二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1767192306711.png-(133747 B)
133747 B25/12/31(水)23:45:06No.1388273482+ 00:45頃消えます
「おはよう」
どんな挨拶よりも爽やかなこの言葉を、最近までアタシはあまり言う機会がなかった。
入学と同時に始めた一人暮らしは気ままで気に入っているのだが、起きてすぐおはようを言う相手がいないのは寂しいことだ。
でも、今日は違う。朝日が射し込む部屋の片隅には、きみがまだ眠たそうに目を擦っている。
「ふふっ、いい朝だね」
「そうだな。おはよう、シービー」
少し蕩けた、けれど優しい笑顔できみがおはようと言ってくれたとき、今日もきっといい日になるという確信が、アタシの心に自然と浮かんできた。
125/12/31(水)23:45:38No.1388273818+
レースが近いからしっかり話しておきたいと言ってきみをアタシの家に上げたけれど、本当はただこうして同じ朝を迎えたかっただけなのかもしれない。
アタシもきみもこれから家を出れば、たくさんの人におはよう、と言うのだろう。でも、今日のきみの最初のおはようは、アタシだけのものだ。

少し肌寒い季節だけれど、窓を開けて朝の空気をめいっぱい吸い込む。それと一緒にきみが焼いてくれる玉子焼きのいい匂いが鼻に入ってくると、今日はどんな楽しいことができるかな、と、新しい一日に向かってスキップがしたくなる。
225/12/31(水)23:46:27No.1388274293+
おはよう。
お日さまの匂いがする、まっさらでみずみずしい言葉。
これから来る一日へ駆けてゆくための、真新しい希望の言葉。
これからきみと、何度この言葉を言い合えるのかな。
それを数えていると、アタシはそれが幸福の数え唄のような気がするのだった。
325/12/31(水)23:46:45No.1388274482+
「いってらっしゃい」
コースに向かう背中に渡されるその言葉は、走る前の身体にひとときの安らぎを与えてくれる。
走ることはいつだって楽しい。だが、走り出す前まで楽しみになったのは、この言葉のおかげかもしれない。
「この間もエースと走ったんだろう?どうだった」
彼のいいところは、指導するときも上から教えるという雰囲気を出さないことだ。朝出かける前に少し他愛もない話をするようにレースのことを話す彼の在り方は、実にアタシの性に合う。
走ることは、息をするのと同じことだ。身構えも気負いもせず、ごく自然に始まって終わるのがいい。
「うん。久しぶりだったからびっくりしたよ。あんなに上手に逃げるようになってるなんて思ってなくて。
あとちょっとで届かなくなっちゃうかもって思った」
425/12/31(水)23:48:03No.1388275290+
だから、危機感で追い立てられるように頑張る、というのは、どうにもアタシにはそぐわない。もっと速く走りたいと思わせてくれる相手がいるから、その背中を追いかけるように脚が動く。
そういうマイペースな頑張り方も肯定してくれるひとを見つけるのには、随分時間がかかったけれど。
彼女は強い。今日は追いつけないかもしれない。
でも、だからこそアタシの脚は、引き合うように強く駆け出してゆく。旅路の果てが遠ければ遠いほど、辿り着くまでの景色は彩りを増してゆくから。
525/12/31(水)23:48:18No.1388275474+
アタシは幸せ者だ。
一緒に走ることが何よりも楽しい、かけがえのない友達がいる。
「勝ちたいな」
「うん。誰よりもアタシらしく走って、それで勝ちたい」
──それに、アタシと同じ景色をいつまでも夢見てくれる、大切な相棒がいる。

