「あら……確かに、ヒロちゃんらしい返事ね」
宝生マーゴは、そんなエマの独白にくすりと笑みを浮かべて思考を巡らせる
「でも、エマちゃんに罰…だなんて、難しい要求じゃない？」
「うん…そうなんだ、ボクには思いつかなくって」
楽しげに話を聞く宝生マーゴ、エマにとっては近しい友人とはまた別に頼れる仲間でもある
特にヒロについて、と持ち掛けられたときの笑みは、どこか悪戯な物だったろう
エマは彼女の意見を頼りに、ヒロの要求への答えを見つけたかったのだ
「うふ♡まぁ、正直言ってしまえば……甘えてるわね、ヒロちゃん」
「甘え…？」
「ええ、甘えよ？試し行為とも言うのかしら」
愉快そうな話口ながら、マーゴの返答には真剣さが見え隠れしていた
「ヒロちゃんもきっと、どこか不安があるのでしょうね？特に負い目があると自覚してるなら尚更」
「だからこそ、ヒロちゃんにとっての償いでもあり、ある種の愛情表現である"罰"を選択したのよ」
「愛情、表現？」

エマの声は、不思議そうにこぼれた
「ヒロちゃんの意思を思い返してみなさい？例えばノアちゃんとのやり取り…とかね」
「彼女にとって、罰こそ見放していない証拠でもあり、正すという繋がり」
「そういう意味合いで求めたのかもしれないわね」
"愛"に連なる事柄は、マーゴにとって今もあまり面白くないところはないでもない
ただ、学びなおす事については、それが彼女の無垢な信頼を掘り起こした相手を通してなら悪くはない
それに、マーゴには一つの企みもあった
「だから……エマちゃん、一つ提案があるの」
「提案……？何かな、マーゴちゃん」
それは、仕返し　あの裁判で約束した通りの行為

「私がその罰、プロデュースしてもいいかしら？」

暫くして、初めに牢屋敷を発った二階堂ヒロはその後順番の回ってきた桜羽エマを迎える…という体で
あの日話した罰を執行されるために、ヘリでこの島へと舞い戻ってきていた
花畑に降りるヘリの中から、自身を迎えるようにやって来た少女たちと共に牢屋敷へ向かい
居ない間に進んでいたリフォームだとか、マーゴの主催する勉強会の話だとか、はたまた皆の動向だとか
"これから"の話に花を咲かせて、気がつけば日が暮れて各々の部屋へ帰る…のだが
エマとヒロは敢えて昔のあの部屋に向かっていた
「…」
「……ヒロちゃん、えっと……おかえり」
にこ、と笑うエマに対して ヒロの表情も穏やかだが、罪悪感の棘の痛みは消えていないように見えた
だからこそ、あの日あのままを選んだ その痛みを癒すため……否
罰の与える痛みを以てして 麻痺させる為、だ

初めは、ヒロの意を決して吐き出された多くの懺悔、後悔、謝罪、そしてある種の告白じみた想い
ユキを喪った悲しみは二度も波のように荒れ狂い、それがエマへの苛烈な言動の記憶へつながる
傍に居たい、エマを手放したくない、しかしフラッシュバックするたびに罪悪感が自信を許さない
エマはその吐露を前に理解を深め、罰を求めるその心を確かに掌に収めたように思えた
ひとしきりの懺悔を終えたヒロがゆっくりその顔を見上げた時には、エマは慈悲深い笑みを見せていた
それは在りし日に見たメルルを思い起こすような、どこか暖かく安心できるような顔
そして、再びヒロは息を整え"罰"を待つ、エマはなにをするのだろうか、と
だが、少し時間が経って気付く、ヒロは気がつくと部屋の角に追い詰められていた
こんなに慈悲深く笑うエマが、しかしどこか重々しくこちらに歩み迫る
その姿に疑念を覚える前に、静寂を引き裂くように彼女は口を開いた
「ヒロちゃんは、ボクが何をすると思ったのかな？」
「…エマ？」
肩を掴まれ、目と目が合い、エマの問いは深く染みわたっていく
何を想像していたのか、或いは何を求めていたのか

「ボクが…例えば、痛い思いをさせると思う？意地悪言ったりすると思うかな？」
「そ、それは……私に、罰を下すのに必要なら」
「でも、それは…ヒロちゃんの想うボクが、してたこと？」
言葉に詰まったのだろう、返事はなくなりヒロは俯いてしまっていた
それもそのはず、ヒロの知る桜羽エマと言う人間は厳しい罰とはある種正反対のようなものだ
だがしかし、それでも求めてしまったのは、やはり己のエゴのようなものなのだから
また正しくないことをした、エマに押し付けたという罪悪感が心を締め付けそうになった
その瞬間、ぐらりと視界が回ってベッドに転げている
「…！？」
蓋をするように、エマがヒロに覆いかぶさった
迫るような所作、未だ慈悲深い表情、相反する属性に心が疑念と驚きで満ちて罪悪感の棘は、どこか遠くに離れ始めていた

