デジタルワールドを旅していた選ばれし子供達一行。 海辺のエリア『ワダツミ・ゾーン』にて起きた黒いカルマーラモンとの戦いをなんとか切り抜け疲弊していた彼らだったが、 突如現れたハイアンドロモンが自らの拠点で休まないかと申し出る。 彼は自らを『スティールアライアンス』の司令官と名乗るのだった。 ───────── 「スタークメカノリモン!もっと推力あげて!」 「バカを言うな!ただでさえ限界まで出しておるのだ!そんな事をすればワレが空中分解しかねぬわ!」 「そんなこと言ったって撃っても弾が当たんないんだよ!向こうに追いついて殴るしかない!」 背部ブースターの出力を全開にして高速飛行するデジモン、スタークメカノリモン。 そして内部の操縦席で叫ぶのはそのテイマー、弦巻昌宏。 彼らは今、戦いの真っ最中であった。 「この速度…やはり人間では反応速度に限界があるようですね。ガトリングミサイル!」 彼らと対峙していたアンドロモンは自らに向かって放たれる弾丸を避けながら余裕な様子でそう呟くと、胸部のハッチを展開し、生体ミサイルを発射する。 「右からだ!迎撃せねばならぬぞ!」 「わかってる!」 彼はミサイルが捕捉されたのを確認すると、回避行動をとって余裕を作りながら右手の操縦桿のダイヤルで収束率を調整し、トリガーを引いた。 「「トゥインクルビーム!!」」 拡散するよう調整されたビームはミサイルを見事にとらえ、自由を奪われたそれらは推進力を失って虚しく地面に落ちる。 「マズいぞマサヒロ!後ろだ!」 「!?」 「処理能力も低い。選ばれし子供とは言え、やはり普通の人間ですか。スパイラルソード!」 しかし、ミサイルに対処している隙にアンドロモンは背後に回り、トドメを刺さんとして必殺技を発動していた。 「させるかぁっ!」 昌宏は左のレバーを思いっきり引き、ムジョルニア2を放り投げながら、強引にスラスターをふかして左半身を逸らしてそれを避ける。 「ぐうっっ…!」 アポトーシスに授けられたスーツがあると言えど、無茶な機動でシートに体を押し付けられれば、声が漏れもする。 「ジャイロブレイク!」 彼はその勢いをそのまま乗せ、右アームでコークスクリューパンチをアンドロモンに喰らわせようとした。 「そこまで!」 しかし、その一声で戦いは強制終了となった。 その声の主はハイアンドロモン。彼はこの海上プラットフォームを擁する一団、”スティールアライアンス”の長であった。 ───────── 「ただ今の模擬戦、二人とも見事な戦いだった。」 プラットフォーム上で二人を讃えるハイアンドロモンの前に、アンドロモンは着陸する。 「やはり人間は我々デジモンには遠く及びませんね、司令官。」 「その分析は正しくないな、6D17号。」 6D17号、先ほど昌宏と戦っていたアンドロモンはそう呼ばれた。 「何故です司令官!先刻の戦いでも、司令官が止めなければ、私は相手を撃破していました!」 彼は自分の考えを否定され、苛立った様子でハイアンドロモンに反論する。 「いやそうだろうか?君のスパイラルソードは回避されていたし、彼は反撃まで用意できていた。あのまま戦いが続いていれば、戦況は彼の方に傾いていただろうな。」 「しかし!人間の反応速度を考えればあの後も私が優勢なのは確実で────」 「まったく、君は人間を侮る傾向があるようだね、6D17号。人間というのは時に容易に限界を超える。実に興味深い生命体だよ。」 彼は水平線を眺めながらそう語り、最後にこう付け足した。 「そもそもこれは模擬戦だ。真剣に撃破しようとするまでに君が熱くなった時点で、君が言うように人間が劣っているわけではないという証拠になっているんじゃないのかな?」 ───────── 彼らがそんな会話を交わしていた一方、昌宏が操るメカノリモンは少し遅れてヘリポートのようなところに着陸していた。 スタークメカノリモンが頭部のハッチを開けると、彼は倒れるように操縦席から這い出た。 「マサヒロくん、平気────キャッ!?」 昌宏はフラついた勢いで、彼の元へと近寄ってきていたチェ・セヨンに向かい、半ば抱きつくかのような形で倒れ込んでしまった。 「全く…気をつけろ、いくらスーツがあるとは言ってもちゃんと着地先は確認するべきであるぞ」 進化が解けたソーラーモンリペアは呆れた様子でそう声をかける。 「あ……セヨンごめん…」 自分がセヨンに支えられていることに気がついた昌宏は、今度はソーラーモンリペアの手を借り、地面に座り込んだ。 「それで…セヨン、データ取れた?」 「ア…そうだっタよね、データデータ…。」 彼女がこの模擬戦を観戦していたのは、自分がスタークメカノリモンを操縦している時の戦闘データの計測を昌宏に依頼されていたからだった。 セヨンはスマートグラスの録画データを再生する。 「…全体的にノーコン気味カモ。」 「当然だ、ワレに弾道計算のような機能は搭載されておらんからな。」 彼が進化したメカノリモンには、自分に向かってくる敵や弾丸を捕捉する機能はあっても、それらへの射撃をアシストするような機能はない。 だが、そもそもメカノリモンの武装は近接戦闘向けであるため、それが問題になる局面は少なかった。 「やっぱりまだスタークに慣れてないのかな…」 しかし、スタークメカノリモンには射撃武装も搭載されている。 アシストがない以上、それらが真価を発揮できるかどうかは、乗り手たる昌宏の腕に任されているのだった。 「デモ、ビームを拡散させて防御に使ったところは上手かったヨ!」 「ドムの拡散ビーム砲がちょうどそんな感じなんだ。絵コンテだけだけどね」 二人がそう話している裏で、ソーラーモンリペアはハイアンドロモンの隣へ向かい、話しかけた。 「まったく…海というものは嫌になるな。風はベタつき、塩分は体を錆びさせる。お前たちもワレと同じ機械デジモンであろう、なぜ海上に基地など作った?」 「まぁ色々と理由があってね…そろそろ引き上げが始まる。