(…あれ…ここはどこだろう…) どこかの施設のどこかの部屋、照明がすくなく薄暗いベッドの上で少年は目を覚ました (僕は…確か公園に向かおうとして…その途中で何かを見て…) 少年は目を覚ましつつ辺りの状態を確認した。 どこかの研究所だろうか、周囲には見た事のない機械が彼の座っているベッドの周りに並んでいた。 覚えている限りでは自分は確か野外にいた筈であったが、いつの間にこんな所で眠っていたのだろうか… 「ドクター、どうやら少年が目覚めたようです。」 「気が付いたようだね、ようこそ私の研究室へ」 どことも分からない場所にいる事を不安に感じていた所で、 ふと誰かの声が聞こえたためその声の主の姿を確認しようと体を起こして動こうとしたが、その動きは途中で止まってしまった。 どうやら腕に手錠がかけられており、ベッドの上から逃げられなくなっていたようだ。 ただ体勢を変えることは可能であったので何とかそちらの方を向くことは出来た。 薄紫のウェーブがかった長髪の女性と、紫の短髪で白衣をまとい、いかにもドクターといった格好の男性が見えた。この二人がさっきの声の主だろう。 「すまないね、君が危害を加えられるような存在ではないと思ってはいるが万が一の為に拘束させてもらってるよ. さて、せっかくだから自己紹介させてもらおう。私の名はジェイル・スカリエッティ、この世界の偉大なる天才技術者さ。」 「あの…僕をどうするつもりなんですか?」 「そうだね、君は我々を見てしまった。我々は現在追われている身でね、我々の存在を誰にも知られたくないのだよ、その為申し訳ないが今から元の場所に戻すわけにはいかないね」 「えっ…」 「その上で、君の身体を調べさせてもらったが、どうやら君の身体には我々の世界の魔力が検出された、ごく微量であり魔導士として動けるほどの素質は無いが、我々が今研究しているものの素体として使えるものだ。そのため、君の身体を使わせてもらいたい」 「えぇ…?」 「私の研究は戦闘機人、管理外世界の君にも分かる言葉で言うならサイボーグというものだな。これによって強い人間を作ろうとしているのだが、現在は厄介な難題を抱えていてね、これを解消するために大がかりな実験を行うつもりなのだよ」 「………」 「そのため今回の実験はこれまでより更に危険なものとなっているんだ、場合によっては素体である君の命は無くなってしまうが、まぁどうせ口封じされてしまう身の上だ、科学の為の尊い犠牲と思って…おや、どうしたんだい?」 「あの…ドクター…それなら…僕の身体は好きにしてくださって構いません、その代わり…お願いがあります」 「…ほう?」 少年のお願いというのは、自分の死を偽装してほしいというものだった。もともと少年は好きな女の子がいたが、彼女と自分のつきあいは他の人達にとって不釣り合いな関係であると思われ、周りから白眼視されることも多かった。このままでは自分の存在によって彼女に迷惑が掛かり、果てには自分がいる事によって彼女に不幸が起きてしまうと思っていた。そのため彼は自分の手で死のうと考えていたのだった。 だから既に死のうと考えていた自分の身体が何かの研究に使われても、それによって命を落とすことになったとしても構わなかったが、彼がこのまま行方不明になってしまえば、家族や彼女が心配してしまう事が考えられるため、社会的には死んだ事にしてもらいたいというものであった。 少年の話を興味深そうに聞きながらドクターと呼ばれた男はその願いを聞き入れる事にした。 わざわざ聞く必要のない一人の実験体の願いを聞き入れるなどという酔狂な事を行ったのはどうしてか。 それは少年のこれからの運命を握っている自分に対して少年の方から本来であれば無理難題といえるお願いをしてきたという出来事に対して興味を持ったこと、そして男がその少年の願いをかなえられる力を持っていた事であった。 男は少年の遺伝子を元にクローン技術を用いて彼そっくりの遺体を作成し、それを彼の住んでいた所の近くの公園の木で首を括らせ、もともと少年が計画していた首吊り自殺の死体のように見せかけた。 