「…の皆さん、ありがとうございました!続いてのグループは、4th TP Squadronの…」 紅白歌合戦がシンセ声帯による全楽器アカペラ歌合戦と化したのももう何年も前のこと。人間が歌う価値が暴落するとして歌文化の衰退が危惧されたのとは裏腹に、こうした歌番組は、今ではむしろその『演奏』技術を比べる場として以前にも増して隆盛を極めている……という歴史は皆さんご存知だけれども、その実一番盛り上がるのはナマの声帯で殴り込む猛者の回という事実は、人類はまだまだその有機的ルーツを捨てる気はないという証左なのかもしれない 「なーんて、時間と魔力さえあればいくらでも生身の部分を回復できるわたしたちが言うのも変な話ですけどね」 などと独り言を呟きながら、これまた人類が生身に縋り付くこと証拠の1つ、バイオ培養サシミソバを持ってリビングへ 「はい、今年の年越しそばだよほむらちゃん」 「……本当に、刺身が動いているのね」 「ただの培養だと食感が再現しきれないとかなんとかで単独で動いて筋肉自身に成長させるようにしたら、ついでに踊り食いもできちゃったそうです」 まぁここ2、3年の流行りなんですが、と補足してようやく表情から不安の色が消えたほむらちゃんは、意を決してサーモン系培養肉にかぶりつく! 「……おいしい」 「でしょう?」 「ごちそうさまでした」 「お粗末様でした」 「……ところで、巴マミやあの子は来ないのね」 「まぁ、マミさんも馬木ちゃんも消化器系が違うからね……」 わたしとほむらちゃん、ついでにあんこちゃん辺りは消化器系が生身相当ですが、このサイバネ社会では消化器系の一部、それか全部が簡略化されているという人も先の2人含め少なくありません。 「易消化酵素ペーストを練り込んだお餅とか消化支援ナノマシン入りのお蕎麦とか、いわゆるサイバネ食にするつもりだったんだけど、みんな遠慮しちゃって」 別に生身の内臓だってそっちも食べれるんだし、そんなに遠慮しなくてもよかったのに、と続けると、意外そうな顔でほむらちゃんが 「サイボーグも意外と不便なのね」 「その分電解液の補充とかバッテリーの充電とか、その辺の面倒をご飯と一緒に済ませられるってメリットもあるから、どっちが不便かは人によるかも?」 「ああ、それがあったわね……」 「ちなみに両対応モデルもあるんだけど、そっちは値が張るし改装手術がまだ保険適応外なので……」 「意外と世知辛いのね」 「ええ、来年の目標です」 // 「年末年始、逆除夜の鐘にやり残し、お賽銭に初詣のお願い、まさに書き入れ時ですねぇ!」 欲望の現人神として在るわたしにとって、こうしたイベントは何時にもまして見逃せない稼ぎ時であり、同時に加護を振り撒き散らかす使命を果たす大切なタイミングでもあります。 「そーれっ!」 かつての除夜の鐘とは逆に聞くものに108の煩悩を呼び覚ます逆除夜の鐘を交代で突き鳴らしつつ、今年やり残したことを書いてもらった短冊を焼く、慌てん坊のどんど焼きを進めます。 「『来年こそはダイエット成功』、『管内のラーメン店全制覇』、『全国大会優勝』、『あの人とお近づきに』うーん、どれも素晴らしいです。叶うと良いですね、応援してます……よっと!」 成就を願う儀式という名目ですが、実は書いた欲望を拡散してより多くの人々が似たような欲望を抱えるという意図的な副作用があったりします。 「神様!教会から『神社ばかりズルい』と苦情が!」 「クリスマスにミサやったでしょうが!あーもう、少し待つように伝えなさい!」 各宗教にそれぞれの原型を持たせつつ統合したせいで細かいところはシッチャカメッチャカになってますが、神事で仏に仕えたりその逆だったりは歴史上割と見られたのでこれもそんな感じです。多分! 「23:55辺りには戻ります!それまで神主と巫女を中心に前動続行!」 指示を残してPsiジャンプ、教会上空へ転移します 「いやはや、全く……」 「遠隔操作出来るサブの身体とは便利なものですね」 「本当、欲望に忠実なんだから、貴方は……」 てんてこ舞い舞いキリキリ舞い、師走の字のごとくあちこちを飛び回るわたしは分身の1つ、言ってみればゲームのプレイヤーキャラクターみたいなものです 「労働は外部化して本体はダラダラ過ごす。人間の最大にして根源たる欲望の1つ、七大美徳のⅣこと怠惰を欲望の神様が否定しちゃいけませんよ」 手を動かすのも面倒な気分なので、サイコキネシスでみかんを持ち上げ、皮を剥いで房ごとに分解、1個ずつ口へ放り込んで至福の味を堪能します。うーん、こたつとみかんの組み合わせは最高ですね。 「自分のところに来てるのが偽物ってあの人達にバレたら、貴方どうなるのかしらね?」 「この時期に限って言えば、わたし本体が現地に行くのとほむらちゃんの本体がここに来るのと、割と似たような事態になると思うんだよね」 言うなれば分霊的な存在ですから、別に偽物ってわけでもないですしね 「……まぁ、貴方本体が一緒に居てくれる事自体は嬉しいのだけれど」 そういってわたしに手を伸ばす、わたしの10倍はあろうかという大きなほむらちゃん(悪魔)の指先が優しく撫でるこの感触が、わたしはたまらなく好きなのです // (プレースホルダー) // 「新年、明けましておめでとうございます。未だ浅学非才な未熟者ですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします」 「……なんで鏡に向かって挨拶してるのかしら。わざわざ振袖まで着て」 「何故って、まぁまだ未婚ですし、それにほら、鏡って昔から異界に繋がる窓みたいな扱いをされることが多々あるじゃないですか」 あとまぁ、鏡に映せば他のわたしからも見えますし 「まぁ、それは別に良い?のだけれど……良いのかしらね?こんなふうに、のんびり過ごしても」 「もちろんダメですよ?本当なら。でもまぁ、このタイミングなら大丈夫だったりします。ちょっと前の大規模掃討作戦が功を奏したみたいで」 それに魔女が求めるのは絶望に突き落としやすい環境、年末年始で浮かれている人が多い今は、魔女にとっても飯の種が少ない時期と言えます 「なら、まぁ良いのだけれど」 「それにまぁ……」 よいしょ、と立ち上がり、わたしの魔法少女衣装たるプロテクターを展開、端末を操作して出撃用パッケージを用意させる 「こうして即応出来るのなら、サボっていることにはならないかと」 「まぁ、そのとおりかしらね」 彼女もまた、わたしと同じく準備を整える よし、ストーブはオフ、暖房も設定温度は下げた。これで出撃準備は万全です 「さぁ行きましょう、マミさん!」 「えぇ、みんなのしあわせのために、魔女のせいで起きる被害を少しでも減らすために」 「それからわたしのともだちのために、その子のともだちのために、」 そして…… 「魔法少女の、解放のために」 「まだまだ頑張らなくちゃ、ですもんね」 // 『魔法少女まどか☆マギカ外伝マギア☆レコード』編 Coming S∞n™