【クリスマスイブ】 「聖女様からのクリスマスケーキの差入れだよー味わって食えお前らー」 マリアンが待機中のメンバーに差入れを持ってきた。 「感謝する」 まず、ボーリャックがケーキにかぶりついた。 「へっ、一時は魔王軍が負けて敗残者になった時はこんなもん食えると思わなかったな」 「なあバリスタ」と、ブライが話題を振る。 「……」 バリスタは無言でケーキを食べている。ボーリャックと目が合うとそっと目を伏せた。 「…いただきます」「…礼を言う」 審判の勇者イザベルとコージンもケーキに手を伸ばす。無言でケーキを食べる二人の脳裏に映るは自らが壊した、幸せだった頃のクリスマスか。 「ほうら、食べなナチアタ」「優しいなあ坊や」 ブラックライトがナチアタにケーキを持っていく。その光景をウラヴレイは目を細めて眺めている。 全員がケーキを食べ終わったのを見計らったボーリャックは立ち上がってメンバーに指示を出す。 「全員、食べ終わったな。では俺たちはこれからサンク・マスグラード帝国に入国する。撃破対象はかの国に侵略するルタルタ族だ」 ボーリャック率いる傭兵部隊が無言で進行を再開する。自分たちに相応しい死に場所を求めて。 【クリスマス】 「昨日マリアンがケーキ配ったが」と徐にボーリャックが口を開いた。 「知ってるか?クリスマスは今日が本番なんだ。24日は本来前夜祭だ」 イザベルとバリスタが「本当!?」と同時に身を乗り出し、互いの存在に気づき、プイっと顔を背けた。 「まあお前らが知らないのは無理もない」と、難しい顔をしていたコージンが宙を指さす。 「ナチアタも忘れてたからな。聖騎士なのに」 彼の指摘にナチアタは寝たふりをする。 「あ~、お酒が尽きた…ライトお酒~」「ま、マリアンさんウラヴレイさんが」 「ほっとけ、牛女にはいい薬だ」 へたり込むウラヴレイにオロオロしたブラックライトがマリアンに助けを求めるが、マリアンはバッサリ切り捨てる。 その時、見張り担当のブライが大声を張り上げ、一同に緊張が走る。 「おい野郎共急襲だ!……まじかよ…」 急速度で接近する部隊を把握したブライが絶句する。 「やばい!『死にたがりを連れ戻し隊』だ!敵指揮官クリスト!メンバーはハナコ、シロ、スパーデ、イザベラ、ツジカイ、イザベル(聖)、ヨシタカ、ギル!」 「総員、撤退!」 ボーリャックが即座に断を下すと、傭兵部隊は慌てふためいて逃げていった。 【ツローの日】 とある川のほとりで、一人の偉丈夫が釣りをしていた。道行く人々はその男に目を奪われぬ者はいなかった。なぜならその男は東洋の国と思える衣服に身を包み、顔は棗のように赤く、胸元までありそうな長髯をしており、何より、彼の持つ釣り竿には餌がついてなかった。 男は飽きもせず餌のない釣り針を睨み、時折自身の長髭をしごく以外は微動だにしなかった。 周囲の人は皆男の奇行を笑った。一人の少年を除いては。 「そこの偉丈夫よ」 少年の呼びかけに、目線は釣り針から反らさず男は「何用か」と答えた。 「その針で釣ることはできるか」 男は「左様」と頷いた。 「何を釣るのか」と、少年は尋ねた。 「人」と男は即答した。 少年は驚いた様子を見せたが、直ぐに平静に戻り「どんな人か」と問うた。 「魔王軍が荒れ狂う乱世を終えることができる人」 男の答えに少年は顔を引き締めると、彼の傍に「貴方に頼みがある」と駆け寄った。 「僕を見てくれ!僕は貴方の釣り針に適う英傑か!」 男はその時初めて釣り竿を置き、少年を見据えると、「貴殿のようなお方を待っておりました」と頭を下げた。 これが後の勇者エクレールと、彼の腹心、関超の出会いだった。 【寒天発祥の日】 ベンケイに手を出すよう言われ、?マークを浮かべながらも言われるままにしたジュダは、彼から渡された5つの菓子に思わず声を挙げた。 「これ、寒天や!」 「うむ、僅かばかりだが入手できたのでお裾分けでござる」 厚く礼を言いながら包みを解き、寒天を口に入れたジュダは懐かしき甘味と食感に頬を緩める。 「はぁぁぁ…美味しいわぁ…」 「うむ、懐かしき故郷の味でござるな」 寒天を咀嚼しながらジュダはコトにいたころを回想する。 かつては寒天なんか大したお菓子だとは思ってなかった。古臭い、言ってはなんだがお婆ちゃんっぽいお菓子だなと思ってた。 だが、異国の地で冒険者として久方ぶりに食べたこの感触は何だろう。思わず涙腺が緩むのをジュダは感じた。 「すんまへん。あまりの美味しさに」 「うむ、何とも懐かしき故郷の味、でござるな」 明後日の方を眺めながらベンケイは頷く。