着いてくるといい。」 話が盛り上がっている昌宏たちを置いて、二人は基地の下部へと向かった。 ───────── 「あれは…!?」 ソーラーモンリペアは、目の前で繰り広げられている光景に息を呑んだ。 海中からクレーンで引き上げられようとしている、錆びついたデジモンの一部。 それの体を構成している素材、そしてその構造は、通常のデジモンと何か異なるように見えた。 「ロストエンパイア、という物を知っているか?」 「………いや、ワレの記憶にはないな。」 「かつてこの近海に存在した洋上都市を擁していた勢力だ。今では滅び、都市も海中に没している。」 「それをサルベージしている、というわけであるか。」 「ああ。興味深いだろう?滅亡の原因も、どのようなデジモンがいたのかも不自然に記録がない。好奇心を唆られるじゃないか。」 「本当にそれだけであるか?ハイアンドロモン」 ソーラーモンリペアは訝しげな様子で問いかける。 「ただ貴様の興味を満たす為だけに、これだけの人員を動かし、このように幾つもの海洋プラットフォームを連結した大掛かりな施設を動かせるとは、ワレには到底信じがたい。」 「もちろん、こういったことには金がかかる。」 ハイアンドロモンは振り返って話を続けた。 「私たちの主な資金源は…まぁわかっているとは思うが…兵器開発だよ。」 「やはりというか、血なまぐさい話であるな…」 「デジモンは闘争から生まれた。メタルに進化したいデジモンはいっぱいいるし、それを求める組織だっていっぱいだ。ロストエンパイアのテクノロジーを解析するのは金になる。」 「それは否定せぬよ。ワレも昌宏も…選ばれし子供というものは強くあらねばならぬしな。」 「誤解しないで欲しいのは、私が君たちを呼んだのは明確な善意ということだ。そこになんの策略もない。君たちのような人間の子供を見て、どうにも助けたくなった、それだけだ。」 「それを信じさせてもらおう。いくらワレの様なデジモンがついていたとしても、この世界で子供が生き抜くのは大変であるからな…」 ───────── 会話を終え、ソーラーモンリペアは基地上部に戻った。 「ふむ…昌宏のやつはどこに行きおった?」 辺りを見まわした限りでは、彼は見つからない。 しかし、何せここは海上。簡単に遠くに行くことはできない。 「…まぁ、散策でもしておれば見つかるであるか。」 彼はそれほど心配するわけでもなく、無目的に歩き出した。 「お前、一人か。」 「おぉ、その姿でいるとは珍しいな。」 ソーラーモンリペアに声をかけたのは、渚魎のパートナーであるハグルモンだった。 「ここはメンテナンス設備が整ったいい所だ。俺たちのような機械系デジモンにとっては楽園と言える。」 「オレもこのメタルボディのメンテができて最高!」 「デジメンタルのオプティマイズ?っていうのもできるみたいだし、エミも呼んでやってもらおっかな〜」 ホシノのメタルアグモンとエミのスパロウモンもそれに同調する。 「それは魅力的であるな。ワレも後で整備するとしよう。だが…今ワレは昌宏を探しておるのだ、誰か見ておらぬか?」 彼がそう聞くと、皆は一様にメンテナンスルームの方を指差した。 「…なるほど。あやつのいそうなところであったな。」 ───────── 「あ、ソーラーモン!どこ行ってたんだよ?」 「少しデジモン同士の話をな。貴様は何をやっておる?」 「見りゃわかるだろ。メンテだよメンテ。ここの設備すごいんだ!」 天井にアームがいくつか取り付けられ、、壁にはニキシー管を使ったモニター表示や工具が備え付けられている。 「なるほど、これはこれは…これがロストエンパイアのテクノロジーというやつか…」 それらは総じて、蒸気を利用し動作する機器なのであった。 「ロスト…エンパイア?何それ?」 「このあたりにあったらしい都市の名だ。ここではその技術を使っておるらしい。」 「へー…だから全部見たこともない機構で動いてるんだ」 「他の者たちは何をしておる?たとえば…セヨンは?」 「セヨンだったら俺たちの戦闘データを分析してるはず。俺の邪魔になると悪いから日影のとこに行くって言ってた。」 「ほう。他は?」 「えーっと…ゲキはナツメとかと一緒に上の方で正拳突きやってると思う。どうせミソラもその辺かな。シエルはここにいるミュールモンとかモッキンバーモンに妙に人気で、一緒にお祈り中。仁亜は隣の資料室で助教授と一緒に色々読み込んでる。マサトはジュンと一緒に釣りしてるはず。」 「思い思いに過ごしているようで結構。」 「それと、桜々はキュートモンたちと一緒に医務室みたいなところで休んでるはずだよ。」 「ふむ、やはりあの黒いカルマーラモンとの戦いは堪えたようだな。」 「…ま、それよりもさ。」 昌宏は自分のパートナーの両肩…に相当する位置の歯に手を置く。 「ここの設備使ってお前の中身を組み直せば、もしかしたら記憶が戻るかもしれない。やってみない?」 元々、家にあった工具を使い、自分の感覚だけで組み直した体。ここの設備を使って再びリペアすれば、正規の状態に近づくかもしれない。 彼はそう考えていた。 「ふむ……記憶…か。」 ソーラーモンリペアはしばし考えたが、 「興味などないわ。」 そう、ぶっきらぼうに言い放った。 「記憶ならば十分、お前とのものがある。これ以上あっても領域の無駄よ。」 「お前…」 「まぁ、貴様との記憶が領域の無駄でないかと問われれば…一考の余地はあるがな。」 「余計なことまで言うなよ!せっかく感動しそうだったのに…」 そんな昌宏の返しを聞いたソーラーモンリペアは、ただ満足そうに笑った。 ───────── その晩。スティールアライアンスの元に身を寄せていた選ばれし子供たちは、海上基地内の大広間とも言える一室に集まっていた。 その目的と言うのは… 「ささ、みなさん、存分に食べていってくださいね!」 そう、食事である。 