「今日はメロンがセールスになってたんで買ってみました」 と、買い物から戻ってきたサトーが丸々としたメロンをテーブルに置く。 「メロンか、懐かしいな」 独り身になってから、メロンなんて買う機会などなかったギャンの口に笑みが浮かぶ。 「夕飯に生ハムメロンにするのもいいですね~」 「生ハムメロンだあ?」 メロンを撫でながらメニューを考えるサトー、その言葉にギャンの眉がピクリと動いた。 「なんだそりゃ。塩辛い生ハムとメロン合わせてどうすんだ」 「いや、美味しいんですって生ハムメロン」 サトーが反論しても難しい顔したギャンの心は変わらない。彼の中ではすっかり生ハムとメロンは決して嚙み合わない物と決め込んでいた。 「普通に出せよ。生ハムとかじゃなくて」 「一度食べてみてくださいよ」 サトーだってこればかりは引くことはできない。食べたうえで口に合わないならともかく、食べたこともないのに食わず嫌いにより否と言われるのは、到底納得することができなかった。 「何度言われても俺は食わねえからな」 「合いますってこの頑固者!」 「なんだとお!?」 とうとうカチンと来たサトーが声を荒げると、ギャンも眉間にしわを寄せる。 「サラダにリンゴやミカン乗せた時は美味しそうに食べてたじゃないですか!」 「あれはああいうもんだろ!甘酸っぱさがサラダとあうんじゃねえか!」 「生ハムメロンだって同じようなもんです!」 「絶対違うな!」 最早売り言葉に買い言葉。先程の和やかな空気はどこへやら、二人は険しい顔で睨みあう。荒々しくサトーは買い物袋を台所に置くと、リビングのドアノブを掴みながら振り返って怒鳴った。 「もういいです!今日はもう帰ります!」 「おう帰れ帰れ!」 「おかずはハンバーグ用に食材買ってきてありますから、あなた一人で作ってくださいね!」 「なめんじゃねえ!ハンバーグくらい作ってやらあ!」 ******************** サーヴァイン・ヴァーズギルトがトイレに用を足しに離れると、ハナコはスナイプとメトリを手招きして、小声で話し出した。 「ギルってさあ…可愛いわよね」 「「???」」 ハナコの言った意味が咄嗟に理解できず二人を顔を見合わせる。あのギルが可愛い?24時間仏頂面なあの男が可愛い? 「まあまあ聞きなさい貴方たち」 二人の反応を鼻で笑いながらハナコが話を続ける。 「昨日、ギルと二人で喫茶店入ったんだけど」 「おいそれ初耳だぞ俺は」 「黙って聞きなさいスナイプ。…でね、その日はメロンの日とかで、メロンケーキが安くなってたの。もちろん私は頼んだわ。慈悲深い私だから二人分」 「結局お代払うのは彼なのだから慈悲深いのは違うのでは」 「シャラップ、メトリ。…でね。そのケーキはホントに頬が蕩けるくらい美味しかったわ!あっという間に私は食べ終わったの。それでね、ふと気づくとね…」 うっとりとしながら話を続けるハナコの様子に若干引きながらも、二人はハナコの話に聞き入る。 「ケーキを食べるギルの顔ったら!男の子のように集中しながら無心にスプーンをケーキにさしてね!スプーンですくったケーキを目をキラキラさせて見てたの!」 「それでケーキを口に入れた時のギルの表情!あんなに頬が緩んだギルを私は初めて見たわ!」 目を輝かせながらここまで語り続けてたハナコの表情が一転して暗くなる。 「でも、私は気づいた。私はメロンケーキが出来たギルの穏やかな顔を、引き出したことがない。そう思うとケーキが羨ましくて悔しくて…」 ほうっとため息を吐きながら黙り込むハナコに愕然としてスナイプとメトリは顔を再度見合わせる。 (嘘だろ嬢ちゃん…!) (ここまでくると末期患者ですね) 目の前の少女は、恐らく潜在能力ならS級にだって引けをとらない彼女は、なんとメロンケーキに嫉妬し、対抗意識を抱いている! なんという独占欲!なんという向上心か! 「今戻った……どうした?」 「いや、なんというか…頑張れよ旦那」 スナイプとメトリは戻ってきたギルに手を合わせた。ちょっとだけメロンケーキが恨めしかった。 ******************** 近頃は以前のような強い自責の念からの無茶な行動も控えるようになり、資格がないとこれまでは近寄らなかった夫婦の家にも、度々立ち寄ってくれるようになった。 義妹のイザベルが家に立ち寄った時、生憎妻のイザベラが買い物に行ってたため、夫のクリストがイザベルと雑談をしていた時に事件は起こった。 「お義兄ちゃんて胸って好みとかあるの?」 「急に何を言い出すんですか貴方は」 クリストは困惑する。揶揄ってるのかとも思ったがイザベルの表情はいたって真面目で、本心から尋ねてることだけは残念なことにクリストにもわかった。 ごほんっとクリストは咳をひとつする。