スティールアライアンスなる組織の海上基地に身を寄せていた選ばれし子供たち。 そこは、海中に没したロストエンパイアのテクノロジーをサルベージするために設けられた基地であった。 弦巻昌宏はそこの設備を使い、パートナーであるソーラーモンリペアの失われた記憶を取り戻そうと思案する。 しかし、彼はもはや、失った記憶への未練を捨て去っていた。 ───────── その晩。スティールアライアンスの元に身を寄せていた選ばれし子供たちは、海上基地内の大広間とも言える一室に集まっていた。 その目的と言うのは… 「ささ、みなさん、存分に食べていってくださいね!」 そう、食事である。 調理担当だろうコクワモンが、チョロモンたちを伴いながら、各人のもとへと料理を配膳していく。 「これは…オレたちが釣った魚を蒸したやつ?」と、望月ジュン。 「ここで研究されている蒸気に関するテクノロジーを活かしてみました!確かリアルワールドでは…地獄蒸しというそうです!」と返すコクワモン。 この海上基地は、スティールアライアンスがロストエンパイアの技術をサルベージする目的で建造したものだ。 コクワモンはそれを使って蒸し料理を作ったのだろう。それを聞いていたソーラーモンリペアはそう考えていた。 「お、美味い!…けど、これなんの魚だ?」 「味にクセのない白身で皮は黒い…ワレの記憶が正しければ…ブラックデジタイであるな。」 「黒鯛ってこと?」 「まぁ、似たようなものだ。」 昌宏とソーラーモンはそう言い合いながら、料理に舌鼓を打っていた。 ───────── 「まさかデザートまで付いてくるとは、全く予想外であったわ。」 「でも、確かにプリンって蒸し料理だよね、リペアさん。」 「日影はプリン、好きなの?」 ソーラーモンリペアと日影の会話を聞き、そこに昌宏も加わる。 「うん。あ…でも焼きプリンの方が好きかも。昌宏くんは?」 「俺もプリンは好きだけど…何かしながら食べられるやつが好きだな。クッキーとかチョコとか。」 「だったらキット、칸쵸とかも好きだと思ウな」 更にそこに、セヨンも加わった。 「なにそれ?」 「クッキーの中にチョコが入ってる、ワタシの国のお菓子ダヨ!」 昌宏が二人と出会い、二人のことを異性として好きになり、二月ほどが経過していた。 彼はいまだに、どちらがいわゆるところの"本命"であるのかを決められずにいた。 好きなものはみな好きであって、νガンダムもサザビーも、オプティマスもメガトロンも、どちらも揃えてしまう。昌宏はそう言う人間だ。 日影の事を好きになったのはほぼ一目惚れに近く、知れば知るほどにその気持ちは深まっていった。 セヨンはファーストコンタクトこそ良くなかったものの、その強烈なアプローチは間違いなく彼の心に食い込んでいた。 彼は結局のところ、選ぶ事のできない人間だった。 ───────── その後、選ばれし子ども達は、スティールアライアンスのデジモンたちの計らいで作られた、ロストエンパイアの技術の副産物として出る熱湯を利用した一種の温泉のようなものに浸かり、用意された寝室で皆すぐに眠りについてしまった。 普段の野宿とは違い、襲われる心配が無いのだから、ある意味それは当然だろう。 そうして夜は更けていき、月が輝きを増した深夜、昌宏の側で寝ていたソーラーモンリペアを起こす者がいた。 「お目覚めください。ソーラーモン…ロス…ア様にお客様です。」 「…………ん…おぉ…貴様は確か…6D17号とか言ったか。」 起こしに来たのは、昼間にスタークメカノリモンとの模擬戦を戦った、6D17号と呼ばれていたアンドロモンだった。 「しばし待て、昌宏も起こして…「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 彼はソーラーモンの言葉を遮り、半ば強引に部屋の外へと連れ出す。 「今ワレの事をなんと言った?ワレはソーラーモンではあるが、ソーラーモンリペアだ。」 「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 「だからそうでは無いと…なんだこれは?」 外の光景を見たソーラーモンリペアは、思わず言葉を失った。 大きな波もなく穏やかに凪いでいたはずの海が、辺り一面凍りついている。 「この辺りは珊瑚礁があるほどの温暖な海であったはずだ!これは一体何事であるか!」 