また一つ寒天を口にしたジュダは厚く礼を言うと、残り三つを大切に懐にしまう。 「残りは仲間にあげることにするわ。うちの故郷の菓子やって」 「…ふむ。いい顔でござるな。今の仲間はそれほど良き人たちでござるか」 「ええ!心から信じあえる仲間たちや!」 間に挟まりて~という言葉がある。通常は百合、または女同士の友人関係の間に挟まる男のことを言うらしい。ジュダは3色寒天を眺めながらヴリッグズに尋ねた。 「クリストはんとイザベラはんの間はどないなるんやろ」 「姐さん、病院行こうぜ。頭の」 ばっさりと斬られジュダは前のめりにつんのめった。 「あかんやん!そこは親身に聞いてくれてもええやろ!」 「第一俺に何かアイデア出るとお思いで?」 『オークでもわかる 人間文化』を読みながらヴリッグズはジュダのツッコミを受け流す。 ジュダは大いに嘆く。なんという事か、今の彼はかつての純粋さを失ってしまった。 「いや、ほんま助けが欲しいんや。もう、おかしくなりそう…」 目に涙を浮かべるジュダに、ヴリッグズも彼女のために本腰で考える。 「そういや…ハルナっていたよな。ユイリアさんとこの」 話の意図が読めないジュダにヴリッグズは顔をよせる。 「どうもマーリンの奴にホの字らしいぜ。知っての通りあの男にはユイリアさんも惚れてる。つまり」 「似たもの同士ってわけやな」 とりあえず会ってみようとジュダは持ち前の脚力で駆けだす。興が乗ってきたヴリッグズも後を追っていった。 【仕事納め】 本日は仕事納め。それは魔王城でも変わらなく、各部署で仕事納めの準備や挨拶回りが行われていた。 一人のアンデットを除いて。 「ダースリッチ様。今日は仕事納めの挨拶に参りました」 ベースリッチが作業机で書類と格闘するダースリッチの前に、直立不動で挨拶を述べる。 「そうか」 ダースリッチは顔も上げずに返事をした。その間もペンを走らせる手は止まらない。 「あ、あのダースリッチ様」 緊張したベースリッチの声に疑問を覚えたダースリッチは、僅かに顔を上げる。 「この後、私はアンデットの皆と忘年会をします。宜しければダースリッチ様もどうですか?」 (くだらん。時間の無駄だ) ダースリッチは内心失笑する。却下を述べようとして、ベースリッチの次の言葉に動きが止まった。 「四天王にまで上り詰めたダースリッチ様は、我々アンデット族の誇りです!もし酒を交わせたら皆どれほど喜ぶことか!」 一瞬の動揺から立ち直ったダースリッチは、やがて「下がれ」と威厳を持って告げた。 慌てて退室したベースリッチを見送った後、ダースリッチはペンを走らそうとして──放り投げた。 急に目の前の書類が億劫になり始めてる自分が忌々しかった。 【肉の日】 義手だとは思えぬ綺麗な手つきでフォークを扱い、聖騎士イザベルはステーキを口に運ぶ。 「美味いな、このステーキは」『それは本当ですか!?』 もう一切れ口に運びながらもう一度イザベルは美味いと呟く。 「魔鹿のジビエ肉がこんなに柔らかくなるとは。それに風味もいい」 「隠し味があるんですよ」 「ほう」と、関心を示すイザベルに、バリスタはコーヒーカップを彼女の座ったテーブルに置く。 「コーヒーとは!」と驚くイザベルに、得意げにバリスタは解説する。 「はい、肉質も、風味もコーヒーのお陰です。これは店長直々に教わった味付けなんですよ」 「…ほう」『それは本当ですか!?』 一瞬動きが止まったイザベルはもう一切れ肉を口に運ぶ。そして「やはりな」と頷いた。 「この魔鹿は、先週私とボーリャックで狩りで捕まえた獲物だ」「…そうですか」 「鳴き声で分かった」と笑うイザベルに、バリスタは目を細める。 その時、「今戻った」と、所要を済ませてきた店長が店に戻ってきた。 「お帰りなさい店長」「待ってたぞ」『それは本当ですか!?』 店員と常連客の、二人の美女は笑顔でこのレストランの店長、ボーリャックを出迎えた。 【サワーの日】 「何分不器用でありましてな。許されよヴリッグズ殿」 言葉とは逆にボルボレオが焼酎にレモン汁とソーダを入れて混ぜ込む手つきに、拙さはみられない。 「へえ、手慣れてるな」 「ふふ、ちょっとした無聊の慰みであります」 二杯のコップを持ってきたボルボレオから片方のコップを受け取ると、二人は乾杯して杯を傾ける。 「美味え!」「それは良かった」 堪らない、という風に息を吐くヴリッグズの姿にボルボレオの相貌も緩む。 「でも、驚いたであります。