※闇のアンノア 「のあはアンアンちゃんに酷いことしたよね」 ある日のアトリエでノアが急にそんなことを言い出した。 何のことだと問うとどうやらヒロが体験した二周目の世界の話をしているらしい。 「気にするな。ヒロも仕方なかったと言っていた」 それについてはサバトの最中でヒロが答えを出したはずだ。あれは仕方のないことだったと。 しかし、ノアは首を横に振る。 「けどのあ納得できてない」 そう言うノアの表情は硬くなで、こうなったノアを説得するのはヒロでも難しい。 恐らく理屈ではなく感情面で納得できていないのだろう。 しかし、ならばどうすればいいのか……こことは違う世界での出来事に納得してないと言われてもかける言葉がわがはいには見つからない。 なんと言っていいか悩んでいると、ノアが笑顔を見せる。 「それでね、のあいーっぱい考えたんだ!」 それはノアが会心の絵をわがはいに見せてくれる時と同じ笑顔だった。 「のあはアンアンちゃんに酷いことしたから、アンアンちゃんものあに酷いことして欲しいなって」 -------------------------------------------------------------- そしてわがはいは今、図書館にいる。 酷いこと――ノアが何故それを求めたのかわがはいにはわかる。 悪いことをしたから、罰が欲しいのだ。 牢屋敷に来たばかりのわがはいが満たされてはいけないと思っていたように、ノアもまたなんらかの清算を欲しているのだ。 本来なら必要ないことではあるが、ノアがそれを望むと言うのであればわがはいはその願いを叶えたいと思う。 わがはい達は友達なのだから。 「ぐぐぐ……」 ノアの望みを叶えると決めたが、問題があった。 わがはいはノアを傷つけるようなことはしたくない。友達なのだから当然だろう。 傷つけずに酷いことをするにはどうすればいいか、それが思いつかずこうして図書館に赴いたのだが、参考になりそうな本は一向に見つからなかった。 「所詮は過去の遺物か……このっ! ふぎゅっ!?」 役に立たない本棚を蹴り飛ばす。すると、妙な力でも働いたのか本棚から一冊の本が落ちてきてわがはいの頭を直撃する。 「ぐぅ……なんなんだ、一体……」 痛む頭を撫でながら、落ちた本に目をやる。床に落ちた本は広げられててそのページにわがはいは目を見張る。 それは天啓だったのかもしれない。 -------------------------------------------------------------- 「首を絞めるの?」 「そうだ」 あの天啓よりわがはいが導き出した酷いこと、それは首を絞めるということだった。 「それって、ハンナちゃんがされてたみたいにロープでぎゅーって?」 「そ、そこまではしない……! それではノアが死んでしまう……」 慌てて否定しながらノアに手順を説明する。 あの本によると拷問や殺意の為でなくぷれいとやらで首を絞めることがあるようだ。 「そっかー。手でするんだー」 「わがはいの読んだ本によると、そのやり方通りにすれば危険は少ない。むしろ気持ちいいらしい」 「……? 首絞めるのが気持ちいいの?」 「わがはいにもよくわからないが、本にそう書いてあった」 「そうなんだ? でも、気持ちいいなら、酷いことにならないよね?」 「だが、首絞めは酷いことだろう」 それに、首を絞めて気持ちよくなるなんてよくわからないこと起きるわけがない。 そう言うと納得してくれたのかノアは頷くとわがはいにぎゅっと抱き着いてきた。 「のあのためにいっぱい考えてくれたんだよね。アンアンちゃん、ありがとね」 「……当然だ。わがはいたちは……友達、なのだから……」 わがはいもノアをぎゅっと抱きしめながら、願いを叶えるためベッドへと押し倒す。 ベッドで横になったノアの上に乗り、その首に手を掛ける。 「あはは! くすぐったいよ! アンアンちゃん!」 「むぅ……我慢してくれ……」 ノアは首に触れるとくすぐったがるように悶えた。 じたばたするノアを抑えつつ、本にあった通りの場所に指を添える。 「で、では……い、いくぞ……」 「うん、いいよ。アンアンちゃん」 最後の確認をしてからゆっくり腕に力を籠める。 ノアの首を圧迫する、本にあった危険の少ない方法で、ゆっくりと、ゆっくりと。 「あっ、かっ……」 ノアの口から吐息が漏れる。とても苦しそうだ。 すぐに手を離したくなるがそれではノアも納得しないだろう。だから、あと少しだけ……。 そう考えているとノアが目をぱちぱちし始めた。 「あっ、は……へ?」 何が起きたのかわがはいには、多分ノアにもわかっていなかった。 しかし、おかしなことは起きていた。 苦しそうにしているノアの頬が赤く染まり、わがはいを見る目がとろりとし始める。 そう、苦しそうなのに、どこか気持ちよさそうな……。 そして、おかしな表情をしているノアを見ていると ふと、魔が差したように、わがはいの手に力が籠り―― 「ぐっ……!? ひゅっ……!」 「わっ!? す、すまない、ノア」 ノアの口から苦悶の声が溢れ、慌てて手を離す。 なんだったのだ、あれは。あの一瞬、わがはいの手はわがはいの物ではなかったような。 いや、違う。あの瞬間は間違いなくわがはいの意思が働いていた。 ならば、あれはわがはいが望んだ……? 「げほ、げほっ……」 「はっ……! 大丈夫か、ノア……」 ノアの咳き込む音で正気に戻り、声をかける。 痛くは無かったか、苦しくはなかったか、やりすぎではなかったか、そんな心配がぐるぐる頭の中を回っていると、ノアがこちらを見つめる。 あの、とろりとした瞳で。 「ねえ、アンアンちゃん……アンアンちゃんはあれで満足?」 「え、あ……わがはいは……」 「のあはね、もっとアンアンちゃんに酷いことしてほしいなって」 そう言いながら優しくノアの両手がわがはいの手に重なりそれを自らの首へと近づける。 「アンアンちゃんはどうしたい?」 その問いかけに、わがはいは――