「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 その異常な光景を前にしても、アンドロモンはただそれだけを繰り返し、彼を引っ張っていった。 「放せ!さては貴様、何かに感染でもしておるな!?」 「ソーラーモンクロスコア様にお客様です。」 プラットフォーム同士を繋ぐ橋を越え、アンドロモンは模擬戦が行われたヘリポートが備えられているところまでソーラーモンを引き摺って行った。 「…ここに誰がいると言うのだ………!?」 彼の目に、凍結していた海面を進む、3つの影が映った。 一つは、龍が装甲を纏ったような姿に、頭部の左側のみに渦を巻いた異形の角が生えている巨体。 もう一つは、蜻蛉のような上半身に、恐竜のようにも見える四足の下半身を備える巨体。 その二人を従えるかのように自らを運ばせる、何かの仮面を被った人間。 「アレは…一体……うっ…いや…アレをワレは…知っている…?」 ソーラーモンはその光景に驚愕しながらも、強烈な既視感を覚えていた。 ───────── 「……あれ?ソーラーモンのやつ、どこ行ったんだ?」 一方その頃寝室では、昌宏がパートナーの不在に気付いていた。 「探しに行った方が…いいよな。」 ───────── ソーラーモンが目撃した3つの影は、一跳びに彼らの元へと到達した。 「スウォームハグルモン、よ…ようやくまた会えたね…!」 猫のような仮面を被った人間が、慣れ慣れしく話しかける。 「誰だ…貴様は。」 「や…やっぱり覚えてないんだ…。私はアナタのお母さん。デジモンイレイザーだよ…」 「母親…だと?バカな事を言うな。それにワレは、スウォームなどという名では……な………い……?」 否定しようとした彼を、またしても強烈な既視感が襲う。 「イレイザー様に向かって失礼な物言いはよせ、金竜将軍。」 声だけでも眉間にシワを寄せているのがわかるトーンで、異形の角のデジモンがソーラーモンに刀を向けた。 しかし、デジモンイレイザーがそれを遮る。 「ダメだよホムちゃん!…あ、そうだ。ホムちゃんとドラちゃんも自己紹介してよ。それだったら、スウォームハグルモンも思い出すかも…!」 「…承知しました。我が名はホムコールモン!デジモンイレイザー様に仕えし七匹のネオデスジェネラルが一体、水龍将軍!」 「同じくネオデスジェネラルが一体。木竜将軍、ドラグーンヤンマモン。」 二体の名乗りを聞き、ソーラーモンが感じていた既視感はさらに大きい物になっていた。 「ネオ…デス……ジェネラル…!金竜…将…軍…!人間…殺す…命令…!」 今まで忘れていた何かが、顔を出そうとしている。 デジコアの奥底で蠢く何かに、思わず彼は頭を抑えた。 そこに駆け寄る者が一人。 「おい!ソーラーモン!!」 もちろんそれは、ソーラーモンリペアのテイマー、弦巻昌宏だった。 彼はイレイザーたちとソーラーモンの間に割って入る。 「お前ら…誰だ!」 「マサヒロ…なぜここに!」 「フン…勘付かれたか。」 それを見たホムコールモンは刀を軽く振い、それによって生み出された衝撃波だけで寝室に繋がっている橋を叩き斬った。 「ま…マジで…」 それに慄く昌宏。 「最初からこうしておくべきだったな。」 「ちょ…ちょっと…!勝手なことしないでよ!」 「ですが、このままで「口答えするな!」 しかし、デジモンイレイザーはその行為に対し、むしろ激昂した。 「デジモンイレイザーの!この私の!命令が!ないのに!勝手に!動かないで!わかった!!?」 「…申し訳ありません。」 「あいつがデジモンイレイザー……アポトーシスが言ってた倒すべき…敵…?」 げしげしとホムコールモンの爪先を蹴って文句を言う彼女を見て、昌宏はむしろ疑問を抱いていた。 「そんなことよりソーラーモン、どうして奴らのところにいたんだ?」 「昼に戦ったアンドロモンがワレを無理矢理ここへ引き連れてきたのだ。今はそこで伸びておる…どうやら、何かしらのマルウェアに感染していたようだの。」 「華麗でしょ?あいつは自分が裏切り者になったことすら気付いてない。ねぇスウォームハグルモン、早く一緒に帰ろう?世界を滅ぼすの。ね?」 「スウォーム…?どう言うことだ?」 「…き、きみはうちの子を修理してくれてたんだもんね、せっかくだから教えてあげる。そのデジモンの本当の名前は『スウォームハグルモン』!ドローン兵器のデータで私が産んだ、ネオデスジェネラル・金竜将軍だよ!」 イレイザーは誇らしげにそう語った。 「…………本当…なのか?ソーラーモンリペア。」 「……おそらく。