11:24:プレイヤー:ログをクリアしました
17:19:スカーレット:風呂場に来ればやることはまずお湯を身体にかけて汗を流し、そして洗剤を泡立てて身を清めることである。
17:20:スカーレット:しっかりと──あるいは執拗と評する者もいるかもしれないくらいには、ごしごしと洗い続ける。
17:21:“名無し《ラセリア》”:その時、浴室の仕切り布をくぐる衣擦れの音と共にもうひとり客が訪れた。
17:22:“名無し《ラセリア》”:大きな鏡なんて高級なもの、どこの邸宅にもあるものではないが……この豪邸の浴室には姿見が一枚置かれている。
17:22:スカーレット:時期にやってくることは分かっているため、気にせず洗い続けている。
17:23:“名無し《ラセリア》”:そこに映っている自分の姿をちらりと見てから、改めて丹念に体を洗っているスカーレットを見つめた。
17:24:“名無し《ラセリア》”:────本当に特徴がよく似ている。こんなことは初めてだ。
自分の遠い遠い祖先がかつて海沿いにいたエルフが移り住んだものだった、と聞いたことはあるが……。
17:24:“名無し《ラセリア》”:あるいは、その血筋が一緒なのかもしれないと。そう結論づけた。
17:25:“名無し《ラセリア》”:隣りの椅子に腰掛ける。スカーレットは熱心に身体を擦っていてこちらを見ようともしないので、それをいいことにじっと観察した。
17:26:スカーレット:しばらくそうして。
17:27:スカーレット:「洗わないの?ラセリア」
ひと段落したあたりで声を掛けた。別に──見られて困るものも、見ていて面白いものもないはずだが。
17:27:“名無し《ラセリア》”:「ああ………いや、そうだな。洗おう」
17:28:“名無し《ラセリア》”:すごい。石鹸さえある。ハーヴェスの大浴場でも有料なのに。これがユーシズの金持ちか。 (編集済)
17:29:“名無し《ラセリア》”:といっても、汚れたのは主に剥ぎ取りの時に手が血に塗れたくらい。あとは汗をかいた程度で、スカーレットのように重装だったわけでもない。
17:30:“名無し《ラセリア》”:まあ、身体を流すだけでなく石鹸を自由に使える機会というのもそうあることではないので。この機に全身を清めていく。
17:31:“名無し《ラセリア》”:───自分とよく似たエルフというのがあんまりにも珍しいものだからついついしげしげと見入ってしまった。身体を洗いながら反省した。
17:31:スカーレット:ちなみに──スカーレットは石鹸を常備している。財政を圧迫してはいるが、汗の臭いがどうしても気になってしまう。
17:32:“名無し《ラセリア》”:高いのに。えらい。
17:33:“名無し《ラセリア》”:自分を洗っているとスカーレットへの注意が逸れ、先程のスカーレットのように熱心になった。
17:34:スカーレット:最後に長い髪に泡を纏わせて──隣の長い髪が目に入った。
自分より、少しだけ長いだろうか。
17:34:スカーレット:インナーカラーが入っているところを除けば──よく、似ている。
17:36:スカーレット:肌の色も改めて見比べてみて、肌を合わせてみれば全く同じに見えそうだなとも思った。くっつけることは、しないけれど。
17:36:“名無し《ラセリア》”:……ただ、髪の内側に色が入っている───というだけではなかった。不意に揺れるときらきらと微かに光っている。 (編集済)
17:36:“名無し《ラセリア》”:そして下腹のあたりに同じ色の入れ墨も入っていた。特に隠すこともなく、名無しのエルフは体を洗い続けている。
17:37:スカーレット:「──?」
流石に、気になった。
17:38:スカーレット:「あの、ラセリア?」
おずおずと、もしかしたら聞いて欲しくないものかもと思いながら。 (編集済)
17:38:“名無し《ラセリア》”:「うん?」
17:39:スカーレット:「髪、キラキラしてるの、何……?」
17:40:“名無し《ラセリア》”:「ん。ああ………これか」
指摘されても特に動揺の色はない。ごく当たり前の特徴について答えるように、「呪詛の影響だ」と語った。
17:41:スカーレット:「──ごめん」
