夢を見た。それはとても懐かしい夢だった。 目が覚めてから思い返すと懐かしかったのは昔の自分が出ていたからであって、その中では自分が知っている人が知らない姿で、その頃ではありえないような取り合わせで旅をしていた。 まぁ夢なんてものは大体そんなもんだろう…。 *  *  *  *  * その夢の始まりはこうだ。まだ僕が旅に出る前の11歳の頃、野外学習の時に魔獣に襲われた。 命の危機を感じた瞬間、頭の中に響く声に従い手を前に差し出すとその掌からエネルギーの塊が放たれる。そのエネルギー弾のアシストにより魔獣は倒された。 そして安堵した瞬間、僕の目の前に現れたのは小さな黒い竜であった…。 「とまぁ、こんな感じのさわりだったんですよ…」 ライトはミレーンに昨夜見た奇妙な夢の話をしている。 「それは単に過去の記憶を思い返しただけじゃないのか?」 ミレーンは特に気にも留めず淡々と返す。 「いや、がーすけとの出会いなんてそんなドラマチックじゃなかったですよ。朝起きたら何かいる?!って感じでしたし」 「で、変になって行くのはここからなんですよね…」 *  *  *  *  * がーすけと名付けた黒い竜との日々が始まる。夢の中のがーすけは現実のがーすけと違い実体はないけど他の人にも姿は見える存在。 家の中ではこっそり飼っていたので外に出ると誰もいない場所でノビノビと遊んだ。だがそれがまずかったようだ…。 ある日がーすけと夕暮れまで遊んで帰ろうとした時、見知らぬ何者かに拉致されそうになった。 必死で抵抗するも大人の力には勝てず、危うく連れ去られそうになったところを救ってくれたのが、野外学習の時に魔獣を退治してくれたゴウさんであった。 「ゴウが出てくるのか。これは意外な人選だな…」 「でも邪竜教団とかセレナさんの件もあったから、竜絡みだったらありえなくはないチョイスだと思いますよ」 ゴウさんは衛兵に誘拐犯を突き出す。尋問によると犯人は竜を排斥するという過激派団体の一員である。 がーすけの封印されていたオーブを探す過程にて竜と遊ぶ子供がいるという情報を聞きつけ、僕とがーすけの両方を始末するために拉致しようとしていたのだった。 「厄介な連中に狙われちまったな…」 ゴウさんはそう言うと旧知の仲であるこの国の王様ユーリン王に相談した。 ユーリン王も封印されたオーブは自身が関わった案件でもあり、自国民である少年が得体のしれない組織に狙われることに強い遺憾の意を示した。 かといって四六時中護衛を付き纏わさせるわけにもいかず、対処に苦慮していた時にゴウさんから提案が出た。 それは過激派組織の壊滅もしくはほとぼりが冷めるまでの間この国を離れるということであった。そしてその護衛役を自分がやるとも。 「竜については自分も似たような事があったからな。それにこの少年には俺みたいな目には逢わせたくない…」 ゴウさんはそう言うとどこか遠い目をしていた。 こうして僕はレンハートを離れることになった。両親はとても心配をしていたが、王様直々の提案であり事情が事情だけに渋々ながらも納得はしてくれた。 行き先はドラグランド。ユーリン王曰く、竜に一番詳しいのは竜だから竜の治めるドラグランドに行けばいいな!ということであった。 ドラグランドは天空に浮かぶ幻の国。そもそもどこにあるのかも分からない国に行けと言われても…と先行きを不安にしていると、 「いいか少年!決められた道を進むなんて面白くないぜ。どこにあるかわからないのなら、それを見つけるのが冒険の醍醐味ってやつだ!」と王様がサムズアップしながらドヤ顔で言う。勇者特有のポジティブシンキングに多少の不安を感じた。 「実に父上が言いそうなことだ。勇者時代もこうやって仲間を振り回していたらしいからな。結果的にそれが最適のルートになったこともあるそうだが…」 「オイ、お前ら何の話してるんだ?」 