二次元裏@ふたば

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172183 B26/06/14(日)23:28:20No.1440035478+ 01:01頃消えます
五月雨が、緑色の葉っぱを濡らしていて。梅雨色な空の下で、わたしはトレーナーさんを待つ。
トレーナーさんとのお出かけの待ち合わせ。時間よりも結構早く着いてしまって、雨の中わたしはひとり傘を差してました。

『――卒業おめでとう、ヒシミラクル!』

わたしがトレセン学園を卒業したのは、まだあの木が桜色の花を咲かせていた頃で。つまりはもう、結構前で。
あの日から暫く、わたしはトレセン学園やトレーニングやレースから離れた新生活を過ごしてました。そこそこ目まぐるしくて、気付けばあっという間。ちょくちょく、トレーナーさんと会ったりもしてるけど、トレーナーさんが居ない時間の方が大半で。
……これまで、ずっとトレーナーさんと一緒にいたから。こんなの考えてもいなかったなあって。

『――……トレーナー、さん』
『……? ん、どうしたんだ?』
『…………っ、え、えっと……いえ――』

“……別に、もう会えなくなるわけじゃないんだし、今じゃなくても……いっかな”。
あの日、そう思って言わなかった言葉が。……トレーナーさんのいない日々の中で、不意にこみ上げてくる。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
126/06/14(日)23:29:47No.1440036022+
なんだかんだで、トレーナーさんとはずっと一緒で。全然変わんなくて。そんな風に、なんとなーく。わたしは思ってたわけなのですがー。……どうやら、そうじゃなかったんだなぁって。

そんなことを、厚くて冷たい雲を傘の下から覗いて、思う。
「……トレーナーさん、まだかなぁ」「――ミラクル?」
後ろから、聴き馴染みの声が聞こえて、振り返る。

「もう来てたのか。悪い、待ったか?」
「――あっ、トレーナーさ……い、いえ! 全然っ、待ってないですよ! いやもうほんと、さっき着いたトコって言うか」
「はは、そうなのか? それなら良かった」
トレーナーさんの前で、ちょっと嘘をつく。待ち合わせ時間までは全然前なのに、これで待ちくたびれてましたーっていうのは、重いしなんかジメジメしてるって思われません?
そーいうのは、梅雨の天気だけにするべきじゃないですか。わたしはそう思います。

「なんだかんだ久々か?」「あー、そうですねぇ。前に会ったのは先月くらいでしたし」
「そっか、そんなにか。……どうだ、元気してたか?」
トレーナーさんが、こちらにそう投げかける。振り返れば、まあ……。
226/06/14(日)23:30:42No.1440036359+
「元気でした。まあ、元気でしたね。なんだかんだいつもどーりというか」「そっか、それは何よりだな」
トレーナーさんはちょっと嬉しそうなのか安心してるのか、そんな感じの顔でこぼす。

「……しっかし、まあ。6月とは言えせっかく出かけるというのに、この天気は参るなぁ」
「いやぁ、五月雨って感じの天気ですね〜」
「お、五月雨なんて言葉よく知ってるな」
トレーナーさんが、意外そうな表情でそうこぼす。……いや、あの。

「もしかして、バカにしてます? 五月雨くらいわたしだって知ってますよ??」
「いやあ、なんていうかお前なら五月雨とかハナのような言葉よりダンゴのことばかり考えてそうだなって」
「バカにしてますね?? わたしのことなんだと思ってるんですか、グーで行きますよ?」
むっ、と抗議すると、トレーナーさんはわるいわるいって笑いながら謝ってくる。

