*  *  *  *  * 「たったったっ大変ですぅーーーー!」 翌日息を切らせながらギルドにテオヴァンがやってくる。 「隣国のカマセーヌ侯がまた兵を率いてやってきました! 今度は数も多くてぜひ皆さまの協力をお願いします!」 「またアイツかよ」「本当懲りねえな」「めんどくせー」 ギルド内ではうんざりした声に満ち溢れる。 他の冒険者に詳細を聞くと、今回の件は隣国アテーマ公国の重鎮カマセーヌ侯がこの国の第二王女シクサ姫を見初め縁談を持ちかけたものの却下されたため、実力行使を仕掛けたものである。 ちなみに前年も同様の事を行ったため、対処に当たった冒険者達からはまたかよ案件となったのではあるが…。 面倒ごとがないように和睦の線を探ろうと、そのカマセーヌ侯の人となりを聞いてみたのだが。 満場一致でジーコランドの住人という回答が来たので、これはさすがに可哀想と思い徹底抗戦の線で参加をすることにした。 戦況は王都の一歩手前ハラッパ平原にプロロ軍とカマセーヌ軍が相対する形となり、戦力はプロロ軍100人に対しカマセーヌ側は500人という大差である。 ライトを飛ばして空から周囲の状況を偵察させる。 それによると前線からチカックの森を挟んだ少し離れた場所にカマセーヌ侯の本陣が設けられており、それぞれの行き来は街道の一本道があるだけである。 本陣の戦力はたかだか50人程。なるほど大分こちらを見くびっているのがわかる…。 20人ばかりの冒険者達が武装して集まる。俺は彼らに作戦を告げる。 「作戦は非常にシンプルだ。部隊を二つに分けA部隊はカマセーヌ侯の本陣を攻める。そして残りのB部隊は街道上にバリケードを築き、本隊が戻ってくるのを防ぐそれだけだ!」 このような混乱する状況ではシンプルな指示と命令が精神的な軸となる。 とは言えこれだけでは戦力不足か…。そう思った俺は援軍の要請をするために作戦開始までには戻ると言ってしばし離れた。 離脱する前にライトに少々今回の策の話をする…。 *  *  *  *  * ライトが両の腕の刃を震わせながら周囲の森の木々を伐採して行く。 「時間がないんでとにかくこれを高く積んで下さい!」 その合間に一部の冒険者に枝払いをした時に出た長めの枝を使って、防御用の長槍を作らせる。 相手を殺す必要はない。とにかくバリケードの向こうに通さなければ良いし、敵と距離を取らせることができるのは精神的にも優位になれる。これはそのための武器である。 準備は完了した。 A部隊本陣突入組には俺、テオヴァン、キョーカン、フラトの精鋭四人。 B部隊防御組にはそれ以外が就いてもらっている。 「本当に4人で大丈夫なのかよ…」 キョーカンが作戦前に愚痴をこぼす。 「少なくともこちらはなんとかなる。俺が30、テオヴァンが10、キョーカンとフラトが5づつで終了する。厄介なのは魔法使いがいる可能性だ。フラトには速やかに見つけて無力化することに専念してくれ」 「随分えらい自信だな?! じゃぁB部隊の方はどうなんだよ?」 「あっちは心配しなくてもいい。俺たちの最高戦力を置いてある」 (ミレーンの回想) 「がーすけの力を使うなですか?!」 「もちろんフィジカル強化とかは構わないんだが、がーすけに変身したり入れ替わるのは止めて欲しい」 「がーすけに替わればただの人間の兵士相手なら千や万でも問題ないだろう。ただこの国はしばしば同じような混乱が起こるみたいだから、みんなにこの戦を経験してもらって俺たちがいなくなっても守れるようにしてもらいたいんだ」 「それにお前がお前のままこの戦を終わらせることができたら、今悩んでいることへの解決に繋がるかもしれないだろ…」 「わかりました…」 *  *  *  *  * ハラッパ平原での交戦が始まる。プロロお得意の遅滞戦術で応じるが、地の利を活かせない平原では厳しいものがある。 有利な戦況を聞き油断する敵本陣へとA部隊が奇襲をしかける。 ミレーンが風のように本陣へなだれ込むと強化した手刀で護衛の騎士を袈裟切りにする。そしてその騎士の剣を奪うと、そのまま次の敵を切り伏せる。 ミレーンの馬鹿力で切り付けられた剣は相手を両断する前に砕け、中途半端に戦闘継続が不能となるレベルの重傷を負わせることができる。 しかも剣が奪われてしまったため、反撃する能力をなくさせるという二段構えの戦法である。 これを繰り返すことで戦うことも動くこともできない重傷者だけがいたずらに増えて行くのであった。 「あいつ30人どころか、50人全員半殺しにしちまいかねないぞ!」 キョーカンは切り伏せた兵士からハルバードを奪うと、それを振り回し周囲の兵士たちをなぎ倒す。 あらゆる武器を使いこなす武器マスターの面目躍如である。 フラトは一歩下がった位置から全員のサポートをする。幸いこの本陣には魔法使いがいないようなので氷の矢を前衛各員の援護で放つ。 テオヴァンの行く先々には人の柱が残る。それは彼女の投げ技で垂直に叩きつけられた被害者の姿であった…。 A部隊の状況はほぼ終了しつつあるので、ホーリーフラッシュを使ってB部隊へと次のフェイズの合図を入れる。 *  *  *  *  * ホーリーフラッシュの合図を確認して、敵本体に紛れ込ませた間諜が虚報を撒く。 「本陣が攻められたぞー! 侯爵様が危ないぞー!」 敵本隊が兵を二分して本陣へと向かわせる。だがその道中には丸太を積み重ねた堅牢なバリケードと丸太を抱えた少年が立ち塞がっていた。 「ここは通さないですから、さっさと地元へ帰って下さい…」 攻め入る兵士たちへ少年は丸太を振り回す。 まるで野球小僧がバットを振り回しているようだが、持っている物は長く太い木の丸太である。食らったものはただでは済まない。 丸太のスィングを潜り抜けバリケードを超えようとする兵士が何人か現れる。だがバリケードの裏側にいる冒険者たちが長槍を使って近づけさせない。 とにかくA部隊が制圧するまでは耐えきるんだ、その思いが彼らを支えていた。 バリケード側に弓兵が到着する。横一線に並び一斉射を行う。 ライトは持っていた丸太を回転させ矢玉を防ぐ。一射目は何とか防げたがこの先はカバーできるか分からない。 ならば二射目前に先制攻撃だ!と持っていた丸太をフリスビーのように水平に飛ばし、弓兵隊が蹴散らされる。 ライトは丸太を追いかけるように突っ込むと拾った槍を振り回して前線の兵士達をなぎ倒して行く。 一騎当千の強者の登場に敵大将である騎士団長は動揺する。 そこでバリケードを内側から破るべく周囲の森から伏兵を迂回させ背後に回り込むように指示をした…。 *  *  *  *  * 「もう護衛の兵士はいなくなったぞ。おとなしく降伏しろカマセーヌ侯」 「くっそふざけるな! ならばお前らに一騎打ちを申し込むそれで決着を付けようぞ!」 カマセーヌ侯がそう叫ぶとスイッチのような物を押す。すると地面からリングが生えてきた。 「「「「ゲェーーーーーッ!」」」」 「どうだテオヴァン! お前が邪魔しに来るのは分かっていたから、そのためにリングを用意していたんだよ!」 「そして一騎打ちの相手は私ではない。代理のスペシャルゲストを用意してある!」 カマセーヌ侯の背後から巨体の獣人が現れリングインする。 『アテーマ公国代表! ビースターダムチャンピオン!エンプレスルーブ!』 「うぉおおおおー! こんなレジェンドと戦えるなんて身震いします!」 こっちがリーチかけてるのに理不尽なルールで仕切り直しされてるが、当人が納得してるのならまぁええか…。 「そしてさらにもう一人スペシャルゲストの参加だ!」 突如周囲にス魔ルタンXのBGMが流れる…。そして花道からグリーンとシルバーのタイツを履き、グリーンのガウンを纏った獣人が入場してくる。 『アテーマ公国代表! ABPF(オールビーストプロファイティング)チャンピオン!シャイニーサニー!』 「この決着戦は男女ミクスドタッグマッチで行う! お前らにその度胸があるならかかってこいやー!」 どうやらプロロ側の人材不足を見越してのタッグマッチなのであろうが、残念だったな今ここには俺がいる!  あらゆる種族と戦う超人(超越人種の略)レスリングは聖騎士の必須科目だ! 「トォーーーッ!」 聖騎士の衣装とマスクを装着し俺はリングに飛び込む。 「ほぉ…いい度胸だな。貴様名前は何という…?」 「リングネームはホーリーナイト! レンハートマンホーリーナイトだっ!」 キョーカンとフラトの二人は俺たちは一体何を見させられてるんだ…と理解の追いつかない表情をしていた。 *  *  *  *  * プロロ軍と接していた前線では兵が二分されたことで、カマセーヌ軍側が徐々に劣勢になっている。 指揮官の騎士団長は伏兵が回り込んで敵のバリケードを内側から破る!それまで持ちこたえろと鼓舞する。 実際その通り20名ほどの伏兵が街道脇の森を潜り抜けてバリケードの裏側に回り込もうとしていた。 最初にそれに気づいたのはソンナであった。彼女は盾を掲げ必死に押し返そうとするが、人数も練度も桁違いな正規兵には手も足も出ない。 だが他の冒険者もバリケードに張り付いた兵士たちを追い返すのに四苦八苦しており、彼女へ支援することもできない。 もはやこれまでかと思った時に意外な援軍が現れた…。 「オラッ!雑魚人間どもが舐めんなよ! 俺は勇者を倒したこともあるランバージャック様だぞ!」 両手に斧のような刃物を生やした昆虫型の魔物が敵兵士を蹴散らす。 さらにその脇で角を生やしたゴリラのような魔獣も暴れている。 「ウホッ!(この国を人間の兵士ごときに落とされたら本部に戻されてガン詰めされた上に、ぬるい現場を失ってしまう!俺のゆるふわ魔王軍生活のために死ねやオラァ!)」 そして森の中では30名ばかりの兵士が宙づりになって精気を奪われている…。 「このアスラマンジュニア様の縄張りに入ろうとは命知らずもいたもんだなぁ!」 「なっ…何で魔獣たちが味方してくれるの…」 安心の余りソンナが率直な疑問をこぼす。 「あのムキムキマッチョにおど…いや頼まれてな!」 ランバージャックがこぼす。ミレーンが言っていた援軍とは彼らのことであった。