俺の名はパトリック・マドックス。 砂漠だらけのこの州、アリゾナ生まれアリゾナ育ちの警察官だ。 俺はここで、日夜悪党どもの頭をフッ飛ばしている。 「マドックス君、今度という今度は看過できんぞ。」 「はぁ…そうですか。」 そして今、俺は署長室に呼び出しを喰らっていた。 「”そうですか”じゃない!これは我々アリゾナハイウェイパトロール全体の信用を落としかねんのだぞ!」 発端は数日前に遡る。 俺は殺人の罪で手配されていた女をパトロール中に見つけ、カーチェイスの末に仕留めた。 それ自体はよくある話だ。だが、俺が撃ち殺したその女は、撃たれる直前に両手を上げるように見える動きをしていた。その瞬間を野次馬どもの一人がSNSで拡散しやがった。 お陰でどこぞの人権団体やらまで騒ぎ出している。 ったく…悪党殺して何が悪いんだ。 「あのクズ女は第1級殺人で手配されてたんだ!どうせ捕まってもすぐ死刑でしょう!俺は正義を執行したまでだ!」 「口には気をつけたまえマドックス君!その発言が外部にでも漏れてみろ!署にデモ隊が雪崩込んでくるぞ!!」 署長は怒鳴りながら机を叩き、その勢いで卓上にあったペン立てが倒れる。 「あぁしまった…」 彼はペンを拾いながら、そのまま話を続けた。 「…君、今までに謹慎を何回受けたか覚えているのかね。」 「えーっと…………3回?」 「4回だ。そして、今から5回になる。」 …ということは…… 「謹慎だ。処分は追って連絡する。」 クソッ。 ───────── 翌朝。 「クソ……二日酔いだ…」 俺は頭を抱えながら起き上がった。 ヤケ酒なんてするもんじゃないとはよく言うが、そうでもしないとやってられない時はある。 昨日は帰りがけにビールを買い込み、テレビを見ながら流し込んだ…はずだ。 「昨日どんだけ飲んだんだ、俺は…?」 6本空けた辺りから記憶がないが…目の前の缶の山を見る限り、少なくともそこから3本は飲んだらしい。 「ゴミ…捨てねぇとな…」 その辺のゴミを纏めて袋に突っ込み、俺はその袋と二日酔いで重い体を引きずりながらドアを開ける。 家の前にあるゴミ箱にその袋を突っ込むだけの簡単な仕事だが、こんな体調じゃそれだけでも結構キツい。 「のわっ…!」 そのせいで注意力が下がってたんだろう。俺は転んだ。 「っってて…クソが…こんなところに段差なんてあったか…?……あ?」 その原因は、俺の家の前に倒れていた”何か”だった。 「オイオイ…ロードキル…ってわけでもなさそうだな。」 その”何か”は、見たところイタチかアナグマに似ている。…一番近いのはフェレットだな。 だが、そのどれだったとしてもヤケにデカい。その上、両腕は金属製のようだし、下半身にはズボンを履いている。 ペットだったのか? 「み…水…」 「…マジか」 まだ酔ってんのか俺は?喋りやがったぞ、このフェレット。 とにかく、まだ生きてんなら助けてやろう。俺はゴミ袋をその辺に投げ捨て、急いで冷蔵庫へ水のボトルを取りに行った。 ───────── 「───────────────うぅ……水だ…!」 皿に水を注いで鼻先に近づけてやると、そいつは勢いよく食いついた。 いい飲みっぷりだ。…やっぱり喋ってやがるな。エイリアンか何かか? 「ま…まだある…?」 一気に飲み干した上、おかわりまで要求してきやがるか。いい度胸してる。 「ああ、冷蔵庫にゃまだあるが……俺の言葉、わかるか?」 よく考えればバカな質問だ。相手がこっちにわかる言葉で話してるんだから、通じてるに決まってる。 そいつは当然、首を縦に振った。 「よし、とりあえず中に入れ。すぐ食えるのはTVディナーかホットポケッツしかないが…まぁ飯もあるぞ。」 ────── 「もぐ───…美味しいじゃないの!」 伸びたチーズで口元を汚しながら、そいつは嬉しそうにムシャムシャとホットポケッツを食っている。 …人間の食い物で大丈夫なのか?まぁそんな事はどうでもいい。もっと気になることがある。 「で、フェレット。どうして喋れるんだ?」 「フェレット…アタシ?」 「お前以外に誰がいる。」 「アタシはフェレットじゃないわ!第一、フェレットは喋らないでしょ。」 「ああ、だからお前は喋るフェレットだ。お喋りフェレットの方が良いか?」 「ちーがーうー!私はウルヴァモン!デジモンよ!」 Wolvermon…Wolverine?クズリには見えんが…それにデジモンとは何だ? 「ウルヴァモン…ってのがお前の名前か?」 「名前っていうか…別にアタシ以外にもウルヴァモンは居るけど…」 ってことは犬種みたいな物か。 「で…デジモンってのは?」 「デジタルモンスター、デジタルワールドに住んでる生き物。アタシたちの事よ。知らないの?」 初耳だ。それにデジタルってなんだ?どう見てもコイツはアナログだ。 「これ、もっとないの?」 疑問を浮かべる俺を他所に、喋るフェレット…ウルヴァモンはまたしても平然とおかわりを要求する。 「食わせてやっても良いが…質問には答えてもらうぞ。デジタルワールドってなんだ?」 俺は冷凍庫からもう一つ取り出したホットポケッツをレンジに突っ込みながら聞いた。 「…えっと…デジモンがいる…世界よ。…逆に聞くけど、お前たち人間は自分の世界がどんなか完璧にわかってるわけ?」 「今聞いてるのはこっちだ。質問に質問で返すんじゃない。」 「だから…えっと…わかんない。」 「はぁ…じゃ、どうやってそっちからこっちに来た?」 聞きながら、温まったそれをウルヴァモンに渡す。 「……それも…わかんない。いつも通りにしてたら急に周りが砂漠だらけになってて…」 「じゃ、帰り方もわかんねぇか。」 奴は食べながら首を縦に振った。 「……ウルヴァモン、お前をしばらく住まわしてやる。謹慎で暇なんでな。」 「本当?ありがと!…えっと……」 「マドックスだ。パトリック・マドックス。」 「マドックス…。ありがと、マドックス!」 一緒に暮らすんなら、ウルヴァモンって呼び続けるわけにもいかん。ペットの犬を犬と呼ぶ奴もいるまい。 どうするか…そうだな…フェレットだから… 「よし、今日からお前の名前はフェルだ。いいな?」 こうして、ウルヴァモン、フェルとの生活が始まった。 ━━━━━━━━━ 「ふむ…マドックス君のところにデジモンが…」 机の上に置かれた数枚の写真を見て、署長はそう呟いた。 「……もう奴に悩まされずに済むかもしれんな。」 彼は受話器を取ると、ある所へコールした。 「──────はい。ええ。…私の部下にデジモンと接近遭遇した者が。───はい、その様で。はい、そちらに適任かと。はい。パトリック・マドックスという、正義感の強い男です。………ええ。では、夜城沼局長によろしくお伝えください。」