急に、貴公から酒を飲み交わしたいなどと」 暫し歓談した後、姿勢を改めて繰り出してきたボルボレオの疑問に、ヴリッグズは恥し気に頭を掻く。 「俺のPTと、あんたのPTって仲いいよな」 「む、そうでありますな」 ボルボレオも彼の発言に首肯する。 「ハルナ殿は話が合うのかジュダ殿とよく話し込んでるし、イザベラ殿はユイリア殿とよく一緒にいる。…クリスト殿とマーリン殿のあれは、喧嘩するほど…でありますな」 「なら、俺は旦那とお近づきになろうと。変な動機ですまねえ!」 頭を下げるヴリッグズに一瞬キョトンとした後、豪快に笑ったボルボレオは「歓迎であります」と杯を突き出した。 【大晦日】 ジュダとハルナは絶賛修羅場に突入していた。 「ジュダお姉ちゃん!黒豆と数の子できたよ!」 「よし、じゃあ次は昆布巻き頼むわ!」 目の前の煮物と格闘しながらジュダはハルナに指示をだす。二人は今、明日の元日に向けたおせち料理の準備に大わらわとなっていた。 「かまぼこよし!伊達巻よし!」 「栗きんとんできたわ!」 仲間たちにおせち料理を振舞ってあげたいというのは、ジュダのかねてからの願いだった。自分を信じて共にいてくれる、今の仲間たちに。 「鯛の塩焼きはいるよ!」 「任せたで!うちはなますに入るわ!」 イザベラ・ユイリア両PTで今年は新年を迎えようという話に決まった時、ジュダはハルナに自分の願いを提案した。 ハルナは最初は、2人で8人分なんて無理だと言った。 「あとごぼうと海老があればおっけーや!」 でも、『うち、どうしても大切な皆におせちを振舞いたいんどす!』と、両手を合わせて頼み込むジュダを見ると断り切れなかった。…その思いに、彼女自身共感する部分もあったのだ。 「「できたーーー!!」」 おせちの準備を終えた二人はハイタッチをする。その顔には修羅場を乗り越えた達成感が溢れていた。 レストロイカは逃げ回る。自らの居城であった城内を。 「どこにいくのですか陛下?」 腹心の筈の男の揶揄するような声に眉が吊り上がるが、後に続く人影を見て再び逃げに徹する。 「やれやれ、また追いかけっこですか…行け」 ヴェイクロードの声と共に解き放たれし四人の猛卒。レストロイカの懐刀であった親衛隊は、今は彼を追い詰める猟犬と化した。 「くそ、近寄るな!」 窓を叩き割ってレストロイカは外へと逃げ出す。屋根を伝って逃げようとしたそのとき。 「イザベラ・ユイリア隊!」 「!?」 目の前をイザベラの魔力弾とハルナの苦無が通り過ぎる。足を止めた瞬間マーリンの転ばせる魔法がかけられ、レストロイカは盛大に転んだ。 「そこまでするか!?」 悲痛な叫び声も虚しく、クリストとメリルに二重に結界をドーム状に張られ、逃げ場を失う。 親衛隊、イザベラ・ユイリア両PT系12名を引き連れて追いついたヴェイクロードが、高らかに宣言する。 「我慢の限界なんですよ陛下!王妃を設けないならそれで結構!ですが新年は子作りしながら迎えてもらいます」 彼の両サイドでメリルとセターがうんうんと頷くのを見て、遂にレストロイカは絶望した。 【大晦日おまけ】 「えへっえへへ…陛下、ところで【彼】の魔法なんですが…」 「ああ、全く抵抗することができず無様に転がされるしかなかった」 彼の魔法の事を口にするメリルに、レストロイカも話題に乗る。 「やはりそうですか…私も、彼の魔法には目をつけていましたが…」 「かけられた人の練度に関わらず強制的に転ばされちまうらしいですぜ。セターの奴も例外じゃなかった」 なあセターと、スヴェンが彼女に話を振ると、苦い顔でセターは頷く。 「じゅ、術者に大した魔力は感じられないですが…あ、あの彼オリジナルの魔法だけでもわが国には…」 メリルが珍しく前のめりになって力説する。周囲も彼女の熱意に引っ張られて耳を傾けている。 「…ルタルタ族だな」 ハッシュが呻くように呟いた言葉に、メリルは「はいっ」と(彼女にしては)大きく答えた。 「彼の呪文。ルタルタ族の恐ろしい騎馬隊を防ぐ、大きな武器となるかもしれない」 セターの発言を頷きながら聞いていたレストロイカが結論を下す。 「ヴェイクロード、何としても魔術師マーリンをこの国に逗留してもらうよう計らえ」「御意」 「あと、俺の縄をもう少し緩めてk」「それはできません」 【元旦】 今日は元日、ツァガーンサル。戦闘と略奪に明け暮れるルタルタ族にもこの日は浮かれた空気が流れていた。 草原に設置されたゲルの中で、ルタルタはボーズと馬乳酒、それにチャンサン・マハに舌鼓をうっていた。 「う~ん!やっぱりこれですわ!この羊肉の味、この馬乳酒の芳香!」 