伏し目がちになって、髪の泡を急いで洗い流した。
17:42:“名無し《ラセリア》”:「別に謝ることはない。隠しようのないものだし、それをお前が指摘するのも分からないことではない」
17:42:“名無し《ラセリア》”:「過去にいろいろあってな」
17:43:“名無し《ラセリア》”:「この身は呪いでがんじがらめだ。肌は露出させていないと極端に身体が鈍るし、他にも……まあ、いろいろだ」
17:44:スカーレット:「やっぱり、ごめん」
逃げるように、湯船へと入った。
17:44:“名無し《ラセリア》”:「………………………」
素早く去っていったその背中を見送ってから、桶を手にとって自分の身体に付着した泡を流した。
17:45:“名無し《ラセリア》”:やがて、黙って自分も湯船に向かう。スカーレットからは少し離れたところで身体を湯に鎮めた。
17:46:“名無し《ラセリア》”:少しの間、黙っていた。戸惑いや迷いの感じられる沈黙だった。ややあって唇を開く。
17:46:“名無し《ラセリア》”:「すまない。気に障ることだったか」
17:47:スカーレット:「私は……」
17:48:スカーレット:「辛い過去を、言わせてしまった、から。想い起させてしまったから」
17:48:スカーレット:「だから、ごめんなさい」
17:48:“名無し《ラセリア》”:「気にすることはない。辛い過去でないかといえば違うが、とうに終わってしまったことだ」
17:49:“名無し《ラセリア》”:「思い出したところでもう何も感じない。………あ、いや」
17:49:“名無し《ラセリア》”:「ひとつ、心の棘となっていることはあるが。少なくとも私自身が被ったことについてはどうでもいいことだ、もう」
17:51:スカーレット:「……嘘だ」
ぼそりと呟いた。
17:51:“名無し《ラセリア》”:「そうかな」
17:51:スカーレット:「寂しいって、共感してくれた人が。何も感じないなんて嘘」
17:52:“名無し《ラセリア》”:「それは今だから、だ。こんな私のことを気にかけてくれる者がいた。彼らから受け取った感情で私の心は動いているようなものだ」
17:53:“名無し《ラセリア》”:「ありがたいことだ。この身には余るほどに」
17:53:“名無し《ラセリア》”:そう言って遠い目をした後で、名無しのエルフはまた微笑んだ。時々浮かべるあの透き通った哀しさと優しさが同居する笑顔。
17:54:“名無し《ラセリア》”:「………お前も気にかけてくれるのだな。今日の朝早くにギルド会館で会ったばかりなのに」 (編集済)
17:54:スカーレット:「だったら、やっぱり、私は謝らないといけない」
17:54:スカーレット:「かつての苦しんでいたあなたに」
17:55:スカーレット:「あなたは、もう、擦り切れてしまったみたいだけど。確かに苦しんでいたのなら」
17:55:スカーレット:「ごめんなさい。言いたくもないであろうことを言わせてしまって」 (編集済)
17:56:“名無し《ラセリア》”:「────優しい子だ」
17:56:“名無し《ラセリア》”:「スカーレット。お前は人の痛みの分かる、優しい子だ。不思議だが、お前がそうであることが私はとても嬉しい」
17:57:スカーレット:それには怪訝な表情になる。一体何が嬉しいというのか。
「なに……それ」
17:57:“名無し《ラセリア》”:「分からない。分からないが胸が温かい。欠けたはずの部分が温もりを帯びている気がする」
17:57:“名無し《ラセリア》”:「………もう少し傍に行ってもいいか?」
17:59:スカーレット:傍に。どれくらいだろう。肌が触れるほどの距離を耐えられるのは流石にまだセレスだけだ。けれど。
「──いいよ」
あなたに欠けてしまったものが取り戻せるのなら。
17:59:スカーレット:私はこの身を捧げなければ。
18:00:“名無し《ラセリア》”:許可をもらってから、湯船の中で身体を滑らせてスカーレットの近くに寄ってきた。人ひとりぶんくらい離れたところで隣に座る。
18:01:スカーレット:「いいの?」
そこで。
