サカエトル王都警察 怪文書  サカエトル王都警察、ウァリトヒロイが王都サカエトルを守護するために組織されたと思われる警察組織である。  勇者や冒険者パーティほどの個人能力はないが、組織力で事件の解決にあたる。  これはみんなで協力するお巡りさん+αのお話。 【True Silhoette】前編  サカエトル都立博物館、様々な調度品や王家ゆかりの品が展示されている文化施設である。  たまに国宝剣がなくなったりするが、まぁちゃんと戻ってくるのでそこは大丈夫だろう。  それはさておき現場はその隣、サカエトル銀行博物館前支店。  犯人グループが人質を取り立てこもっている。 「君たちは完全に包囲されている。悪いことは言わんからさっさと投降してくれないかなぁ~」  どこか気の抜けた言葉を放ちながら犯人グループに投降を促す話法である。  事実博物館前の広場の隅々に至るまで警官で埋め尽くされており、犯人たちが逃げおおせる隙間はない。 「冒険者ギルドとか軍とか相手にするくらいならこっちにしといた方がいいぞー!」  暖簾に腕押し、返される言葉もない。 「なんでしょうね、この余裕」 「なんか逃げる手段でもあるのかな」  リーゼロッテ=ホフアイゼン巡査、リンダ=エドワーズ巡査、交通安全課の両名も周囲の交通整理のために駆り出されていた。 「逃げるなら逃げるでさっさとしてくれないものかしら」 「まぁ…お仕事だもの。仕方ないよね…ん?」  不気味なほどの静寂と緊迫感にあふれた銀行前の広場をけたたましい音が引き裂く。 「なんかきた!」 「この咆哮は…」  銀行の入り口から鋭い車体が顔を出すと同時に警察隊へ突っ込む。  犯人グループは完全なる包囲の突破に超高速での中央突破を選んだ。 「追いかけるわよ」 「おうとも!」  二人が持ち場を離れてクルマに乗り込む。  広場を少し離れたところで通信が入る。 『ワルキューレ、聞こえる?』 「はい、明瞭に聞こえますストランド巡査部長」 『良かった。少し繋がりが悪くて…。対象の後ろにつけてる?』 「視認できてますよオペ子先輩。直線は速いですけどコーナーで詰めてます」 『相手はドラスティ、最近ランボファームから盗まれたモビリティよ。あまり傷つけないで返して欲しいみたい』 「了解です。もとよりそのつもりです」 『OK、じゃあ頑張って』 「ラジャー!」  ランボ・ドラスティ、劇的なる者の意味を持つランボファームの記念モデル。  力強く大地を捉え猛進する大角である。  戦乙女と猛牛のチェイスが始まる。 「ストレートじゃ離されるけど、そろそろとっつけそうじゃない?どうする?」 「とりあえず前に出る。あれだけの暴れ牛に乗ってるんだから制御術式くらい使ってるでしょ」 「じゃあまあそれをカットする形で」 「あとはクルマの方で不適格者を振り落とすわよ」  ドラスティの背後に付く、相手には既に見えている、次のアタックでお前を堕とすという意志が突き刺さる。  しかし先行車は突如車体を左右に振り、ぶつけるようなそぶりを見せる。 「はぁ、浅はか。その子はそんな風に走る子じゃないわ」  一度減速し、相手を大きくとらえる。  激しく振られるテールに合わせて速度も落ちる、そこにアウトからアプローチする。  相手のラインを潰すように頭を押さえ、リズの術式が発動する。 「はい、ズィルバーン」  ハッキング術式がドラスティの制御術式に入り込み、繋がりを断つ。  猛牛は自身に乗り込む不届き者を先ほどの浅い揺れとは比べ物にならない勢いで車外に振り落とす。 「この前のアライグマちゃんの方が手ごわかったわよ」  勝敗は決した。 「じゃあ、後はお願いねリンダ」 「了解、任された」  車外に振り落とされるもよろよろと逃げていく犯人たちをリンダが追いかけていく。 「ちぃ!」  一人が短剣を突き出す。  素早く躱して肘を肩で突き上げる、上腕と頭部を押さえて地面へ押し倒す。 「ぐぅ!」 