冷蔵庫イグドラシルに選ばれし小学生「田園サヤ」と共に、DWを巡る「ブレイドクワガーモン」。 冷蔵庫イグドラシルの指令に従い、時にはDWの放浪者たちと協力し、時には彼らを妨害し……そんな旅をサヤと共に続ける中、彼は一虫悩んでいた。 人間は、デジモンを進化させる力を持つという。実際に、彼は幾多の人間とデジモンのパートナーがその力を示すのを見た。しかし、自分自身には、一向に進化の兆しが現われないのだ。 DWの創造主たるイグドラシルの判断に間違いはない。 ブレイドクワガーモンはそう信じてはいるが、現実として彼は成熟期以上の力は発揮できていない。 ―創造主イグドラシルの復活は、オレにとっての悲願だ。 ―だが、サヤにとってはどうだ。あの子は、強いられているだけだ。 ―サヤとオレは……本当に、パートナーだと言えるのだろうか。 そう考える日々が続く中、ブレイドクワガーモンはある日の戦闘の余波で、サヤを危険に晒してしまう。 冷蔵庫イグドラシルの助けもあり、サヤを連れて敵から逃れることはできたが、サヤはDWで初めて直面した死の恐怖に泣いてしまった。 その夜、泣き疲れて眠ったサヤを見守るブレイドクワガーモンは、冷蔵庫イグドラシルに頼み込んだ。 これまでに自分達が回収したエネルギーを使って、どうかサヤをリアルワールドに戻してほしいと。 イグドラシルを復活させるという使命は、残った自分が必ず達成すると。 唯一のしもべからの、初めての強い懇願。 冷蔵庫イグドラシルはブレイドクワガーモンの頼みを了承し、蓄積したエネルギーを解放してリアルワールドへのゲートを開く。 サヤが目覚めたその時、彼女は、自宅の近くの林に捨てられた、壊れた冷蔵庫の前に立っていた。 サヤをリアルワールドに送り届けた後、一虫きりで使命を続けるブレイドクワガーモン。 イグドラシル復活の障害となる敵対存在は、ますます強大になっていく。 成熟期どまりの彼にとって困難な旅路であるが、一体どうしてか。ブレイドクワガーモンは、他のパートナーを探す気には、なれなかった。 ある日、ブレイドクワガーモンは、イグドラシルの力の一部を巣材として貯蔵する虫デジモンの高層コロニーに訪れた。 虫デジモン、それは同種であるブレイドクワガーモンの群れである。 だが、彼らにとっては、訪問者のブレイドクワガーモンは同種であっても、仲間ではない。 纏うデータから冷蔵庫イグドラシルの気配を悟られたのか、ブレイドクワガーモンの群れは、訪問者に苛烈な攻撃を加えた。 多勢に無勢。 同種の群れから全身を攻撃され、ブレイドクワガーモンは、砕けたクロンデジゾイドの装甲の破片と共に地上へと落下していく。 意識が薄れ、デリートを覚悟する中、彼は声を聞いた。 「ブレイドクワガーモン!」 ブレイドクワガーモン。 それは種を示す言葉であるが、落下するブレイドクワガーモンには、それが自身を呼ぶ声であるとわかった。 その声は、彼が良く知る者の声であったのだ。 「起きて、起きて! ブレイドクワガーモーン!」 群れは異物を排除すべく、声の元へ切っ先を向ける。 だが、ブレイドクワガーモンはそれを許すわけにはいかなかった。 「……サヤ!」 意識を無理やり引き戻し、虫の咆哮を上げたブレイドクワガーモンの全身が発光する。彼は光そのものとなって、上昇した。必殺技のスパークブレイドを発動したのだ。 「帰れたのだろう!? 何故戻って来た!」 「パパとママに会って、ご飯食べて、お風呂に入って、ベッドで寝て、元気になったから!」 「答えになっていない!」 「だって、このままじゃ嫌だったんだもん!」 「何がだ!」 猛るブレイドクワガーモンの群れを前に、サヤは光輝くデジヴァイス:YGを強く握り締める。 「私たち二人、まだ冷蔵庫のお願いを叶えていない! そうでしょう!?」 そう叫んだ瞬間、サヤは見た。 迫るブレイドクワガーモンの群れを、一振りの刃が切り裂いた。 やがてその刃は、光の奔流の中、人のような姿に変わっていったのだ。 「……。お前もようやく、イグドラシルの使者としての自覚を持ったか」 「冷蔵庫が直ったら、アイスクリームパーティしたいもんね!」 ブレイドクワガーモン、否、完全体デジモンへの超進化を果たした「メタリフェクワガーモン」は、パートナーであるサヤの前に立ち、ブレイドクワガーモンの群れと相対する。 指先からの光線を束ね、刃として構えるその姿は、さながらイグドラシルに仕える聖騎士のようであった。