これくらいで動揺していては聖騎士の沽券にかかわる。これまでも義妹のイザベルに関することや、聖騎士のイザベル、ギル、ゾルデ、ボーリャック、それにマーリン野郎など、様々な人たちの間で奔走してきた自分だ。これくらいの事で動揺してどうすると自身を戒める。 (…聖騎士の皆って問題児ばっかだなあ) クリストはちょっとばかり悲しくなった。 「お義兄ちゃん?」 首を傾げてるイザベルに気づき、慌ててクリストは思考の海から現実に戻る。 「すいませんでした。…一ついいですか?どうして疑問に思ったので?」 「男の人って胸がメロンみたいに大きな女性が好きなんでしょ?この前も直に聞いたよ」 「すいません。どこのどなたですかそのようなこと言ったの」 彼女の口から出てきた言葉は意外な名だった。 「コージンさん。コージン・ミレーンって名で活躍してた人」 「…どのような縁で?」 「私が放浪してた頃、一時期PTに加えてもらってた縁で。あの人「巨乳が嫌いな男はいない。父上も例外ではなかった」って言ってた」 (なにやってんですかあの人は!!!) クリストの脳内で仁王立ちしているレンハートマンホーリーナイトの姿が浮かぶ。脳内に浮かんだ彼にクリストは思い切り「この変態マスク!」と心中で叫んだ。 「で、どうなの」 「え、えーと…」 クリストは必死に脳をフル稼働させていた。何と答えるべきか。彼の出した結論は…。 「い、一般論ですが、た、確かに胸が大きな女性を好まれる殿方は多いと聞きます」 「フーン…じゃあお義兄ちゃんは」 (くッ、逃げきれなかったか) 「ま、まあ普通です。でも一つ言えるのは…」 イザベルの目を見据えてしっかりとクリストは告げる。誤解されないように。 「僕は、イザベラを愛しています!こ、こんなこと言うのは恥しいですが、イザベラの容姿が不満だとかそんなこと思ったことは一度もありません!」 「……そう」 イザベルはクリストから顔を反らすと、玄関口の方に向かって大声で叫んだ。 「だって!良かったねお姉ちゃん!」 「えー!?」 悪戯顔をしながらイザベルが廊下につながるリビングのドアを開けると、そこには真っ赤な顔をして買い物袋を手に立ち尽くす、クリストの妻、イザベラの姿があった。 ******************** レストロイカは休憩室で、お茶の用意を整えてラーバルを待っていた。 数日前、『陛下と二人で雑談をする機会を作れないか』というがあった。彼からめったにそういう誘いはないので、見た目にはわかりづらいが、内心浮き立つ心を抑えかねていた。 約束の時間になり、入室してきたラーバルをレストロイカは出迎える。 「このような時間を作っていただき、誠に」 「普通に喋れ。堅苦しい言葉で雑談などできるか」 「…わかった」 それでいい、とレストロイカは微笑する。テーブルに案内をしようとしたレストロイカは、彼が紙袋を持っているのに気づく。 「その袋は…?」 「はい、正にこれが今回の主題で」 ツカツカとレストロイカの側に寄ると、ラーバルは大切に抱えていた紙袋をレストロイカに差し出す。 「これ、妹のメラニーーからです。あいつの手作りの菓子です」 「メラニー殿、か…」 瞬間、二人の顔にあのお見合い騒動の記憶が蘇る。同時に苦い顔をし、やがて同時に吹き出した。 「なんとも珍妙な時間だったな」 「俺はもう二度と味わいたくないですあんな時間」 そこまで言って話が脱線しかけてることに気づいたラーバルは咳払いを一つすると、話を紙袋の事に戻す。 「メラニーは今コメトレルデに行って修行をしています」 「コメトレルデか…」 米を始めとする様々な農作物の生産が盛んな農業大国であり、大陸の食料の供給源となっている重要な国、コメトレルデ王国。それはサンク・マスグラード帝国にとっても例外ではない。 「アイツは今様々な料理を学んでいるらしく、俺宛てに陛下に是非届けてほしいと」 「そうか…」 興が沸いたレストロイカは自らの手で紙袋を開けると、中に入っていた菓子を見て目を丸くさせる。 「メロンパン?」 「はい、執務で休む時間も少ないであろう陛下には、変に凝ったのよりもこうやって手づかみで食べられる菓子がいいと思うと」 「ふむ」 (なかなか考えてくれているではないか)と口には出さないが、レストロイカは内心メラニーの選択に感心していた。確かに多忙な彼にとっては高価な菓子よりも手軽に食べられるパンの方がありがたいし、メロンパンというのもレストロイカのような立場の者にとってはかえって新鮮だった。 「感謝していたと、伝えてくれ」 「できたら、感想の方も、味に問題はなかったか、命に代えても聞いてこい、と妹から厳命を受けてまして」 「こいつめ」  笑いながら上機嫌でレストロイカは紙袋からメロンパンを一つ取り出した。