調理担当だろうコクワモンが、チョロモンたちを伴いながら、各人のもとへと料理を配膳していく。 「これは…オレたちが釣った魚を蒸したやつ?」と、望月ジュン。 「ここで研究されている蒸気に関するテクノロジーを活かしてみました!確かリアルワールドでは…地獄蒸しというそうです!」と返すコクワモン。 この海上基地は、スティールアライアンスがロストエンパイアの技術をサルベージする目的で建造したものだ。 コクワモンはそれを使って蒸し料理を作ったのだろう。それを聞いていたソーラーモンリペアはそう考えていた。 「お、美味い!…けど、これなんの魚だ?」 「味にクセのない白身で皮は黒い…ワレの記憶が正しければ…ブラックデジタイであるな。」 「黒鯛ってこと?」 「まぁ、似たようなものだ。」 昌宏とソーラーモンはそう言い合いながら、料理に舌鼓を打っていた。 ───────── 「まさかデザートまで付いてくるとは、全く予想外であったわ。」 「でも、確かにプリンって蒸し料理だよね、リペアさん。」 「日影はプリン、好きなの?」 ソーラーモンリペアと日影の会話を聞き、そこに昌宏も加わる。 「うん。あ…でも焼きプリンの方が好きかも。昌宏くんは?」 「俺もプリンは好きだけど…何かしながら食べられるやつが好きだな。クッキーとかチョコとか。」 「だったらキット、칸쵸とかも好きだと思ウな」 更にそこに、セヨンも加わった。 「なにそれ?」 「クッキーの中にチョコが入ってる、ワタシの国のお菓子ダヨ!」 昌宏が二人と出会い、二人のことを異性として好きになり、二月ほどが経過していた。 彼はいまだに、どちらがいわゆるところの"本命"であるのかを決められずにいた。 好きなものはみな好きであって、νガンダムもサザビーも、オプティマスもメガトロンも、どちらも揃えてしまう。昌宏はそう言う人間だ。 日影の事を好きになったのはほぼ一目惚れに近く、知れば知るほどにその気持ちは深まっていった。 セヨンはファーストコンタクトこそ良くなかったものの、その強烈なアプローチは間違いなく彼の心に食い込んでいた。 彼は結局のところ、選ぶ事のできない人間だった。 ───────── その後、選ばれし子ども達は、スティールアライアンスのデジモンたちの計らいで作られた、ロストエンパイアの技術の副産物として出る熱湯を利用した一種の温泉のようなものに浸かり、用意された寝室で皆すぐに眠りについてしまった。 普段の野宿とは違い、襲われる心配が無いのだから、ある意味それは当然だろう。 そうして夜は更けていき、月が輝きを増した深夜、昌宏の側で寝ていたソーラーモンリペアを起こす者がいた。 「お目覚めください。ソーラーモン…ロス…ア様にお客様です。」 「…………ん…おぉ…貴様は確か…6D17号とか言ったか。」 起こしに来たのは、昼間にスタークメカノリモンとの模擬戦を戦った、6D17号と呼ばれていたアンドロモンだった。 「しばし待て、昌宏も起こして…「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 彼はソーラーモンの言葉を遮り、半ば強引に部屋の外へと連れ出す。 「今ワレの事をなんと言った?ワレはソーラーモンではあるが、ソーラーモンリペアだ。」 「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 「だからそうでは無いと…なんだこれは?」 外の光景を見たソーラーモンリペアは、思わず言葉を失った。 大きな波もなく穏やかに凪いでいたはずの海が、辺り一面凍りついている。 「この辺りは珊瑚礁があるほどの温暖な海であったはずだ!これは一体何事であるか!」 「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 その異常な光景を前にしても、アンドロモンはただそれだけを繰り返し、彼を引っ張っていった。 「放せ!さては貴様、何かに感染でもしておるな!?」 「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 プラットフォーム同士を繋ぐ橋を越え、アンドロモンは模擬戦が行われたヘリポートが備えられているところまでソーラーモンを引き摺って行った。 「…ここに誰がいると言うのだ………!?」 彼の目に、凍結していた海面を進む、3つの影が映った。 一つは、龍が装甲を纏ったような姿に、頭部の左側のみに渦を巻いた異形の角が生えている巨体。 もう一つは、蜻蛉のような上半身に、恐竜のようにも見える四足の下半身を備える巨体。 その二人を従えるかのように自らを運ばせる、何かの仮面を被った人間。 「アレは…一体……うっ…いや…アレをワレは…知っている…?」 ソーラーモンはその光景に驚愕しながらも、強烈な既視感を覚えていた。 ───────── 「……あれ?ソーラーモンのやつ、どこ行ったんだ?」 一方その頃寝室では、昌宏がパートナーの不在に気付いていた。 「探しに行った方が…いいよな。」 ───────── ソーラーモンが目撃した3つの影は、一跳びに彼らの元へと到達した。 「スウォームハグルモン、よ…ようやくまた会えたね…!」 猫のような仮面を被った人間が、慣れ慣れしく話しかける。 「誰だ…貴様は。」 「や…やっぱり覚えてないんだ…。私はアナタのお母さん。デジモンイレイザーだよ…」 「母親…だと?バカな事を言うな。それにワレは、スウォームなどという名では……な………い……?」 否定しようとした彼を、またしても強烈な既視感が襲う。 「イレイザー様に向かって失礼な物言いはよせ、金竜将軍。」 声だけでも眉間にシワを寄せているのがわかるトーンで、異形の角のデジモンがソーラーモンに刀を向けた。 しかし、デジモンイレイザーがそれを遮る。 「ダメだよホムちゃん!…あ、そうだ。ホムちゃんとドラちゃんも自己紹介してよ。それだったら、スウォームハグルモンも思い出すかも…!」 