*   *   *   *   * とりあえずジーニャと忌器をどこか安全な場所に置かないと反撃ができない…。ライトは最初ジーニャを発見した小部屋があることを思い出すとその中に彼女と忌器を隠す。 すると逃げ場を求めてラーバルとスナイプもこの小部屋へと入って来た。 「どうして入ってきたの? みんなまとまっちゃったら袋のネズミになるじゃん! 僕はジーニャちゃんを安全なとこに隠しておきたかっただけなのに」 「しょうがないでしょ! あんだけ弾丸ばら撒かれた中で必死こいて見つけた逃げ場所ですぜ!」 「いや俺も何となくで入っちゃったけど、実際ここからどうするかだな…」 小部屋の出入口は一つ、出れば04のミニガンに狙い撃たれる。そうこうしている間に脅しをかけるためなのか、03の鉄拳で小部屋の壁に穴が開く。さらに04の射撃が壁をボロボロに破壊する。 「こりゃもう腹をくくるしかないな。この寝てるお嬢ちゃんにケガさせるわけにも行かないし…」 スナイプは小部屋の中にあった分厚い天板の会議用の大テーブルを倒すと、これを盾にして壁の破壊された箇所から突破することを提案した。 「そのついでといっちゃ何だが、君らの戦い方を見てて俺から一つ提案がある…」 ほんの短い時間の作戦会議が行われた…。 小部屋の壁が鉄の拳と銃撃で破壊されたせいで辺りに粉塵が立ち込める。 しかし02、03、04は構えを解かず、獲物が出てくるのを冷静に待ち受けている。 粉塵に耐え兼ねたのか小部屋のドアが開くのを確認すると04が銃撃を加えるが、しかしドアからは誰も出てこない。 そして04たちが目を離した隙に、壁の破壊された箇所から横倒しにした大テーブルが外に出てくる。 フェイントを突かれた04がそちらへ銃を向けたの見計らい、ラーバルがドアから出て04へ重力魔法をかける。 一方03は壁穴から出てきた大テーブルに向かって右拳を打ち出し破壊するも、その後ろには誰もいない。 テーブルを持って出て行ったライトとスナイプの二人はテーブルを捨てバラけたのであった。 ライトは高く飛び上がり右腕の刃を振動させ、03の伸びきった右拳のワイヤーを切り裂く。 右拳は重い音を立てて地面に落ちる。03の武器を一つ無効化させたのであった。 ライトの刃を見て02が怒りを沸騰させる。 「お前、俺の腕を落としやがった小僧か!!」 ライトに襲い掛かろうとする02に向けて背後から銃撃が来る。 「おいおい、ぶっさいくなお『鎌』野郎が可愛い子ちゃんの相手をするなんざ100万光年早ぇんだよ!」 声の主はスナイプであった。 スナイプが小部屋の中で言った提案とは、各自が相対していた敵はそれぞれ相性の悪い相手なので対戦相手をシャッフルするということであった。 ラーバルは重力魔法で銃撃をさせず、ライトは刃でワイヤーと落とし、スナイプは距離を取りながら戦う。掴みとしては申し分ない展開となった。 *   *   *   *   * 「銃をちょっと重くしたところでこのスーツのパワーなら問題ないんだよ!」 04がモーターの駆動音を響かせながらミニガンをラーバルに向ける。 「じゃあやってみなよ…」 ラーバルはそう言うとミニガンの先端部分にさらなる重力魔法をかける。 「ひき肉になってから後悔しても遅ぇぞガキが!」 04が引き金を引き銃身が回転しだす。だが次の瞬間、弾丸は発射されずミニガンは破裂音を立てて暴発した。 ラーバルが魔法で重力をかけた箇所はミニガン全体ではなく、複数ある銃口の内部である。 魔法の重力によって内部の圧力は高まりそれに耐えきれず銃身が破裂したのであった。 一見簡単にやったよう見えるが銃口の内部という細かい箇所に複数同時に展開するのは、非常に高い精密性を要求される高難度の操作であり、ラーバルの優れた魔法適性の証明ともいえる。 ミニガンの破裂で04の両手の装甲が吹き飛び血まみれの手が見える。ラーバルは近づきそれを取るとこう言った。 「生身の部分なら魔法も通じるよな。死にたくなかったらそのスーツをさっさと脱ぎな」 『漆黒の焦閃!』 むき出しの手からスーツの隙間を介して04の身体に火が回る。こんな物の中で焼け死ぬのはまっぴらと04はスーツをパージする。だがそれは彼の完全な無力化を意味していた。ラーバルは彼を力いっぱい殴り飛ばし気絶させる。 右拳に続いて左拳のワイヤーもライトはいとも簡単に斬り落とす。 