*  *  *  *  * 帝都内にある皇城正門、そこに覆面姿の大男と白髪の少年が門兵に話しかける。 「参謀のクァン=ヴェイクロードに面会したい。レンハートマンホーリーナイトとホワイトライトが会いに来たと彼に告げろ」 「あっお前ら例の?!」 帝都を騒がせたお尋ね者の登場に門兵たちは慌てふためく。レンハートマンホーリーナイトいやミレーンとライトの二人は瞬く間に彼らを制圧する。 力づくで正門をこじ開けると二人は堂々と中へと進んで行った。 異変を察した城兵たちが集まってくる。ミレーンとライトは応戦体制に移行する。 自分たちを取り押さえようとはしているが、彼らは命令に忠実なだけの善意の第三者である。殺すどころかできれば傷一つ負わせたくはない。 ミレーンはいつものように両手足を刃と化するのではなく、魔力をあくまで身体強化のみに回す。 ライトもかつては異形化した竜の右腕を前面に出したラフファイトがスタイルであったが、現在の体は全てがーすけの物であり異形化せずとも竜の力を全て引き出すことができる。 なのでパラーメーターを瞬発力・動体視力・反射神経に全振りして超高速で動きつつ隙を見つけては顎先、頚椎、鳩尾などの急所をクリティカルで当て失神させるスタイルに変更している。 彼の人を傷つけたくないという気持ちがもたらす究極の手加減と言えよう。 彼らが動くと周囲に倒れこむ人の痕跡が生まれる。中庭に入るとすでに待ち構えていたのか100名以上の兵士たちに取り囲まれる。 その中にはラーバルやジーニャそしてイワンといった知っている顔も見える。 「すっかり囲まれちゃいましたね。飛んで逃げますか?」 ライトがミレーンに打開策の相談をする。 「いや飛べば逆に上空では無防備になる。この人数で一斉射撃されたら俺もお前も蜂の巣だ。いったいどうしたものか…」 ミレーンの嘆きに応えるように、ライトの瞳が金色へと変わり濃密なオーラが周囲に立ち込める。 「まさかがーすけか…?」 『話は全部聞かせてもらった。ここは我に任せてもらいたい。こやつらは我が友を愚弄した者の一味であろう。我にも手を出させろ!』 「誰も傷つけないで何とかできるか? できることならアイツ(ラーバル)だけは外してもらいたい。奴とは直接話がしたいのでな…」 『よかろう善処しよう。もっとも手を出す必要すらないがな!』 グワッ!とライトいやがーすけが叫ぶと、全力の殺気を込めて周囲に可視化できるぐらいの高出力のオーラが放出される。 それを食らった城兵たちは戦意を喪失し膝から崩れ落ちる者、腰砕けになる者、失神する者で周囲は一掃された。 伝説級のドラゴンが放つ殺意を込めた本気の一喝。 いかに彼らが訓練された…むしろ訓練によって気配や殺気へのアンテナを張り巡らしている彼らだからこそ効果的であろう全体攻撃である。 かく言う俺も絶対大丈夫だと分かっていながらも食い殺されるんではないかと鳥肌と冷や汗が終始止まらなかった。 『これで良かろう。もしこれに耐えうる者がいたとしたらそれは相当肝の据わった者か、もしくはよほどの鈍感者のどちらかであるな…』 ライトいやがーすけの視線の先に一人の男が立っていた、イワンである。彼は横で気絶しているジーニャの安否を確かめようとしていた。 『あれは恐らく後者かの…』 がーすけがもう一撃食らわせようとしたところ脳内でライト本人が語り掛ける。 「(がーすけ変わってくれ。手は出さないでくれ、彼は僕の力だけで倒す。友達だから…)」 オーラは収まり瞳が元の色へと戻った。 場面は変わりいつもの川沿いの公園。約束の時間にやって来ないライトにナタリアは不安を感じていた。 