胡坐をかきながらルタルタは伝統料理に満面の笑みを零す。 「そう思わないかしら?ションジェベ」 ションジェベはただ「はい」とのみ答える。長の前というのに殆ど言葉を発さない、一見非礼な態度にもルタルタは笑って受け流す。 今も彼の頭の中にあるのは次の侵略地の攻め方と、魔術師マーリンを殺すことだけだろう。 その姿勢こそ、ルタルタが好ましく思う彼の姿だった。 「私も長殿に同感です」 ションジェベの代わりにラクバートルが言葉を継ぐ。 「略奪した土地で、略奪した食物を、略奪した女に作らせた料理も格別ですが…」 うっとりとしながらラクバートルは馬乳酒を飲み干す。 「やはり、この草原の草を育んでできた馬乳酒は何にも代えがたい」 彼女の言葉にゲルの内の至る所から賛同の言葉が挙がる。 その光景をルタルタは喜ぶ。これこそ彼女が望む騎馬民族の姿だった。 「くらえ5流魔術師!」「なんの張りぼて騎士が!」 イザベラは公園でおせちに舌鼓を打ちながら目の前の光景を微笑ましい目で眺めている。 「隣失礼しますね」 イザベラの隣にユイリアが腰を降ろすと、観戦に加わる。 「イザベラさん、着物似合ってますね」 「ユイリア、さんこそ」 二人は普段の服装ではなくジュダが取り寄せた着物に着替えている。ユイリアは水色に牡丹の柄の入った着物に、イザベラは普段と黒いドレスとは違った赤色の、椿の柄が入った着物に。 だが、二人が最も感想を聞きたかった殿方二人は、彼女たちそっちのけで羽根つきに夢中になっている。全く、乙女心をなんと心得るか。 「よっしゃあ!」「くぅっ!」 打ち損じたクリストが露骨に悔しがる。ノリノリでマーリンはクリストの顔に墨を塗りたくった。 「似合ってるぜそのクソダサ眼鏡」「次でその右側だけのカイゼル髭を完成させてやりますよ」 羽根を持って再びクリストは構える。 「平和ですね」と、懸命に羽根を追いかけるマーリンを眺めながらユイリアは呟く。 「幸せだね」と、1本取ってガッツポーズするクリストを見ながらイザベラは口にする。 まだまだ勝負は終わりそうにない。 【みたらし団子の日】 「くっ…やるな!」 壁際に追い詰められたレンハートマンホーリーナイトは舌打ちする。背後にはレストロイカの婚活(拒否権なし)イベントぶち壊してお怒りの治安部隊が迫っていた。 「もう逃げ場はないぞ!」「さっさと投降しろこの変態マスク!」 「変態ではない!」 あんまりな台詞に思わずホーリーナイトが発言をした隊員を睨みつける。筋骨隆々のマッチョマンの迫力に、思わずその隊員は半歩後ずさった。 だが、追い詰められた状況であることには変わりはない。じりじりと治安部隊がホーリーナイトを包囲を狭め始めたその時だった。 ホーリーナイトが、指を鳴らした。 「うわああああ!!!」 直後、猛速度で急降下してきた羽根の生えた少年、ブラックライトの急襲で、治安部隊の注意が一瞬削がれた。 「待ちくたびれたよ!」「リーダー、後でご褒美ね」 更にウラヴレイとシロが乱入し、さしもの治安部隊も算を乱した所を、一目散にホーリーナイトは包囲を突破した。彼の仲間たちも後に続く。 「すまない!礼を言う!」 「少しは自重してくださいミレーンさん!」 「リーダー私みたらし団子ね」 「お、いいねえシロ!プロロ産の高いのがいいね~」 コメトレルデ王国の勇者アリオリオは一人外出した。手にはコメトレルデ名産のもち米で出来た食べ物を入れた包みを持って。 城を出て、城下町を抜け、人気もない森の中、よくアリオリオが鍛錬のために訪れていた場所。 そこに彼の目当ての人物がいた。 「待たせたな!我が友エビル勇者Xよ!」 「む!美味いなお前のみたらし団子は」 「(ブタノハナが新年祝いに作った団子だから)当然だ」 「だが!我が好敵手エビル勇者Xよ!我が国名産の米で作った餅も逸品だぞ!」 「む、美味い」「そうだろうそうだろう!ハーッハッハッハ!」 動きも口数も極端に少ないエビルソード、芝居がかった挙動のアリオリオ、対照的な二人だが、不思議なことに二人の会話はかみ合っていた。 「ところで我が強敵エビル勇者Xよ!この後時間はあるか?」 「(確認はしてないがどうせ大した用事もないだろうし)大丈夫だ」「そうか!」 楽し気に笑ったアリオリオが剣を抜きはらう。そして芝居がかった動作でエビルソードに剣を向ける。 「我がライバルエビル勇者Xよ!剣を構えられよ!今日こそそなたに完璧なる敗北を味合わせてあげよう!」 「ふっ、楽しみだ。我が友アリオリオよ」 デカパイに蜜を垂らして『みたらし団子です』の描写にイザベラは絶叫した。 