飛び道具を失った03は重い金属製の腕を振るいライトを攻撃するも、鈍重でな動きは彼にかすらせることもできなかった。 とりあえず一旦この場を引くか…、03はそう考えると機械音を響かせ目くらましを仕掛ける。だがそれはライトには通用しなかった。 閃光の中から出てきたライトは顔に何かを付けていた。 それは以前レストロイカ帝より賜ったライト用の気ぶり仮面であった。 このマスクの目元に付けられたグラスの遮光機能が役割を果たしたのだ。 「さすがにこのデカさは人間が着てるとは思えないけど、もしもの場合があるから『内部』だけ壊させてもらうよ…」 「がーすけ、あの技をやるよ。前に夢で見たあの技だ!」 ライトは右の拳へ高密度の魔力を集中する。 『魔浸拳!』 ライトは03の腹部に右ストレートを叩きこむとバックステップで距離を取る、そして2-3秒ほど経った後であろうか…。 03の内部より何かが爆ぜるような音がし、細かい金属同士がぶつかり合う音もする。 魔力を相手の内部に浸み込ませ時間差でスパークさせることにより体内をズタズタに破壊する。以前見た夢の中でゴウが使っていた必殺技である。 機能を完全に失った03は地面へと仰向けに倒れこむ。その内部からは「おーい誰か出してくれー!」と救助を求める声が聞こえる。 前面部にあるハッチを塞がれたため出ることができなくなったのだ。ライトはこの声をスルーした。 ラーバルとライトが敵を倒すのが見える。俺もいいとこ見せてやりたいが、どうにも突破口が掴めない…。 甲冑によって打撃技、スキルによって関節技が使えないため、投げ技でダメージを加えようとする。 一本背負い、ボディスラム、スープレックス…。通常なら禁じ手となる頭から落とす角度で加えるも衝撃吸収性が高いのか効いている様子が見えない。 今まで有効だったのは関節技のみ。しかし奴のスキルで外されないように一撃で決めしかもKOできるほどの強力な技、そんなものあるのか…?  自分の技のレパートリーを必死に思い返す。そして一つ思いついた。 「これなら行けるぞ!」 俺は確実に奴を捉えるために認識阻害で姿を消す。 奴が俺を探すその隙に背後から低空で近づき、肩車の要領で持ち上げる。そして奴を抱えたまま出来る限り高く飛び上がる。 敵が困惑している間に奴の両足を両手でホールドして、頭が地面に叩きつけられるよう逆さに降り下ろし、自分の両足を奴の脇の下へと乗せる。 完全に技が決まったところで認識阻害を解く。 「いくぞ!レンハートドライバー!」 奴は技を解こうと見えない手のスキルを使おうとするが、この状態を絶対に解除するわけには行かない。 俺は全身の気力・闘志を振り起す。そう『勇者のクソ力』だ!  全身から放つ闘気によって見えない手が振り払われる。 奴は技を外すことを諦めたが甲冑の性能を信じて強がりを言う。 「コイツの耐衝撃性能をナメるな! 高所から叩きつけられてもこのヘルムは割れねえ!」 あぁ確かに『そっち』はそうかもしれないな…。レンハートドライバーが地面に突き刺さる。 結果から言うと敵は完全に沈黙した。 確かに奴の言う通りヘルムは無事だったが、二人分の重さ+重力加速度+高所からの位置エネルギーなど全てのファクターが掛かる場所が一点だけある。 それは首の関節だ。 関節技が効くということは、各関節の可動域を確保するために緩くなっているということだ。 全ての力と重みが首関節に一点集中したため骨は折れ、立ち上がるどころか生きているのもギリギリと言ったところであろう。 俺は奴のヘルムを剥ぎ取り中身を確認する。そこにいたのは辺境伯亭で俺たちを案内した中年の執事であった…。 スナイプは02と距離を取りながら連続して銃撃を加える。しかし甲冑の固さで弾丸は弾かれるばかりである。 「何度やっても無駄だ! さっさと大鎌のサビになりやがれ!」 02がそう言い放った次の瞬間、右胸に当たった衝撃は今までと感覚が違っていた。 彼が右胸を見るとわずかながら亀裂が入ってた。 「オタク、シティー魔ンター読んだことない? その中で言ってたんだけど、一発じゃ撃ち抜けない物を壊すには同じ場所に何発も撃ち込めばいいんだってさ!」 02は左前半身に構え右胸を隠そうとする。しかしどこからともなくやってきた銃弾が再び亀裂の箇所に命中する。 