自分たちの前方で何やらくっちゃべっている二人にラーバルが問いかける。 「大した話じゃないよ昨日僕が見た夢の話。そういえばラーバルくんも出てくるよ」 *  *  *  *  * 旅を開始して初日、王都を抜けた郊外で早速事件は起きた。 「そこのお前…。王から何か命ぜられて旅をしているらしいな。ひょっとして新たな勇者か? ならば俺と勝負しろ」 赤毛の少年が剣を抜く。ゴウが仲裁に入ろうとしたが、赤毛の少年の剣捌きを見てそれをやめる。 「おいライト、こいつはお前が倒せ。がーすけの力を使っても構わん」 「でも僕武器とか持ってないよ。あっち持ってるの真剣じゃん!」 赤毛の少年が振り回してくる剣を避けながらライトは言う。 へっぴり腰の太刀筋と必死に逃げる少年の姿は、まるでチャンバラごっこをしている子供のようにしか見えなかった。 「いいかライト。これからお前が行く旅路には悪党や盗賊といった人間だけでなく、魔獣や魔王軍の兵士なんてのがうようよいる。こんな弱っちいの一人倒せないようでは明日には死体に変わっているぞ」 確かに言われてみればそうであるが、真剣を持った相手に立ち向かうのには勇気がいる。 なんとかに刃物という言葉もあるぐらいだし。 「いくよ!がーすけ力を貸してくれ!」 ライトは右手の掌にエネルギーを溜める。そして赤毛の少年が剣を振り切った瞬間の隙を突いてそれを投げつける。 エネルギー弾は気持ちいいぐらいに直撃し、赤毛の少年は数メートル飛ばされそのまま失神した。 少年の様子をゴウが見る。どうやら伸びているだけで息はしっかりある。 「生きてはいるようだな。よし行くぞ!」 「大丈夫なの?あのまま放置しといて」 「あいつの方から襲って来たんだ。殺されないだけでも感謝しろだよ」 そう言われてみれば確かにそうか…。 翌日、僕らの前にあの赤毛の少年が再び現れて勝負を仕掛けて来た。返り討ちにした。 さらにその翌日、また彼が現れて僕に勝負を挑んできた。再度返り討ちにした。 こんなことが何度か続いた。よくよく考えると彼はずっと僕たちのことを追いかけてきてるのか…怖っ。 最終的には「俺はお前を倒すまでは国に帰らないからな!」と言って同行するようになった。 彼の名はラーバル、レンハート王国の第二王子であった。 無駄に地位のある傍迷惑な同行者にゴウさんは頭を悩ませたが、僕を強くするには同レベルで競い合える仲間がいた方が効果的だろうとして彼のPT入りを認めた。 ゴウさんからは剣と体術と魔法を習う。体術は僕、魔法はラーバルくんの方に適性があったようで、めきめきと成長をしているのは自分でも判るぐらいだ。 ちなみに剣の腕は互角。要するに二人ともセンスがないということであった(ラーバルくんは認めたがらない様子であるが…)。 「その感じマスグラに来た時のラーバルまんまじゃん!」 僕たちの話を聞いていたのか、ジーニャちゃんがツッコミを入れてくる。 「俺そこまでひどくなかったろ! でも俺の黒歴史なぞっているような描写は何で知ってるの?!って感じでビビったけどさ…」 「ラーバルくんもそんな時期があったんだ。何か嫌なことでもあったの?」 「厨二病と反抗期を拗らせた迷走期のようなもんだよ。ウチは色んな意味で特殊な家庭だからあれこれ嫌気が差したんで、ドロップアウトして放浪しながら闇堕ちアウトローみたいな感じを狙ってたんだ」 「ドロップアウトしたってことは学校中退したの?」 「いやちゃんと卒業したよ。だって嫌じゃん、履歴書に勇者学園中退って書くの」 「マジメかよ! やっぱお坊ちゃんにはドロップアウトなんて無理だよなー」 ジーニャちゃんがからかうように言うと、ラーバルくんと二人でにらみ合う。仲良いなコイツら…。 *  *  *  *  * 「仲間はその3人で終わりなのかい?」 僕の夢の話に興味が湧いて来たのかジーニャちゃんが食いついてくる。 「もう一人いるよ。ハナコ姉ちゃんっていうんだ!」 