「え、エッチなのはいけません!!」 話は少し前に遡る。旅の途中道脇に落ちてた本を拾ったらエロ漫画だった。以上。 「た、食べ物をそんな風に扱うなんていけない…!」 本を睨みながらイザベラは呻く。だが、ふとある考えが浮かぶ。 (こ、これくらい私も積極的にならないとだめ…?) イザベラは道中仲間に加わったクリストに恋をしている。だが、これが初恋の彼女にアプローチの仕方など全然わからなかった。 「わ、こここんなことまでしちゃうんだ」 真っ赤な顔でイザベラは漫画を凝視する。いつの間にかページを捲る手にも力が入る。その時。 「どうかされましたかイザベラ様?」「ふへあ!?」 文字通りイザベラは飛び上がった。慌てて振り向くと彼女の意中の人、クリストがそこにいた。 「ど、どうやら本を熱心に読まれてたようで」「はあっ!」 イザベラが本を天高く放り投げ、直後魔力の弾を頭上に向け放出。本は跡形もなく消滅する。 「あれは呪いの書だったから祓ったの。わかった?」 精一杯の笑みを作ったイザベラが念を押すと、クリストは何度も首を縦に振った。 気分転換に作ってみましたと、イザベルがみたらし団子を乗せた皿をヘルマリィの前に持ってきた。 自分の皿に乗せられている、5個の団子が刺さったみたらし団子にヘルマリィは頬を緩める。イザベルが自分のために作ってくれたという事実が彼女は嬉しかった。 串を手に取ろうとして、ふとイザベルの皿にある団子は4個なのにヘルマリィは気づく。 「貴女のは1個少ないのですね」 「これには意味があるのですが」 理由が気になるヘルマリィが何度も尋ねると、仕方ないという風にイザベルは話し出す。 「この串に刺さった団子は五体、つまり頭と四肢を表してます。片腕を失った私には4個の団子が相応しいのです」 「ご、ごめんなさい!」 言いづらいことを無理に言わせてしまったと、慌ててヘルマリィは謝罪する。 「まあ、本当の理由は4つのこっちの団子の方が、形は大きいからなのですが」 「…は?」 ヘルマリィが顔を上げると、珍しくイザベルは笑みを浮かべていた。 「場を和ませる欠損トークです。いかがでした?」 「…イザベル!」 「次はギルで試してみるか」と、恐ろしいことを言いながら団子を頬張るイザベルに、眩暈を覚えるヘルマリィであった。 【いちごの日】 「これは…なんですか?」 ストロベリーはきょとんとしている。目の前の食卓には、イチゴケーキにいちごパイらイチゴ味の菓子。そして山盛りのイチゴがあった。 「えへへ…実は今日ってイチゴの日なんだよ」 面映ゆそうに頬を掻きながらヨシタカが説明する。 「だから今日はストロベリーさんを二人で祝おう、って二人で決めてたの」 アストレッドが食器を並べながら言葉を継ぐ。 「ストロベリーお姉ちゃん。僕たちみんな、色々あったけど、でもこれだけは言えるよ」 ストロベリーの顔を見つめながらヨシタカが述べる。アストレッドも真摯な目でストロベリーを見つめる。 「貴女と出会えて良かった。これは、僕とアストレッドさんからの気持ちです」 そう言いおえると、深々と二人はストロベリーに頭を下げた。 「う…うう…ず、ずるいですよこんなの…」 涙声になってるストロベリーの声に慌てて二人が頭を上げると、彼女は目にポロポロと涙をこぼしていた。 心配するヨシタカ達に慌ててストロベリーは手を振る。 「違うんです!嬉しすぎても涙って止まらないって、私知りませんでした」 涙を拭って笑う彼女の笑みは、とても綺麗な、普通の女の子の笑顔だった。 【七草】 「どうぞ、七草がゆです」 「うむ」 厳かに頷きながらモラレルはゆっくりと粥の入った器を手に取る。スプーンでそっと粥を掬い、口に運ぶ。 熱い粥をひと噛み、ふた噛みすれば、口内に広がる七草の味と、控えめにまぶした塩の優しい塩気。 「美味い」 モラレルは感嘆した。暴飲で傷んだ己の胃と喉が、マスターの作った粥で癒えていくような、そのような錯覚でさえモラレルは抱いた。 (しかし、惜しい) 煮卵となめこの味噌汁に舌鼓を打ちながら、モラレルは心中で思う。マスターのような男を、もし魔王城で雇えたらどれほど有難いだろう。 (毎日の楽しみが増えるな) 徳利で飲む熱燗が妙に体に染み入る。 おちょこを手に持ちながらモラレルは想像する。マスターが、魔王城で料理長を務め、三食の食事を作るべく毎日厨房でフライパンを振るう姿を。 「いや、それこそ野暮というもの」 己の空想を一笑に付し、モラレルは店内を見渡す。