「このっ!」  一人が印を構える、魔弾の充填である。 「おっと」  軽くスウェーバックして距離を取る。  発射寸前の腕を何かが打ち払った。 「ゴウくんナイス!」 「遅くなりました先輩!」  空から伸びで来た警棒が犯人の腕を撃ち抜き、円を描きながら犯人の頭部を叩き伏せる。  ゴウ=タイセイ巡査が雲に乗って降りてきた。 「あれ、もう一人は?」 「あっち行ったみたいです!追いかけます!」  郊外に駆けていくもう一名をゴウがBMヴォルケで追走する。 「ここは…面倒だな…」  サカエトル地下水道、上下水道設備も含めた王都サカエトルの大動脈。  国府で把握している以上に細かく枝分かれした水路の先は謎の地底生物や反社会組織の巣食う魔窟と化している。 「ストランド巡査部長、聞こえますか?」 『なに~ゴウ君』 「先ほどの犯人グループの一人が水道に逃げ込みました。追えますか?」 『タグはついてるわね。深く潜られると縦軸は難しいかもしれないけど、横方面なら追えるわ』 「ありがとうございます。ナビゲートお願いします」 『オーケー』 「お前は待っててくれよ、ベン」  心なしかしょんぼりした風に車体をすくめるBMを置いて水路に入っていく。 「にょわー☆」 「グワーッ!」  水路に踏み込んだところで丸いウォークライと男の叫びが木霊する。 「!? 今のは?」 『少し先に犯人の反応と…未登録の生体反応が離れていくわ、慎重に進んで』 「了解しました」  警棒を構えて水路を進んでいく。 「これは…」  男が倒れている。  盗んでいった金は手つかずでケースごと転がっている。 「対象を発見しました。気絶しています」 『え?ゴウ君がのしたんじゃなくて?』 「俺じゃないですね、命の危険がない程度に捩じられて絞め落とされています」 『えぇ…とりあえず錠かけて運搬してきて、車両回すから。  周りにその親切な絞殺魔がいるかもしれないから気を付けてね』   「了解です」  その後は特に何事もなく地上に出ることが出来た。  応援に来た署員に犯人の身柄を受け渡し、ゴウが水路を振り返る。 「一体なんだって言うんだ…。また変なのが地下にいるっていうのか…?」  当然の疑問を胸に、その日は引き上げていった。  ─────翌日 「さて、お前ら、今日はいつもと違った任務だぞ、喜べ」  ニコニコしながらハルノ課長が部下たちに語りかける。 「嫌な予感しかしないんですが」 「良い良い、エドワーズくん。遠足の前は期待半分、不安半分であるとも」  何を言っても聞かないだろうという雰囲気が漂う一同。  ここは静聴するしかないようだ。 「昨日一件で上層部が重い腰を上げてな。地下水道の捜索をすることになった」 「ハルノ課長、初歩的な質問なんやけど、そらほんまにボクらがせなあかんことなんでっしゃろか。警備部の方が向いてはりませんか?」 「おぉ、ギン、真っ当な良い質問だ」  歩きながらハルノが続ける。 「警備部は先の列車ジャック事件から軍と連携して入国管理にてんてこ舞いだ。重大事件でもない限り人員は割けない。  組対の方は反社の確証がないと踏み込むのに二の足を踏む悪癖がある。ギャンちゃんとか独断専行する手合いを除いてな」 「じゃあなんですの、一番暇そうで、一番人員出せそうなワタクシ達にお鉢が回ってきた、ということでございまして?」 「そういうことだ。察しがいいなアンジェリカ」  アンジェリカ=ヴィスコンスがあきれたように肩を上下させる。 「ですが全員で突入するのは非効率的ではありませんか?」 「その通りだリズ、全員で突撃して全滅なんて今時子ども軍師教室でもやらない。  なので突入部隊を選抜した」  顔を見合わせる一同。  よくわからない場所へ突撃させられるのだから、みな選ばれたくはない。 「ゴウ!」「はい!…はい」 「アンジェリカ!」「え?」 「リンダ!」「やっぱり…」 「ギン!」「おぉ…」 「ユーリエ!」