「また同じ魔ンガの話になっちまうけど、俺もこういうことできるんだぜ」 スナイプが左斜め上の関係ない鉄骨に撃つと、鉄骨に弾かれた跳弾がまた亀裂の箇所に当たりダメージはさらに深くなる。 このままでは装甲が砕かれる…、そう思った02の視界に小部屋の中で横たわっているジーニャの姿が入った…。 「お前ら全員手を後ろに組んで壁に向かえ。さもなくばこの女の首を搔っ切るぞ!」 02が昏睡しているジーニャを人質に取る。 「お前人質取るなんてみみっちいぞ。いい年した大人のやることじゃねぇなぁ」 「うるせぇ!先にやったのはお前らだろ! ほらそこのモジャ毛野郎、銃を地面に捨てたら蹴って俺の方までよこせ」 スナイプは言われた通りにする。若干蹴りの力が弱かったが、これは彼なりにワンチャンの期待をしているのであろうか…。 *   *   *   *   * それはとても温かく優しい光景であった。懐かしい故郷の家には父さんと母さんがいて、テーブルの上にはごちそうが山のように並べられている。 今日は何かいいことでもあったの?と聞くと、父さんは今日はお前の10才の誕生日だろと答えた。 そんなことはない私はもう大人になったはずでは…と思って鏡を見る。そこにいたのはまだ幼く、顔には眼帯ではなく左目もちゃんとある子供の頃の自分であった。 そうか今まで見ていたのは悪い夢だったんだ、これからもずっとみんなと一緒に暮らせるんだ…。 家の扉が開くと色々な人たちがプレゼントを持ってやって来る。近所の人たち、幼馴染、親戚、そしてレストロイカ陛下…。 好きな物と好きな人たちに囲まれる最高の時間、でも何かが足りない気がする。 そうだアイツがいないんだ…。猫のような耳と赤い髪を持つ少年。ヘタレで憎まれ口を叩くけど、本当は努力家で芯の強いやつ。 アイツとのたわいもないおしゃべりは自分の中の澱みかけた何かを濾してくれるような感覚があった。 そうだ帰らないと…。両親よりも友達よりも陛下よりも大切なアイツの元へ! 甘い夢から帰還したジーニャの眼前には大鎌の刃が見えた。 そこで彼女は訓練で身に着けた護身術の要領で背後の男に右ひじを加え体重を乗せて隙間を作る。 もっとも甲冑を身に纏った02には効かないのだが、突然に目を覚ましたことで周囲への注意が逸れ一瞬の隙が生まれた。 スナイプはそれを見逃さず前方に飛び込み地面に転がした銃を拾う。 02は敵に対する条件反射でジーニャを始末するのではなくスナイプへ反応してしまった。それが運の尽きであった。 02は右手で大鎌を振り上げスナイプの背中に叩きつけようとする。それを見てスナイプがニヤリと笑う。 「動きの多い場所なんで狙いにくかったけど、ようやく本命くんが出てきてくれたな。キープくん使ってやきもきさせるのは性悪女のよく使う手なんだよ!」 本命とはライトとの最初の交戦で切り捨てられた右腕のまだ修理が不完全だった場所の隙間である。 スナイプの放った弾丸は右腕の隙間を確実に捉え、内部にある右腕を破壊する。掴んでいた大鎌を保持することはできず、地面に落としたそれをスナイプは蹴ってミレーンたちにパスした。 立ち上がって逃げようと図る02に向けてスナイプが言う。 「逃げんなよ。キープくんが俺にもやらせろって言ってるぜ」 スナイプが正面斜め上の鉄骨に向け銃を撃つと、その弾丸は跳弾となり02の右胸の亀裂を貫き内部にヒットした。02は戦闘不能となった。 目を覚ましたジーニャの元にラーバルは駆け寄り、そして強く抱きしめた。 「良かった…本当に無事で…。お前がいなくなった時、俺はどうしていいかわからなくなった。お前を失ったらと思うと、俺は生きる希望を無くしてしまいそうだった。お前が何かされてたら、やった奴を八つ裂きにしてやりたい思った。俺は…俺は…」 感極まりすぎて若干支離滅裂気味になっているが、とにかくラーバルがジーニャを大切に思う気持ちは部外者のミレーンたちにも十分伝わっている…。 必死なラーバルへジーニャはあやすように話しかける。 「夢を見たんだ…とても懐かしい夢でさ。両親や友達や親戚や…そうそう陛下もいたんだぜ。みんなが私の誕生日を祝ってくれてた。でもさ…何かが足りなくて、物足りなくて…。そんでこれは夢なんだ現実じゃないんだって気づいたから目を覚ますことができたんだ。何が足りないせいだと思う?お前だよ…。せっかくのいい夢が覚めちまったから責任取れよなラーバル…」