自分が拒絶したことで彼から愛想を尽かされてしまったのか、それとも自分たちの計画がバレてしまったのかと。 そんな時、通行人の会話から皇城で何か騒ぎが起きているという話を聞く。不安を察してナタリアは皇城へと走り出していた。 ライトがイワンへと近づいてくる。イワンはファイティングポーズを構える。 イワンの考えはこうだ。ライトはとても素早く動く、しかし自分はそれに対応はできない。 ならば急所をかばいつつも愚直に耐えながら、出してきた手足を捉えてグランドに持ち込む。しかしライトの動きは意外であった。 ライトはイワンの眼前まで来ると首元に手をかけロックアップの状態に持ち込む。イワンもすぐさま応戦する。 巨体のイワンに対し細身のライト。勝負は明白かと思われたが予想外に拮抗している。 長い旅と戦いの中で鍛えられた実戦用の筋肉にはサイズ差を補うだけのパワーが秘められていた。 しかし膠着状態になると元々の体格差が効き始める。 イワンが徐々に上に回り上体で押しつぶそうとしている。ライトも踏ん張るが状況はかなり不利だ…。 『(ああもうくどい。さっさと終わらせろ)』 ライトの脳内でがーすけがそう言うと、イワンの巨体はライトの肩の上に逆向けで持ち上げられていた。所謂ブレーンバスターのような状態である。 「(がーすけ…手出すなって言ったじゃん…。仕方ない一気に決めるか!)」 その状態のままライトは飛び上がると、彼の両の手でイワンの両足を股裂きのように開いて掴みそのまま着地する。 「レンハートバスター!」 「ゲェーーーーッ!」 あれはレンハート王家秘伝・48の魔王殺しの一つレンハートバスター。ライトの奴めいつの間に…。 友人との対決に勝利したもののライトの顔は浮かない様子であった。 「試合で勝ったけど勝負に負けたってのはこういう気分なんだろうなぁ…」 ライトは失神する友の顔を見ながらため息をついた。 *  *  *  *  * 「これでようやくサシで話ができるな…」 ラーバル向かって俺は話しかける。 「いったい何なんだよお前は!」 不安でいらだつラーバル。その目の前で俺は覆面に手をかけた…。 俺は覆面を脱ぎ正体を晒す。 ラーバルの表情は驚愕から動揺そして憤怒へと移り変わって行く。 「テメェ…生きていやがったのか…」 「久しいな…ラーバル」 「ふざけんな!何で生きていやがるんだよ! 生きてたのなら何で帰ってこなかったんだよ! 逃げ回ってるのなら何で今さら俺の前に面出してきやがるんだよ!」 「アンタが死んだという話を聞いて両親が!姉妹弟みんながどれだけ悲しんだと思ってんだよ! アンタを探すために国中の人間がどんだけ動いたと思ってんだよ! こっちの気苦労も知らないで今までほっつき回ってたのかよ! 自分勝手にも程があるだろこのクソ長男が!」 確かに俺はそれだけのことを言われても仕方ないことは理解している。 だがこちらにも事情というものがある。ゆえにこれだけは言わせてもらうぞ。 「黙らんかー!ラーバル! 男というものはあまりしゃべるものではない!! 言いたいことがあるのなら拳で語れ!」 「あぁわかったよ…。アンタのことは今度こそボコボコにしてやるよ。そんで簀巻きにして国に送り返してやる!」 やはり俺たち兄弟はこうなる運命だったのだろう…。 俺はいつものように両手両足に魔力を込める。ラーバルはまともにやり合うのを警戒して距離を取りながら機会を見計らう。 先手を打ったのはラーバルの方であった。闇魔法で作り出した短剣を四方八方様々な角度から打ち出してくる。 クソこれでは奴の方に近づけない…。俺は徐々に中庭の片隅へと追いやられる。 「どうやら逃げ場が無くなったようだな。