「いろは!!今度はこんな服を仕立ててみたぞ!いろはには絶対に似合うはずだ!!」 「ありがとうございます! …うわぁ!すっごく綺麗…私に似合いますか?」 「当然だぞー!なんたっていろはの為にこれをつくったんだからな!!!」 「本当ですか!?それじゃあ早速着替えてきますね!」 ガサゴソ… 「はい!着替え終わりました!」ジャーン 「……うん!いろはは何を着ても似合う可愛さだけどこのドレスならもっと可愛くなったぞ!!」 「そうですね!私もカリナさんの衣装が大好きです!いつもこんなに綺麗なドレスを着られるなんて幸せです!!」 「そうだぞー!いろはの事を考えるとどんどん衣装が思い浮かぶんだ!またすぐ新しい衣装を仕立ててあげるからなー! …よし!!今度は姉妹用の服だ!いろはが言ってた妹用にお揃いの服も一緒に仕立ててやるぞー!」 「でも…良いんですか?こんなに私にばっかり気をかけさせてしまって…カリナさんにはお店もあるのに…」 「……いいんだ!今はいろはの衣装しか作りたくない。どうせ他に欲しがる人なんていないんだぞ」 「…そんなことないです。カリナさんが作ってくれるのはドレスだけじゃなくて、普段の日常でも着れるようなものや誰が着ても似合うような素敵なものも沢山あります。みんなもちゃんと見たら着たくなる筈です!」 「ハハハ、そんな事言ってくれるのはいろはだけだぞ。…だって、俺がお店を持ってからこれまで何を作ってもほとんど見てもらえなかったんだ。俺の服を喜んで着てくれたのはいろはぐらいだぞ」 「大丈夫です!カリナさんの服が素敵だってみんな分かってくれます!私を信じてください!きっとカリナさんの作った服をみんな買ってくれるようになりますよ! …そうだ!それなら私がみんなの前でカリナさんの服を着るのはどうですか?きっとみんなが私の着ている衣装を見て欲しがるようになります! …ちょっと恥ずかしい気もしますけど、でもカリナさんの仕立ててくれた服なら大丈夫です!」 「…ありがとう…いろは… よーし!それじゃあちょっと頑張ってみるぞー!俺が本気になればお店もグッと右肩上がりに出来るんだからなー!見てるんだぞいろは!!」 「はい!楽しみにしていますね!」 「…いろはー…俺、いろはが大好きだー…だからこれからずっと一緒だぞー…」 「はい…これからもずっと…一緒にいましょう…」 「………」ポタッ 「……………あれ…?」ポタッ 「いろは?」 「……なんで…涙が…」 「…えっ?どうしたんだー!?どこか痛いのかー!?」 「ちがうんです…痛くないのに…涙が止まらなくて…」 「いろは…?」 「私…幸せなはずなのに…こんなに優しくしてもらってるのに…」 「おい…おい!」 「どうして…こんなに寂しいの…?」 「…おい!いろは!どうしたんだ!」 「………そうだ…うい…ういがいないんだ…」 「…どうした?急にどうしたんだいろは!!?」 「探さないと…あの子を…」 「どこか具合でも悪いのかー!?お腹でも痛いのかー!??」 「カリナさん!お願いです!ここから出してください!!」 「!!!!!!!!!!!!!! どうして急にそんなことを言い出すんだ!?ここが嫌になったのか!!?」 「ごめんなさい!でも私は妹を探さないといけないんです!!」 「…妹…でも…さっきずっと一緒だって言ったじゃないか…ここで俺と一緒じゃダメなのかー…?」 「私!!どうしても外に出ないといけないんです!ここにいちゃダメなんです!」 「えっ……」 「だからお願いです!ここから出してください」 「……お前も…お前も俺から離れるのかッ!!!!お前も俺を置いていなくなるのかッ!!!!!!!!!」 「お願いです!今ういの事を覚えているのは、彼女のことを見つけられるのは私だけなんです!私以外にあの子の事を探してあげられないんです!!」 「…やだ…いやだ!!!」 「ごめんなさい!でも、ういは、あの子は私の大事な妹なんです!家族なんです!!」 「!!!!!!!!! ……かぞく………」 「私にいて欲しいのなら必ず帰ってきます!妹を見つけたら必ずここに戻ってきます!だから…どうかお願いします!」 「…さい……うるさいうるさいうるさいッ!!どうせみんな俺の前からいなくなるんだ!!!もういい!!お前なんかもう知らない!もういらない!!お前なんて!!お前なんてッ!!!!」ガシッ 「きゃっ!!!!」 