二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1768134368071.png-(133747 B)
133747 B26/01/11(日)21:26:08No.1391619371そうだねx1 22:43頃消えます
「シービー」
「ん?」
「今日はうどんにしようと思うんだけど、いいか?」
ソファーに横たわっていた影から、ぴょこりと耳だけが飛び出す。お互いの間でだけ伝わる興味があるというサインを見て、唇が思わず綻んだ。
「ただのうどんじゃないぞ。親戚からすごくいいきのこをもらったんだ」
それが最後の一押しになったのか、彼女は読んでいた本を置いて、柔らかい笑顔のままキッチンまで駆け寄ってきた。
彼女が隣にいることがひどくうれしい。今は少しでも、彼女と話していたかったのだ。
「いいね。ほかにも入れたい具があるんだけど、アタシが決めていい?」
126/01/11(日)21:26:48No.1391619632+
「ごちそうさまでした。
きみのごはんはおいしいね。いつも食べすぎちゃって困るよ」
「お粗末さま。もう寝るのか?」
「ふふ。ぐうたらすぎかな。
でも気持ちいいよ」
彼女はそう言うが、咎め立てするつもりはなかった。
部屋のハンモックですっかり眠る構えに入った彼女を見て安心したが、明日も同じように彼女を楽しませられるだろうかという不安は、どれだけ話しても相変わらず残っていた。

二週間ほど前まで、彼女は旅に出ていた。前触れもなくふらりとどこかに行ってしまうのはいつものことで、随分と長い付き合いになるのだから、自分ももう慣れっこになったと思っていた。
だからその分、彼女がいない時間が遥かに堪えるようになっていることに気づいた時には愕然とした。慣れるどころか、彼女と深い仲になればなるほど、彼女がいない時間の喪失感が増してきているのだった。
226/01/11(日)21:27:09No.1391619742+
血が出ていることに気づくと痛みが強く感じられるように、それに気づいてからはますます彼女のことばかり考えるようになった。幸い、そのころに丁度彼女が帰ってきたのだが、そのときの喜びも抑えるのに苦労するほど計り知れないものだった。
明日、ふと起きたら彼女が煙のようにハンモックから消えて、旅に出てしまっているかもしれない。そんな不安さえちらつくほど、今の自分は彼女の存在に飢えていた。床を同じくすればその不安も解消されるのかもしれないが、彼女の目はそんな思惑など容易く見抜いてしまうのではないかとも思える。
自分を縛られることも、愛しあうときに不純物を持ち込まれることも、彼女は大いに嫌うだろうということは容易に想像がついた。
籠の扉も窓も開け放って、すばしこい小鳥を飼っているような頼りなさがつきまとう。その小鳥にここにいたいと思ってもらうことしか、彼女を愛でる方法はないのだから。

時々、自分でも可笑しくなる。人並みに歳を取って、人並みに擦り切れたと思っていたのだが。
愛しすぎて苦しくなるような、まだ青い心が残っていたことが。
326/01/11(日)21:27:25No.1391619842+
「おはよう、シービー」
「ん…おはよう、早いね」
幸い、翌朝も彼女はハンモックに寝転んでいた。眠たそうに目を擦りながらもこちらに笑いかけてくれる表情は優しかったが、いつまでいるんだ、という質問は、そう言うと今すぐにでも旅に出てしまいそうな気がしてできなかった。
「朝ごはんにしようか。鮭があるけど、それでいいか?」
「うん。ずっと大味なご飯ばっかり食べてたからさ。そういうのがいい」

