ロクサット主義合衆国連盟一般男性とわし パロディがあったりなかったり…… 01 「見て……おじさんの平滑空間」 通勤の最中に何でこんなのを見なければいけないのじゃ? 朝っぱらから何なんじゃ?と呟こうと思っても、閉口した口を開けるのには苦労が要った。 「そのコートの前閉じてほしいのじゃ……」 ここは条理空間じゃ。服を着るという法則に支配されているのじゃぞッ?と言おうと思ってて。 「おじさんはね……哲学科を出てからずっと仕事が無いんだよ、もうホームレスなんだ」 「落ち着いて欲しいのじゃ、服着て……」 「どうすればよかったと思う?ねえ、どうすればよかったと思う?おじさんは……」 「……どうすればよかったんだッ!」飛び掛かってきた。 「あッ!」警棒を振り下ろした。 わしにどうしろと言うんじゃ。どうすればよかったんじゃ? わしは、わしは…… 02 新しい朝が来た。 別に特に希望があるわけでもない朝が来たのじゃ。 「おじさんは反出生主義おじさんだよ」 出た。拡声器を抱えたおっさんが交差点に立っている。 「今君達が体験しているこの気分は、まさに生誕そのものが原因なんだね」 クラクションが鳴り、シャッター音が鳴る。 「おめーが通勤経路に立って渋滞を起こしてッからだろッ!」 はい。 お構いなしに演説は続いている。わしは茫然としていたが、ふと自分の職務を思い出して歩き出した。 「おじさんはこうして言葉を話すことは出来るけど、言葉なんて誰にでも言えることなんだ」 おっさんは片手をおろした。 「なので今ここで素手での去勢を敢行します……ぐああああっ!!!!ぐああああああっ!!!!」 や、やめるのじゃッ。やめるのじゃッ! もうわしこの仕事やめたい。 03 「うわああああ!」 衛星都市の街中を、患者衣を着たオッサンが走っていた。 「止まれ!止まるのじゃ!」わしはチャカをいつでも抜けるが、丸腰の人間には無理だ。比例原則がある。 「ハァハァ、良かった!おじさんは最終生命が作ったUL-SD実験用人形の一人なんだ!助けてください!」 「スキャンダルはおぬしがとんでもない格好で街中に出ていい理由じゃない!パンツ履けよ!」 NFCで製造IDが送られてきたとき、わしはあっと呟いた。 彼は本物なんだ。 「お願いだ!おじさんはあんな……全身が膨れ上がって爆発する軍用生物化学兵器の試験を何度も受けたくない!」 「あー、OK、落ち着くのじゃ、落ち着いて……とにかく、こっちでも上に掛け合ってみるから……」 「……君は脱走人形ハンターじゃないよね?」 上位階層に人間と人形のどちらがいるのかはさておき、最終生命の子会社が脱走人形制圧を依頼していたのは確かで…… そしてその命令が覆ることはなく、情報戦機能の悪用を行う可能性があり、即座の排除が推奨されていて…… 「……わしがそうなんじゃ!すまん!」 どうすればよかったんじゃ。 どうすれば…… 04 わしの今日の仕事は新人を連れて、実地でのOJTじゃった。 「グリーンエリアやイエローエリアで働くってのは大変なことなのじゃよ、新人君」「ハイ、ナガンさん」 「いつすごいことが起きてもおかしくないこの世界じゃ、常在戦場でいることが大切なのじゃ」「はぁ……」 「質問かの」「そんなすごい感じなんでしょうか?ここって結構まともな場所のはずじゃ」「そう思うじゃろ?」 「おじさんは全般経済学を履修したおじさんだよ」服を着ていない。 「あっすごい」 「地球上の生命活動は太陽からの莫大なエネルギーによって成り立っていて、それは常に過剰なんだ」え、はい。 「それが成長の限界に達した際、それはどこかの時点で生贄や戦争のように破局的に消費されるんだよ」あー。 「おじさんはこんな歳になっても若いエネルギーが有り余っていて、それをだね、このような形でだね」 警棒を大腿に振り下ろした。「あっ!痛い!痛い!こういう風に!ぐああっ!」「手錠出せ!」「あ、はい!」 警棒を振り下ろした。「経済学が服を脱ぐ為のエクスキューズにはならんじゃろ!ボケッ!」 「ぐあああああっ!」 05 今日も新人を連れてのOJTじゃ。 「先輩、この街ちょっとおかしくないですか?」「おぬしはようやく生命が呼吸して生きることに気づいたんじゃな」 「おじさんは犬儒的おじさんだよ」プラスチックの樽の中に住んでいるのが一人。 「キュニコス的な生き方をするのはいいんじゃがセーフティネットに引っかかってくれんかの」 「厳格な暮らしで、CEOやビリオネアを志向することは幸福かい?」