「…承知しました。我が名はホムコールモン!デジモンイレイザー様に仕えし七匹のネオデスジェネラルが一体、水龍将軍!」 「同じくネオデスジェネラルが一体。木竜将軍、ドラグーンヤンマモン。」 二体の名乗りを聞き、ソーラーモンが感じていた既視感はさらに大きい物になっていた。 「ネオ…デス……ジェネラル…!金竜…将…軍…!人間…殺す…命令…!」 今まで忘れていた何かが、顔を出そうとしている。 デジコアの奥底で蠢く何かに、思わず彼は頭を抑えた。 そこに駆け寄る者が一人。 「おい!ソーラーモン!!」 もちろんそれは、ソーラーモンリペアのテイマー、弦巻昌宏だった。 彼はイレイザーたちとソーラーモンの間に割って入る。 「お前ら…誰だ!」 「マサヒロ…なぜここに!」 「フン…勘付かれたか。」 それを見たホムコールモンは刀を軽く振い、それによって生み出された衝撃波だけで寝室に繋がっている橋を叩き斬った。 「ま…マジで…」 それに慄く昌宏。 「最初からこうしておくべきだったな。」 「ちょ…ちょっと…!勝手なことしないでよ!」 「ですが、このままで「口答えするな!」 しかし、デジモンイレイザーはその行為に対し、むしろ激昂した。 「デジモンイレイザーの!この私の!命令が!ないのに!勝手に!動かないで!わかった!!?」 「…申し訳ありません。」 「あいつがデジモンイレイザー……アポトーシスが言ってた倒すべき…敵…?」 げしげしとホムコールモンの爪先を蹴って文句を言う彼女を見て、昌宏はむしろ疑問を抱いていた。 「そんなことよりソーラーモン、どうして奴らのところにいたんだ?」 「昼に戦ったアンドロモンがワレを無理矢理ここへ引き連れてきたのだ。今はそこで伸びておる…どうやら、何かしらのマルウェアに感染していたようだの。」 「華麗でしょ?あいつは自分が裏切り者になったことすら気付いてない。ねぇスウォームハグルモン、早く一緒に帰ろう?世界を滅ぼすの。ね?」 「スウォーム…?どう言うことだ?」 「…き、きみはうちの子を修理してくれてたんだもんね、せっかくだから教えてあげる。そのデジモンの本当の名前は『スウォームハグルモン』!ドローン兵器のデータで私が産んだ、ネオデスジェネラル・金竜将軍だよ!」 イレイザーは誇らしげにそう語った。 「…………本当…なのか?ソーラーモンリペア。」 「……おそらく。奴の言うことは…確かに記憶がある。」 「スウォームちゃんはね、リアルワールドに攻め入った時、人間をたくさん殺す前に空を飛ぶメルヴァモンと化け物みたいな人間に倒されちゃったの。でも、本当に壊れたわけじゃなかった!」 仮面を被っていてもわかるほどに嬉しそうな様子のイレイザー。 一方、ソーラーモンたちは険しい表情だった。 「…そう言うことだ。お前が直したのは、あそこにいる二体のデジモンと同じ…ネオデスジェネラルだった…と言うことのようである。」 「……そう…か」 「そ…そう言うことでさ、そのデジモンはこのデジモンイレイザーのもの。返してもらうよ。」 そう言いながら手を伸ばしたイレイザーの手を、昌宏は遮った。 「断る。デジモンイレイザー、お前に俺のパートナーは渡さない。」 「は?」「何?」 「貴様、デジモンイレイザー様に何と言う口の聞き方だ。」 イレイザーもソーラーモンも疑問を浮かべ、ホムコールモンは刀を向け威圧する。 「な…何言ってるの?………だ…だったら選んで!私に今すぐスウォームハグルモンを返すか!それとも、私のムゲンドラモンで仲間を全員殺されるか!!」 拒否される事を微塵も予想していなかったのか、デジモンイレイザーは怒りに震えながら自らのデジヴァイスを取り出して脅しをかけた。 青と黒のそのデジヴァイスの名は、フュージョンデジヴァイス。歴史の闇に葬られた強大なデジヴァイスのうちの一つだ。 「答えは…俺の答えは!」 しかし、彼はこんな場面でも、やはり選ぶ事はしなかった。 「ここでソーラーモンリペアとお前を倒して!みんなと一緒に帰る!それ一択だ!」 それを聞いたデジモンイレイザーの口元が歪む。 「バカにしてるの…?私が、デジモンイレイザーが倒されるわけないの!!!ゲホっ…ムゲンドラモン、ジェネレート!」 慣れない大声に咳き込みながら彼女がフュージョンデジヴァイスを掲げると、そこから発せられた光が海上に集積していき、一体の巨大なデジモンが生成された。 それこそが、ムゲンドラモン。数々の機械系デジモンの集大成にして、最強と名高いデジモンであった。 「ォォォォォ………!」 生成が完了すると、唸り声と共にムゲンドラモンが海に落下する。 水龍将軍の力によって凍結していた海面もその質量には耐えきれず、バキバキと音を立てながら割れていく。 「ホムちゃんたちは帰っていいよ。」 「しかし、あのような人間程度、イレイザー様が直接お手を下すまでも…」 「いいから!私がやるの!!」 「……承知いたしました。」 彼は手に作り出していた氷の刀を、両手を合わせることによって急激に気化させ、水蒸気の煙幕を作り出す。 それが晴れる頃には、そこに残っているのは猫の仮面のデジモンイレイザーのみとなっていた。 「思ったよりデカいな…アレ。」 昌宏はムゲンドラモンを見上げながら、そう呟く。 「それに…思ったより強そうだ。」 その声には、少しの恐怖が滲んでいた。 「全く…貴様も随分ととんでもない事を言う奴よ。」 ソーラーモンリペアの声には、明らかに呆れの感情が漏れ出ていた。 「ワレは…スウォームハグルモンはデジモンイレイザーに造られた殺戮兵器。マサヒロ、お前が命を賭ける意味も価値もない。」 「勘違いしてないか?」 「勘違い?」 「あのジャンクからお前を、ソーラーモンリペアを作ったのは俺だ。今のお前はスウォームハグルモンじゃない。だから、戦う価値はある。いや…戦ってみる価値はありますぜ。ってね。だから、あいつを倒す以外に答えはない。」 