3人旅になってから三カ月ほど経った頃、ある村にかかる橋の上で仁王立ちになり通せんぼをする少女がいた。見るとそれは僕のよく知っている人だった。 「フッ…愚かな人間が性懲りもなく、また我が†冥府への門(ダークネスゲート)†を潜りにきたようだな」 「あっ、ハナコ姉ちゃんじゃん!何やってんだよ?!」 「えっ!ライトぉ?! 何でこんなとこにいるの? 私のことは†天逆の魔戦士アズライール†って呼べと言ったよね!」 「ごめんごめん。ハナ…いや†天逆の魔戦士アズライール†姉ちゃん」 「マジで!本当にハナコじゃん。そのアズ何とかって名前恥ずかしくないのか?!」 「ゲッ!ヘタレ王子! 何でライトと一緒にアンタまでいるのよ?!」 同郷3人の子供じみた会話にやれやれという感じでため息をついた後、ゴウさんはハナコ姉ちゃんに話しかける。 「君が何の理由でここを通さないかは分からないが、俺たちはこの先を急ぐ必要があるんだ。悪いけど通してもらえないか?」 「答えは否だ。この我がいる限り──此処は決して通しはせんぞ」 「そうか交渉は決裂か…。ライトたちには悪いがちょっと痛い目に遭ってもらうぞ」 ゴウさんは剣を抜いてハナコ姉ちゃんに疾風のように斬りかかる…。 斬り合いは互角に見えたが経験値に勝るゴウさんの方が優勢だ。 時折いいのが決まるもハナコ姉ちゃんは傷一つ負わない。その様子を見てゴウさんは訝しんだ。 「(やけに固いな。防御魔法の類か?でも詠唱している様子はないが。なるほど錬気術か…)」 「とっておきを見せてやるよ」 ゴウさんは剣を鞘に納め、拳に魔力を溜める。そして無手のままハナコ姉ちゃんに向かって歩みだす。 ゴウさんは大鎌の切り付けを紙一重で避ける。近づいてくる程にハナコ姉ちゃんに焦りが見える。 長物はリーチが長い分動きが大振りになり、近接戦では隙が多く生まれるからである。 ゴウさんがインファイトの距離になりボディブローを放とうとした瞬間、突然の乱入者が現れた…。 それは魔王軍の部隊であった。ハナコ姉ちゃんはこの橋の先に駐留する魔王軍と通行する村人や旅人が鉢合わせしないように通せんぼをしていたのだった。 「ハナいや†天逆の魔戦士アズライール†姉ちゃん。こんなことだったら最初から言ってくれれば良かったのに」 「違うわ!愚かな人間どもにこの橋は過ぎた代物よ。だから通さないというだけのこと!」 「ちょっと何言ってるかよく分からないが、まぁコイツらしいと言えばコイツらしいな」 橋の上で乱戦になる。僕もラーバルくんもそれなりにレベルは上がっており、魔王軍の雑魚ぐらいなら倒せるようになった。 ハナコ姉ちゃんはそれを見て「少しはやるようになったじゃんライト」と軽く笑みを浮かべていた。 魔王軍の部隊長が出てくる。鋼鉄のような外殻に身を包んだ巨漢である。 「†暗黒の輪舞曲†!!」 ハナコ姉ちゃんはそう叫ぶと大鎌を振り下ろすが外殻にはかすり傷ぐらいの痕しか残らない。 攻めあぐねているハナコ姉ちゃんの元にゴウさんがやって来る。 「さっき言ってたとっておきをお前に見せてやるよ」 ゴウさんは拳に魔力を先ほどとは比較にならないほど濃密に込める。 そして敵部隊長へおもむろに近づくと、どてっ腹に強烈なボディブローを放つ。だが腹の外殻には傷も凹みもついていない…。 「心配するなこれで終わりだ」 ゴウさんがそう言うと敵部隊長はまるで高圧の電流でも食らったかのように痙攣し、全身の穴と言う穴から血を吹き出し絶命した。 『魔浸拳』 ゴウさんの必殺技の一つ。拳に込めた魔力を武術の浸透勁の要領で打ち込み、体内に浸透させた魔力を時間差でスパークさせる。 スパークさせた魔力は強大な衝撃波を生み体内はズタズタになり、敵の体を血とミンチが詰まった皮袋へ換えるのだ。 「固てぇ奴は中からぶち壊せばいいんだよ」 「アンタちょっと!アレを私にやろうとしてたの?!」 ハナコ姉ちゃんがキレ気味に問う。