「ははは、……でも、それはそれとして。“五月雨”っていうにはもう時期が遅くないか?」
「え、なんでですか?」「だって……五月雨って、5月の雨のことだろ?」
326/06/14(日)23:31:40No.1440036684+
トレーナーさんは、真面目な顔でそんなことを言い出す。……おや、おやおや?
「……もしかして、トレーナーさん知らないんですかぁ?」
「な、なんだ……? えっ、なに?」
「“五月雨”って、6月とかの梅雨の雨のことを指す言葉なんですよ?」
「…………マジで?」
「調べてみますか? ふふん、ヘイシリってもググっても良いですよ」「…………え、ホントだ」
トレーナーさんが、スマホの画面を見つめて驚いています。……くっ、ふふっ、これは――。

「――あははっ、トレーナーさん知ったかぶりましたねっ……!」「っ!」
「あれあれーー、トレーナーさんってば五月雨のこと勘違いしたままわたしのことバカにしてたんですかーー??」
「い、いやこれは……!! これはっ、その……い、良いだろ別に! 1ヶ月くらい誤差だってば!!」
ずいぶん苦しい言い訳をして、トレーナーさんは必死になってます。……ぷっ、ふふっあはは……!

「ちょっ、そんな笑うなよ……! あぁ、もう……!」
「だって、くくっ……トレーナーさん、バカじゃないですか〜もう♪」
426/06/14(日)23:32:46No.1440037024+
そうしてしばらく笑って、イジっていると、トレーナーさんはちょっと顔を赤くしながら、そ、そろそろ! と切り出してくる。
「そろそろ、どっか喫茶店でも入らないか……!? 立ち話もアレだろ……!?」
「あーー、そうですねぇ。それは良いかも。……でも、それにしても必死すぎ……♪」
「ああ、もう! 行くぞ、ミラクル!」
ちょっと強引に、トレーナーさんは歩き出す。あっと、置いてかれないようにわたしも歩き出す。

そうして、しばらく歩いていると。不意にトレーナーさんが空を見上げる。
「……? どうかしたんですか?」
「……雨、やんでないか?」「えっ、……あ、ホントだ」
トレーナーさんにつられて空を見ると、あんなに分厚かった雲の間に隙間ができていて、そこから明るい光が差し込んでいました。

「しばらく雨模様って言ってたけど……これ、ワンチャン晴れそうだな?」
「おぉ〜、そんなことあるんですねぇ」
どんより曇り空に差し込んだ明るい光。それがなんだか、今の楽しい時間とシンクロしてるみたいで。
そうしてわたしたちは傘を畳んで、ふたり並んでカフェへと歩いていくのでした。
526/06/14(日)23:33:59No.1440037374+
――――――
「――もう、それじゃいつまで経ってもモテないままですよ〜」
「そ、そうかぁ?」
カフェでコーヒーを飲みながら、トレーナーさんとなんでもない話に花を咲かせる。ああ、なんか。いつも通りって感じだなぁ。
楽しくて、嬉しくて、ちょっと幸せで。トレーナーさんとなんでもないような時間を過ごすのが、良いなあって、思います。

「――もう、トレーナーさんは変わんないですねぇ」
「そうか……? すこしは、トレーナーとして腕磨けたと思うんだけどなぁ。……ここら辺からなんか、頼れるオーラみたいなの、出てないか?」
「出てませんよ」

――やっぱり。なんだかんだで、あの頃と変わってなんかないんだなぁ。トレーナーさんはあの頃と変わんないし、わたしもそんなに。ただちょっと、一緒の時間が減っちゃっただけで。
こうして会えば、いつも通りになれる。わたしもトレーナーさんも、卒業した後でもいつも通りで全然変わってない。それが、嬉しくて――。

「――いやいや、これでも“担当”の子からはちょっと頼り甲斐あるかもって言われてるんだからな!?」
「……ぇ、あ。そう、ですね」
626/06/14(日)23:34:54No.1440037675+
「おい、信じてないだろその反応……!?」
――トレーナーさんの言葉に、わたしの頭に冷水を浴びせるみたいに、現実に呼び戻される。
“担当”。そうだった、トレーナーさんはもう――。