アタシがアタシのままでいながら走ることを許してくれたきみのまなざしを見ていると、初めて自分の脚で大地を強く踏みしめた日のことを思い出すような気がする。
625/12/31(水)23:48:33No.1388275582+
いってらっしゃい。
アタシときみが同じ夢を見ていると、確かめさせてくれる言葉。
アタシがアタシであることを、何よりも支えてくれる言葉。
きみと一緒に青い草原に駆け出すことはできないけれど、代わりにアタシはいつもこの言葉を持っていく。
きみの夢と一緒に走ってるんだって、いつでも思い出せるように。
725/12/31(水)23:49:57No.1388276532+
走り終わった後に芝の上に寝転ぶと、大地が疲れた体をまるごと抱きとめてくれているような気分になれる。
「エースはさ、どんなときにありがとうって言う?」
さっきまで全力で競い合っていた友人は、こちらの何の脈絡もない質問にも真剣に応対してくれる。そんな彼女が隣に寝転んで目が合うと、うれしくなってつい笑みが溢れた。
「んー…やっぱり何かをもらったときじゃないか?形に残るものでも、残らないものでも。
物を贈ってもらったり、親切にしてもらったりとか」
実に真っ当な答えだ。面倒見がよく周りのひとからも信頼されている彼女は、ありがとうと言う機会も言われる機会も多いに違いない。
そういう彼女は、アタシが一番知りたいことにも答えてくれるのではないだろうか。
「…じゃあさ。ありがとうって言いたいなって、心の底から思ったことはある?」
825/12/31(水)23:50:16No.1388276739+
心の奥のやわらかい部分に触れられたように彼女が黙って頷いたとき、彼女がアタシと同じことを考えているのだとわかった。
ありがとうという言葉は、時々ひとりでに出てくることがある。そういうときの「ありがとう」がどうして出てくるのか、アタシはずっと知りたかったのだ。
「アタシはさ、今がいちばん幸せだって感じてるときがそうだと思うんだ」
両手いっぱいに幸せが溢れて抱えきれないから、大切なひとと分かち合いたい。
そういうときに出る言葉が、ありがとうという言葉だと思う。
925/12/31(水)23:50:33No.1388276940+
「ありがとう。エース」
「──ああ。あたしこそありがとう」
彼女が、何に、とは言わなかったのが嬉しかった。言いたくても言い尽くせないということが、きっと彼女には分かっているからだ。

大地を撫でる風が気持ちよくて、汗が引いたあともしばらく芝の上に寝転んでいた。
「わ。ふふふっ」
見上げていた夕焼け空が、急に一面真っ白に染め上げられる。額に被せられたタオルを持ち上げると、隣に座って愉快そうに笑う彼の顔が見えた。
「トレーナー」
「ん?」
「ありがとう。
そう言いたい気分なんだ」
1025/12/31(水)23:50:50No.1388277191+
答える代わりに何も言わずに頭を撫でてくれたきみの手の感触を、アタシはずっと忘れないだろう。
ありがとう。
大切なひとと幸せを分かち合う、あたたかな言葉。
冬の日に繋ぐ手のように、心の温度をじんわりと伝える言葉。
アタシの心は、今どのくらい温かいだろう。
ほんのりと赤いきみの頬を見ると、それがわかる気がした。
1125/12/31(水)23:51:13No.1388277487+
さよならという言葉は、アタシが知っているいちばん綺麗な言葉だ。それが人生の全てなのだと唄った詩人の心も、ほんの少しだけわかる気がする。
でも、そのほろ苦さと向き合うためには、アタシはきっとまだ幼すぎるのだ。だからアタシはさよならの代わりに、またねという言葉を使うようにしている。
「またね、エース」
「おう、また明日な」
大切なひととはきっとまた会えるという希望を、ほんの少し持っていたいのだ。口にすると切なくなる言葉は、アタシにはまだ使いこなせそうにない。
言葉を作った人間の身勝手なのかもしれないが、言葉はいつでも少しだけ希望を運ぶものであってほしい。
「またね、トレーナー」
「ああ。気をつけて帰るんだぞ」
1225/12/31(水)23:51:51No.1388277967+
葉が落ちた裸の梢はなんだか少しさみしい。それを見ていると、別れの思い出ばかり浮かんでくる。
いつかアタシも、さよならが似合う大人になるのだろうか。人生への達観と、それでも割り切れないほんの少しの寂しさという化粧は、大人にしか似合わない。
「…ふふっ」
でも、さよならが言えない今の子供の自分も、アタシは嫌いじゃない。
またねと言うことさえさえもどかしいひとができるのが、こんなに幸せだなんて知らなかったから。

