「じゃあ、次はこの曇り空をワタアメに変えちゃいましょう!」 そう言ってキャンディーネは遥か上空の雲を綿あめに変える。 重くなった雲は落ちてきて、雲のなくなった空は晴れ渡った。 皆上着を脱いでいた。キャンディーネが雪を粉砂糖に変えて寒く無くなっていたからだ。 「はい、チョコレートです。ホットチョコもありますよ」 ヒトジティがチョコレートを配る。 今日はバレンタイン。 クリスマスの成功に気を良くしたヒトジティは、今度はサームイテツクにチョコレートを持ってきたのだ。 「ありがとうございます。これで民の心も潤います」 城に帰ると、サームイテツクの王女ユキンコが礼を言う。 「ふふ、困った時はお互いさま、です」 「しかし、困ったことが…」 「なにか?」 「国民が居なくなって、道を整備する人がいなくなってしまったのです。そのせいで商人も冬の間は滅多に来なくなって…」 「任せてください!私たちがなんとかします!」 そう言って、ヒトジティは魔法で国道の雪を吹き飛ばした。 「でも、肝心の商人さんが…」 「手配します!」 「おじいちゃんおばあちゃんばかりで皆の暮らしが大変で…」 「兵士たちに介護させましょう!」 「おい、ヒトジティ」 今日もサームイテツクの為に人働きしようと飛び立とうとしたヒトジティをゴミカスが呼び止める。 「お前、最近サームイテツクばっかり世話してないか?」 「妬いてるんですか、ミカちゃん?」 「馬鹿野郎。他の国にばかり目をやって、肝心の自分の国を気にしてないんじゃないかって話だ。兵士たちまで駆り出しやがって」 「そうですねえ…じゃあ、ミカちゃんも行きますか?」 「は?なんでそうなる…」 ゴミカスが言い切る前に、ヒトジティはゴミカスをお姫様抱っこして飛び立った。 「あれまあ、今日はこんなかわいい女の子が世話してくれるのかい」 「俺様は男だ!」 「こんな力仕事、大丈夫かい?」 「ふ、ふん!俺様にかかれば造作もない!」 「私達にも生きてればあなたくらいの子供がいたの」 「ふ、ふん!今日は僕…俺様がついててやる!」 しばらくすると、ヒトジティとゴミカスはすっかり国民の人気者になっていた。 「今日も楽しかったですね」 「ふん…悪くない!」 「ゴミカス様、ちょっとお話が…」 「ん?ガチクズか。なんだ?」 そう言ってゴミカスとガチクズが席を立つ。 しばらくして戻ってきたゴミカスは、こう言った。 「ヒトジティ。そ、その…次の指令を言い渡す」 「また…どこかを侵略するんですか?」 「サームイテツクを侵略しろ」 「え…何を…言ってるんですか…?」 「サームイテツクの人心は掌握した。血を流さなくても民の方から降伏するだろう」 「ユ、ユキンコちゃんは…」 「国を衰退させて、俺達ばかりに面倒ごとを押し付けて、奴が王座に就くより、俺達で支配した方がよほどいい」 「そうですね…ミカちゃんはそういう人でしたね…」 「いまさら何を…」 「しばらく、一人にしてください」 そう言って、ヒトジティは自室に籠もった。 「これで良かったのか?ガチクズ」 「ええ、我が君。貴方様は何も間違った事を言っていません。代替わりした後のあの国の求心力の無さ、少ない資源、どう考えても我々が支配した方が豊かになります。それに…あの女王の噂も」 「噂?」 「実は…」 「あの…昨日の話なんですが…」 翌朝、ヒトジティがゴミカスに話しかける。 「ああ、昨日の事なら急がなくていい。それより今日は調べたい事が出来た。ガチクズも一緒に行くぞ」 「はい。じゃあ、行きましょう」 「お待ちしておりました。いつも大変お世話になって…あら、そちらの方は?」 3人をユキンコが出迎える。 「はい、わたくしガチクズという者でして、トラレテーラ領の宰相をやらせてもらっております」 「まあ、宰相様まで。