別れの日のことである。環いろはという魔法少女のためにたくさんの魔法少女が集っていた。 「わしは神になる。その第一歩のために貴様の権能を奪いにきた。環いろは」 環いろはたちとの別れに来たみんなの前で宣言する。 「何を…言っているんですか?」 「システムの管理を任せよと言っておるのじゃ」 「それはダメです!だって…信長さんがいなくなったらみんな悲しみますよ!」 「それはお主も同様じゃろうに。それに、お主はたかだか十数年前に生まれた小娘、数百年前に生まれ本来ならば死んでいる人間のわしにこそ適任よ」 「でも…!」 「ほれこの通り、お主がいなくなって悲しむ者たちの署名じゃ。お主はこの者たちの想い、叫びを無視するのか?」 環いろはに明らかに動揺の顔が広がる。 「うぅ…そもそも固有魔法の性質上私しか!」 「鏡の魔女の能力も譲渡できたならいけるじゃろう。穏便に済ませたかったがここからはお主に現実を教えねばならぬな」 「現実…?」 「お主は適任ではない。まず第一にたかだかシステムの管理を始めて僅か数ヶ月、象徴の魔女にシステムを奪われかけたではないか。ここにいる仲間たちがいたからよかったもののお主らだけではどうにもならなかったじゃろう?わしならばそんな油断も隙も見せぬ」 「私もこれからは!」 「そうだよ!お姉ちゃんには私もいる!」 つかさず姉妹に反論する。 「一度失敗した者を信用しろと?それは並大抵のことではない。それにキュゥべえにも奪われておるし2度じゃな」 いろはたちは何も言えずにいる。 「二つ目にお主には厳しさが足りぬ。大掛かりなシステムの維持というものは時に厳しくそれこそロボットのように寸分の狂いなく徹しなければならない。それができる里見灯花と柊ねむも最終的にはお主に折れてしまう」 「厳しさ…アドバイスありがとうございます!」 「三つ目は…一つ目で油断と隙を忠告したのにも関わらずわしと雑談に興じておる間におめおめとシステムを奪われたことよ」 「えっ!?」 とりあえず変身することにする。いつもとは異なる白い衣装、普段このカラーのものは着ていなかったが悪くない。 「いつの間に…」 「これだけの魔法少女がお主との別れのために集っておるのよ。全力を尽くせばシステムの奪取など不可能ではない。かのワルプルギスの夜を討伐した時のようにな。まずは各種のバフ効果発動させ、お主には全力でデバフをかける。それに気づかれないようにする偽装工作の魔法。システムを奪取しそれをわしらに譲渡するための窃盗や対象変更などの魔法。それをこの場に集った魔法少女たちが力を合わせてかけたのじゃ。そして内応工作」 「ごめん…お姉様」 「僕たちもやっぱり姉さんには…」 「こやつらが寝返らんことにはこの全てが見抜かれる可能性が高かったからのう。お主のためと話したら承諾してくれたわい。環姉妹にマギウスの2人、お主らはこれより家族や友人、仲間たちと共に日常を過ごせるのじゃ。もうシステムの管理なんぞする必要はないのじゃ」 「でも…それからはそれを信長さんが…」 「阿呆!そういうのは年長者、老人の役目じゃ!それにわしは1人ではない。このわしでさえ小娘で格下扱いされるお歴々の方々もシステムを管理してくれるのじゃからな」 「お歴々?」 「神話の女神、物語と化した実話の登場人物、歴史の英雄、そういった面々じゃよ。そうさな有名どころでは」 我ながらよくこれだけの魔法少女を集められたと驚愕するばかりである。 「戦いの女神です」 「聖母でございます」 「唐土唯一の女帝じゃ」 「錬金術師です」 「越後の龍!」 「白衣の天使です」 「太陽神でございます。トヨ様がおっしゃっていた未来国のお三方、これであなた方の友達は去らずに済みますよ」 トヨよりよほど格上になってしまっている存在が普通の少女にこうも敬語で話しかけている様は少し、面白い。 「ほ…本当にいろはたちは帰ってくるのよね!」 「レナちゃん…このお方にタメ口はやめた方がいいんじゃないかなあ」 「あ、ありがとうございます!」 「いえいえ、別にタメ口程度気にしませんよ。何度も言っていますがトヨ様の恩人で友人なので、邪馬台国3代目女王としては当然の行いです」 「ふゆぅ…3代目邪馬台国の女王ってどういう…」 「西晋成立期に朝貢したのですがそれを主導したのが私ですね、文献で名指しではなく倭の女王表記なのが混乱の元だったのでしょう」 「な…なるほど」 「そういうワケで歴史の影に隠れた死にきれぬ大物と共に管理していくとしよう。これだけの面々じゃ油断も隙も一切出さぬ」 「お姉ちゃん!わたしたち…また!」 「うん!うい!」 状況を理解してこのタイミングで涙が出てきたらしい。姉妹が共に平和に暮らせるのは良いことである。 「さあて、次は平行世界じゃな。やはりわしは平穏より果てなき巨大な目標に向かって進むのが一番楽しいらしいのう」 自身の固有魔法によって別世界のわしを介して観測できた無数の居場所、そこには確かに魔法少女も存在していた。