それは、このスカリエッティという男が遺伝子工学、生命操作においての天才であり、人間の培養や製造などに長けているため、彼の作った遺体は遺伝子上だけでなく、姿形や内臓、骨格に至るまで全てが寸分の狂いもなく少年と同一のものとなっていた。 その結果、彼の遺体を見たものはそれが本人のものではないと気づく者はなく、彼の死はただの自殺として処理され、以降の捜索や調査も行われる事は無かった。 そして… 「ドクター、改造作業は無事終了しました。今の所これまでにあった機械部分への拒絶反応も見られません。」 「ありがとうウーノ、どうやら私の想像以上に上手くいったようだ。なるほど、これまでの実験から思い切って工程を変えてみたが、やはり正解だったようだね。」 「……ううん」 そういって少年は目を覚ました。今度は何か液体に満たされたカプセルの中に入れられているようであるが、呼吸は可能であり、不思議と周囲の会話も聞き取る事が出来ていた。 「ドクター、彼が目覚めたようです。」 「…ドクター」 「おはよう、既に実験は終了しているよ。自然な人間相手に行った戦闘機人としてはおそらく君が初めての完成形だろう」 ドクターの挨拶とともにカプセルの中の水が排出され、外に出られるようになる。 少年は今までとは異なる体の感覚に戸惑いながらもなんとか動かし、外に出てドクターの前に出た。 「…それで、僕は…」 「安心したまえ、実験は完全に成功した。生まれ変わった気分はどうだい?」 「はい…すこし動きにくい感じはしますけど、なんとか…」 「フハハ!!そうかい!!やはり私の研究は完璧だ!!これで私の正しさがまた一つ証明されたのだ!!」 「あの…」 「フフフ…しかしやはり私は天才のようだ、これまでの常識の壁をこうして打ち破る事ができるなんてね…」 「あの…ひめは…」 「ひめ?あぁ、君が言っていた彼女の事かい?ウーノ、そちらについてはどうなっていたんだい?」 「遺体の作成を行っている間に貴方の交友関係についても調べさせていただきました。藍家ひめなの事ですね。…どうやら遺体の第一発見者となったようです。あなたの遺体をみてショックを受けていたようですが、現在では落ち着いているようです。」 「!!…そうですか…」 「…そんなに彼女が気になるかい?」 「えっ…?」 「残念だが今の君には元の所に戻るという選択肢はないさ。あの世界では君はすでに死人だからね」 「あっ…」 「それに、最初に言ったが私は追われている身でね、今の状態で君を解放した上でそこから足取りを知られるわけにはいかないんだ」 「はい…」 「まぁ、我々の計画が無事に済めば我々を追っている集団も壊滅させられる。そうなれば私たちも追われる心配がなくなり、君も自由の身だ。そうなったら君も彼女の下に行けるだろう。」 「……」 「そういう訳で、君にはこのまま私たちの野望の為に協力してもらおうじゃないか。少なくとも私たちは君を歓迎するし、色々君にも働いてもらう必要はあるが、身の安全や普段の生活は保証しよう」 「…はい」 今この場で逃げ出すことも出来ない、また逃げられたとしても彼女の下にどうやって行けばいいのかも分からない。それならばしばらく彼らとともに行動しておいた方が良いだろう。そう判断して少年は男の提案を受け入れるのであった。 「それでは、君を私の生み出した戦闘機人「ナンバーズ」の新たな妹として迎えよう。これからよろしく頼むよ」 「はい」 「…えっ?"妹"?あれ、僕の身体…えっ?えええええええええ!?」 彼が下を向くと、かつて自分の証明していたものは見えなくなっていた。それはただ存在そのものが無くなっていただけではなく、視界の前に新しく現れていた二つの大きくやわらかなふくらみが視界の邪魔をしていたのであった。 「あれ!?僕が!…ない!いやある!!なんで!?だって僕は男の子で!それが女の子に!!」 「あぁ、すまないね。