なにか、難しいお話でも?」 「ええ、わたくしどもの国はサームイテツクに支援をしてきました。聞けば、国民が戻ってきて国も潤い始めたところと。そこで、一方的に手伝う関係から、対等の『お友達』になろうというわけです」 「ええ、それで、あなた方の望みは何です?」 「魔消石をお願いします」 ガチクズが放った言葉に、ユキンコが固まる。 「…何のことでしょう?」 「サームイテツクの魔消石と言えば一昔前は有名だったからね。それに、貴方がたの事情も少しは知っているつもりです」 「…貴方も…所詮は魔族なんですね…!!」 ユキンコの周りに冷気が集まってくる。 「人質になっている家族と国民を助けると言ったら?」 「…なぜそれを?」 「言ったでしょう、少しは知っていると」 「私は何も聞いてないですけど」 ヒトジティが憮然とする。 「…わかりました。雪山への地図を渡します。それと、これを。魔消石の効果を打ち消します」 そう言って雪だるまのお守りを寄こすユキンコ。 「ああ、任せておけ」 「よ、よくわからないけど、私もお手伝いします!」 「はい。私は戦えないので、王女殿下とお待ちしていても?」 「いいぞ。足手まといだからな」 「いいですよ。足手まといですから」 「これは参った。ユキンコ様、慰めてください」 「えっ?えっ?」 イケメンにじゃれつかれ、ユキンコは赤面した。 「…奴らか」 ユキンコに教えてもらった雪山で、魔族達が魔消石を運んでいる。 それを尾行していく。 尾行していくと、大規模な加工工場があった。 「奴隷どもの働きはどうだ?」 「へえ。問題ないです」 親玉らしき魔族が工場の管理人らしき魔族と話している。 親玉は仕立ての良い服に身を包んでいる。どうやら魔貴族の様だ。 「どうしますか?ミカちゃん…ミカちゃん?」 ゴミカスの様子がおかしい。 あの目だ。 初めて会った時の、この世の全てを見下し、同時に暗い羨望の眼差しを湛えた、あの目だ。 ヒトジティが人生で初めて恐怖した目だ。 「大丈夫ですか?」 「ああ。ここは俺に任せてくれ」 そう言ってふらふらと魔貴族たちの前に姿を現すゴミカス。 「ん?なんだこのガキは」 「どけ!」 「○○〇〇・×××××という名前を知っているか」 「あん?その名前…お前、あの弱小貴族の生き残りか?敵でも取りに来たか?…おい!面倒な奴が来た!殺せ!!」 魔貴族の合図に、手下の魔像たちがやってくる。 ゴミカスの魔力糸に手繰り寄せられて、周りの工場の部品達が寄ってきて、組みあがっていく。 「ママと、パパの、仇いいいいいいい!!!!!」 「ひ、ひいいいいいい!!」 巨大な機械仕掛けのゴーレムが組みあがる。 それを見て、魔貴族が逃げ出す。 それを追いかけながら、ゴーレムは町を巻き込んで大きくなっていく。踏みつぶされた手下たちの残骸まで組み込まれている。 それは段々と形を変え、機械仕掛けのドラゴン、いや、これはゴミカスの怨念が形になった、恐ろしく醜悪な化け物だ。それが、魔貴族の根城に迫っていく。 ゴーレムは根城の壁をバリバリと破り、魔貴族を追い詰めた。 「ゴキゲンな事をやってるじゃないか」 ゴミカスが嘲った口調で言う。 「そ、そうだろう?お前もやってみるか?」 「いいよ。おもちゃなら、目の前にある」 そう言って、ゴーレムの腕で魔貴族を掴む。 「ま、待ってくれ!確かに私たちは君の両親を殺した!しかし君は見逃しただろう!むしろ感謝するべきだ!だから君もここの連中を皆殺しにする代わりに、私を見逃してくれ!!」 ゴミカスはコイツが何を言ってるのかわからなかった。謝るどころか、感謝しろ?こいつは頭がおかしい。生きていていい者ではない。 ゴミカスはゴーレムの一部を組み替え、即席の拷問機を作り、それに魔貴族を放り込んだ。 