「はぁーい…」  ゴウは先日の第一発見者であるため、  アンジェリカは彼女がというより蛇のビシオンが地下水路と相性が良い。  リンダは便利なアタッカー、  ギンコはガジェット等による応用力及び僻地への対応力。  ユーリエはデバフ担当であり旅の幸運担当。 「以上の人員を外でオペ子とリズがバックアップする。急造チームにしては中々だと思うぜ?」 「明日とかですよね?流石に今日じゃないですよね?」 「2時間後だ」 「ぐおぉ…」  リンダの悲痛な呻きが響く。 「ブーツとかは用意できてるからしっかり休憩取ってきな」 「「了解しました…」」  手持無沙汰そうなジョー=アカザワがハルノに近寄る。 「姐さん、オレは?」 「お前は外回り。みんなで本部にいたら誰が指揮すんだよ」 「オレだってホラ、少しは役に立ちますよ?」 「あのねぇ、お前は鉄砲玉じゃないの。交通機動隊長様だろうよ。  そっちの仕事で期待してんだからよ。それに応えてくれや」 「ぅす、了解しました。」 「必要になったらちゃんと呼ぶから、腑抜けた仕事はするんじゃねえぞ」 「ハイ!誠心誠意職務にあたらせていただきます!」  2時間後 「ゴウ君とかさー、ユーリエとかさー、ギンさんとかはね?いいじゃん。かっこいいヘルメットあって。  アタシとアンジーパイセンは一般用の安全メットだよ。なんか信用無いじゃない」 「そういうことは言わない約束ですわよ、リンダ。  わかりやすく照明もオンオフできますし、動きやすいでしょう?」  いつものドリル巻き毛をきれいにたたんでヘルメットに収納している。  何ならリボンも生えている。 「めっちゃデコってるじゃないですか」 「何事もモチベーションが大事ですわよ」  作戦本部にはハルノが、マッピングのためにオフェリア、解錠処理のためにリズとともに控えている。  本来であればリズの魔術は視認環境で無ければハッキング不可であるが、オフェリアの魔術と合わせることで視野外の走査も可能となったようだ。 「では行ってまいります課長はん」 「おう、隊の指揮は任せたぞギン」  かくして作戦は開始された。  やっていく作業とすればセンサーを撃ってのマッピングなわけだが、地下水道は前述のように上下左右に入り組んだ構造となっているため単純な生体反応だけでは脅威を判別できない。  わずかにヘッドライトが届く水路の奥めがけてセンサーを撃つ。 「地下水道になんかいはる、なんて話は昔からある噂話なんは、まぁ否定できないんやけど。  このサカエトルでそういう話は途切れたことがないんや」 「えー、そんな昔からある話なんですか?」  ユーリエも参加してきた。 「ボクもここに流れてきてからそんな長いわけやないけど、ちょくちょく噂は流れてるみたい。  曰く、白い大口開けたモンスターが住み着いとる~とか、先代の先代のずっと先代の王様が遺した人造人間がおる~とか。  この地下水道自体の全容が見えないから、想像の余地を縫って色んな噂も流れる」 「それは結局噂に過ぎないというお話なのではございませんこと?」 「おもろい、って言っていいかはわからんのやけど、そんな噂が流れる時には必ず元になる事件や事故があるんや。  もしかしたら、その噂には説明できる正体があって、今も噂の数だけ地下にうごめいとるのかも知れんな」 「雲をつかむような話ですわね」  ふわっとした話を引き締めるようにオフェリアから通信が入る。 『いいかしら?入り口から500mくらい入ってきたわね。  現状確認できている生体反応はそこから1キロ半径で大小8群程度、公的動きでフィルターすると不明は4群くらい  薄く見えている部分はおそらく潜っているんでしょうが、これはいちいちセンサー撃ってくしかないわね』 「開かれている部分以外は手探りですものね。まあ今日すぐに見つけられるとも限りませんもの、  少しずつ攻めて行きますわ」  通信越しにオフェリアと会話しながらアンジェリカがセンサーを撃つ。  