できるだけ自然に話をしたけれど、穏やかに朝食を終えたあとも安心はできなくて、彼女が旅に出そうな気配はないかと気になって仕方ない。それを忘れたくて、今日もここにいたいと思えるような楽しみを彼女に与えなくてはと、ひどく気が急いた。
「そういえば、前にシービーが好きだって言ってた作家の本、俺も買ってみたんだよ。まだ少ししか開いてないから、一緒に読まないか?」
426/01/11(日)21:27:38No.1391619935+
話をしたときに、彼女は一瞬驚いたような顔をした。それがなおさらこちらの不安を煽ったが、その不安を態度に出す前に、彼女の表情と声はいつもの朗らかなそれに戻っていた。
「いいよ。何買ったの?」
「ああ。とりあえず短い詩集がいいかなと思って…」
笑いかけてくれる彼女はどこまでもいつも通りで、そんな彼女と一緒にいる時間は変わらずに幸せだった。
だからこそ、この時間が唐突に終わってしまうかもしれないと思うと、どうしようもなく胸が切ない。
526/01/11(日)21:27:51No.1391620016+
これからも続く寒い季節の先を楽しみに待っていてほしくて、春を題材にした詩集を選んだ。
春の花たちを題材にした詩のページを開いてみると、その文章の周りでかくれんぼをするように花たちを模した妖精が遊んでいるというイラストが描かれている。この詩集はイラストレーションの美麗さも魅力のひとつだと言われているそうだが、その評判の理由も頷けた。
「これ、初版本じゃない?よく見つけたね」
「昔から通ってた古本屋に、たまたま置いてあったんだよ。シービーに教えてもらうまでこの作家のこと知らなかったから、今まで気にしてなかったけど」
アタシはいくら探しても見つけられなかったのに、と、少し悔しそうな彼女は、その腹いせとでも言うように少し乱暴に膝の上に腰かけてきた。
626/01/11(日)21:28:08No.1391620146+
本を見なければいけないのに、本を読む彼女の後ろ姿に目移りしている自分がいる。ゆったりと細められた瞳をじっと見ていると、その顔が急に振り向いてこちらを見てきたものだから、思わず上半身がびくりと引いた。
「知ってる言葉も知らない言葉も、すごく綺麗に見える。
いいね、きみ。やっぱり持ってるよ」
「持ってるって、何を?」
「アタシにないもの、ぜんぶ」

うれしいとき、心が通じ合っているときに彼女が口にする、「ぴったりとはまっている」という言葉の意味を、時々考えることがある。
自分と彼女の考えや想いが、心の深い部分で一致しているということはもちろんだろう。だが、彼女の言葉を聞いているうちに、もうひとつ意味があるのではないかとも思ったのだ。
彼女が持っていないものを、自分が埋めてあげられたという証拠なのかもしれない、と。
自分が持っていないものを彼女の中に見つけると、どうしようもなく嬉しくなるのと同じように。
726/01/11(日)21:28:28No.1391620289+
離れ離れになるのがあんなに怖いのも、それならば説明がつく。
お互いにないものを埋めるようにぴったりとはまってしまったら、それを引き剥がされるときの苦しみは、自分の身体をもぎ取られることに等しい。
「もうすぐ次の季節が始まるね。
今度は花が咲く方を追いかけてみるのもいいかな」
ふと口にした旅の予感が、今はひどく苦しい。行かないで、なんて、言えるはずもない。
──気づけば、膝の上の彼女を抱き寄せていた。
826/01/11(日)21:28:40No.1391620366+
彼の温度と匂いが急に近くなって、心臓が急いで動き出す。
「…!」
だが、驚いて振り向くと、彼は自分の手がしたことに自分で驚いているような顔をしていた。けれどすぐにその表情は悲しそうに歪んで、抱きしめていた手がするりと解かれる。
「…ごめん。今のは忘れて」
少しむっとする。抱きしめているほうが苦しそうな、縋り付くような手付きだったのに。あんな姿のきみを忘れられるはずがない。
「やだ。忘れない。
ちゃんと話して」
数日前からどことなく、彼の振る舞いに違和感を覚えるようになっていた。無理をしている、と顔に書いてあるくせに、さっきも今も何も教えてくれない。