「ミカちゃん、ダメです!!」 それを助けようと、ヒトジティが飛び込んで巻き込まれる。 「ヒトジティ!!」 慌てて拷問機を止める。 頑丈なヒトジティは軽傷で済んでいるようだ。むしろ部品の方が歪んでいる。 「あ…がが…」 魔貴族は中途半端に拷問機の中に挟まって、余計に苦しそうだった。 「ヒトジティ!お前なんで…」 「ミカちゃんが、苦しそうだったから。あの人を殺したらもっと苦しくなりそうだったから…」 「馬鹿野郎。余計なお世話だよ…俺様を誰だと思っている。屑魔王ゴミカスだぞ。お前よりも俺様の方が立場が上なんだぞ」 そう言ってゴミカスは泣いた。 ヒトジティがそれをぎゅっと抱きしめた。 「ありがとうございます。こんなに傷だらけになって…回復魔法をかけますね」 なぜ傷だらけなのかはヒトジティは言わなかった。 「これで母上の封印も解けます。兄も帰ってきてくれればいいのですが…」 「お役に立てれば幸いです」 「感謝のしるしに、この魔消石の装備とその雪だるまのお守りを差し上げます。すべて装備すれば、相手の魔法だけを一方的に打ち消すことができます」 「いえ、私達は…」 「では、これを今回の報酬としていただくことにしましょう。これからも良い『お取引』が出来ることを願っていますよ」 断ろうとしたヒトジティに、ガチクズが割って入る。 「ありがとうございました魔王様!あなたの旅路に幸運を!ささやかながらこの国の…私の感謝の気持ちをあなたに!」 帰りの馬車で、ゴミカスはヒトジティの方をチラチラ見ながら、話しかけるのを見計らっているようだった。 「そういえば、お二人にはあげてませんでしたね」 沈黙を破ったのはヒトジティだ。 「はい、ちょっと遅れたけどチョコレートです」 そう言って、ガチクズとゴミカスにチョコレートを寄こす。 「おお、これはこれは。お茶を淹れましょうか」 そう言いながら茶の用意をしようとしたガチクズだが、 「いや、俺様が用意しよう」 とゴミカスが茶を淹れた。 ゴミカスの淹れた茶はあまりいい出来とは言えなかった。 「すまない、あまりうまくできなかった」 と言うゴミカスに対して、 「おいしいですよ」 と言うヒトジティ。 「私のチョコレートも、あまりいい出来ではありませんでしたね。野生の物を使うべきでした」 と言うヒトジティに、 「いいや、これはどのチョコレートよりも美味い!」 とゴミカスが言う。 「ふふ、ホワイトデー、期待してますよ?」 と、ヒトジティは笑った。 城に帰った後に、ゴミカスはガチクズに相談した。 「なあ、サームイテツクは、侵略した方がいいのか?」 「さて…女王ユキサキも復活しますし、状況が変わりました。気を逃してしまいましたね。失敗、失敗」 「そ、そうだな、失敗だな!俺様は寛大だからな、部下の失敗は多めに見るぞ!」 「しかし、覚えておいてくださいね。この国も、この国が侵略した土地も、いずれは貴方の物にするという事を。それがあなたの為なのですから、我が君」 そう言って、ガチクズは去って行った。 「俺様は、俺様に優しい奴が好きだ。そいつの為に何かをしてやりたい」 誰も居なくなった城で、ゴミカスはひとり呟いた。 「ヒトジティは俺様に優しくしてくれる。国民も、マヒアドも、ユキンコも俺様と仲良くしてくれる」 やがてその場にうずくまった。 「そして、そのきっかけを与えてくれたのはガチクズだ」 「俺様に優しい人達が、俺様のせいで戦いそうになったらどうすればいい…?俺様は…僕は…どうしたらいいんだろう…」 答えの帰ってこない自問自答を繰り返して、ヒトジティがやってくるまで、その場にうずくまっていた。 (今回は、ゴミカスの心に傷をつけただけでもよしとするか…全くヒトジティもゴミカスも、力だけの大馬鹿者だ) ガチクズはその様子を見て愉悦していた。