二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1778850098862.png-(190475 B)
190475 B26/05/15(金)22:01:38No.1430155185+ 23:04頃消えます
「トレーナー、乙女をあまりじらすでない。決断せよ!」
ノーリーズンはベッドの上に正座し、浴衣の襟元をぴしりと整えた。
本人曰く、普段の寮では作務衣を着用しているらしい。
それなのにここにきて純白の浴衣とは、何をまかり違ったのか。
シーツも枕も壁紙も白いこの部屋は、どうにも眩しくて落ち着かない。
「ほれ、早う」
トレーナーは鞘を払った。カチャリ、と軽い音が鳴る。
「見事なものじゃのう。さあ、一息にワシの首をはねいッ!」
126/05/15(金)22:01:57No.1430155319+
不眠症解消には外泊、特に担当トレーナーの部屋で眠るのが効果的。
一部の過激派が流布したこの風説はまたたくうちに広まり、今では標準治療法の一つとして確立されつつあった。
風紀的に問題があるのではないかという声もあったが、統計的に明らかに効き目があるという研究結果が出されてからは沈黙するほかなく、風紀委員は見て見ぬふりをするようになった。
ノーリーズンが不眠症に悩まされるようになったのはシニア期に入ってからだった。
静かなる一族が台頭し、ノーリーズンの血筋が終わりへ向かいはじめた時期と重なっていた。
トレーナーは一も二もなく自分の部屋にノーリーズンを招いた。
226/05/15(金)22:02:28No.1430155539+
といって無為無策で部屋に来たわけではないらしい。
ノーリーズンは玩具の日本刀を土産に持ってきた。
「これで介錯してもらおうと思ってのう」
「介錯?」
鍔に親指をかけて鞘から引き抜くと、白く塗りつぶされたプラスチックの刀身が見えた。
「そう、これでワシの首を斬る。正確には斬る真似をしてほしいんじゃ。そうすればよく眠れる気がする」
「同室の子にやってもらうとかじゃダメなのか?」
「ダメじゃ。トレーナーでなければ意味がない」
突っ込みたいことはいくつもあったが、なぜだかそれ以上聞く気になれずにいた。
トレーナーは友人が来た時と同様にノーリーズンをもてなした。
一緒にペペロンチーノを食べた。酒を飲み相手にはコーラを与えた。一緒に風呂に入り背中を流した。ドライヤーでお互いの髪を乾かした。
そして深夜、白装束に身を包むノーリーズンの後ろに立ち、トレーナーは刀を振り上げていた。
326/05/15(金)22:02:55No.1430155729+
剣術の習いなどない。ましてや介錯の真似事などは経験にない。
それでもトレーナーはこういう時に人が何と叫ぶのかだけは心得ていた。
「御免っ!」
刀の腹がノーリーズンのうなじに食い込むとプラスチック特有のぽんっという音が鳴った。
もちろん斬れるはずもないのでそのまま首の丸みに沿って刀身の角度を変えて、形だけ何とか振り抜いた。
するとどうだろう。ノーリーズンが前向きに倒れていくではないか。
糸を切られた操り人形のように統制を失った上半身がベッドに崩れ落ちた。
「ズン子っ!」
トレーナーはうつぶせになっていた体を起こして安否を確認した。
口元に手をやると、すぅすぅという寝息の感覚があった。
ノーリーズンは深い眠りについていた。
426/05/15(金)22:03:21No.1430155927+
結論から言うと、ノーリーズンの不眠症は治らなかった。
トレーナーの部屋に来て介錯されるときだけは熟睡する。
しかしそれ以外では目が冴えて仕方がないのだという。
「わはは。トレーナーがいつもそばにいてくれればいいのにのう」
ノーリーズンはそう言って照れくさそうに笑った。
首を斬った。何度も何度も何度も首を斬った。
その瞬間にだけ救いが訪れているような不条理を内心では心苦しく感じていた。
どうすればノーリーズンの苦悩を解き放つことができるのか。
トレーナーは昼も夜もなく考え続けた。机にかじりついて思索を重ねた。
トレーナー室の明かりが消えることはなかった。
526/05/15(金)22:03:52No.1430156182+
「なっ、なんじゃこれは!」