「あ、あはは……えっと、そのぉ……どう、ですか? 新しい担当の子は」
「うん? そうだな……結構真面目な子でな。トレーニングにも真剣に頑張ってるし、それに、走りにも光るモノがあってなぁ」
わたしがそう尋ねると、トレーナーさんはどこか楽しそうに語りだして。

「いやぁ、指導にも熱が入るっていうか」
「……も〜、トレーナーさんは熱血で暑苦しいんですから、ほどほどにしないとウザがられちゃいますよ」
「そ、そうだな、気をつける」
「ホント、気をつけなきゃダメですからね〜? アレはわたしだから許されてるのであってー」
……トレーナーさんに。目を輝かせて新しい担当の子を話してくれるトレーナーさんに、わたしの胸の中のとげとげがバレないように、わたしは極めていつも通り、トレーナーさんに返す。

……って。これじゃあわたし、なんか……変な感じになってるみたいじゃないですか。
726/06/14(日)23:35:39No.1440037981+
別に、なんにも思ってないですよ。トレーナーさんに新しい担当の子ができるのは、普通のことじゃないですか。
わたしは卒業したわけなんだし、トレーナーさんもお仕事だから。新しい子を担当にしないと。
それをなんか、……なんか、こう。モヤモヤしてたりとか、それじゃあ、まるで――。

「……あれ、また外雨降ってる?」
「――え、あっ……本当だ」
差し込んでた日の光はどこへやら。また薄暗くなった曇り空から、しとしとと雨が降り出して。その粒がカフェの窓に当たって落ちていました。

「まあ、この後も基本屋内メインだから問題は無いけど……うーん、一回は晴れたんだしもう雨は降らないと思ったんだけどなぁ」
「いやいや、天気予報的には当然ですよ。一瞬晴れたのがちょっとした奇跡だっただけで」
「うーん、そうかぁ」

……窓に垂れる雨粒を見て、心もすこし下がっていく。

――いや、いやいや。ナイーブになりすぎじゃない? 別に、雨がまた降ってきたとか、トレーナーさんがちょっと変わっちゃったとか、そんな程度でなにドンヨリしてるんだ!?
826/06/14(日)23:36:46No.1440038390+
関係ないってば。そんなことより、せっかくのトレーナーさんとの久々のお出かけなんだし、全力で楽しまないと!
「そろそろ次のとこ行くか?」
「あー、ですね。んっ……んん〜〜!! 行きましょうかっ!」
頭をふんふんと軽く振って、それからトレーナーさんに応える。変なとこでへこんでらんないでしょ、ええ、もう。

そうして、わたしはトレーナーさんと一緒に立ち上がるのでした。

――――――
「――いやぁ、今日は楽しかったな」
空がずいぶんと暗くなった頃、わたしたちは帰り道を歩いていました。
「ふふっ、はい。楽しかったです」

あれから、まあなんだかんだ。心の中のモヤなんて気にならないくらいにトレーナーさんとの時間を一日楽しめました。
ショッピングしたり、お店をなんとなーく眺めてみたり、食べ歩いて、それからそこそこいい感じのお店でご飯を食べて。お酒もちょびっと、飲んじゃったりして。
926/06/14(日)23:38:34No.1440039072+
お天気はそこまで良くなかったけど、それでもどんよりなまま終わったりはしませんでした。……やっぱり、トレーナーさんとこういう時間を過ごすの、好きだなって。

傘の柄を持って、ふたり並んで夜の道を歩く。わたしもすこしは大人になれたけど、それでもやっぱりわたしよりちょっと背が高いトレーナーさん。
わたしよりもちょっと歩幅が大きくて、そんなトレーナーさんに追いつく為にちょっとだけ身体が前へ。
「…………」
トレーナーさんの横顔を、ちらっと見て。…………。
……好きだなぁって。