この店の料理と、雰囲気を求めて今日も店内は大賑わいだ。それこそ自分もその中の一人ではないか。 「マスター。今回も美味かった。また来る」 勘定を済ませて店を出ると、心地よさげな足取りで魔王は魔王城に帰っていった。 「せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろの、7草で作った粥が七草粥」 簡単やろ?と笑いながらジュダが七草粥をお盆に乗せて、イザベラの座るテーブルに持ってきた。 「有難うジュダ」 「こんなん大したことあらへんよ」 頂きます、と手を合わせて、イザベラがジュダの作った粥をスプーンで掬う。 「美味しい…!」 「そう言ってもらえたら嬉しいわあ」 照れるわ~と頬に手を当てるジュダだが、その間もイザベラのスプーンを持つ手は止まらない。気づけばあっという間に完食していた。 「ご馳走様でした」 「お粗末様でした。…年末年始ってご馳走が続くから胃が疲れるやん。そないな時はこんなんが意外と美味しいんや」 言われてみれば、お正月からは集まったり、祝いの席だったりで、確かに胃がご馳走責めだった。 「ジュダ…私、嬉しい」 「これくらいどうってことあらへんって!…もうイザベラはん一人の体やあらへんのやし」 ジュダはイザベラのお腹を優しく撫でる。今、イザベラのお腹には、クリストの子を授かっていた。 愛されてるねと、イザベラがお腹に話しかける。その姿が何物にも尊く見えて、思わずジュダは涙ぐんだ。 【七草おまけ】 「七草がゆ。イザベラが大層喜んでいました」 ありがとうございますっと深々と礼をするクリストにジュダは慌てて手を振る。 「別にこんなん大したことあらへんよ」 「そうでしょうか…」 渋々頭を上げるクリストにかえってジュダが恐縮する。いくらなんでも奥ゆかしいに程がある。 「そうや、百人一首に七草と縁のある歌があるんやけどなんか知っとる?」 「由来ですか…」顎に手を当ててクリストは考える。 「ヒント、君がため」 「わかった!」 手を叩くと深呼吸して息を整え、クリストは歌を詠んだ。 「君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ」「正解や!」 ジュダが大きく両手で丸を作る。クリストは軽くガッツポーズをした。 「クリストはん。雪は降ってなかったけど、イザベラはんのために若菜採り手伝ってもらってありがとなあ。ほんま助かったわ」 「なに、イザベラと、ジュダさんのためならこれくらい」 そう言って闊達に笑うクリストに、ジュダは思わず「そういうとこやで!」と彼の背中をバシッッと叩くのであった。 【風邪の日】 訓練生寮の医務室にレストロイカが訪れたのは、夜になってだった。 「…来てくれたんですね。 ゴホッゴホッ」 「無理に喋らなくていい」 起き上がろうとして咳き込むラーバルを手で制し、再び横になるよう命じる。ラーバルも素直に応じる所を見ると、やはり病がきついのだろう。 「陛下ともなると大変ですね」 熱と頭痛で朦朧としている目つきでラーバルはレストロイカを見上げ、苦笑する。 「周りの迷惑になることを避けるためとはいえ、こんな時間に見舞いに来ますか普通」 「わかっている。直ぐに帰る」 「そうしてください。病気を移したらジーニャ達に会わせる顔がない」 天井を見上げながら軽口を叩くラーバルだが、また激しく咳き込むとすいません、と呟く。 「…あ」 無言でラーバルの額の上のタオルをレストロイカは手に取ると、タライの水につけて再度ラーバルの額の上に置いた。 「あはは、陛下に直にタオルつけてもらえるとは、いい思い出話になりそうですね」 「…早く治せ。お前が思っている以上に、お前を心配している人はいるのだからな」 ジーニャが買ってきた、ベッド横の棚上の花瓶にさされたガーベラを見ながらレストロイカは呟いた。 【犬を愛するワンラブの日】 「へっへっ」「わんっ」 目の前の光景にジュダは釘付けとなっていた。 「ふ…二人がお犬さんになってもうたー!」 ダンジョンの探索中、クリストとイザベラが魔法陣のトラップを踏んだ。 「きゃあっ」「うわ!?」「旦那!」「イザベラはん!」 二人が眩い光に包まれ、光が収まった時二人はなんと犬になっていた。姿はそのまま犬耳、尻尾が生えた状態で。 「きゃんっ」「くぅ~ん」 イザベラが甘えた声で鳴きながらクリストの頬を舐める。クリストもイザベラに身を摺り寄せる。 「か、可愛い…」 フラフラと二匹(?)にジュダが近づく。イザベラに手を伸ばした時「がうっ」と、クリストが吠えた。 