「普通に服を着てくれって言っとるんじゃ」 「欲望を放棄し、人にとって自然な生き方を志向することが、人間にとって……」 『コーラップス含有雨の警報が出ました。市民の皆様は洗濯物などを屋内にしまって、窓などを閉めてください』 「避難しないといけなくないですか?」「わしらだけじゃないんじゃぞ?」 男を見る。 「ここで死なせてくれないか?」「あのな、ここで生骸が出られたらわしら大変なんじゃ」 新人を見た。「え、僕ですか?そんな……密着したくないんですけど、服着てないし」ボロ布を投げつけた。 「おじさんは失業者でね……」「話なら後で聞いてやるから今はさっさとそいつ着て避難する!」 「うう、風呂入れよぉ……」 06 警察署前。絵具の跳ねた跡のついたシャツとパンツを着た奴が一人。 「先輩、アレってアートのパフォーマンスですか?」「そうらしいがのう、職質もしておかんとな」 「やあ」わしは挨拶した。「どうも」 「見学してもいいかのう?」「おじさんのアートを見てくれる人が増えるのは大歓迎だよ」 背負っていたバックパックから次々に荷物を取り出していく。紙袋から粘土を取り、適当な形状に仕立てていく。 「おじさんはとっても凝り性なんだ」釘を取り出した。「んん?」雲行きが怪しくなってきた。 「ああ、これはね。北海道に住んでいる友人に聞いたんだ。かの国では釘と球を使った賭博が行われていてね」 アートが完成していく。いや、アートかこれ?「芸術って時々思想が混じったりしますよね」「そういうものだよ」 「その腕時計は?」「身の回りの物が貧困で失われていくという表現を実体験としたいんだ。おじさんの時計だよ」 電子部品が組み合わされていく。 「あー……これ本当にアートなのかの?」「うむ……芸術とは……爆発なんだッ!」 男は芸術を抱えて署に突っ込んでいった。 警棒を振り下ろした。 「逮捕じゃ!逮捕!」 07 「終末は近い!」「自爆テロが発生しました」朝九時の臨時ニュース。 「いいんですかナガン先輩、呑気にコーヒーなんて飲んでちゃって」「どうせ他の職員が何とかするじゃろ」 「あっ!?」新人が勢いよく伏せたものだから、わしなんて釣られて伏せちゃって。 グリフィン人形の悲しい習性なんじゃけど、こういう風に窓が吹き飛んだらなかなか捨てたもんじゃないんじゃよな。 新人の頭をタイル張りの床に押し付け、その上に更に覆いかぶさった。破片が腕に刺さった。 痛ってえ。 「クシーニヤはどこ行ったんじゃ?」新人に聞く。「さあ」「さあって」 フードを被った奴らが次々と雪崩れ込んできた。「ヤバくないすか?」「まあ」「まあって」 「ほら、応戦するのじゃ」「はあ……」素足に結晶が生えた連中も少し。 コピー用紙が鳩のように飛び、わしはその中をゆっくりと歩み、撃つ。 「おじさんはねえ!!頑張って働いてグリーンエリアまで行ったけど、ELIDになってしまってねえ!!」 男がリボルバーを抜いた。「社会保障もなく追放する国家がぁ!」 わしは後で後悔する。けど今は他にやりようが無い。だから男を撃つしかなかった。 08 署内。 「やぁ」知らないおっさんが片手を上げて挨拶してきた。「どうも」わしも挨拶する。挨拶は大事じゃからな。 「あの人誰ですか?僕以外に新しい人来たんですか?先輩?」新人。「見ない顔じゃのう」 あまりに堂々としていて、清掃員のおっちゃんやここの職員と同じくらいいて当然という顔じゃった。 「コーヒーを貰えるかな?」ヤバい女の職員に話しかけた。「ア?セルフサービスだ、死ね」「そうだっけ?ンフフ」 「あのおっかないおばちゃんによくあんな感じで話しかけられますね」「押収品を盗んでるって噂なのにのう」 遠くで壊れかけのコーヒーメーカーが悲惨な音を立てる中、片手間でわしは署のネットに接続した。 『何か用ですか?』ファイルを添付する。署のローカルAIが人員リストと照らし合わせた。 不一致。 わしは拳銃を抜いた。 「ちょっといいかな?データベースはおぬしは職員ではないと言っておるんじゃが、ならおぬしはなんじゃ?」 「おじさんは堂々とした顔で雇われてもいない職場に入り込むのが趣味でね、今回は20分。早いね!」 銃身に持ち替えてグリップで殴った。 「ぐあああ!ぐああああっ!!」 09 わしはガスマスクだけを着たオッサンとイエローエリアで対峙していた…… 「お、おじさんの頭を撃ってくれないか!ここだ!この二枚のレンズの隙間!今すぐに!バァン!わかるかい!」 