「……? どうしたんだ、ミラクル?」
「……! い、いえ……なんでも」「? そうか」
わたしのきもちなんて、知らないで。トレーナーさんは視線を戻して。

……わたし。これまで何かに本気でー、とか。そういうの、全然無かったんですよ。
だから、わたしがわたしに本気にならないんだから。こんなわたしなんかに、本気になってくれる人なんて。いるわけ無いですよねって。
――まあ、お父さんとかお母さんは、いっぱい可愛がってくれたって思いますが、それはノーカンとして。
1026/06/14(日)23:40:08No.1440039659+
だから、だからですよ。
あなたが、わたしなんかに本気になってくれて、わたしのことを本気で信じてくれて、期待してくれて……そんな風に、本気で想ってくれたこと、嬉しかったんですよ? ……最初は、なんでわたしなんかに。って思ってましたけどね。

「…………」
じっと、トレーナーさんに気付かれないように、トレーナーさんの横顔を見つめる。

……あー、やっぱり。
わたし、この人のことが好きなんだろうなぁ。
……初恋なんですよ? 乙女の初恋を奪った自覚、あるんですかって。なんにも知らないトレーナーさんの顔に、思わず恨み言をこぼす。

でも、うん。やっぱり……好きです、なんて言えなかったんです。
卒業したあの日、言おうと思ったけど……結局、勇気が出せなくて。今も、出せなくて。

それを言っちゃったら。もし、もしですよ? 言っちゃって、それでダメだったら。
考えたく無いですよねー。色々、後戻りできなくなっちゃう訳じゃないですか。今の関係が、すっごく心地良いんだから。だから……怖いんですよ。
1126/06/14(日)23:41:14No.1440040013+
……まあ、結局。関係は変わってないし、わたしたちのいつも通りは変わらなくて、それは今日もいっぱい思ったけど。でも……トレーナーさんと会えない日の方が多くなっちゃったし。
それに、トレーナーさんにとってわたしは“元”担当になっちゃったわけじゃないですか。
それじゃあ、いっそ――なんて。言えたら、カンタンなんですけどね。

「……すこし、寒いな。雨降ってたからか?」
「あー、そうかもですね……半袖で来なくて良かったー」
「ミラクル、お前は寒くないか? なんなら俺の着てる上着とか……」
「いやいや、平気ですよ。……というか、寒いって言ったのはトレーナーさんの方じゃないですか。わたしに貸したらより寒くなっちゃいますますよ」
……こういう、ちょっとぶきっちょに優しいとことか。変わんないなぁ。

「…………」「…………」
二人ならんで、静かに歩く。すこし寒くて、そこそこ暗くて、ちょっとじめっとして。でも――気まずくは無いんだよなぁ。
トレーナーさんと一緒、だからかな。

「……トレーナーさん、かぁ」「ん?」
1226/06/14(日)23:42:09No.1440040344+
もう、わたしは担当じゃないんですよね。だから、トレーナーさんって今でも呼んでるの、ちょっとヘンだったり……するかも?
「なんだ、なにかあったか?」「…………」
トレーナーさんって呼ばないんだとしたら……。
――さん……?

「い、いやいや……! それはなんか――」
「えっ、なに? どうしたんだヒシミラクル??」
「――ぁ。い、いえ。なんでも、ないです……」
怪訝な表情をするトレーナーさんの顔に目を合わせられなくて、そっぽを向きながら誤魔化します。
……あー、なに考えてるんだわたしー。そういうのは、なんか……こう。早いですってば。もう……。

「……? そうか」「……はい……、……」
――この時間は、ちょっと気まずいかも。
そんなことを思いながら、夜の帰り道を歩く。……そこまで遠出してたわけじゃないから、気付けば見慣れた道まで来ていました。
その角を右に曲がれば、トレセン学園まですぐです。逆に、向こうに曲がれば、わたしの今のおうちがあります。
1326/06/14(日)23:43:29No.1440040823+
「あー……そろそろ、お別れですね……」
分かれ道まで着いちゃって、わたしは思わず呟いてしまいます。今日は、とっても楽しくて。だからこそ――終わっちゃう寂しさがどこかから湧いてきて。そう思っていたのですが――。