恐怖を誤魔化すかのように、彼はセリフを引用して笑って見せる。 「フフっ…ああ、ワレも全くの同意見。彼奴を倒す以外に手はない。やれるな?」 「もちろん。リペアⅢユニット、起動!」 「ソーラーモンリペアⅢ、進化!」 クロスローダーから現れた2種の武装が装着され、ソーラーモンの体が光り始める。 昌宏はポケットから取り出した円盤状の展開器を胸に貼り付け、スーツを装着した。 ソーラーモンはその状態で昌宏の背後へ周り、彼を包み込むようにして進化する。 そうすることによって、最初からパイロットたる昌宏が搭乗した状態に進化することができるのだ。 「このムゲンドラモンはデジコアをオーバークロックしてあるの!このスペックで完全体なんかに負けるなんてありえない!」 いつの間にかムゲンドラモンの頭上に立っていたデジモンイレイザーが、勝ち誇ったようにそう叫ぶ。 「スタークメカノリモン、弦巻昌宏…行くぞ!」 その声と共に、一機のデジモンが飛び立った。 ───────── 「そ…そんなちょっと違うメカノリモン程度で…こ…このムゲンドラモンに勝てるとでも…!」 イレイザーが左手を払うと、ムゲンドラモンも連動して飛行するスタークメカノリモンを払うようにトライデントアームを振るう。 「退避ッッ!!」 昌宏は思い切り操縦桿を引きながらペダルを踏み込み、急激に上昇してそれを避ける。 「それだけで避けられると思うな!」 その声に呼応してムゲンドラモンの3本のクローが射出され、ワイヤー付きのアンカーとして彼らを追う。 「マサヒロ、まだ追ってきておるぞ!」 「これが本家のトライデントアームか…でもこっちだってアップグレードしてるんだ!トリシュラ!」 機体を回転させて勢いをつけながら、追ってくるクローのワイヤーを、左腕に装備した大型クロー『トリシュラmark1』で切り裂く。 「これでどうだ!」 「クローが…でもこのぐらいのダメージ…!」 イレイザーが持つデジヴァイスが光り、ムゲンドラモンの左爪を復元させる。 「マジ…⁉︎」 「ちまちまダメージを与えて行っても無駄になりそうであるな、マサヒロ。」 「大きな一撃が必要ってことか…!」 そんな時、スタークメカノリモンの通信チャンネルに、突如通信が入った。 『聞こえるか!メカノリモンのテイマー!』 「この声は…ハイアンドロモンであるか!?」 『そうだ私だ!』 それはこの施設の長、ハイアンドロモンの声であった。 『全くぬかったようだ…施設がロックアウトモードにされたうえシステムが破壊されている!これでは防衛設備の使用どころかドアすら開かない!どうせイレイザーどもの仕業だろう!何とか解除しようとしているが、時間がかかる!』 「みんなが出てこられないのもそのせいか…!倒せないにしても…なんとか戦い続けなきゃ…!」 昌宏はギリギリのところでムゲンドラモンのメガハンドを避け、後退しながら何とか仲間たちがいるプラットフォームに流れ弾が飛ばないよう試みる。 『何とか耐えろ、弦巻昌──────── ハイアンドロモンが言い終わらないうちに、通信は突如として途絶する。 「どうなってるんだ!?」 「どうやらこの施設、ジャミング機能まであるようだ。ひとまずは、ワレらだけで奴を黙らせなければならぬ!」 「そうだな…!ロックオンシステムはまだ未完成だけど…これだけデカければマニュアルで当てられる!ムジョルニア2、発射!」 スタークメカノリモンが構えたレールキャノンにビリビリと稲妻が滾り、超高速の砲弾が何発も放たれた。 「そんな攻撃が!効くわけ!ない!!」 しかし、ムゲンドラモンの堅固な装甲の前には、その砲撃も大した効果はない。 「関節を狙うか…?でもマニュアルで当てるのは…」 ムゲンドラモンの攻撃を避けるため、昌宏は自機を絶え間なく高速移動させ続けていた。 そんな状況で完全手動で細かい部位を狙うのは、少なくとも今の昌宏の能力では不可能だった。 「だったら接近戦…もっと強い近接武器がいる!トリシュラじゃダメだ!」 接近してトリシュラmark1を使おうにも、リーチの短さが響く。 何か手はないか。そう考えた時、スタークメカノリモンの脳裏に一つの考えが浮かんだ。 「…そうだ、基地の下部!そこにサルベージ中のロストエンパイアのデジモンがいるはずである!奴らの力をアームズアップで使うのだ!」 「ロストエンパイア…って昨日言ってたやつ?ってかサルベージってどういう事⁉︎」 「説明の暇があると思うか!」 彼はそう叫びながら、サルベージが行われていたエリアまでの道筋を内部のモニターに反映する。 「…わかった!スモークランチャー発射!」 昌宏は両腕の武装をパージしてクロスローダー内に回収し、両肩の『フォイア・レーゲン多目的投射システム』から煙幕弾を発射してイレイザーとムゲンドラモンの視界を奪い、移動した。 ───────── 「これが…サルベージされたやつ?」 中央の操縦桿を握ってペダルを踏み込み、一気にスラスターの出力を上げて指示されたエリアまで飛ぶと、そこには8、9体分はデジモンの部品があるように見えた。 「スキャン開始……あれはポンプモン、これはアビスアンドロモン、ブラスモノドラモン、チムニモン、ゴライアモン…ダメだ、彼奴には最低でも究極体でないと…!」 部品をスキャンし、内部モニターにはそれらのデジモンのデータが次々と表示される。 その光景に、昌宏は少し疑問を抱いていた。 「これだけのデジモンのデータ…いつの間に…」 「ワレのネオデスジェネラルとしての記憶の中には、900を超えるテイマーと700以上の独自進化を遂げたデジモンのデータが内包されているようである。どうも、デジモンイレイザーの陣営が把握しているモノのようであるが…今のワレにはこうしてとっかかりがなければ自由に思い出す事もできぬがな。…あれはモダンディズムデュークモン!?…のベルトが一本サルベージされただけであるか…それだけでは使い物にならぬ…!」 