「ヒロちゃん、答えてほしいんだ」
その肩に手を添えて、穏やかにつぶやく
「ヒロちゃんがボクに求めてくれた事、罰を与えてほしいこと」
「…ぅあ、それは……」
エマの笑みが、慈悲を破り情的になって
「"いいんだよ"」
受け入れるように、迫る、迫る、迫る…
「え、えま、ダメだ、そういう事じゃ、ちが、ぁあ…！」
ぱちん！
「はぇ？」
デコピンが弾けて、ヒロの前髪がくしゃりと崩れていた
エマの笑みには、悪戯な感情が移り変わっている
「……あのね、ヒロちゃん」
そして、二人はベッドに並んで座っていた

「罰で、ボクらの関係を一区切りするのは、きっと難しいことなんだ」
「ボクにヒロちゃんを憎む心はなくて、ヒロちゃんはきっとそれを知ってたんだ」
「……エマ」
「でもね、だから苦しみ続けるのも、ボクはイヤだな」
やさしく掌に掌を重ねて
「ボクは……一緒に支えたい、癒してあげたい、赦してあげたい」
「ヒロちゃんが、大好きだから」
その言葉こそ、透き通るようなエマの本心だった
「……ああ、わかっていたんだ、私も」
「想ってくれるなら、苦しみは少しずつ無くしていこう？」
ヒロの手をエマの手が包み込み、優しく受け止めた
「もう、苦しまなくていいんだよ 悲しいことも笑い飛ばしたっていいんだ」
「驚いたでしょ？今回のことも、マーゴちゃんと相談して…」
「ああ、そりゃとて……マーゴ？」
ヒロの顔が、硬直しつつもどこか納得を得て…

「うん、えっとね」

マーゴのアドバイスは、揺さぶってみること……だった
迫って、迫って迫って追い詰める、議論とそう変わりはない
ヒロが胸に押し込んでいる答えを引き出すためにも、いつもと違うことをしてみせる
そうして驚いて困惑しきったところを揺さぶれば、きっといい反応をするだろうと
……かくして、ヒロへ与える罰というのは、宝生マーゴの仕返しという形で満たされ
その件と、今回の一部始終が牢屋敷組の間で「やっとあの二人がいい感じになった」とマーゴの手で報告され
エマ伝いに皆に相談されまくっていたことをヒロ自身が認識することになったのだった……

ヒロちゃんってやっぱり引きずりそうだよね
と思う話でした

アリサ、ハンナ、ユキに言った言葉もでも自分だけは適応されないよな……みたいに考えてそうだからヒロちゃん

マーゴの仕返し実際何されてるか気になるよね

確かにおあいこ！は綺麗な和解だったけど現実的にその一言だけで自分を許せるようなタイプでは無いように見えるよねヒロちゃん

仕方ないとはいえ自分のトラウマを深く抉られたから
そういう行為は意図しなくてもやるべきじゃないってやんわりと教えるようなことはしそうだなって

>「ヒロちゃんがボクに求めてくれた事、罰を与えてほしいこと」
>「…ぅあ、それは……」
>エマの笑みが、慈悲を破り情的になって
>「"いいんだよ"」
>受け入れるように、迫る、迫る、迫る…
>「え、えま、ダメだ、そういう事じゃ、ちが、ぁあ…！」
ここ好き

🌸👍

🌸🙏💴

渋やXの二次創作見ても罪悪感は消えない二階堂はよく見るのでみんなヒロちゃんの面倒くさい性格をよく分かってらっしゃる…

個人的にはエッチなエマちゃんも好きだけど
これくらい健全なのも大好きです

そもそも魔女因子抜きで極限状態じゃなきゃキャラ変わるのは当然だけど本編後ヒロちゃんって牢屋敷メンバーに対する対応がちょっと変わってそうだよね

記憶の共有がどこまでのものなのかの匙加減さえがむずいのが逆にありがたいまである
やろうと思えばbadの世界も共有できそうだし愛の残滓の残り香で慰め合う二人がいてもいい

罰がヒロちゃんの愛情表現だって解釈は初めて見たけどすごいしっくり来たな
いいもん読ましてもらった

>そもそも魔女因子抜きで極限状態じゃなきゃキャラ変わるのは当然だけど本編後ヒロちゃんって牢屋敷メンバーに対する対応がちょっと変わってそうだよね
あんまり「正しくない！」とか言わないとかね
それを対応が甘いと表現するか罪悪感で距離が遠くなったと表現するかは…