「いや、家まで送ってくぞ? もう暗いし」
「……えっ? 良いんですか? って、いやいや……それじゃトレーナーさん遠回りじゃないですか」
「お前の家までそこまで離れて無いだろ。気にしないで大丈夫、送ってく送ってく」「えーー……」
そんな、悪いな。と思うんですけど。

「まあまあ」
「…………じゃあ、その……お願いします」
「……! ああ、任せとけ!」
トレーナーさんは、顔をぱっと明るくしてそう応える。もう、何が任せとけなんですか? ただわたしのこと送り届けるだけなのに。
……あぁ、悪いなぁって思うんですけど……嬉しいんですよね〜。
……都合良すぎますかね。あるいはチョロすぎ……?
終わっちゃう寂しさは、まだすこし残ってて。けど……まだトレーナーさんと一緒にいられることが、嬉しくて。わたしはちょっとだけ、トレーナーさんの方に寄って歩くのです。現金ですね。
1426/06/14(日)23:44:46No.1440041282+
「……あの、トレーナーさん」「うん?」
「ぁ、えっと……その、今日、楽しかったですね」
「……! ああ、とっても楽しかった!」
「……ふふっ、嬉しそうですね? そんな声張って言うことですかぁ?」
「だって……ヒシミラクル、お前と久々に出かけられたし。そりゃあ、嬉しいだろ」「ちょっ」
トレーナーさんは、真っ直ぐにそう言ってきます。

「……うぅ、こういうときズルいですよね、トレーナーさんって」
「はっ? えっ? ズルいってなにが……!?」
もー、トレーナーさんってば……。

「…………てい」「おわ、なんだ急に」
頭をこつんと、トレーナーさんの肩にぶつけます。ぜーんぜん気づいてくれないような、にぶちんトレーナーさんには。これくらいしても許されると思いませんか?
「……ていてい」「ちょ、なんだなんだ」
「……あぁ゛ー……もう……」「なになになに。酔ってるの?」
1526/06/14(日)23:45:57No.1440041720+
……はあ。この時間、終わってほしくないなぁ……。
「……??」
困惑しきりなトレーナーさん。でも、その隣はあったかくて。……幸せなんですよね。

――――
「……よし、着いたな」「……着きましたね」
……結局、おうちに着くまでトレーナーさんにていていぶつかりながら、くっついて歩いて。あー、トレーナーさんの隣って幸せだなーって思いながら。

けど、その時間ももう終わっちゃいます。
「……ぅうー」「ヒシミラクル、着いたぞー」「わかってますーーー」
ちょいちょいと肩をとんとんされて、けど、名残惜しくって。

「……やっぱり、相当酔ってるな? ほら、もう着いたから」「うぅ〜……」
勝手に、トレーナーさんが勘違いしてますけど……してますけど、でも……そっちの方が誤魔化し効くから訂正はしません。
……あぁ、やだなー……明日からまた新しい方のいつも通りが始まっちゃうんですもん。
1626/06/14(日)23:46:52No.1440042062+
「……ほら、ヒシミラクル。もう家だから」「んん……わかってますけどーー……」
「うーん、どうしたものか……って、ん?」
トレーナーさんのその声とともに、ぽつり、と。肌に冷たい粒が当たります。

その粒は、ぽつりぽつりとだんだん増えていって。
「おいおい、雨かよ」「…………」
「……ほらヒシミラクル、本降りになる前に早く家に帰るんだ」
「う〜……でもー……」「ほら」
そう言って、トレーナーさんはわたしの背を押します。