「ク、クリストはん。イザベラはんを護ってるんやな?犬になってもクリストはんは…」 感動でジュダがわなわなと震える。犬になってもクリストはイザべラの盾であり続けている。こんな尊いことが他にあるのか?いや、ない! 尊いわ~と悶えるジュダ。ジュダに唸って威嚇するクリスト。彼の後ろで不安げにジュダを見上げるイザベラ。 「姐さん…」 ヴリッグズは深く息を吸うと、盛大にため息を吐く。魔法が解けるまでの数十分間、ジュダはこの尊さを堪能し続けた。 【イラストレーションの日】 マリアンから珍しくおねだりをされてミサは面食らった。 「えっいいですけど……急にどうして?」 「あー、だって今日はイラストレーションの日なんだよ、うー」 そんな日があるのかと訝しんだが、マリアンから渡された記念日集の本を見ると「さまざまなシーンにおけるイラストレーションの役割と~」と、確かに存在していた。 確かに、ミサはマリアンに無茶させすぎたかもしれないと自省する。 モラレル撃破後、同人作家として執筆活動に専念するマリアンに、ミサはイケオジネタで執筆を依頼していたが、最近は少し頻度が多かったような気もしている。 「わかりました。では、何をご希望ですか?」 ゾンビが欲しいものって何だろうかと、ミサが考えを巡らせるが、マリアンから返ってきた答えは予想外なものだった。 「じゃあ、膝枕して」 「そんなものでいいのですか?」 コクンと頷くマリアンを見ては断る理由もなく、ミサが正座するとマリアンは頭を彼女の膝にのっけた。 「今更だけど、腐った頭とか気にならない?」 「愚問です。マリアンさんを私が気にするはずありません」 安心した、と呟くとマリアンは目を瞑る。やがて彼女の静かな寝息が聞こえてきた。 【いいにんじんの日】 ある日、「見てください」と、ノネッタが乾燥させた根っこのような物が入った籠を、マヒアドの所に持ってきた。 「オタネニンジンといいます」 マヒアドは「そうか」と頷く。だが、これを見せに来た理由はわからなかった。 「これはですね、人間には大層高価な値で売れるのですよ」 ノネッタの話だと、海の向こうのコトと呼ばれる地でも重宝されているとのことだった。 「なぜ人間はこれを求めるのか」 「色々あります。煎じて薬湯としたり、お酒にしたり」 それと、と言って一瞬、彼女の口に微かに笑みが浮かぶ。 「美容や肌の若返り、それに…滋養強壮の薬として」 「面白いですよね。"人参飲んで首くくる"って言葉があるくらい、この人参は高値で売買されているのです」 感心しながら聞いていたマヒアドに、ふとなぜ彼女が今回に限ってこれを採ったのか、疑問が浮かぶ。 マヒアドが問うと、ノネッタが照れくさそうに答えた。 「この時期はとても冷えるので、あの子がこの寒さで風邪を引かないように、少しばかり採っておいた物でして…」 「そうか」とマヒアドが考え込む。暫くして、予想外なことを口にした。 「この人参、我らで栽培はできないのか?」 【遺言の意味を考える日】 「遺言状はギルとクリストは書いたか?」 「…ああ、1通な」「はい、思いついた分は」 「…ちょっと待ってください、ギルさん。1通だけ?」 「…?PT宛てなら1通あれば事足りるだろ」「(クリスト、盛大にため息を吐く)」 「そういうクリストお前は?」「…僕は、PTの皆宛ての3通、それにマーリンとボーリャックさん」 「ふんっ。お前は最後までボーリャックを信じてたな」「まあ、今更議論はやめましょうイザベル先輩。そちらは?」 「私は1通懐に。仮面魔候宛てに恨みつらみを書いておいた」「…イザベル先輩」 「冗談だ。ヘルマリィ殿に世話になった礼と、護衛を辞めざるを得なくなった謝罪を」 「…思えば僕たち、周囲に恵まれましたね。イザベラ様という素敵な勇者に出会えた」 「なぜかアズライールは、俺なんかに妙につきまとってな。お陰で退屈しなかった」 「ヘルマリィ殿に拾われたお陰で、茶菓子の味を思い出すことができた」 「……思い残すことはないな?二人とも」「「無論」」 「エビルソード!我らカンラークの生き残りの聖騎士である!同胞たちの仇である貴様の首を貰い受ける!」 「…挑戦を受けよう。聖都の強者たちよ」 【婚活作戦会議の日】 「スパーデ・ディ・レンハート様ご成婚か、目出たいことだ」 新聞を手に、ヤナツが腕立て伏せをしているボリックに話しかける。 「随分と歳が離れてるようだな。相手の方は」 腕立て伏せの速度を全く緩めることなく、ボリックはヤナツの話に応じる。 