少し進んだ位置、複数の生体反応が確認されている。   「ちょっとゴウくん見てきてくれるか?」 「了解しました」  水路の壁沿いを進み小路の先をみやると明かりが見える。  何人かが話をしているようだ。 「何を話しているかまでは確認できません。どうしましょうか」 「ではビシオンにいってもらいますわ」  アンジェリカとともにいる蛇のビシオン。  ビスコンス家の宿業によって生涯を共にすることになった長き者。  音もなく忍び寄り、主人と感覚共有することによって情報を収集する。 「どうやら魔道具の取引をしているようですわ。  こんな暗がりでコソコソしてるんですから、おそらくはオーバーフローさせた違法物でしょうね」 「本来の目的とは違うんやけども…どうします課長はん」 『見逃すのはよくないだろ。丁重におもてなししろ』 「了解~」  男性チーム、女性チームで分かれて距離を詰め、機を伺う。  取引を終え、双方解散の流れになったところを確認してギンコが乗り出して声を上げる。 「サカエトルや!一部始終見さしてもろうたわ、神妙に縛につきなはれや!」 「くそっ!」  犯人グループは向かってくる者と逃げる者に分かれる。  歩み出たギンコめがけて迫る数名のアゴめがけて暗闇から伸びるゴウの警棒が突き刺さる。  出鼻をくじかれてのけぞった瞬間、距離を詰めてきたギンコの電磁警棒が炸裂する。  まだ意識を保っていた何名かも体勢が崩れたところに電撃と打撃で気絶した。  逃げる数名は商品を抱えて走る。 「ぐおっ なんだぁっ!?」  突如何かにぶつかったように弾き飛ばされる。 「残念でしたわね」  アンジェリカの幻術である。  混乱時には壁を抜け道と見間違えるような簡単な仕掛けでも効果は高い。 「ぐあっ…! ぐおぉぉぉおお…」  ユーリエの魔弾が直撃した者は痛みにのたうちまわっている。  どうやら尿路結石の痛みのようである。  動きが止まったところにリンダが突撃し、ラリアットやドロップキックでなぎ倒していく。 「いっちょアガリってモンかな」  リンダが手を叩き払いながら手錠をかけられた犯人たちを見下ろす。 「まぁ、おたくらには悪いんだけど、別動隊呼ぶさかい、それまでここで待っとってくれへんか?」 「…早く!早く逃げなければ!!」 「逃げる言うたって…」 「早くここから出してくれ!じゃないと…」 「じゃないと?」 『みんな気を付けて、地下深くから接近する大型の生体反応があるわ』 「え、大型!?」 「わわわわ…」  犯人グループがおびえ始める。  盛り上がる水面を凝視する一同。  突如大きな水音を立ててふくらみが爆ぜる。  白くて大きなワニ。  サカエトルの地下水道に巣食う生ける伝説を形作るその一端。  体長6mはあろうかという巨躯が水路を下ってくる。 「怖がってたのはこいつのことか!あんなん出入口ふさがれたらかなわんで!オフェリアはん!」 『そこから20m先に水密ハッチ!そこまで逃げて!』 『開閉とロックはこちらでやります』 「リズちゃんもアリガト!お嬢は幻術ばら撒いとき!!」 「もう!人使いの荒い!」  巨大ワニの周囲にデコイが出現し注意を引く。 「置いてかないでくれー!」  違法取引集団が声を上げる。 「当たり前やろ!警察官は人命遵守や、ちょっと苦しいけど我慢しいや!」  そういいながらギンコが天井めがけてバックパックから円盤を投げる。  展開したガジェットが天井に張り付き電磁ロープが伸びる。 「せぇの!!」  思い切り引っ張るようなそぶりをすると犯人たちの手錠が連動して高く引き上げられていく。  実ったブドウのように天井近くへ固定された。 「ありがてぇ!胡散臭ぇ旦那ァ!!」 「一言多いわ!」  巨大ワニが幻術デコイに目を奪われている間にセーフゾーンまで退避することが出来た。 