「風邪引くから」
「じゃあそうしたらトレーナーさんが看病すれば良いじゃないですかぁ」
「何言ってるんだ、ほら明日もあるんだから」
トレーナーさんは、正しいことを言っています。……困らせちゃってるなって、わたしもわかってます。
でも、わたしの心はそれこそ……この雨みたいになっちゃってまして。
1726/06/14(日)23:48:19No.1440042575+
「……楽しかったんです」「ん……?」
「楽しかったんです、今日は」「……そうだな。楽しかったな」
そっと、優しくてあたたかい声で、トレーナーさんがそう言ってくれる。言ってくれるから――あぁ、もう……わたし今とっても悪い子じゃないですか。
「……トレーナーさんと一緒にいるの、楽しくて、好きなんです……」
「……そうか」
「楽しくて、好きで……終わってほしくなくて……」
「……そうか」
「明日から、また……トレーナーさんのいない日が始まるんだなって……思ったら、……」
「…………」
トレーナーさんは、静かに、わたしの言葉を聞いてくれて。受け止めてくれて。だから、だからわたしは――。

「…………すみません、帰りますね。……その、トレーナーさんも傘差して、風邪引く前に気をつけて帰ってください」「……ヒシミラクル?」
トレーナーさんからそっと離れる。……これ以上、トレーナーさんを困らせるわけにはいかないじゃないですか。
「……その、今日は……ありがとうございました。だから……えっと、その……」
どうにか、どうにか。言葉を探す。
1826/06/14(日)23:49:23No.1440042966+
スレッドを立てた人によって削除されました
1926/06/14(日)23:49:23No.1440042967+
そうじゃないと、いけないから。これ以上なんて、そんなこと。だから……。
「だから、トレーナーさん、その……えっと、あれ……えっと……」
言葉を探す、いいや、言葉は……わかってました。わかってるから、伝えないといけないのに――。
「トレーナー、さん……だから、今日は……今日、は……」
……ありがとうございました、さようなら。おやすみなさい。バイバイ。
――そんな言葉が、喉のところで、詰まってしまって。

「あれ、おかしい……な……そのあれ……、ごめん、なさい……わたし、言わなきゃなのに――」
雨粒が、わたしの目に当たって。視界がうるんで、ぐしゅってなって。トレーナーさんの顔が見えなくて。
ダメだってわかってるのに、言葉が思うように出なくて――。
「ぁごめんなさい、わたし、わたしその――」
雨が、強くなって。視界がどんどん見えなくなって。
「っ……! ごめんなさいっ……」
だから、だからこれ以上ひどくなっちゃう前に、わたしはトレーナーさんに背を向けて――。
「――ミラクル」
2026/06/14(日)23:51:02No.1440043560+
ぎゅ。
「ぇ……」
強くなった雨が、わたしを濡らして。冷たくて、痛くて、なのに。トレーナーさんが、そんなわたしを雨から守ってくれるみたいに、わたしの身体をぎゅっと後ろから抱きしめてくれるから。

「……と、トレーナーさ――」「……とりあえず、風邪を引く前に部屋に入ろうか」
……トレーナーさんの声は、どこまでも、どこまでも、優しくて、あったかくて。あぁ、こんな筈じゃ、なかったんだけどな……。

「……良いか?」「……っ。……はい」
そうして、促されるまま。わたしはトレーナーさんと一緒におうちに入るのでした。

――――
「……すこし、落ち着いたか……?」「…………はい」
お部屋の真ん中で、わたしは体育座りで顔を覆っていました。だって、だってこんなの。あんまりにもあんまりじゃないですか、わたし。

でも、そんなわたしに気遣うように、トレーナーさんはそっと声をかけてくれます。
2126/06/14(日)23:52:14No.1440043987+
「…………その、なんだ」「うぅ……ごめんなさい、本当に……そんなつもりじゃ、なくて……」
「……えっと、あれだ。……俺も、まあその。ぶっちゃけ寂しかったし、気持ちはまあ、分かるっていうか」
「うぅ……優しい言葉が痛いです……やめてください」「えぇ……」