わしは迷いながらグリップを握ったり放したりするのを繰り返す。 「何を待っているんだい?その小さな銃弾でもこのシリコンゴムを貫いておじさんを砕けるんだ!さぁ!さぁ!」 「すぐだ!すぐにもだ!今すぐそれをやってくれ!ホルスターから抜いてここに向けて引き金を引くんだ!いいかい!」 「そんなに焦らしてくれるのかい?おじさんは銃弾を通販の通常配送のように辿り着くのを待ち焦がれているんだよ!」 「それじゃダメだ!人生はとても短い!正しい判断の為に長考しすぎては、考えるだけで人生が終わってしまうんだ!」 わしは銃を抜き、額に向ける。 「そうだ。それでいい。ありがとう。」 VRゴーグルを脱いだ。 『衛星都市警備事業者向けコンプライアンス研修に参加いただき、誠にありがとうございます、参加者の方は……』 アナウンスを聞いていると……「先輩、アレ最後のおじさん撃っちゃうとダメみたいですよ」新人が来た。 「え」 10 朝っぱらからマンションにガサ入れじゃ。 「本当じゃって、ピザ屋の兄ちゃんが応対の片手間に核兵器の取引をやってたって通報があったのじゃ!」 「まさか~、水爆なんて個人が持てるもんでもないでしょ~」新人。 「まず真偽の確認から始めるのじゃ!」ドアに蹴りを入れた。「警察じゃ!ドアを開けろ!」 「うわ、ここ賃貸だからおじさんの部屋のドアを蹴らないで欲しいな」すんなりと出てきた。 「んじゃ部屋ん中見せんかおぬし」「なんか普通に入れちゃいましたね」奥に進む。 大量の密輸武器のほか、大きなトランクが部屋の奥にあり、わしらの持ってたガイガーカウンターがビンビン。 あるじゃん、水爆。 尋問部屋。 「おぬしは何者じゃ」「おじさんはアメリカの方から来たおじさんだよ」「密輸武器で何をしようとしていたのじゃ?」 「何も!おじさんの趣味だよ」「ここで銃規制が施行されていることを知ってるか?」「どうでもいいよ!」 スタンガンを押し付けた。バチバチ。「ぐあああ!」 「核分裂性物質をどこで手に入れた?」「それはね?それはね?」バチバチ。 「ぐあああああ!!ぐああああああ!!!!」バチバチ。 11 「わああ!」 夜勤の最中に悲鳴が聞こえてきて、ちょっとしたスリープ状態のわしは跳び起きてしまった。 「おじさんはすごいおじさんだよ」光っている!そして宙に浮いている! 「これって何かの研修かのう?」新人に聞いてみた。「違いますよ!いきなり空中に現れたんです!」 「おじさんは北欧で崩壊液を山ほど浴びてしまってね、何だか超能力も使えるし不老になってしまったんだ」 OK。「宙に浮ける以外何が出来るのじゃ?」「離せぇ!」おっ、凶悪犯罪者が連行されてきた。そして消えた。 USBスティックがコトと音を立てて落ちた。「その中に彼の情報が全部入っているから取り調べはしなくていいよ」 わしは銃を向けた。「殺人じゃろ!」「彼は末期ガンだ。そして彼は尋問に全て嘘で答えるつもりだった」 「やめた方がいいですよ先輩!彼は人がガンになるビームを撃つかもしれない!」 「撃ってないだけだよ~、撃つかもしれないがね」速戦即決じゃ!わしは全弾撃った。 「うっ!」倒れた。 「やったか?」やめんか。 「これどこ案件なんでしょう。保安局にでも報告すればいいんですか?」 「あっ!」 男の体が消えた…… 12 ボイスレコーダーから淡々とした声が発せられている。 『いやぁ、おじさんは好きな作家が死んでしまってね、この通りELIDにもかかったもんだから世の中に絶望してて』 『そんな時にパラデウスが来たもんだから、これ幸いと思ってね、連中の儀式をおじさんの儀式に転化出来ないかと』 『結果どうなったか?ああ、うん。崩壊液でポータルを開く儀式は失敗だ。ただのブージャムが出来ただけ……』 『ネイトとかいうお偉いさんがさっき死んで、あのタコみたいな奴もまだいるし。参った参った、ぐああああ!』 「どうします?先輩」新人が聞いてきた。「仕事、やらんといかんのう……」「マジですか」「マジじゃ」 一個隣の衛星都市で邪教の儀式が計画されていると聞いて来たら、こうなっていた。皆死んでいる。生骸しかいない。 わしらの任務はスマホでブージャムを撮影して、位置情報を送信するだけ……眺めのいいタワーの階段を上りきる。 生骸を撃ち、やがて展望台に着く。名状しがたい怪物を撮影し、任務を終えた。爆撃機のエンジン音が聞こえる。 爆弾が落ちていく。 「あれの中身、水爆なんですかね」「そうじゃなければいいのう」