男は困惑していた。 「どこだここは…?」  先程までは何の変哲もない山道を歩いていたはず、それが今はどうだ?  周囲を見渡すと、そこは辺り一面、真っ赤な花を咲かせた椿の樹が生い茂っていた。  その時、男の声が聞こえた。 「美しい光景だな、人間の兵よ」 「誰だ!?」  男は素早く剣を抜き構え、声の主に対峙する。  その声の主はローブのような衣装を身に包んだ人間のような外見をしていたが、頭は人間ではなく異形の頭蓋骨のような姿をしており、なにより禍々しく輝く瞳に、男は寒気を覚えた。  歴戦の兵士である男の感が訴える。"こいつはやばいと"。 「知っているか?椿の持つ意味を」 「知るか!」  男は魔物に向かって跳躍する。並みの魔物なら容易く両断したであろう彼の斬撃は、椿の花を落としただけだった。 「花言葉の他にも異名を椿は持っている」 【いくたびか わが君が世に あらむため】  突然歌が聞こえた。男は辺りを見渡すが、いくら凝視しようとも、魔物の他にあるのは椿の樹のみ。 【ひかげのどけき 玉椿かな】  男の顔が青ざめた。“辺り一面に広がる椿“が歌を歌っていた。  周囲の椿から次々と花が落ちていく。 「【首切り花】だ」 【わが門の 片山椿まこと汝 わが手触れなな 土に落ちもかも】  足元に転がった椿の花が歌を歌っている。いつの間にか男は、歌を歌う椿に周囲を囲まれていることに気づく。 【山ばとの 雨よぶ声に さそはれて】 「ひいっ」  ゾクッと男は寒気を覚えた。雄たけびを上げながらもう一度男は魔物に斬りかかるが、今度も落ちたのは椿の花のみ。 【庭に折々 散る椿かな】 「もう一つ問おう。お前の体はどうなっている?」 「な、なにを」  男は剣を握る己の手を見た。そこには【茶色の木の枝のような己の手】があった。 「綺麗な椿ではないか」  男は悲鳴をあげようとして、声を出せなかった。剣を放り投げ、一心不乱に己の顔を掻きむしる。すると自分の体からがあった場所から、椿の花が一輪舞い落ちた。  男は項垂れる。なぜか、首がとても重い。  剣を手に魔物が近寄ってきて、【花を愛でるように】男の頭を撫でた。  落とした剣に己の顔が映っている。そこにあったのは、人の顔の大きさの、椿の花だった。 「君の死に場所はここだ」  椿の花がぽとりと落ちた。 「礼を言おう幻惑のリオよ。お陰で楽に倒せた」 「礼には及びません"終末を告げるもの"。いい気分転換になりました」