「さて、どうしたもんかな…ユーリエ、魔弾で動きを停められないかな」 「あの表皮じゃ通りそうにありませんねぇ」 「顎関節症にでもなってくれれば、あのデカい口も開かんかもしれんけど…」 「…自分が出て行って逃げ回りますから、そのうちにさっきの連中と外に」 「とりあえず自分で出ていこうとするのは悪いクセですわよタイセイ巡査」 「…八方ふさがりですか」 『!? 外、もう一つ来てる』 「え!? リズちょっと扉開けてよ」 『もう外してる』  重く開く水密ハッチの向こうに一同が見たもの、それは白い巨獣と踊るかのように組み合う女神の彫像。  力強く、流麗な身のこなしと…   「にょわー☆」  激烈な光景に似つかわしくない可憐で丸いウォークライ。 「今のは…」  ゴウ=タイセイ巡査は巨獣が出現した際に昨日の一件の原因ではないかと思った。  しかしながらアレに人が死なない程度の手加減ができるだろうか。  今の光景を見て、その疑問に解答を得た。 「知性や理性を感じる動きですね。昨日のヤツを絞めたのは彼女でしょう」 「いやー大怪獣バトルだ」  冷静に分析するゴウとしみじみ観戦しているリンダ。 「でもあの方?は割と余裕がおありですわよ」  アンジェリカの指摘通り、体当たりや尾による打撃は受けてこそいるが噛みつきはことごとくかわされている。  一番貰ってはいけない攻撃は貰わない 「おやおやぁ?もう終わりかにぃ?」  生物として感じられる小さな揺らぎ、火種と言っても良い。  相対した目に、しぐさに現れる「試す姿勢」  自身より力量が上の存在の手のひらに乗せられるような感覚  女神のつかみどころのない言動の中に白き巨獣は挑発の意志を受け取っていた。  身をくねらせ、濁流のように押し寄せるワニ。  デスロールを組み合わせた嚙みちぎるその軌道をいなし、口の閉じたところを押さえる。  優しく抱きかかえ、前肢に絡めた足を互いに逆方向へ優しく捩じる。  分解される感覚と気道の圧迫による失神が来る。  地下水道での大怪獣プロレスは女神の勝利で幕を閉じた。 「おっすおっす!ばっちし☆ みんなー!さんきゅー!!」  これまた柔らかい勝ち名乗りが響く。  巨大な女性はウイニングロードを歩くかの如く水中に消えていく。 「グラシアース!」  リンダがこれまた大きな合いの手を入れ、それを見送る。 「ちょっと、ちょっと待ちなはれ!!」  あまりにきれいな退場に一同は当初の目的を忘れていたが、ギンコが寸前で正気に戻り彼女を呼び止めた。 「ん~?インタビューかにぃ?」 「いや、そういうんとはちゃうんやけどね…課長!」 『あー…うん、そうだな…。話通じるよな、その子。捕獲とかは人道に反するよなあ…』 「お、お名前とか、お聞きしておけばよいのでは…?」 「普通に職務質問ですわね、言い出しっぺですわ、タイセイ巡査、やりなさい」 「え!…えぇ」 『そうだな、お名前と…ご職業?と…とりあえず聞いとけ』  彼女が会話の通じないクリーチャーの類であれば報告と可能であれば捕獲を試みるという単純な結論になっただろう。  しかしながら彼女は人語を解し、流ちょうに話す。  話が通じるのであれば対応は自然と「獣」から「人」になる。 「…では、まずお名前から…」  ゴウが恐る恐る聞き込みに入る。 「スヮリゲーターだよ☆ スヮって呼んで欲しいにぃ」 「…ご職業は何を…?」 「んー…?スヮはスヮだよ?」 「ハイ…お、お住まいは、どちらに?」 「ここよりぃ~もっと深いトコロ!キラキラしたものがいーっぱいあるの!あったかいし!」  ゴウの体躯はそれほど大きくないが、相対しているスヮリゲーターが彼の二倍近くはあろうかというせいで非常に委縮して見える。  彼女の溌剌とした返答も相まってさらに肩身が狭い。 「では…ご出身は…?」 「カンラーク!」  その返答を聞いた全員が固まる。  聖都カンラーク、かつて魔王軍との凄惨な戦いの末に失陥した都市である。  聖騎士団の壊滅と引き換えにした市民の退避、方々に散った彼らは難民となり今も特殊な立ち位置にある。  