本日のドッキリは~……こちら! 『お色気ドッキリ!?アイドルの私物ブラを見ちゃったあの天才子役はどんな反応をするのか!』 そう題されて始まったのは休日のゴールデンタイムを飾るバラエティ番組の1コーナー「大スター★ドッキリ!」。 その赤裸々な放送内容は時に炎上寸前の危険なバズを生み出しながらも今をときめく大スターの新たな一面の発掘をする、特に人気の企画だ。 数々の有名芸能人がその餌食となりながらもその勢いは止まる所を知らず、巷では芸能界に恐怖の恐怖の象徴として悪名を轟かせているなんて噂も流れるほどである。 雛壇の面々が拍手で盛り上げる中、モニターに映し出されるのはとある少年の姿。 『今回のターゲットは子役俳優のカケルくん!普段は大人びた彼だが、本当の”大人のセクシー”を目の当たりにしてもクールキャラのままで居られるのか!?』 ナレーションが煽りスタジオ映像はワイプに、ドッキリの概要説明が始まる。 『今回の仕掛け人は読書家アイドルの鷺沢文香。彼女の予想外のナイスバディを使ったセクシードッキリ!』 先週発売された写真集の際どいショットが次々と映し出され、ワイプに抜かれた文香は少し恥ずかしそうにカメラに向かってアピールする。 写真集やドラマの宣伝を挟みつつ明かされたドッキリの内容は「文香の下着をカケルに見せる」という物であった。 二人がドラマで共演している事を利用し撮影の小道具に巨大セクシーブラジャーを混入、予想外な大人のリアルを目の当たりにして困惑するカケル君に追い打ちをかけるように文香からの私物宣言を行うという2段ドッキリだ。 もちろんそれは私物ではなく番組スタッフが用意した偽の下着だが、文香の3サイズを元に限りなく本物に近いスケールが再現されているらしい。 一通りの説明を終え番組は一旦CMへ。 『ドッキリ開始直前にアクシデント発生!果たして成功するのか!?』 キューカットには提供と共にそんなテロップが表示されていた。 ~CM明け~ 『まずは今回の仕掛け人となる文香ちゃんとの打ち合わせ。ところが……』 番組スタッフがドッキリ用の巨大セクシーブラジャーを片手に文香の楽屋へ向かう。 大胆な企画にも関わらず快諾してくれたという文香に感謝の意を伝えつつドッキリの内容を伝えるスタッフ。 説明を受け準備万全といった様子の文香だがふとある事に気付き、心配そうな様子で会話を遮った。 「あの……多分なんですが……その下着、少し小さいかも……」 大慌てで確認するスタッフ。 それもそのはず、なんと今はドッキリ30分前。 多忙な文香のスケジュール故にこのようなタイトな進行になってしまったのだ。 サイズを見てそんなはずは……と言いかけたスタッフを横目に文香は巨大セクシーブラジャーを手に取り胸にあてがう。 『な、なんと文香ちゃんのダイナマイトボディの成長にドッキリ用のブラが追いついてな~い!』 過少申告かそれともプロフィールの更新ミスか、ともあれドッキリ本番を目前に繰り広げられたのはあの巨大セクシーブラジャーがまるで子供のおもちゃのように貧相に見える衝撃の比較映像だった。 唖然とするスタッフ一同の様子と共に驚愕するスタジオにカメラがスイッチする。 「普段目にする下着では……あまり見ないデザインだったので……」 頬を染めながら語るそれは所謂巨乳過ぎるが故のブラ事情、可愛くないデカブラ問題であろうか。 全国の男性視聴者を虜にし貧乳女性視聴者の恨みを買いそうな過激発言だが、この程度のノーカット放送は「大スター★ドッキリ!」では日常茶飯事だ。 観覧席からの野太い歓声をマイクに収めながら画面は再び映像にスイッチ。 『ともかくドッキリ決行!文香ちゃんにはなるべくサイズの差が目立たないよう気を付けてもらって……ドラマ撮影、スタート!』 撮影スタジオでのドラマ収録現場を隠し撮りする映像が流れ始める。 先ほども行った次枠でのドラマの宣伝が再び繰り返され、すかさず芸人がツッコミを入れる。 そんなスタジオでのやり取りを挟みつつ、映像は次のカットの撮影のために慌ただしく小道具の用意をするスタッフの様子を映し出していた。 「あのー、この洗濯籠に入ってたやつなんですけど……」 洗面所に置いていた飾り用の衣装を片付けている仕掛け人のスタッフが声を上げた。 手にしているのはあの巨大セクシーブラジャー。 スタッフ同士でトラブル発生のような会話を装いながら待機中の文香とカケルの元へと近付いて行く。 「すみません、これどこのやつか知りませんか?」 偶然そこに居た風に声をかけ、スタッフはわざとらしくカケルの目の前に巨大セクシーブラジャーを広げて見せた。 --- その日がいつもと違う雰囲気なのは最初から分かっていた。 何かを隠すように念を押してくるマネージャー、スタッフに交じる何人かの見慣れない顔、そして何より文香さんの態度が違ったのだ。 文香さんは隠し事が下手だ。 決して演技が下手という事はないのだが、台本に無い事はからっきしだ。 撮影前の顔合わせの時から年が近い事もあって仲良くさせてもらっているが、嘘や冗談を言う時にいつも独特のそわそわした様子になるのを何度も見てきた。 だからまたきっと、何か冗談みたいな事が起こるんだなと思って僕は少し身構えてた。 「すみません、これどこのやつか知りませんか?」 『ここでドッキリ開始!カケル君は一体どうするのかな~?』 そう言って話しかけてきたのは例の見慣れないスタッフだった。 変なオモチャか生き物だろうと高をくくって目を向けて、僕は口を噤んだ。 ブラジャーだ。 