これで一気に決めてやる深淵の超重量(グラビティ)!」 俺の全身に闇魔法由来の超重力がのしかかる。完全に釘付けにされているようだ。 ラーバルの奴はそれを展開しつつ無数の闇魔法の短剣を射出する準備を整えた。 これだけの魔法を同時展開するだけあって体にも相当負担がかかっている様子だ。奴の鼻や目から血が少しづつ垂れてきている…。 俺は全身の気力を魔力を闘志を全て搔き立てる!  すると湧いてきた力によって重力捕縛が振り切れる。 「勇者のクソ力!」 勇者のクソ力。 リミッターの解除・潜在能力の解放・神から与えられたスキル・みんなの願いが一つになって…、原理は様々ではあるがかつて勇者と呼ばれた者がピンチの時に見せた桁違いのパワーの覚醒を人はこう呼んでいる。 ラーバルが無数の短剣を放った瞬間俺は超重力を振り切り飛び上がる。何本か刺さったがそんなことは気にしない。 そのまま三角飛びの要領で壁面を蹴り、ラーバルに向かって飛び蹴りを放つ。 「クソっ…やっぱこの程度じゃ捕まえられなかったか…。だがな…もう詰めが甘いとは言わせねぇぞ!」 ラーバルがそうつぶやくと彼は床に手を突き、魔法陣が展開される。どうやらこれが奴の奥の手のようであった。 「我が身に宿る昏き闇よ、我に仇なす愚者を撃ち払わん……灼け、漆黒の焦閃!」 魔法陣から黒い爆炎が立ち上る。 このままじゃ焼け死ぬ。そう思った俺は全身をきりもみ回転させ炎を振り払うことに専念した。爆炎の壁を抜け着地する、どうやらまだ息はあったようだ…。 黒い短剣が何本か刺さり、全身は熱傷でひどい有様だ…。 「聖魔法『ホーリーヒールフル』!」 俺は残りの魔力を集めて全回復させる。これで俺の魔力はゼロになったわけだが…。 「俺は今のホーリーヒールで魔力は枯渇したが、お前もあれだけの魔法を連発したんだ。おそらくお前も魔力はもうないだろう…。これでようやく拳で語り合うことができるな…」 ラーバルは腰の剣を抜いて俺に斬りつけてくるが、お粗末な剣捌きである。お前はやはり魔法スキルを磨いた方がいい…。 ラーバルの剣が横なぎに振ったのを見計らって俺は高速タックルで奴を捉え、そして高く放り投げる。 「いくぞラーバル!レンハート王家の奥深さをお前自身で体感しろ! レンハート王家三大奥義!レンハートスパーク!」 「ゲェーーーーーーッ!」 安心しろ峰打ちだ…。 *  *  *  *  * 地面の上でのたうち回りながらラーバルが洩らす。 「くそっ…そんなに強いんだったら何で帰らないんだよ…。アンタだったら父上の後を継いでも大丈夫だろ…」 「アンタがいないせいでメロ姉がどんだけ苦労背負わされているのか知ってるのか! ダメな俺にどんだけ過度の期待が負わされてるのか知ってるのかよ!なぁ!」 そんなことは重々承知だ。だがこちらにも理由はある。俺は焼け焦げた上着を破り捨て胸に生えている輝石をラーバルに見せる。がーすけによって人間に戻った後も唯一残る忌器の痕跡だ。 「ラーバル、お前は腐腕の魔人のことを覚えているか?」 ラーバルはもちろんと答えた。 俺の死後突然モトマトー内に現れ、街を破壊し蹂躙した怪物。居合わせたメロが危うく手にかけられるところを父上が退散させた怪物。 ラーバルにとっては初めて見る規格外の魔物であり、家族を失うかもしれないというトラウマを植え付けた怪物でもある。 「あの腐腕の魔人は俺だ…」 俺はラーバルに全てを語った。 カンラーク事件の後、この身に封じられた忌器により腐腕の魔人と化しモトマトーを襲ったこと。 父上によって瘴気が払われた後も魔族のような姿のせいで帰れなかったということ。 