深呼吸した。
ルールは前と同じ20先。トレーナーはJPを、トランセンドはDJを選択している。
「お手並み拝見と行きましょうかな、トレちゃん?」
無視した。ゲーム内実況もオフにする。純粋なる勝負に臨む。
Round1・Fightの文字が流れる。
即座に反応したのはトレーナーの方だった。
JPの全身が緑色のオーラに包まれて前に滑る。
826/07/11(土)22:06:49No.1448273496+
「開幕……生ラッシュ!?」
JPが自分から距離を詰める。
トランセンドは一瞬だけ目を見開いた。ありえなくはない、が。
そんな戦い方をするトレちゃんだっただろうか。ええい、ままよ。
「ウチが止められないとでも思ったッ!?」
トランセンドの反応も早かった。DJが中パンを繰り出してラッシュを止めようとする。
すると。
JPがその場に二つの追尾弾を放出して、後ろに下がった。
追尾弾に追い立てられたDJがダメージを食らう。
「な……!?」
926/07/11(土)22:07:16No.1448273678+
トランセンドはあんぐりと口を開けた。
開幕生ラッシュODアムネジア……!?
リスクを負って近づいてきて、やることが「当て身技」!?
思わずトレーナーの顔を見てしまう。ふざけているのではない、至極真面目にプレイしているのだ。
押す、引く、放置する。女性を籠絡する手練手管を駆使してトレーナーは貪欲に勝利を求めていた。
ここにいるのは優柔不断な男ではなく、マスターレートに到達したガンギマリの格闘プレーヤーであった。
「トレちゃん……喧嘩か……喧嘩がしたいんだねっ!」
トランセンドは舌で唇を舐めた。売られた喧嘩を買わないという選択肢はなかった。
生ラッシュ→ジョスクール→下段→ジョスクール→下段→ジョスクール→中段派生。
「魅せ」プレイでもやらない強火の択を突きつけた。
1026/07/11(土)22:07:42No.1448273857+
それからはバチバチの殴り合いだった。取られては取り返すを繰り返した。
起き上がりアブニマーチを無理矢理に通す。画面中央からワープで急襲する。
不遜すぎる択を押し付けまくってゲージが溜まればラヴーシュカ、ラヴーシュカ……。
なにより勝敗を分けたのは、ラッシュ止めの精度であった。
トランセンドが生ラッシュを試みる。しゃがみ中パンで止める。
再び生ラッシュで仕掛ける。杖が刺さる。
「トレちゃん、ウチの愛が受け取れないのかあっ!」
生ラッシュが雨あられのように降り注いでくる。それを一つ一つ冷静に返す。
押す、引く、放置する。基本原則に忠実に、それでいて誰よりも過激な択を選ぶ。
「トラン、愛ならば俺にもある。愛バトルなら負けない……!」
そして迎えたフルセットフルラウンド。勝敗は19対19。
1126/07/11(土)22:08:07No.1448274002+
静かな立ち上がりだった。
DJが中ソバットを繰り出す。こちらはしゃがみ中キックを差す。
もちろんこちらの意図も筒抜けで、いつ仕掛けるかは完全にバレている。
お互いの手札を出して、出し尽くしてそれでもなお燃え上がる青い炎があった。
最後に何が引き金になったのかはわからない。
トランセンドは迷わず生ラッシュを選択して、反射的にしゃがみ中パンを返していた。
フルコンボ、SA3でリーサルに行く最中にトランセンドはこちらを向いていた。
ただでさえ垂れ目なのに、輪をかけて目尻を下げて、にんまり笑っている。
1226/07/11(土)22:08:34No.1448274183そうだねx2
敗者にハンカチを手向けて立ち去っていくJPの画面で、しばらく放心していた。
「ふひー、負けちゃったかー。あー、すんごい爽快感!」
トランセンドは立ち上がったかと思うと玄関から外に出ていった。
疑問を挟む暇もなく外からトランクを持ち込んできて、部屋の中で展開した。
着替えやらドライヤーやら日用品がところ狭しと詰め込まれている。
「今夜、泊まるよん」
「えっ?」
「外泊許可証はもう出してきてる。ウチが勝ったら帰るつもりだったけど、ね」
全力で喧嘩した後に芽生えるものが友情以外にあろうとは、思いもよらなかった。
トランセンドはまるで家族の一員のように夕食を食べて、シャワーを浴びて、ベッドの横に布団を敷いた。
夜、当たり前のように布団を無視して、トレーナーのベッドに潜り込んできた。
「トレちゃん、ODアムネジアは無しだよ?」
トランセンドの生ラッシュが止められない。
1326/07/11(土)22:26:43No.1448281009そうだねx2
エッチな話かと思ったら真面目な格ゲーワードだったけどやっぱりエッチな話だった
1426/07/11(土)22:29:35No.1448282089+
冷静なプレイヤーに対してクソ択を仕掛けて暖めるのは正解
1526/07/11(土)22:56:38No.1448291460+
初手生ラッシュODアムネジアやられたらあったまるかというとさすがにあったまるな…


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