単純な悲劇の都市である側面だけでなく、謎の技術や物品も調査発掘されており、不穏な噂が付きまとう。  彼女はそこから来たのだ。 「えーあ…うん…それは…」 「ハイハイ! スヮちゃんの好きな食べ物はなんですか!」 「バナナだよ!あと…温泉!」 「ハハハ!温泉は食べ物じゃないじゃーん」  口ごもるゴウの言葉を遮ってリンダが他愛ない質問を投げる。  人型ではあるものの人間離れした体躯を持つ彼女。  彼女が前述の謎の技術による被造物であるならばNGワードによる殲滅行動に走る可能性もある。  歴戦の冒険者や勇者であるならともかく、こちらは一介の警察官、安全への配慮はしなければならない。  リンダの行動は方針決定の時間稼ぎのためであった。  しかしてその実体はと言えば、先ほどの凄まじい技の冴えを目撃しての羨望からくるものであったとも言えるが…。 「さぁてどうしたもんかな」  作戦本部でハルノが顎に手を当てる。  カンラーク案件、国際的判断が伴う案件であることは警察内部でも共通認識と言える。  いつもはイケイケなんでもござれ、停まるよりかは走り抜けることを信条とするハルノ=レノレヴィンであってもブレーキをかけざるを得ない。 「とりあえずは本庁連絡でしょうかね」 「いや、ちょっと待てオペ子」 「しかし課長、私たちで処理するには荷が勝ちすぎると思いますが」 「それもそうなんだが、あの嬢ちゃんをびっくり危険生物だーつって報告するのはちょっと気が引けるとは思わねえか」 「彼女が締め上げたクリーチャーの方がよっぽど危険に感じますね」  極めて理性的な会話が繰り広げられる。 「…そうですね、ではとりあえず」  リズが地図上のスヮリゲーターを指差す。 「オフェリア巡査部長のマッピングは情報のタグ付けによる危険度ランクの他にも、魔力波形による簡易解析がございますね」 「そうね、今の彼女のパターンは見れば非常に落ち着いた状態と言えるわ」 「彼女が現れてからここまでの波形レベルをモニターできませんか」 「OK、やってみるわね」  立体的に表示される波形。 「これが出現時、そしてこれが戦闘時ですね」 「あんまり変わってないわね、比較にゴウくんのデータ出すけど、さっきの対組織戦闘時がこれね」  通常の戦闘時に現れる魔力波形、荒ぶるような不安定さを示している。  しかし彼女のものはどうか。  波こそ大きなものの、とげとげしさのないそれは楽しんでいるような印象すら覚える。 「それなりに手加減しているという点も踏まえて、彼女は自身の力量に関して理解をしており、  なおかつその行使について理性的で共存可能な存在であると思われます」 「報告書はその感じでまとめるとして、今はどうしてもらうといいかしら」 「んー…。まあ友好を結んで和やかにお帰り願うか」  ことなかれ主義的な結論ではあるが、泣いて騒いでも何か起こる状況でないのは確かである。 『そういうことだから、ピー(規制音)ポ君のティッシュでも渡して丁重にお帰りいただけ』 「了解しました…リンダちゃーん!引き上げや!お別れしぃや!」  作戦本部が結論を出すまでの間、紆余曲折ありスヮリゲーターと全力で遊んでいた様子のリンダ。  そして巻き込まれて色んなところに吹っ飛んでいくゴウ。 「スヮちゃん、また会えるかな?」 「約束すゆ?」 「そうだね、約束」 「みんなとお話しできてスヮ、とーってもうれすぃーよ!また会いに来てね!」  乙女らしい再開の約束と相反する力強い友情のシェイクハンド。  ゴウを小脇に抱えて、名残惜しく離した手を振る。  見えなくなる地下水道の女神、それと同時にリンダが膝から崩れ落ちる。 「ちょっと!ダイジョブですか先輩!」  ユーリエが駆け寄る。 「いやーハハハ、あのパッションを受け続けるのは骨が折れる。いや本当に折れてるんじゃないかな」 『その割には嬉しそうじゃない』 「楽しかったのは事実。