いや、ほんと……どんな顔してトレーナーさんの方見れば良いんですか、わたし。
「……なんか温かいものでも飲むか? なにかあるか、ミラクル?」
「……じゃあその、カップはそっちの棚にあるので……お湯を」「ん、待ってろ」

そうしてトレーナーさんが離れて、カチャカチャとキッチンの方でトレーナーさんがカップを用意してます。その姿を、伏せた顔をちらりと上げて覗く。

顔は、たぶん。真っ赤になってると思います。情けなさ過ぎて恥ずかし過ぎますもの。もう……。

「……ほら、できたぞミラクル」「うぅ……ありがとう、ございます」
トレーナーさんがそっとこちらに温かいカップを渡してくれます。それを受け取って、ちろっと口をつけます。
「あちっ」「沸かしたてだからな」「うぅ……」
2226/06/14(日)23:53:31No.1440044462+
なんだかもう、トレーナーさんに恥ずかしい所しか見せてない気がします。
「……ふー、ふー……こくっ」
どうにかカップを冷まして、こくりとトレーナーさんに淹れてもらったお湯を飲む。ちょっと冷えた身体に、温かいお湯がすこし広がっていきました。

「……はぁ……うぅ、恥ずかしい」
「いやぁ……まあ、そのなんだ。気にしなくて大丈夫だから」
「……気にしますって……こんなワガママ言って引き留めちゃって」
「いやいや、これは俺が勝手に上がり込んだというか」
「いやいやいや、わたしが引き留めたようなもんじゃないですか……ような、っていうか、そのものというか……」
「いやいやいや……」
そうしてしばらく、いやいや……の応酬をして。そのやりとりが、――なんだかおかしくって。

「……ぷっ、ふふ、あはは」「……っ! ……くくっ、ははは」
思わず吹き出しちゃったら、トレーナーさんもおかしそうに笑ってくれて。ああ、うん……へんに安心しちゃって。
「あーあ、カッコ悪いなぁ、わたし。お子さまみたいじゃないですかぁ」「そうだなー」
2326/06/14(日)23:54:37No.1440044836+
「……ちょっと、そこは否定するところじゃないですか? ふつー」「そうか?」
イタズラっぽくそう言ってみせるトレーナーさんに、ああ、もう。って。

「……あーー、バカらしい! わたしなんでこんなにダメダメなんでしょうね!」
「まあ、そういう時もあるって。どんまいどんまい」
「さっきから扱い軽くないですか〜?」「そんなこと無いぞ〜」
トレーナーさんの、いつもと変わらない言葉。あったくて、優しくて、大好きな声。トレーナーさんと話している時間に、心が救われて。――だから。

「……トレーナーさん。その」「……なんだ」
ぶきっちょに、優しく応えてくれるトレーナーさんに、心を緩めて。
「わたし、やっぱ……トレーナーさんと一緒にいたいんです」

「……トレーナーさんと、離れたくないんです。今日トレーナーさんと久々に会って、やっぱりトレーナーさんと一緒にいる時間が好きだなって、思っちゃったんです」「…………」

「さっきも言ったんですけど、トレーナーさんのいない毎日が明日からまた始まるの、嫌だなーって。……寂しいなって、思っちゃったんです」「……そうか」
2426/06/14(日)23:55:27No.1440045095+
静かに、トレーナーさんは受け止めてくれる。だから、言葉が、ぽろぽろと溢れちゃって。
「……トレーナーさんと一緒が良いんです。今日も、明日も……トレーナーさんとのいつも通りが、あったくて、幸せで、好きなんです……」

「……あーあ、うん……どうせ変わらないって、卒業した時は思っちゃってたんです。けど……実際は中々会えなくなったじゃないですか」
「……まあ、そうだな」

「それに……わたしにはわたしの生活ができて、トレーナーさんはトレーナーさんのお仕事があって。……それで、わたしじゃない担当もできちゃって」
「……やっぱり、気にしてた?」「……気になりますよ。そりゃ」
……恥ずかしいこと、言っちゃってるってわかってるのに。言葉は全然止まらなくて。
うん、きっと。わたしの心は雨模様なんです。気持ちの雨が、勝手に降っちゃって。