帰り道を反対に駆けていく足取りは、さっきよりもずっと軽い。
一度決めたことをひっくり返すのは、どうしていつもこんなに楽しいんだろう。寄り道をしたはずなのに、初めからそうしているよりずっと、この道を選んでよかったと思える。
「こんばんは」
追いついたきみの大きな背中に、その言葉が吸い込まれていく。
1325/12/31(水)23:52:07No.1388278068+
アタシがわがままを言うと、きみはいつも困ったように優しく笑う。そんな笑顔がどうしようもなく好きだから、アタシはもっと悪い子になっちゃうんだよと、ぜんぶきみのせいにしたくなってしまう。
「さっき『またね』って言ったじゃん」
「うん。でも、また明日とは言ってないもん。いつまた会うかは、アタシが決めていいってことでしょ?」

背中に抱きついて甘えながら頭を撫でられていると、やっぱりアタシはまだ子供なのだなと実感する。
「今日はやっぱり、きみと一緒にいたいな」
でも、そんな子供の上目遣いで顔を赤らめるきみとアタシは、きっとお似合いだ。
1425/12/31(水)23:52:39No.1388278386+
寝室に入ってきたきみは、ちょっと困ったように笑っている。
当然だろう。今アタシが布団にくるまって堂々と寝転がっているのは、きみのベッドなのだから。

昨日はアタシの家で、今日はきみの家。
こうやってお互いの家を行き来するようになって随分と経つ。だから今のアタシに、来客用の布団があるとか、俺はソファーで寝るからとか、そういう言い訳は通じないこともわかっているはずだ。

きみと一緒にいたいって言ったよね。
アタシの欲しいものは、もう決まってるんだ。
1525/12/31(水)23:53:00No.1388278646+
観念したようにくすりと息を漏らして、捲り上げられた布団の隙間からきみが入ってくる。すかさずアタシは手を伸ばして、もう離さないようにがっちりときみを腕の中に捕まえる。

おやすみ。
アタシが知っている、いちばんやわらかくて優しい言葉。
またきみと一緒に過ごせますようにと、祈りを捧げるやすらぎの言葉。
「おやすみ、シービー」
それをきみと交わし合いながら一日が終わるのは、なんと幸せなことだろう。
1625/12/31(水)23:53:17No.1388278851+
きみの優しさで、心があたたかく満たされてゆく。アタシがいちばん好きな言葉も、一緒に添えて。
「…ここに来てくれて、一緒にいようって言ってくれてありがとう。
…大好き」
──ああ、やっとだ。
やっといちばん欲しかった言葉を、きみが言ってくれた。

きみを抱きしめたまま胸に顔を埋めて、きみの匂いをめいっぱい吸い込む。
「おやすみ。
ありがとう。アタシも大好き」
幸せな言葉には、幸せな言葉で返さなくては。
1725/12/31(水)23:53:29No.1388279004+
地球の上には、いったいどれだけの言葉があるんだろう。
そのぜんぶを完璧に覚えるのは無理かもしれないけれど、ひとつだけ知りたい言葉がある。
世界中の「愛してる」を、ぜんぶきみと言い合ってみたい。
──どれだけきみのことが好きか伝えるには、それでも少し足りないかもしれないけれど。
1825/12/31(水)23:54:18No.1388279551+
おわり
おはようからおやすみまでシービーと一緒にいたいだけの人生だった
今年もお疲れ様でした 拙作まとめておきます
CB fu6106678.txt
アヤベ fu6106681.txt
スティル fu6106683.txt
ドリジャ fu6106685.txt
ブーケ fu6106686.txt
1925/12/31(水)23:56:44No.1388281025+
わがまま風来坊キャッツ!
2025/12/31(水)23:58:53No.1388282306+
CB以外も書いてたのか…
2126/01/01(木)00:01:17No.1388284656+
大人で子供なCBいいよね
2226/01/01(木)00:11:21No.1388290310+
年明けからイチャイチャしおって…
2326/01/01(木)00:13:37No.1388291381+
朝目を開けてトレーナーがそこにいることが当たり前のはずなのにうれしくて仕方ないしびちゃん
2426/01/01(木)00:19:07No.1388293905+
2つ家を行ったり来たりするのが楽しいから同棲してないだけですよね?


fu6106683.txt fu6106678.txt fu6106681.txt fu6106686.txt fu6106685.txt 1767192306711.png