>「ボクは……一緒に支えたい、癒してあげたい、赦してあげたい」
>「ヒロちゃんが、大好きだから」
>その言葉こそ、透き通るようなエマの本心だった
>「……ああ、わかっていたんだ、私も」
>「想ってくれるなら、苦しみは少しずつ無くしていこう？」
>ヒロの手をエマの手が包み込み、優しく受け止めた
>「もう、苦しまなくていいんだよ 悲しいことも笑い飛ばしたっていいんだ」
ここの会話マジでいい
こういうエマヒロを俺は求めていた

みんなに顔見せできないから失礼するって思ってたヒロちゃんが共有によってどデカい恩を受けてたことを皆が理解したの超やりにくそうだよねって思ってた
どちらかというと嫌われても仕方ないけどやったことは後悔しないって人だし自分が相手にどう思われるか鈍感な分罰してくれぇってなるのも無理ない

ヒロちゃん自身も罰されてそれで全部終わりって性格じゃないから
本当に心を癒すためにこういう対話による手続きが必須なんだよね
ややこしい女！

迷うヒロちゃんを導くエマちゃんの構図やっぱ好きだ…
普段の関係性が逆転するのはなんぼあってもいいですからね

対話による相互理解いい…

アリサ相手のヒロみたいに叱りながら許す！されるヒロも見てみたいんだがエマにそれをさせるのは酷だなとも思う
難しいもんだ

この光のエマヒロのおかげでなんとか年が越せそうです

>アリサ相手のヒロみたいに叱りながら許す！されるヒロも見てみたいんだがエマにそれをさせるのは酷だなとも思う
>難しいもんだ
エマちゃんのやり方的には相手に寄り添う方が得意そうに見えるしな

個人的にはエマちゃんは考え抜いて許しを選んでくれると思います
ユキちゃんとかもそういう答えを出したのでヒロちゃんとの関わりのわだかまりも許しを返したらうれしいですね

エマちゃんはヒロちゃんからすまないって言葉じゃなくてありがとうって感謝の言葉が欲しかったのかなって読んでてふと思ったな

こんな綺麗な話に添えるような感想じゃないことは重々理解した上で言うけど
ちょっとえっちな罰をヒロちゃんはどこか期待してたとしたらめちゃめちゃ興奮します！

この後幼い頃のように手を繋いで島を去るふたりの一枚絵が映るところまで俺にはもう見えている

>アリサ相手のヒロみたいに叱りながら許す！されるヒロも見てみたいんだがエマにそれをさせるのは酷だなとも思う
自分では記憶しか残っていない二周目のエマに対していつまでも罪悪感を持っているヒロをどう説得するかいろんな作家のやり方があって面白いと思ったな
叱るのはほぼなくて諭すように誘導していくのが多かった

>……かくして、ヒロへ与える罰というのは、宝生マーゴの仕返しという形で満たされ
>その件と、今回の一部始終が牢屋敷組の間で「やっとあの二人がいい感じになった」とマーゴの手で報告され
>エマ伝いに皆に相談されまくっていたことをヒロ自身が認識することになったのだった……
エマ？言ったのか？この事を？みんなに？？？

いったんこれを後日談ということに脳内補完しておく

エマヒロの関係についてもみんなめっちゃ気ぶってほしい

正しい正しくないとうるさい委員長キャラがすれ違いで幼馴染みを激詰めして心を壊していましたってプロットだけでシコれるわい…
の後始末考えたらすごい出汁が射精る！

>>……かくして、ヒロへ与える罰というのは、宝生マーゴの仕返しという形で満たされ
>>その件と、今回の一部始終が牢屋敷組の間で「やっとあの二人がいい感じになった」とマーゴの手で報告され
>>エマ伝いに皆に相談されまくっていたことをヒロ自身が認識することになったのだった……
>エマ？言ったのか？この事を？みんなに？？？
…なんでもいいか、君なら

中学時代のやり取りを片鱗でしか見えないから牢屋敷の経験を積んだパーフェクトエマちゃんとヒロちゃんとのやり取りがどんな感じになっているのかを見てみたい
昔と変わらないのもいいしちょっと変わった関係性に笑い合いながらも少し寂寥感を覚える二人がいてもいい

ヒロちゃんの面倒なところは紫藤みたいに欲しがりマゾしないでいやこれは私の甘えだろう…茨の道いくぞ！って逆に何も話さないで消えかけていたところだと思う

いいもん見せてもらった

こういうトゲのないヒロちゃんとエマの話が見たいから後日談欲しい

本編最後の二人のやりとりいいよね
素直になれないヒロちゃんとそれを素直じゃないってわかっていて指摘するエマちゃん
それをぶっきらぼうに返しながらも愛情のこもったセリフになってるのが幼馴染の距離がしてすごい好き

トゲのないヒロちゃんがエマを害するものに対して熾烈になるところも見たいいいいいいい

>トゲのないヒロちゃんがエマを害するものに対して熾烈になるところも見たいいいいいいい
正直めっちゃわかる

ボクに関するノートをとってボクの知らないうちに近づく人の選別を始めるヤンデレヒロちゃんもいいね…