「……はぁ、ほんと。あの日こんな勘違いしてなかったら――ううん。あの日、ちゃんと勇気出してたら、こんな感じにはならなかったかなぁって」
「……勇気って?」
「……それ、聞きます? まあ、良いんですけど。でも、まだちょっとだけ……ないしょです」
「ん、そうか」
2526/06/14(日)23:56:22No.1440045365+
「……わたしってば、ズブいですよねぇ。今更になって、こんなこと言い出すなんて」
「それがヒシミラクルだからな」
「うっ、すこしは否定しません? 真正面から返さないでくださいよ」
「自分で言ったことだろ……」
「乙女心を分かるべきだと思いますー」

「あーもう。……でもやっぱり、トレーナーさんは、変わらないんですね」
「おう」
「……即答するのもヘンじゃないですか?」
「えぇ、さっきからなんなの……」
困惑するトレーナーさんを無視して、わたしは言葉を続けます。

「んー……だから、だからなんです。トレーナーさんがこうして変わらないから。わたしが卒業しても、久々に会っても、新しい担当ウマ娘とかできちゃっても。……こうして変わっちゃったのに、トレーナーさんは変わらないままでいてくれるから」
いつも通りのトレーナーさんの。あたたかくて、優しくて、……それからちょっと暑苦しいかったり、へんなところがある、トレーナーさんの言葉とか、気持ちとか。
……こうして、一緒にいられる時間が、わたしはとっても好きだから。
2626/06/14(日)23:57:09No.1440045597+
「……だから、今更なんですけど。あの日、言えなかったことも。まだ間に合ったりするかなーって……。…………その、どうですか?」
トレーナーさんに、尋ねてみる。みる、けど……あんまり、トレーナーさんの方は見れなくて、やっぱり怖くて。
けれど、けれども。ちらっと、トレーナーさんを見ると――。

「ああ。何年お前と一緒にやってきたと思ってる。……どんと来い、だ」
「――あはは、そうですか。そうですよねー、トレーナーさんは、そういう人ですもんね。ふふっあはは」
やけに力強くそう頷くトレーナーさんに、思わず笑っちゃって。
「ちょ、笑うのはひどくないか?」
「あはは、だって――もう……じゃあ言いますね?」
「おう」

そうして、じっとわたしを見てくれるトレーナーさんに。……変わらず、わたしに本気で向き合ってくれるトレーナーさんに――わたしの大好きな、初恋の人に、あの日言えなかった言葉を伝えるのでした。

「――好きです、トレーナーさん」
2726/06/14(日)23:58:07No.1440045894そうだねx4
おわり
こんな長いお話最後まで読んでくれた人はいないと思いますが…お付き合いいただきありがとうございます
こんな長くなる予定じゃなかった

ヒシミラクルのスパートはここから
2826/06/15(月)00:03:43No.1440047616+
スレッドを立てた人によって削除されました
2926/06/15(月)00:25:50No.1440055101そうだねx1
>こんな長くなる予定じゃなかった
ステイヤーの怪文書だからゆるすが…
3026/06/15(月)00:29:27No.1440056244+
おすぎ!
3126/06/15(月)00:29:40No.1440056306+
トレーナーの横顔見ながら内心好き好きになってるヒシミー可愛い
3226/06/15(月)00:35:15No.1440058009+
トレーナーを好きになると職業柄他の女の話が度々出てきて気が気でなくなるやつ
3326/06/15(月)00:42:13No.1440059973+
スレッドを立てた人によって削除されました
これアフィカスの子?
3426/06/15(月)00:46:41No.1440061267+
>おすぎ!
ピーコ!
3526/06/15(月)00:59:02No.1440064537+
結構乙女なミラクル好きよ


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