しかもとっても大きくて、真っ黒なやつ。 なぜだか理由はあんまり分からないけど、黒いブラジャーは特別な物のような、そんな気がしていた。 『カケル君、耳を真っ赤にしながらまじまじと見ている!〇学生男子にはちょっと刺激が強すぎたかな~?』 気恥ずかしさに沈黙しながらも僕は考えた。 ゴールデンタイムのドラマに映すにはたぶん不適切な小道具が、なぜ急に出てきたのか。 きっとこれがいつもと違う雰囲気の理由で、ドッキリか何かなのだろう。 こういう目に遭うのは初めてではなかったので多少落ち着いて考えることはできたが、答えを出すことはできなかった。 だって学校じゃそんなヘンタイな事に興味があったらいじめられちゃうし、そもそも〇学生でブラジャーに詳しいやつなんてそうそう居ないものだと思う。 『天才子役と巨大セクシーブラジャー人生初のご対面!最初の反応は……!?』 僕は思わず目を逸らした。 変に意識してるとか、エッチな事を考えてるとか思われても構わなかった。 ただそのままじっと見ていると何かいけないような気がして、本能みたいなものだったかもしれない。 『まずは華麗にスルー!しかしスタッフが追い打ちをかける!』 「あっごめん。ちょっとカケル君、これ持っててくれるかな」 大荷物を運んできた別のスタッフを手伝うように見慣れないスタッフは僕にブラジャーを押し付けて行ってしまう。 見てるだけでも恥ずかしかったそれは、手にしてみると余計に恥ずかしくて仕方がなかった。 しっかりした作りで、意外と重い。 周りの人に見られてるような気がして俯いていると嫌でも目に入るそれは、ほんのちょっぴり透けて向こう側が見えるようだった。 『かわいそうなカケル君。でもごめんね~!そういうドッキリなの!』 僕が恥ずかしそうにしてると、しばらくして文香さんがわざとらしい素振りで何かに気付いたように近寄ってくる。 「あ……カケル君、ちょっとそれ……貸してもらえる……?」 文香さんはブラジャーの模様やタグを確認して、そしてあの嘘をつく時のそわそわした感じになって伏し目がちに僕に視線を向けた。 『ここで文香ちゃんが更なるドッキリ……と思いきや恥ずかしいのか思い切りがつきませ~ん!』 僕と文香さんがなんだか気まずい感じでにらみ合っていると、さっきのスタッフが戻ってきたみたいだった。 「あれ、鷺沢さん。どうかしたんですか、そのブラ」 『あーっとここでスタッフが助け舟を出す!ドッキリ成功なるか~!?』 文香さんは頬を染めながら、スタッフに向かって小声で言った。 「これ……私物です。私の……」 シブツ、しぶつ。 頭が回らなくてうまく理解できなかったが、その直後に言った『私の』という言葉は寸分違わず頭に突き刺さるような衝撃で理解できた。 文香さんの、ブラジャー。 あの大きな、厭らしい、真っ黒なブラジャーが、文香さんの物。 それが果たして彼女のパブリックイメージに合致するものなのかそうでないのか。 意外だと思うべきかどうかすら判別もつかないまま、ただ漠然とくらくらするような非現実感が襲い掛かってきた。 いつも長袖のセーターを着た文香さんの、見たこともないような地肌に触れていた代物が目の前にある。 僕は動揺を隠すためできるだけ平静を装いつつ、何故だか猛烈に違和感を感じてさりげなく手で股間を弄ったりした。 『おやおや~。カケル君、これはちょっとオマセな反応かな~?』 気が付くと僕の視線はブラジャーを持った文香さんに釘付けになっていた。 慌てて目を逸らそうとするが、それより先に文香さんが僕に気付く。 前髪に隠れてよく見えない視線が射竦めるように僕の動きを止め、目線を交わしたまま文香さんは見せつけるようにブラジャーを体の前に掲げた。 「あっ」 果たして文香さんにその意図があったのか、偶然かは分からない。 ただ僕は文香さんのそわそわした様子の答えを知ると同時に、その行動に意味を見出してしまった。 そのブラは文香さんの物より小さかった、いや、あんなに大きかったはずのブラよりも文香さんのおっぱいの方が大きかったのだ。 上気した頬と申し訳なさそうな上目遣い、そしてお化けみたいなブラジャーを前にして更なる存在感を示すかのような化け物おっぱいが頭の中で瞬時に何度もリフレインされる。 股間の違和感は快感に変わり、駆け寄るスタッフとカメラマンを慌ててマネージャーが遮る。 『おおーっと!これはちょっと恥ずかしい所を見せちゃったカケル君!ということで『大スター★ドッキリ!』のコーナーでした!』 --- オンエアに乗ったのはそこまでだ。 スタジオに映像がスイッチしても文香さんはそれ以上ドッキリについて言及することはなく、何事も無かったかのようにスタッフロールが流れ始める。 僕自身あの後なにが起こったのかはよく覚えていない。 いけない事をしたような気がして泣いていたら、泣き止む頃にはすべて終わっていた。 母さんにはマネージャーが事情を説明したみたいで、後で呆れたように「思春期ね」と言われた。 学校ではいじめられるかと思ったけど、何人かの男子が「あのブラジャーってどんな感じだった?」と聞きに来るぐらいだった。 つまりはあの衝撃的なドッキリ以来、特別何も変わったことは起きなかったという事だ。 僕が学校で正直に答えられないでいる事……文香さんのとんでもなく大きなおっぱいの衝撃以外は。 それがずっと頭を離れないでいる事が、僕にとっての何よりの変化だった。 この先の人生を決定付けるほどの大きな傷跡になろうとは、この時知る由も無かった。