奴の言うことは…確かに記憶がある。」 「スウォームちゃんはね、リアルワールドに攻め入った時、人間をたくさん殺す前に空を飛ぶメルヴァモンと化け物みたいな人間に倒されちゃったの。でも、本当に壊れたわけじゃなかった!」 仮面を被っていてもわかるほどに嬉しそうな様子のイレイザー。 一方、ソーラーモンたちは険しい表情だった。 「…そう言うことだ。お前が直したのは、あそこにいる二体のデジモンと同じ…ネオデスジェネラルだった…と言うことのようである。」 「……そう…か」 「そ…そう言うことでさ、そのデジモンはこのデジモンイレイザーのもの。返してもらうよ。」 そう言いながら手を伸ばしたイレイザーの手を、昌宏は遮った。 「断る。デジモンイレイザー、お前に俺のパートナーは渡さない。」 「は?」「何?」 「貴様、デジモンイレイザー様に何と言う口の聞き方だ。」 イレイザーもソーラーモンも疑問を浮かべ、ホムコールモンは刀を向け威圧する。 「な…何言ってるの?………だ…だったら選んで!私に今すぐスウォームハグルモンを返すか!それとも、私のムゲンドラモンで仲間を全員殺されるか!!」 拒否される事を微塵も予想していなかったのか、デジモンイレイザーは怒りに震えながら自らのデジヴァイスを取り出して脅しをかけた。 青と黒のそのデジヴァイスの名は、フュージョンデジヴァイス。歴史の闇に葬られた強大なデジヴァイスのうちの一つだ。 「答えは…俺の答えは!」 しかし、彼はこんな場面でも、やはり選ぶ事はしなかった。 「ここでソーラーモンリペアとお前を倒して!みんなと一緒に帰る!それ一択だ!」 それを聞いたデジモンイレイザーの口元が歪む。 「バカにしてるの…?私が、デジモンイレイザーが倒されるわけないの!!!ゲホっ…ムゲンドラモン、ジェネレート!」 慣れない大声に咳き込みながら彼女がフュージョンデジヴァイスを掲げると、そこから発せられた光が海上に集積していき、一体の巨大なデジモンが生成された。 それこそが、ムゲンドラモン。数々の機械系デジモンの集大成にして、最強と名高いデジモンであった。 「ォォォォォ………!」 生成が完了すると、唸り声と共にムゲンドラモンが海に落下する。 水龍将軍の力によって凍結していた海面もその質量には耐えきれず、バキバキと音を立てながら割れていく。 「ホムちゃんたちは帰っていいよ。」 「しかし、あのような人間程度、イレイザー様が直接お手を下すまでも…」 「いいから!私がやるの!!」 「……承知いたしました。」 彼は手に作り出していた氷の刀を、両手を合わせることによって急激に気化させ、水蒸気の煙幕を作り出す。 それが晴れる頃には、そこに残っているのは猫の仮面のデジモンイレイザーのみとなっていた。 「思ったよりデカいな…アレ。」 昌宏はムゲンドラモンを見上げながら、そう呟く。 「それに…思ったより強そうだ。」 その声には、少しの恐怖が滲んでいた。 「全く…貴様も随分ととんでもない事を言う奴よ。」 ソーラーモンリペアの声には、明らかに呆れの感情が漏れ出ていた。 「ワレは…スウォームハグルモンはデジモンイレイザーに造られた殺戮兵器。マサヒロ、お前が命を賭ける意味も価値もない。」 「勘違いしてないか?」 「勘違い?」 「あのジャンクからお前を、ソーラーモンリペアを作ったのは俺だ。今のお前はスウォームハグルモンじゃない。だから、戦う価値はある。いや…戦ってみる価値はありますぜ。ってね。だから、あいつを倒す以外に答えはない。」 恐怖を誤魔化すかのように、彼はセリフを引用して笑って見せる。 「フフっ…ああ、ワレも全くの同意見。彼奴を倒す以外に手はない。やれるな?」 「もちろん。リペアⅢユニット、起動!」 「ソーラーモンリペアⅢ、進化!」 クロスローダーから現れた2種の武装が装着され、ソーラーモンの体が光り始める。 昌宏はポケットから取り出した円盤状の展開器を胸に貼り付け、スーツを装着した。 ソーラーモンはその状態で昌宏の背後へ周り、彼を包み込むようにして進化する。 そうすることによって、最初からパイロットたる昌宏が搭乗した状態に進化することができるのだ。 「このムゲンドラモンはデジコアをオーバークロックしてあるの!このスペックで完全体なんかに負けるなんてありえない!」 いつの間にかムゲンドラモンの頭上に立っていたデジモンイレイザーが、勝ち誇ったようにそう叫ぶ。 「スタークメカノリモン、弦巻昌宏…行くぞ!」 その声と共に、一機のデジモンが飛び立った。