ブンブン グワングワン (あっ…掴まれて…景色がぐらぐら揺れて…意識が…もう…) (………カリナ…さん……) ------------------------- 「…あれ、私…」 「ここは、カリナさんのお店の前…」 「私の身体…小さくなってた筈なのに…元に戻ってる」 「それに…これは私のソウルジェム…ちゃんと元の場所にある……」 「!! カリナさん!!」 ダンダンダン 「カリナさん!!開けてください!!私!貴女の事が嫌いになったわけじゃないんです!信じてください!!」ダンダンダン 『…もう良い。もう私の前に顔を見せるな…どこへでも行ってしまえ…お前なんかもう…いらない…』 「開けてください!カリナさん!!!私と一緒に来てください!こんな別れ方嫌です!!」ダンダン 『うるさい!!とっとと行ってしまえ!!行かないともう一度あの中に閉じ込めてやるぞ!!』 「!!!!」 「……………………………………………………」 「……カリナさん…ごめんなさい…でも…私、探します…貴女もいると言ってくれたういを…」 「…カリナさん…」 「ありがとう…」 『!!!!!!!!!!!』 「………行かないと…みんなの所へ………ういを見つけないと……」 タッタッタッタッタッタッタッタッ ------------------------- 店の小窓から相手に気づかれないようにいろはの走り去っていく姿をカリナは眺めていた。 どんなに小さくなってもずっと彼女の後ろ姿を見続けた。 そしてその姿が消えるのを見届けてから、カリナは崩れるように座り込み、泣き始めた。 誰かの為に自分のものを手放すのは初めてだった。 いままでは自分の為に生き、欲しい物はすぐに手にして、場合によっては強引に奪い取る事もあった。 そんな彼女が初めてただ誰かの為に、自分が手にしていたものを外に放したのだった。 夜になり、朝を迎え、また夜が来ても彼女の涙と泣き声は止まらず、声が掠れ、動けなくなり、泣きつかれて眠りに落ちる時にようやく静寂となった。 そして目を覚ました後、彼女はひたすらお店で売るための服のデザインを描き始めた。 家の外で大きな騒動があり、また嵐が迫る事もあったが彼女は気にする事なくひたすら服のデザインをスケッチするためにペンを動かし続ける。 何かが彼女の中で変わったのか、頭の中で次々にイメージが湧いてくる。そのデザインを絵の中に残し、そして書き終わればそれをもとに布を広げ、切り、縫い、そうしてそれを衣装として形にしていった。 服のデザインを描き、完成してはそのまま服を作り、作り終えてはまた次の服を考え、デザインし、作る。 途中で感情が高まり手が震え、視界が滲みそうになるが、その度に振り払って忘れようと手を動かし、ひたすら服を仕立てる作業を繰り返し続けていた。 そして嵐の明けた次の日、 すぐにカリナは店を開き新しい服を店の前に飾った。 その服は人通りの戻り始めた道を歩く何人かの目に留まり、飾られた衣装を見る為に足を止める人がいた。 そして、店の中にまで入ったお客は他の服にも興味を持ち、いくつかの服を買ってもらう事が出来た。 自分が作った服を買ってもらう。ただ着て喜んでもらうだけでなくそれを買ってもらう喜びは久しぶりに感じた喜びの感情であった。 それ以降、赤字が続いていたお店も少しずつ上向いてくるようになり、忙しくなったお店の業務に追われることも多くなっていった。 しかしその最中であってもカリナは毎晩必ず服を仕立てていた。 同じ意匠で大きさの異なる二着の服、中学生と小学生の女の子用のかわいらしい衣装、その組み合わせで必ず仕立てていた。 だがそこで仕立てた衣装を店内に置くことは無く、決まって自室の奥にしまい込んでいた。 彼女には分かっていた。自分が捨てたその人は目の前に現れないと、それでも彼女はその人の為の服を仕立て続けていた。 まるで今では会えない誰かに恋焦がれるように、服を仕立ててはそのまま誰にも見せないようしまい続けていた。 カランコロン 「はい。いらっしゃいま…せ…」 「すみません、妹と一緒に来ているんですが二人分の服を仕立ててもらえませんか?」 ある日から、彼女のお店の中に二体の人形が飾られるようになった。その人形は桃色の髪の姉妹のような姿であり、いつも必ず異なる衣装によって着飾られ、そして店に来た人すべての目を惹かせるほどに美しかったという。