久しぶりに部屋に来たノーリーズンは内装ががらりと変わっていることに戸惑った。
ベッドを囲む四方の壁に大小さまざまなノーリーズンのぬいぐるみが配置されていた。
「これ、ワシの西洋人形か? ほー、なかなかよくできておるのう」
「スカートの裏地を見てみて」
「ん? 『2026.1.4』、『2026.2.1』、『2026.4.26』、これはまさか……」
トレーナーはエプロンを腰に巻いて黙々と夕食の準備を始めていた。
「これまで介錯した日付、か」
つまみを回して火をつける。野菜を投げ込むとフライパンがじゅーじゅー鳴った。
ぬいぐるみは、介錯のたびに一つずつ増えていたらしい。
626/05/15(金)22:04:23No.1430156447+
チンジャオロースとコーラで夕食とし、トレーナーは自分用によなよなエールを開ける。
食事中、ノーリーズンは言葉少なだった。ぬいぐるみの顔を一つ一つ確かめるように見ていた。
「よくこんなにも集めたもんじゃなあ」
「こんなに介錯されとったんかワシ」
一緒に風呂に入っている間もほとんど無言だった。
シャンプーを泡立てる手が、いつもより少しだけ遅かった。
トレーナーは風呂上りにベッドメイクを始めた。皺が寄らないようきっちりシーツを伸ばす。
ノーリーズンはベッドによじ登るのをためらっていた。今日はぬいぐるみたちの視線がある。
「ズン子、刀を」
「あ、ああ……」
726/05/15(金)22:05:03No.1430156720+
プラスチックの刀がノーリーズンから手渡された。次の瞬間。
「うあっ!」
と、突然、トレーナーが左手を抑えてうずくまった。急に脂汗だらけの険しい顔になる。
「どうした。手か? ほれ、見せてみよ」
手のひらを差し出してみると、中指・薬指・小指に血がにじんでいた。
「マメか、つぶれているではないか。なぜ包帯を巻かなかった。というかこれはなんじゃ?」
「剣道教室に行ってた。ズン子に内緒で」
「剣道教室? なんのために」
「きちんと一刀で介錯できるようになりたくて。素振りだけでも学ぼうと」
「介錯の、練習?」
「そしたら師範の人がめちゃ厳しくて立木打ち3000本命じられて泣きながら奇声を上げて打ち続けていたらマメになった」
826/05/15(金)22:05:33No.1430156948+
なにをしとるんじゃ、こいつは。いや、昔からこういう男だったか。トレーナーは。
斜め上にアクセル全開で突っ走るトレーナーを見ていると、何もかもどうでもよく思えてくる。
「だからごめん、ズン子。今日、介錯できないや」
「……お主、最初からこのつもりだったのじゃろう」
大量のぬいぐるみと人形を用意したのも、マメを潰すまで木刀を振り下ろしたのも。
この軍師殿はなんとも迂遠な計略を巡らすのが得意らしい。
「トレーナー、見事じゃ。ワシは今夜、普通に寝られる気がする」
トレーナーは周囲のぬいぐるみに向かってガッツポーズをした。
「ただし、トレーナーが添い寝してくれたら、じゃがのう」
結構、狼狽していた。
926/05/15(金)22:06:03No.1430157151+
「にゃっはっは〜! ワシ、復活!」
不眠症は解消された。
嬉しくなったノーリーズンはヒシミラクルをはじめとする友人全員にことの次第を打ち明けた。
「はえーすっごいいい感じ、ぬいぐるみ怖っ」
普通に好感触だったので、いわれのない尾びれを追加されて学園全体に広められた。
「不眠症解消のために家に行ったらベッドに飛び込まれて『いざ開戦じゃ』と囁かれた」
スティルインラブはいち早く声明を出した。「それも愛ですね」
メジロラモーヌも同様の声明を出し、一部には同情的な意見が寄せられた。
ラヴズオンリーユーは一人困惑を深めた。「ラヴかしら……ラヴなの……?」
侃侃諤諤の議論が交わされる中、不眠症の件数は前年比600%を記録した。
1026/05/15(金)22:10:33No.1430159152+
>トレーナーは友人が来た時と同様にノーリーズンをもてなした。
うん
>一緒にペペロンチーノを食べた。酒を飲み相手にはコーラを与えた。
うん
>一緒に風呂に入り背中を流した。ドライヤーでお互いの髪を乾かした。
うん…?


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