ライトとの旅で人間の姿を取り戻したということ。 忌器がまだ残るせいでいつまた腐腕の魔人に戻るかもしれないということ。 そして全てを解決するために旅を続けているということを…。 「わかれ!わかってくれラーバル!」 全てを知り行き場のない感情はラーバルを慟哭させた…。 *  *  *  *  * 「いったいこれはどういうことだ…」 騒ぎを聞きつけ皇城の主であるレストロイカ帝がやってくる。傍らには執事長兼ボディガードのヴィクトールもいる。 俺は跪ずき陛下に挨拶をする 「レス兄いや陛下、お久しゅうございます。我はコージン、今はコージン=ミレーンと名乗っております…」 「幼少のみぎり以来だな。話はヴィクトールから聞いている。お前も大分好き勝手に生きているようだな。羨ましいよ…」 俺と陛下との会話を聞いてラーバルがあんぐりとした顔をしている。 「そうか…お前は知らなかったな。コージンとメロとは私が少年の頃に面識があるのだよ。あの頃は二人ともレス兄レス兄とよく懐いてくれたもんだ…」 「とはいえこれだけの騒ぎを起こしてくれたのだから、それ相応の理由と言うものがあるのだろうなコージン?」 「はい、実は…」 俺は陛下に今までの事情を余すところなく語った。 陛下は呆れた顔をしてヴェイクロードを呼べとヴィクトールに申し付けた。 ヴェイクロードが青白い顔をしながら陛下の元に跪づく。完全に詰みといった表情だ。 「ヴェイクロード、お前がこの国を憂う気持ちは非常にありがたく思う。以前にも言ったが関係ない者やそれを望まぬ者を巻き込むのはやめよ。良いなヴェイクロード。」 うなだれるヴェイクロードの元にライトがやってくる。 「こんな僕を買ってくれてありがとうございます。でも僕にはやらなければいけないことがあるんで今回はお断りさせてもらいます。すみません」 君主の前でストレートなお断りの意思表示。ヴェイクロードの策もこれには対抗のしようもなかった。 「とはいえ皇城にてこれだけの騒ぎを起こしたのだ。どう譲ってもこれは許すわけにはいかん。コージン=ミレーンにホワイトライト。そなたらには速やかな国外退去を命ずる。とっとと出ていけ!」 「陛下の寛大なご処置感謝いたします…」 ミレーンが泣き崩れているラーバルに声をかける。 「ラーバルよ…。俺は確かにお前が言う通りの自分勝手な放蕩者だ。だがお前は違うだろ。国を継ぐ継がないは置いといても、お前にはもう背負わなければいけない人がすでにいるだろ。その人のためにもそろそろ行く道をはっきりした方がいいと思うぞ(意訳:抱けー!抱けー!)」 城を退去しようとする途中、ライトの視界に息を切らせたナタリアが映る。ナタリアはライトに謝罪しようとするも彼は手をかざしてそれを止める。 「謝らなくてもいいよ。君は自分の任務を全うしただけなんだから。でもいつか君が本当に誰かを愛せるようになる日が来るといいね…」 「あっ、そうそう。とりあえず君のことが本気で好きだという人がいるのは知ってるよ。意外と近くにいるかもしれないけどね」 ライトはイワンに向かってにやけながら言う。いつかの笑えない冗談のお返しであった。 皇城を出て行く二人の背を見ながら、ようやく落ち着いたラーバルが叫ぶ。 「バカヤロー!さっさと出て行きやがれ!もう二度とツラ見せんなよ!」 「何をしているお前も行くんだよラーバル。国外退去を命じたがあの者たちが素直に従うとは限らない。当然見届け人が必要であろう。それをお前がやるんだよ」 「え゛っ゛!!!!」 ラーバルのあんだけ驚いた顔は過去イチだった…と後にジーニャは語っていた。 怪文書:コージン=ミレーン&ifライト「ラバジニャと」に続く