18:02:“名無し《ラセリア》”:「いい。視線の配り方や身動ぎを見れば分かるよ。お前は寸鉄も帯びてない時にこうして近寄られるのは苦手だろう」
18:02:“名無し《ラセリア》”:「だからここでいい」
18:03:スカーレット:見抜かれている。それは気を遣って貰っているということだ。
18:03:スカーレット:だから近付いた。それは彼女の望む距離ではないということだ。行かなければ。
18:04:“名無し《ラセリア》”:スカーレットが動き出そうとしたところで───ふと、顔をスカーレットの方に向けて微笑む。
18:04:“名無し《ラセリア》”:「いいんだ」
18:05:“名無し《ラセリア》”:「これがいい。大丈夫だよ、スカーレット」
18:06:スカーレット:「──────」
あなたは私に優しいと言ってくれたけれど、それはあなたの方ではないのか。
18:06:スカーレット:きっと、私の動きから私の心も読んでしまったのだろう、あなたは。 (編集済)
18:07:スカーレット:だから。
18:07:スカーレット:「私が、良くない!」
18:08:スカーレット:叫んで、勢いのままで肩と肩が触れ合う距離まで近づいた。怖くて身体が震えて肩と肩がぶつかる。
18:08:“名無し《ラセリア》”:急な大きな声、そしてざぶざぶと湯船をかき分けてそばまで寄ってきたこと。あまり豊かではない表情へ微かに驚きの色を滲ませる。
18:09:“名無し《ラセリア》”:「そうか」
18:10:スカーレット:「欠けてしまったところが少しでも取り戻せるのなら」
18:10:スカーレット:「あなたは取り戻さないと」
18:10:スカーレット:「駄目だよ。そんなところで優しくなんてしたら。もっと、強欲にならないと」
18:11:“名無し《ラセリア》”:「だがスカーレット。これはお前がお前にとって優しくないことだ。違うか……?」
18:12:スカーレット:「それが、何?」
18:12:スカーレット:「ラセリアが失ったものを取り戻せないほうがずっと嫌!」
18:12:“名無し《ラセリア》”:「そうか……」
18:13:スカーレット:「怖いけど、優しくないことだけど。でもこれで欠けたりなんか私はしない」
18:14:“名無し《ラセリア》”:「だが、私はお前の自分をまるで削り出して分け与えるようにする優しさの形が……寂しいな……」
18:14:スカーレット:「う”」
18:15:スカーレット:「──あ」
まずい。やっちゃった。これセレスが他の人にやらないでって言ってたやつ。勢いに任せて忘れてしまっていた。
18:16:スカーレット:いや──しかし。けれどここまでやってしまったのに途中で止める方がどうなのだろう。
18:17:“名無し《ラセリア》”:スカーレットの葛藤を知ってか知らずか、名無しのエルフはずっと微笑んでいる。まるでスカーレットの中のいろんなものを見抜いて、それを受け入れるように。
18:17:“名無し《ラセリア》”:「いいんだ。お前が自分を切り出して与える優しさはきっとお前の血が滲んでいて、私は困ってしまう」
18:18:スカーレット:「でも──それでしか救えない心もあると、私は学んだ」
18:18:スカーレット:「私のこの姿は、きっと多くの人から愚かと言われるものだろうけど」
18:19:“名無し《ラセリア》”:「いや、逆だ。それでは救えないものもあるんだ」
18:19:“名無し《ラセリア》”:「もしそれでしか救えないものがあるのだとしたら、その手段を取る時を間違えてはいけない」
18:19:“名無し《ラセリア》”:「今がそうだ。少しずつ、お前が自分を刻まなくても与えてくれるくらいの優しさでいいんだ」
18:21:“名無し《ラセリア》”:「自分を切り刻み、その肉を差し出さなければ救えないものなどそうあることではない。だが無いわけではない。お前はその機会を誤らなければいい」
18:22:スカーレット:「私は──」
18:22:スカーレット:「選べない」
18:23:スカーレット:「手が届くのだと思ったら、伸ばさずにはいられない。伸ばす先にあるものが、剣山だと分かっていても」
18:23:“名無し《ラセリア》”:「構わない」