そりゃまぁ当然だよね…。 「安心しろちゃんと人間用に魔力は調節してある。せいぜい小便漏らして白目剥いて失神するだけだ」 ゴウさんの発言に、ハナコ姉ちゃんは自分がそうなったかもしれない恥ずかしい姿を想像して真っ赤になっていた…。 橋の向こうは無事通行できるようなったので僕たちは向こう岸へと向かう。ハナコ姉ちゃんもなぜか付いてくる。 そしてハナコ姉ちゃんはそのままPTの一員となった…。 *  *  *  *  * 「そんな感じでメンバーが揃ったんだけど、その辺りからゴウさんの様子がおかしくなって…」 「ハナコ姉ちゃんを軸にして僕かラーバルくんのどっちかをやたら二人きりにさせようとするんだ…。後、会話にやたら恋バナが多くなるし…」 「うわぁ…ハナコとは勘弁だな…。俺その世界にいなくて良かった…」 「そのハナコってどんな子なの? とりあえず強いってのは判ったけど」 唯一面識のないジーニャが興味深げに質問する。 ラーバルが嫌な思い出を回想するかのように答える。 「とにかくクソ強いとしか言いようがない。あいつは俺と勇者学園で同学年だったんだけど、親が元勇者PTのメンバーでアイツ自身も小学生の頃に大人の冒険者をボコボコにしてたなんて噂が立つぐらいの有名人で…」 「それヤバいヤンキーがされるような逸話じゃん…」 ジーニャが信じられないものを見るような目でラーバルを見る。 「でも正義感強いやつだから弱い者イジメはしないし逆にイジメっ子をシメてたのはいいんだが、授業では戦士コースの先生たちを全員ボコボコにしてたから、とにかく天狗にはなってたな…」 「最終的に学園長の魔学王のとこに、こんなとこもう用はねぇ卒業させろ!とカチコミに行ってさ…」 「えっ!その学園長先生大丈夫だったの?」 ハナコの斜め上の行動にジーニャは驚く。 「逆に返り討ちに遭ってえげつない魔法食らって、手足がありえない角度に曲げられて医務室送りになってた…」 「そんなこと何回も繰り返している内に戦士コースの先生たちも魔学王に勘弁してくれと頼み込んだから、世間の波に揉まれた方が本人のためになるとかで飛び級で卒業することになったんだ。でもあれは卒業と言う名の退学だってみんな言ってたよ…」 「(今だったら勇者コース送りになるんだろうな…。先生たちも失敗から学んでいるんだね…)」 「とにかくハナコの奴と比べると、ジーニャなんて深窓の令嬢ぐらいおしとやかなもんだよ」 「そんな比較対象なくても元からおしとやかなんですけど! それにしてもその子蛮族か何かなの?!」 「でも今は落ち着いて仕事もちゃんとやっているから…」 ジーニャちゃんの悪い意味での過大評価が気なったので、僕は多少のフォローを入れた。 「そういえばハナコ姉ちゃん今はレンハートのお城でメイドやってるんだよ。ラーバルくん王様になったら顎でコキ使えるよ。なってみたらいいじゃん」 「ちょっといいかなぁ…って考えたけど、俺が王様だとアイツ絶対殴ってきそうだからよすわ…」 「ですよねぇ~」 僕たちがハナコトークで盛り上がっていた時、しばらく口を開いてなかったミレーンさんが発言をした。 *  *  *  *  * 「ライト…一つ気になることがあったんだが…」 「なっ、何ですか…」 「その夢に俺が全然出てこないんだが!」 「そういえばそうですね。その世界ではすでに死んでます」 「そんなことはないだろ! お前たちのピンチに駆けつける謎のお助けキャラとかいるはずだろ! 大体何でゴウの奴がそんないいポジションなんだ!」 「そんなの僕の夢なんだから僕の勝手じゃないですか。ミレーンさんはワンカットも出てきません!ナレ死で終わりです!」 ナレ死で終わりという言葉を聞いて、ラーバルくんが頭のネジが吹っ飛んだのでは?!というぐらい爆笑していた。 ジーニャちゃんはあんな狂ったように笑うラーバルを初めて見たとしみじみ語っていた。