そうして辺りのスキャンを続けるスタークメカノリモンだったが、その背後にはムゲンドラモンがすでに迫っていた。 「あんな煙幕で逃げたつもり!!?」 イレイザーの怒りに反応して、ムゲンドラモンはメガハンドを彼らに伸ばす。 「マズい…追いかけてきた…!急げスターク!」 「十分急いでおる!時間を稼げ!」 「もうやってる!ランチャー反転、エポキシ弾発射!」 昌宏のタッチパネル操作で両肩のマルチランチャーが回転して背後のムゲンドラモンに向けられ、何発か榴弾が発射される。 「そんなミサイル程度…うっ…!何これ…ドロドロする…!!」 それらはムゲンドラモンの眼前で弾け、中身から白くどろりとした液体がぶちまけられた。 「よし…次に硬化弾、発射!」 「また…?同じ手を二度も喰らうとでも!?」 次に発射された砲弾はムゲンドラモンの腕によって阻まれたが、こちらは粘性のない液体で、飛沫がその体に広がっていく。 「かかったな!主剤と硬化剤、二つは揃った時に真価を発揮する!」 「何…!?これ…!固まってる!?」 エポキシの主剤と硬化剤は混ざり合うとすぐに硬化が始まり、数分でムゲンドラモンのパワーでも破壊には苦労する硬度の頑丈な固体に変化する。 昌宏は趣味で何度か使っていたエポキシ接着剤から発想したエポキシ弾と硬化弾を、データ化してスタークメカノリモンに搭載していたのだ。 「うまくいったようだなマサヒロ。こちらもスキャンが完了した。こいつのパーツを使うぞ!」 内部モニターに表示されたデータ、そこに映る名は─── 「ヴェイパー…ヘルガルモン…?」 ウィッチェルニーとの戦争のために作られた兵器デジモンの名であった。 「両腕と胴体の一部しか引き上げられておらぬが、この中では最も強力なデジモンである!…なにせ、イレイザー軍に再起動の計画があったぐらいであるからな。」 「丸鋸で敵を真っ二つってわけね。やってやる!アームズアップ!」 ヴェイパーヘルガルモンのパーツと、ついでに一緒に引き上げられていたブラスデジゾイドの塊が取り込まれ、 長大なロッドの端に巨大な丸鋸が取り付けられたような武器がスタークメカノリモンの手元に成形されていく。 相対する敵を容易く両断して死へと向かわせる、失われし力から生まれた兵器。 「「デストルドグラインダー!!」」 それを構えた彼らは、ムゲンドラモンへと急速に接近を始めた。 「へ…へぇ…足止めはそのためだったんだ…でも、このムゲンドラモンの本気の前に太刀打ちできると思う!?」 ムゲンキャノンにエネルギーがチャージされ、周囲の空気にもバチバチとプラズマが迸り始める。 「させぬ!!」「させない!!」 「きゃっ!?」 彼らはムゲンドラモンの眼前で急速に上昇し、背中のキャノンをまるでバターを切るかの如く容易く切り裂いた。 上部が破壊されたことにより、内部に圧縮されていたエネルギーが稲妻となって空気中に放出される。 「よくやったぞマサヒロ!」 「でもこれだと周りに被害が…!」 「気にするでない!この程度で壊れる建物でも無かろう!それよりも、奴はまだ沈黙してはおらぬのだぞ!」 彼のいう通りであった。 「キャノンがなくても!このムゲンドラモンにはまだ武器がある!!」 デジモンイレイザーの怒りを吸収するかのようにデジヴァイスの暗い輝きは大きくなり、それに呼応してムゲンドラモンのボディが赤熱しているかのような赤いオーラを纏う。 「来る⁉︎マサヒロ避けろ!」 まだ氷の残るスタークメカノリモンの足元の海が急にグツグツと煮えたったかと思えば、そこから噴き出すように熱線が放たれた。 「あぶねっ‼︎下にもキャノンがあるのか!?」 ギリギリでそれを避けた昌宏は、即座に海中へスキャンを実行する。 「尻尾だ、彼奴の尻尾の先に砲が搭載されておる。」 「そういうことか…!」 水面下で尻尾は敵を追跡するかのように追いかけ、次々にビームを発射していく。 「これでは接近状態の維持ができぬ…!それが狙いであるかッ…!」 「スターク、考えがある。」 「ほう、どんなモノだ?」 「水中に入って…奴の尻尾を斬る!」 スタークメカノリモンで水中へと潜航し、デストルドグラインダーを使用してムゲンドラモンの尻尾を切断する。 昌宏の考えはそんなモノだった。 「何をバカなことを!試験もしておらぬのだ、浸水の可能性すらある!我にとっては水を飲んだだけの話、しかし貴様にとっては…!」 「それは大丈夫。アポトーシスのスーツがなんとかしてくれる。」 「ぬぅ…だが水中でどう推進するつもりであるか。ワレには水中向けの推進システムは非搭載だぞ。」 「ああ、それも考えてある。」 「……わかった。戦いの後にはしっかり塩分を落としてもらうからの。」 「しっかり洗ってやるよ!」 昌宏は飛行用に動かしていたスラスターの出力を絞り、再びムゲンドラモンへと接近しながら水面へと近づいた。 「こっちに…くるなぁぁぁァッ!」 「今だ!潜る!」 乱射されるビームに紛れ、彼らは水中へと突入する。 「倒せた…?」 幸運にも、イレイザーはそれを自らの攻撃が直撃したことによるモノと勘違いしていた。 「攻撃が止んだ…」 「さてはこやつ、ワレらを撃墜できたと勘違いしておるな?」 昌宏は計画通り、事前につけた勢いでムゲンドラモンの尻尾の元へ沈みながら進んで行く。 「よし…喰らえっ!!」 丸鋸を急速回転させ、尻尾の関節に叩き込む。 「下から攻撃!?まだ動いてる…!?デジモンイレイザーを騙すなんて!!!…ゴホっ…ゴホ…!」 ムゲンドラモンはクローを水中に突っ込んで振り払おうとするが、その抵抗も虚しく尻尾が切り落とされる。 「よしっ!切断成功!」 「うまく行ったな!………で、ここからどうやって上に戻るつもりであるか?」 「こうやるんだよ!」 海底を蹴ってさらにムゲンドラモンに接近し、彼は機体の足の裏にあるクローを展開してその体にしがみついた。 「貴様正気か!?」 「もちろん!はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 彼はムゲンドラモンにデストルドグラインダーを突き立て、その体を背筋に沿って駆け上がる。 「う…うそ…!?」 ムゲンドラモンはボディを真っ二つに両断され、水上に出たスタークメカノリモンはそれを踏み台にして再び飛行した。 「蒸気切れだ!もうグラインダーは使えぬ!」 「了解、投棄する!」 昌宏はアームズアップを解除し、使用不能になった丸鋸を投げ捨てる。 「これで追い討ちだ!リロード、ムジョルニア2!」 彼はさらにレールガンをクロスローダーから召喚し、その断面を狙って砲撃する。 先ほどは堅牢な装甲に阻まれたそれだが、内部に直撃させられてはさしものムゲンドラモンでも耐えることはできない。 「そ…そんな…わ…私の…私のオーバークロックしたムゲンドラモンが…」 「いいことを教えてやる、デジモンイレイザー。世代!データ量!そんなもので決着は付かぬ!真に戦いを決するのは!テイマーの技量であるッ!!」 スタークメカノリモンはそう言い放ち、昌宏がダメ押しとばかりにもう一発レールガンを撃ち込んだ。 「ま…負けるなんて…デジモンイレイザーが負けるなんて!!」 彼女は爆風に巻き込まれ、スタークメカノリモンからは観測できなくなった。 ───────── 蓄積したダメージと、動力炉のオーバーロードによって爆発を起こしたムゲンドラモン。 デジモンイレイザーはそれに巻き込まれ、空中に身を投げ出された。 「そ…そうだ、サンドヤンマモン!ジェネレート!」 海に落ちるまであとわずかと言ったところでデジヴァイスからサンドヤンマモンを召喚し、彼女はかろうじて落水を回避した。 「スターク、あれ!」 「サンドヤンマモン…木竜軍の所属であろうな…」 「トドメを刺してやる…ミサイル発射!」 スタークメカノリモンの両肩から発射されたミサイルを、サンドヤンマモンはデジモンイレイザーをぶら下げたまま完璧に回避する。 「やりおる…流石木竜軍のデジモン、練度が高い。」 「もう…絶対に絶対に許さない…!ムゲンドラモン!クロスオープン!」 デジモンイレイザーは、もはや残骸と形容しても問題ない様な状態になったムゲンドラモンにデジヴァイスを向け、メタルグレイモン、メタルティラノモン、メガドラモン、メタルマメモンにアンドロモンという、”素材”状態に分解した。 「こ…ここからが本当の…フュージョンデジヴァイスの力…!リプロインフューズ!アクティベート!!」 今までより一際強くデジヴァイスが輝き、そこから発せられた光の線が5体の素材デジモンたちに接続される。 「ウ、ア…ガァァァ…!」「ギッ…ガガ…!」「グルル…ォ…ァ…!?」「error.error.」「フ…グッ……」 それぞれが苦しむ様な声を上げながら、ムゲンドラモンのパーツとなっている部位だけが不自然に巨大化していく。 「一体何が起こってるんだ…」 「あのデジヴァイス…はたしてどの様な機能を備えておるのだ…?」 そして、それらの体が膨れ上がるかの様に肥大化し、気泡が固まっていくかの様にしてムゲンドラモンの形を醜く模っていく。 「これがリプロインフューズ!このデジヴァイスの本当のパワー!」 そこに出来上がったのは、5体のムゲンドラモンだった。 ───────── 「…疲れた……ここは任せるね。ログアウト。」 ムゲンドラモンの完成を見届けると、デジモンイレイザーはその姿を消した。 「こんなの…どうしろって言うんだ…!1体でも苦労したのに!」 「手詰まり…と言ったところであるか…」 その光景に戦意を喪失する昌宏たち。 『昌宏くん!大丈夫!?』 そんな二人に、再び外部からの通信が入った。デジヴァイスを使用したものだ。 「この声…日影!?」 「通信が可能になった…と言うことは!」 『システムを突貫で再構成してロックアウトモードの解除に成功した!迎撃設備も使用可能だ!もう君一人だけに戦わせることはない!』 ハイアンドロモンの通信と共に施設の各部に設置された砲台が稼働を始め、更に何体かのデジモンが姿を表す。 「デジソウル、フルチャージ!」 「ルクスモン進化!シャイニングエンジェモン!」 光り輝く拳を持つ、格闘に優れた大天使。 「ムーチョモン進化!ジャターユモン!」 白い髭と緋色の羽織がたなびく、翼無き老鳥。 「デジソウルチャージ!オーバードライブッ!」 「ゴツモン進化!バンチョーゴーレモン!」 GAKU-RANを纏いし、剛力の大岩。 「ラブラモン進化!ワーガルルモンX:サジタリウスモード!」 サジタリウスの力を得て更に機動性を増した、蒼爪の人狼。 昌宏の仲間達の中でも、特に能力の高いデジモンたち。 彼らはそれぞれにムゲンドラモンへと挑みかかった。 「シャァァイニングッ!ナッコォォゥ!!」 テイマーの的確なサポートでシャイニングエンジェモンはムゲンドラモンの懐に接近して腹部に拳を食い込ませ、 「穿骨勁…!」 ジャターユモンがトライデントアームとメガハンドの猛攻を華麗にいなし叩き込む一撃はムゲンドラモンのフレームにダメージを与え、 「世堀クロードリル!」 左腕の掘削機を高速回転させたバンチョーゴーレモンは防御しようとした腕ごとムゲンドラモンの体を掘りぬき、 「エンペラー…ネイル!!」 ワーガルルモンX:SMは機動兵器を自らの爪の延長の様に組み替え、それぞれから発振させたビームクローで敵の装甲を切り裂く。 それを鏑矢として、子供たちのデジモンとスティールアライアンスのデジモンが一気に進軍を始めた。 青と黄、二体のメイルバードラモンとプテラノモンに率いられ、チョロモンが乗り込んだメカノリモンたちが両手を広げて飛行しながらそれに続き、空から攻撃を繰り出す。 カーゴドラモンに懸架されたタンクドラモンも砲撃を行い、砲台からも絶え間なく射撃が続く。 そんな最中、昌宏とスタークメカノリモンはプラットフォーム上に着陸していた。 それを見て、すぐに駆け寄る日影。 「昌宏くん!」 