一緒に歩いてきて、ぴったりはまっていると思っていたのに。
苦しいことだけひとりで抱え込むなんて、許さない。
926/01/11(日)21:28:52No.1391620443+
彼は一瞬、ためらうように押し黙ったが、アタシがもう一度その瞳を見つめると、重い口を開いた。
「また、旅に出るのか?」
「え?…うん。そのうち」
旅に出たくなるのはいつも唐突だ。だからそのうちとしか言えないのだが、久しぶりの彼の家は思いのほか居心地がよくて、すぐ旅に出ようというつもりは、今のアタシにはなかった。
だが、その言葉が彼を押し留めていた何かを決壊させてしまったらしい。今まで何も語らなかった彼の口から、ぽつりぽつりと思いの丈が漏れ出していく。
「…ごめん。シービーが行っちゃうのが嫌で、引き留める理由を作ってたんだ。
前の旅でいなくなったときも、さみしくてさ。本当はずっと、一緒にいたかった」
1026/01/11(日)21:29:06No.1391620534+
こんなにも苦しいのが自分でも可笑しいと言うように、彼はくしゃりと笑った。そうしないと、今にも涙が溢れてしまうからかもしれない。
「…かっこ悪いな。レースの前みたいに、ほんとは笑って送り出してあげないといけないのに。
今、苦しくてしょうがないんだ」

そっと彼を抱きしめても、彼は何か言うことも、抱き返すこともしなかった。
正直、驚いた。彼がこんなにもアタシを想っていたなんて。子供みたいにやりたいことに正直なアタシを、冷静だけど優しく支えてくれるひとというのが、彼に抱いていた印象だったから。

裏切られた、と言ってもいいかもしれない。もちろん、いい意味でだ。
アタシ、悪い子かな。
きみがこんなにさみしそうなのを見て、うれしくなってしまうなんて。
1126/01/11(日)21:30:16No.1391621000+
「…ふふっ、あはははっ」
ぴったりとくっついたまま笑い声を聞かされて、泣きそうだったきみの顔が少し怒ったように変わる。こっちは真剣に悩んでいるんだから、何も笑わなくたっていいだろう、とでも言っているみたいだ。
いいね。そのくらい元気なほうが、アタシはずっとうれしい。

「昔さ。きみを家に呼んだときに、一緒にケーキを食べようとか見たい映画があるとか言って、朝まで返さなかったことがあったよね。
あのときのアタシ、どんな気持ちだったと思う?」
今度の彼は呆気にとられたような顔をしていた。アタシの反応がよほど予想外だったのだろうか。決まりきったイメージだけで測れるほど、単純な姿は見せていないつもりなのだけれど。特に、彼の前では。
「さみしいのはきみだけだって思ってる?」
1226/01/11(日)21:30:30No.1391621115+
誰もいない田舎の終着駅に着いたとき。
冷たい北国の海で、波が砕けるのを見ているとき。
アタシが思い浮かべているのは、誰の顔だと思っているんだろうか。
縛られるのは確かに苦手だ。
でも、きみは約束を守ってくれた。帰って来い、もう行くなとは、ひとことだって言わなかったのだから。
きみはずっと、アタシのことを大切にしてくれた。ちゃんと心から、アタシがここにいたいって思えるようにしてくれた。
「ここに帰ってきたのも、今までここにいたのも、アタシがきみといたいって心から思ったからだよ」
アタシは自分の心に正直にしか生きられない。
それを一番わかってるのは、きみだと思ってたんだけど。

きみがアタシのことを好きなのに、アタシはそうじゃないなんて思っているのだろうか。
そんなことでいちいち、悔やまなくたっていいのに。
愛しすぎてさみしくなるのは、アタシだって同じなんだから。
1326/01/11(日)21:30:45No.1391621212+
きみが気持ちを伝えたせいで、アタシが遠慮して旅に出たいのを我慢するかもしれないと思っているなら、そんな心配はいらない。楽しそうと思ったら、アタシを止められる人は誰もいないのだから。
「いろんな旅があるけどさ。一番旅をしたいときって、自由がほしいときだと思うんだ」
そして、アタシは今とても楽しい。どこに行くかはまだ決めていないが、無性に旅に出たい気分だ。
一緒に同じ景色を見たいひとが、すぐそこにいるから。