18:23:“名無し《ラセリア》”:「それがお前の優しさの形なら」
18:24:スカーレット:「だから、それがラセリアにとって迷惑でも」
18:24:スカーレット:「私は手を伸ばす」
18:24:“名無し《ラセリア》”:「構わない」
18:25:スカーレット:「何度だって、私は私の身を刻む」
18:25:スカーレット:「そうしないと、私の大事な部分が折れてしまう」
18:25:スカーレット:「もう──立てなくなってしまう」
18:26:“名無し《ラセリア》”:「ああ。構わない」
18:26:“名無し《ラセリア》”:「だから私はこう答える。これでいいんだ。今こうしているのが一番落ち着いていて、救われている気がする」
18:27:“名無し《ラセリア》”:「お前が無理をしすぎない方が快い。手を伸ばすなと言ってるじゃない。伸ばしすぎないでほしいというんだ」
18:29:スカーレット:肩口を合わせた。震える身体を湯船の中で手をぎゅっと握って制しようとする。 (編集済)
18:29:“名無し《ラセリア》”:「手を」
18:29:“名無し《ラセリア》”:「ほら。手を出して」
18:30:スカーレット:「……うん」
18:30:スカーレット:小刻みに震える手を、ラセリアの前に差し出す。
18:30:“名無し《ラセリア》”:差し出された少し震えている手を優しく手にとって握った。そうして、無理にスカーレットが近づいたぶんの距離をほんの少しだけ離す。
18:30:“名無し《ラセリア》”:「………うん。これでいい」
18:31:“名無し《ラセリア》”:「思ったより小さな手だ。こんな手であんな無骨な武器を握っていたとは思えないほど」
18:31:スカーレット:「うん」
18:32:スカーレット:「よく──言われた」
不思議と、握られた手は震えなかった。
18:32:“名無し《ラセリア》”:「そうか」
18:32:“名無し《ラセリア》”:「もう少しだけ湯に浸かっていよう。その間、こうしていて構わないか?」
18:33:スカーレット:「うん、いいよ」
18:33:“名無し《ラセリア》”:「そうか」
18:33:スカーレット:「ねえ、ラセリア。聞いて良い?」
18:33:“名無し《ラセリア》”:「うん」
18:33:スカーレット:「あなたに刺さった棘って……何?」
18:33:スカーレット:「さっき、一つあるって」
18:34:“名無し《ラセリア》”:「────それは、まだ内緒だ」
18:34:スカーレット:「……なんで」
18:34:“名無し《ラセリア》”:「とても」
18:34:“名無し《ラセリア》”:「とても辛いことだったろうから」
18:35:“名無し《ラセリア》”:「以前は平然と口にしていたのだが、それはやめた」
18:36:“名無し《ラセリア》”:「今、私がお前に言ったように。私が他の者からもっと自分を大切にしてほしいと請われた。その時に決めた」
18:37:“名無し《ラセリア》”:「もし私が自分を大切にしようとするなら、それは忘れてはいけない傷跡のはずだと。傷の痛みも覚えていないのにな」
18:37:スカーレット:「それは、忘れたんじゃないよ、きっと」
18:37:“名無し《ラセリア》”:「そうかな」
18:38:スカーレット:「痛すぎて、痛みだと思わなくなったんだと思う」
18:38:“名無し《ラセリア》”:「そうかな。そうかもしれないな」
18:38:スカーレット:「だから、もう聞かない」
18:39:スカーレット:「けれど、いつか教えて?私は、力になりたいから」
18:39:スカーレット:「ラセリアの欠けたものを取り戻すために」
18:39:“名無し《ラセリア》”:「そうか。分かった」
18:39:“名無し《ラセリア》”:「────ありがとう」
18:39:“名無し《ラセリア》”:それきり名無しのエルフは湯船から上がるまでずっと黙っていた。
18:40:スカーレット:「ううん、違うよ。お礼を言うのは私の方」
18:40:スカーレット:「私があなたを手助けすることを、赦してくれてありがとう」 (編集済)
18:41:スカーレット:言って、目と口を閉じた。握られた手の温度を、確かめるように。