彼女は、機体から降りてふらつく昌宏の肩を支える。 「はぁ…はぁ…つ…つかれた…」 アポトーシスが授けたスーツは、あくまでも外部からの衝撃を無効化するもの。操縦による肉体的、精神的疲労は防ぎようがないのだ。 「大丈夫…?怪我とか…」 「スーツがあるから…怪我は平気。でも…すげえ疲れた…」 「苦労をかけたな。………ワレのせいで。」 いつの間にか退化していたソーラーモンリペアは若干の申し訳なさを漂わせながらそう呟き、爆炎に包まれるムゲンドラモンを真っ直ぐと見据えた。 「あやつら、明らかに先ほどよりも動きが悪くなっておるな。」 「イレイザーが直接指令を出してないから?」 「いや、ムゲンドラモンの処理能力を考えれば、直接の命令がなくとももっと高度な戦闘を実行するはずである。もっと何か…他に原因があるのではなかろうか?」 先ほどまで彼らを多彩な武装で翻弄していたはずのムゲンドラモンが、今はクローで眼前の敵や砲弾を薙ぎ払う程度しか出来ておらず、ムゲンキャノンや尻尾からの熱線は追尾性能が露骨に下がっている。 彼がそんな疑問を抱くのも当然だった。 「原因って?」 「いや…それはわからぬが…」 仲間たちによってムゲンドラモンは次々にダメージを与えられていたが、軽微な損傷は先ほどの様に復元されてキリがない。 「うぉぁぁぁっっ!?」 「ぐっ…ぬぁぁぁッ!!」 それゆえか、攻撃を捌けていたはずのシャイニングエンジェモンや、その堅牢な体で防御していたはずのバンチョーゴーレモンも、被弾しテイマーの元に後退してきていた。 「…やはりワレも戦う。マサヒロ、デジクロスだ。貴様は休んでおけ。」 それを見たソーラーモンは、多少ふらつきながらも再び戦う意志を見せた。 「……わかった。日影、セヨン!」 昌宏もなんとか立ち上がってクロスローダーを掲げ、それに追随して日影はデジヴァイスを、セヨンはデジヴァイスicを構える。 「ソーラーモンリペア…!」 「シャイニングエンジェモン!」 「キャンドモン!」 「「「グレートクロス!!!」」」 三体のデジモンたちの体が金色に光り輝き、一つになる。 「「「ウリエルエンジェモン!!!」」」 太陽を司る天使の力を発現させた熾天使は、再びムゲンドラモンたちへと殴りかかった。 「ゴッド!サプライザル!!」 拳を模った炎がムゲンドラモンの横っ面に叩き込まれ、その姿勢が少し崩れる。 その隙にウリエルエンジェモンは敵の背中にとりつき、首と胴体の装甲の隙間に貫手が如くクローを突っ込んだ。 「ゴッドフィスト!!」 ムゲンドラモンの体内に神の炎が直接流し込まれ、内部の回路が灼かれ、溶け落ちていく。 しかしわずかに動きが止まったのみで、絶え間無き復元がムゲンドラモンを戦わせ続ける。 「これがフュージョンデジヴァイスの力か…データをひたすらデジモンに融合させ続け、進化体としてのカタチを留めさせ続ける…」 ウリエルエンジェモンにクロスしていたソーラーモンリペアは、自らの中のフュージョンデジヴァイスの記憶を辿りながら呟いた。 「ムゲンキャノンが…マズいよウリエルエンジェモン!避けテ!」 デジソウルガンのスコープを覗いていたセヨンが、焦った声で退避を促す。 そのスコープには、ムゲンキャノンに急速にエネルギーが収束していることを示すアラートが表示されていた。 つまりは発射まで秒読みということである。 「しまった…!この状況だと避けきれない…!」 ムゲンドラモンに深々とクローを突き刺していたため、今から退いてもムゲンキャノンの射程圏からは逃れられない。 まさに絶体絶命の状況に陥った次の瞬間、突如としてムゲンドラモンの体躯がほどける様にしてメタルグレイモンへと退化した。 「なんだ…!?」 それはウリエルエンジェモンが戦っていた個体だけでなく、ジャターユモンたちが戦っていた個体も同様にメタルマメモンやアンドロモンなど、”素材”の状態へと退化していく。 素材たちはそのまま砂に変わる様にデジコア以外の部分が消滅していき、最後に残ったヒビだらけのコアはひとりでに砕け散った。 「これ…どういうコト…?」 ひとまず危険は去ったということで3体がデジクロスを解除すると、戦闘の疲労からかシャイニングエンジェモンはその姿を維持できず、エンジェモンへと退化した。 まだ海上であったので、唯一高い飛行能力を持つエンジェモンがソーラーモンリペアを抱え、ソーラーモンリペアがキャンドモンを持つフォーメーションで彼らはテイマーの元まで戻った。 ソーラーモンリペアも浮遊程度なら可能だったが、何せ連戦で体力を使い果たしていた。 「キャンドモン、みんな、お疲れ様!」 「ケガはない、ルクスモン?」 パートナーの無事を確かめる日影たち。 「ソーラーモン、さっきはどうしてあんな現象が起きたんだ?」 昌宏は先ほど目の前で繰り広げられた奇妙な光景に、疑問を隠しきれない様子だった。 「これはワレの記憶に推測を重ねたモノだが…おそらくはデジモンイレイザーのデジヴァイスの力による負荷、そして戦闘による負荷に、完全体のデジコアでは耐えられなかったのだろう。」 「完全体?ムゲンドラモンって究極体だろ?」 「リプロインフューズは、デジモンのデータのみを流し込んで進化させる力なのだ。本来はデジコアも融合して生まれるジョグレス体やデジクロス体を、デジモン一体分のコアで動かさねばならぬ。特に、あのムゲンドラモン共はオーバークロックの加工を施されておった様だ。ただでさえ高負荷であったのだからこうなるのも理解できる。」 それは、勝利というにはあまりにも運の良いものであった。 昌宏も当然そのことを理解していたし、安易にこの戦いに勝ったことを喜びはしなかった。自らのパートナーが本当はネオデスジェネラルであったことも、まだ完全には飲み込みきれてはいない。 そんな状況でも、夜が明ければ太陽は皆を照らす。 既に日は昇り、海面はそれを反射して眩く輝いていた。 「とりあえず、塩落とさないとな。」