「ああ、ギルドの登録者のな」 ヤナツが皮肉気に笑う。 「知ってるか?一番大手の婚活会場と呼ばれる組織は」 唐突なクイズにボリックの腕立て伏せが止まった。汗に濡れた顎に手を当てて暫し考え込み、やがて首を横に振った。 「ギルドだよ」「なんだと?」 「S級ランク筆頭の冒険者ネーサ・マオを始めとして、イザベラ、ユイリア、アズライール、カイトと数多くの女性冒険者がギルド登録者の男性と結婚した。スパーデ様もその一人さ。…ま、僕から言わせればその多くは、吊り橋効果の要素が大きいと思うぜ」 ヤナツの言葉にボリックは腕を組んで考え込む。 「ヤナツ、お前に尋ねたい。ギルドに胸と尻の大きな女性は多いのか?」 「は?…力自慢の女がいるから、そりゃ立派な体格の女も多いだろうけど…」 そうか、と頷いたボリックは唖然としてるヤナツに力強く宣言した。 「俺も卒業したらギルドに登録する」 【クラシコ・医師の日 】 オズワルドはセクハラ医者のレッテルを貼られているが、これは大きな誤解である。 医者にとって患者との円滑なコミュニケーションは重要であり、これはオズワルド流の患者との接し方なのである。 …ただ、それがあまりにもおじさん構文なだけなのであって。 最も、オズワルドにも相手をそのコミュニケーション相手を選ぶ権利はある。治す気のない患者。リハビリや生活スタイル改善を舐めてる患者には断固とした姿勢で接する。 …例えば彼女のような。 「バリスタさん、私言いましたよね。コーヒー依存症は立派な病気です。絶対に飲むなとは言いませんから量を減らしていきましょうって」 ゴゴゴゴゴゴゴ…っと擬音が聞こえてきそうな迫力で詰め寄るオズワルドにちびりそうになりながら、必死にバリスタが反論する。 「へ、減らしました1日たったの2杯まで!」 「ええ、確かに減らしましたね!お代わりの回数は!」 でもねぇ!とオズワルドは怒りのボルテージを上げる。 「ジョッキになみなみとコーヒーを注いで一杯です。なんて理屈通ると思ってるんですか!」 「そんな!ピッチャーにしないだけ譲歩したのに!」 「譲歩の文字辞書から引いてこいこのおバカ!」 【小正月】 「しかし、小正月とは初めて聞いたな」 「ジュダさんの地方は色んな行事がありますね」 小豆粥の下準備を終えたギルが、餅花の作成をしているクリストに話しかける。今日は小正月。PTの女性陣に日頃の恩返しをしようと3チーム合同で小正月の準備に取り掛かっていた。 ジュダ直筆のコト式行事集を見ながら、スナイプが尋ねる。 「ぜんざいも作った方がいいかいクリスト?」 「いいですね。粥だけじゃ味気ない」 「これで二種類か。じゃあ三作目に団子でも作るのはどうだい?」 「お願いできますか?」「任せろ、作り方は調べた」 その時、マーリンが上機嫌で手に面妖な衣装を持って駆け付けた。 「できたぜクリスト!なまはげの衣装だ!」 彼の手にある奇妙な衣装に、クリスト達から動揺の声が上がる。 「鬼に化けるのか…?」「ハルナ殿曰く、この鬼は厄払いのいい鬼とのことでありますが…」 ヴリッグズとボルボレオが恐々近寄る。マーリンが「わっ」と面を突き出すと、二人は慌てて飛びずさった。 「さて、この鬼役だが…誰がやりたい?赤鬼青鬼、系2名いるんだが」 マーリンの言葉に一同は互いの顔を見渡し、やがて全員でじゃんけん大会が始まった。 今日のサトーは驚き尽くしだった。まず、夕飯はギャンが「今日は俺が作るわ」と宣言したのだ。こんなのサトーが彼の家に様子を見に行くようになってから初めての事であった。 胸を高鳴らせながらギャンの家を夕飯間際の時刻に訪れたサトーはまたしても驚いた。 「ほらよ」 「ええ?これって…」 「どうした」と不思議な顔をするギャンに申し訳なく思いながらもサトーは言わずにはいられなかった。 「粥って…私、いたって健康体ですよ」 「…はあ?」 ギャンから小正月について聞かされたサトーは頭を下げた。それはもう、90度行くのではというレベルに深々と。 「申し訳ございませんでした…」 湯気が出そうなくらい顔を赤くしたサトーに、先程まで腹を抱えて笑ってたギャンが涙を拭いながらサトーを慰める。 「まあ、最近の子は知らねえよな」 小豆粥とぜんざいをテーブルに置いたギャンは上機嫌で瓶ビールとコップを取り出すと、サトーに向けて「ん、」と、瓶口を傾けた。 後日、小正月について調べてた途中、『主婦をねぎらう意味で、女正月ともいう地方もある』という1文を見つけ、顔を真っ赤にして悶絶するサトーの姿が図書館で見受けられたという。