アタシはいつまでも自由でいたい。なのにそんなアタシの隣にいるきみが、その分何かを我慢していると思うと、せっかくの自由が半分欠けているような気がする。
「きみはどうしたい?」
きみの心が不自由なままなのは、嫌だ。
1426/01/11(日)21:32:01No.1391621690+
彼の瞳をじっと見つめる。素直になっていいんだよ、と伝える。
今、きみの気持ちが聞きたい。
「…今度、長めの有給が取れることになったんだ。
だから、一緒に旅に連れて行ってくれないか?」
思わず口元が綻んだ。やっと、一番ほしかった言葉が聞けたから。
「うん。いいよ。
楽しみだな。久しぶりにきみと旅ができる」
煮え切らないなら引っ張ってでも連れて行こうと思うくらい、今のアタシはきみとの時間に飢えている。きみと見る空は、いったいどんな色なんだろう。

アタシの答えを聞いて、彼は安心したようにため息をついた。これから来る時間がアタシと共にあることが、なによりもほっとすると言うように。
「ふふっ、それで?」
「え?」
いったい、何に落ち着いているのだろうか。これからのことは決めたけれど、今日はまだ終わっていないじゃないか。
「あんなにたくさん気持ちをぶつけてきたのに、今日はもう何もないの?」
今のアタシの気持ちはどうなるんだろう。胸の奥が弾けてしまうくらい、今すぐきみがほしいのに。
1526/01/11(日)21:32:53No.1391622026+
「ん…んっ…
ふふっ」
きみの身体の重みを感じてベッドに縫い付けられるのも、思えば随分と久しぶりだ。きみにすっぽり包まれながら、頭の中をきみとのキスでいっぱいにしてしまうときの感覚も、久しぶりに味わうと蕩けそうになる。
「しょっぱい」
「…はは、嘘だろ」
嘘じゃない。さみしい唇は、海の水の味がする。きみは泣かないけれど、その分だけ溢れそうになったさみしさが、きみの心の窓辺に打ち寄せている。
1626/01/11(日)21:33:06No.1391622111+
アタシがいない間にこの唇は何度、アタシの名前を呼んでくれたのだろう。そう思うと、そのしょっぱい味がどうしようもなく愛おしくなった。
「…シービー」
「ん…」

さみしいなら、もっと呼んでよ。
きみのさみしさなんて、アタシがぜんぶ飲みこんであげるから。
1726/01/11(日)21:33:39No.1391622326そうだねx1
おわり
シービーみたいな子を好きになったら大変だけどその分幸せだと思うんだよね
1826/01/11(日)21:36:30No.1391623460+
風来坊だからふらっといなくなって寂しさがこらえられなくなるくらいのところで戻ってくる
1926/01/11(日)21:40:51No.1391625029+
ひとりで気ままに生きてるように見えて結構甘えん坊だよね
2026/01/11(日)21:46:22No.1391627108+
ずっとひとりでもいいってタイプじゃなくて普通に拗ねたり寂しがったりもするんだけど根が陽気なので塞ぎ込む前に会いにくる
2126/01/11(日)21:52:53No.1391629529+
さみしくなって忘れようと思って寝たら起きたときにいつの間にかベッドの中に入ってて「おはよー」って笑いながら言われる
2226/01/11(日)22:02:37No.1391633142+
思い詰めるくらいならいきなりでも会いに行くよねCBは
2326/01/11(日)22:05:37No.1391634281+
子供のころから自分に惚れて情緒が破壊される人間を男女問わず量産してる罪な女
2426/01/11(日)22:08:46No.1391635522+
寂しくても我慢してたらアタシを諦めないでって言ったじゃんって逆に怒る
2526/01/11(日)22:09:06No.1391635656+
弱者男性の妄想すぎる…
2626/01/11(日)22:11:33No.1391636592+
ほんとに愛しはじめたときにだけ淋しさが訪れるのです
…ということだね?
2726/01/11(日)22:15:59No.1391638364+
「おかえり」って言ってもらうのも隣で一緒に歩くのも好きなCB
2826/01/11(日)22:27:14No.1391642836+
この風来坊キャッツ自由すぎる…
2926/01/11(日)22:31:32No.1391644518+
大人になっても放浪癖は治らないと思う
逆にトレーナーが追いかけてきてプロポーズしてほしい


1768134368071.png