自分より大きな人とマッチアップすることなんて最近まずないからね」 「ま、そろそろ引き上げやで」 「ギンさぁ~ん、動けないんですが…ゴウくんも」 「まぁ二人は時間稼ぎでお疲れさんやったからなぁ。コイツで運んだるわ」  ギンコがガジェットを展開する。  荷籠のような機構がギンコの腰にケーブルでつながる。 「うわぁ狭い」 「贅沢言わんの」 「あそこにぶら下がっている方たちはどうしますの?」 「あぁ、今降ろすさかい、お嬢はちょっと幻を見せて誘導してやってくれんか。ユーリエちゃんもな!」 「はぁ~い」  リンダとゴウを引くギンコ、身も心も縛られた下手人を移送するユーリエ。  地下水道の怪をめぐる割と短い冒険はここに終了した。  遊び相手二人と言えば身体の疲労度とは裏腹に長期離脱を必要とする傷病はなし。  やはり手加減してもらっていたんだというのはリンダの談。  数日後、王都警察資料室。 「おう、リズ。すまんな変なこと押し付けて」 「いえ、私も気になっていたところですから」  過去の膨大な捜査資料、関連条項の検索には政府付きの情報端末とも連携を取っているなど円滑化に余念がない。  もちろんアングラな部分にはそれなりのセキュリティクリアランスが必要ではある。 「んで、なんか見つかったか?」 「あまり詳しいことはわかりませんでしたが、おそらくコレでしょうか」 「カンラーク天使像…ねえ。バルロス持ってかれたくらいまでか、追えるのは」 「合成獣人の話をみるにスヮりんの出自はここでしょうね」  思案しつつ、煙草に手を伸ばすハルノ。 「課長、ここ禁煙です」 「おっとと、最近は世知辛いね」 「そういえば報告書にはなんと?」 「そりゃあもう包み隠さず、正直に誠実に書いたとも、警察官だぜ?」 「カンラーク案件ですよ?彼女に危険が及ぶことはないでしょうか」 「安心しな、報告書のほとんどはでっけえワニの話だよ。間違ってないだろ?」 「…いいんですかねぇ~、嘘は言ってないけど本当のことも言ってないでしょ~?」 「リンダ…」  頭をかきながら リンダが入ってくる。 「そもそも言えば、そうやって国の内部情報漁ってるだけでもだいーぶ危ないんでないですか?」 「色々秘密にしてるのが悪いんだよ。現場で切った張ったしてるのはこっちなんだっつの」 「炭鉱のカナリアの気分ですね」 「かわいい例えだこと。…ん?これなんです?」 「ええ…「魔王軍汎用兵器の我が国における労働者転用についてのレポート」?」 「モーヴレイバー、モヴレイバー、なんだい名前まで決めちゃってまあ」  モーヴ、魔王モラレルによって生み出された忠実なる兵器。  ではあるが、その無尽蔵の汎用性から労働力として注目が集まっている。 「我が国はそんなに労働力不足に喘いでいるでしょうか」 「人手はあるだけあった方がいい、賃金が要らないならなおのこと良い、そんなとこだろ」  「それってアタシたちの替えもできちゃうってことじゃないですか?」 「現場においては臨機応変!その辺グルグルするだけなら警備部だっていらねぇさ」 「そういうもんですかねえ」 「で?リンダは何しに来たんだよ」 「ツツシミ祭の交通整理のローテ!あの地獄のローテ!課長が出してきたんじゃないですか!  ぼちぼち時間なんで呼びに来たんですよ」 「すまんすまん、まぁお勤め頑張ってこいや」 「失礼いたします」  二人を送り出して思案するようなしぐさをするハルノ。 「しかしまぁ、なんでこいつが天使像の関連項目にあるんだよ…っとと禁煙か」  市井の娯楽のその裏で苦行に身を投じる人間もいる。  それとは無関係に事件の香りも漂い始める都内某所。 「…! 数値が下がらない! 鎮静剤回せ! アレを外に出すな!!」 「制御利きません!実験体施設外に逃走します!」 「こりゃ…参ったな…。クライアントに連絡しろ。こうなったらあっちに動いてもらう…」  祭りの前の静けさを嵐の前のそれに変えて、怪人が野に放たれるのであった。  後半へ続く