君の身体を改造するうえでついでに女性への性転換を行う手術も行わせてもらったよ。こちらもうまくいったようだ、現在の戦闘機人の完成形態は女性タイプだけだからね、男のまま改造するよりも女性に変えた上で改造する方が成功率が高かったんだ」 ドクターの説明も頭に入らず、ただ今の自分に驚くばかりであった。声は震え、視界はその双丘に奪われる。 また、今の自分の服装も、もともと着ていた服装ではなく青と紫のボディスーツを着用していたのであった。 そのボディスーツは肌にぴたりと張り付き、腰の曲線から太腿のラインまで余すことなく浮かび上がらせていた。それはまるで自分の身体が他人のものになったかのように、艶やかで、妖しく、息を呑むほど女性的だった。 「えっ…えっ!嘘!?そんな!??」 自分にある双丘を触ってみるが、勢いよく触ったせいか 「んんっ…なんで…」 驚いている少年の背後からふいに温もりが重なる。先ほどまでいなかった金髪の女性が抱き寄せ、耳元で囁く。 「ふふふ…別にいいじゃない。前はどうだったかなんて。今のあなた、とてもかわいいわよ。ほら、女の子の身体はもっと丁寧に、優しくゆっくり扱ってあげないとね…」 少年は何とか声の主を見ようとしたが、後ろにいる為彼女の姿をしっかりと確認する事は出来なかった。しかし辛うじて自分より背の高い女性であり、彼女も自分と同じ青と紫のボディスーツを着ている事だけは確認できた。 少年が女性の姿を確認しようとしている隙に、彼女の指先がボディスーツ越しに滑り、少年の身体の曲線をなぞる。スーツの素材が擦れるたびに、敏感になった肌が熱を帯び、羞恥と戸惑いが入り混じった甘い感覚が広がっていく。 「あっ❤…あぁ…んんっ❤…」 「ほらほら、ここが気持ち良いんでしょ…?」スリスリ 「あぁん…いやぁ…やめて…」 必死に抗う声とは裏腹に、身体は確かに女性として反応していた。 その事実が、恐怖よりも強烈な混乱を少年の心に刻みつけていく。 そして快感がついに頂点に達しようとして… 「ドゥーエ、そこでストップだ」 「はーい、ドクター」 ドクターの制止によってドゥーエと呼ばれた女性は少年の身体からはなれた。しかし少年は先ほどまで全身を隈なく触られ弄られたときの感覚が抜けておらず、息も絶え絶えで身体も敏感なままとなっていたのであった。 「あん…」 「…ふむ、とりあえず感覚部分はしっかりと通っているようだね。この調子ではほんとうに問題ないだろう」 「クスッ、流石ドクターですね、この子はもう完璧な女の子ですよ」 「…」 「とはいえひとまずは今の君の詳細な稼働状態を確認しないといけないね。ドゥーエ、彼を訓練場に連れて行ってくれ。確認はそこで行おう。」 「は~い、それじゃあ訓練スペースまで案内するわ、ついてきて」 「…ハァ…ハァ…❤」 「とはいえ、やっぱり敏感なままじゃ動けそうにないみたいね。それじゃあ…えいっ」グイッ 「うわぁっ!」 そのままドゥーエは少年の身体を軽々と持ち上げたのだった。現在はお姫様抱っこの状態で少年を抱えている。 「じゃあこのままスペースまで連れて行ってあげるわ。しっかり捕まってなさい。」 「あっ…はい…」 スタスタ… 「貴方…そんなに彼女に会いたい?」 「えっ?」 「あなたの事ドクターから聞いたわ、大好きなガールフレンドがいるみたいね。」 「えっ?あっ、いや…」 「隠す必要なんてないわ。私たちはもう姉妹だもの、なんでも話してほしいわ。」 「…はい、あの子に…ひめに会いたいです…」 「…あらあら、本当に正直で純情な子ね、可愛い❤でも、今はまだ会うわけにはいかないわ」 「はい…分かっています…」 「そんなに落ち込まないでよ。貴女がたくさん協力してくれたらそれだけ早く彼女に会えるわ。 それじゃあ、まず初めてのお仕事として貴女の身体をしっかり調べさせてちょうだい。」 「…はい……」 「ところでドクター、彼…いや、彼女の実験記録についてですが」 「そうだね…ウーノ、この記録は我々のみで保存しておこう。」 「よろしいのです?これは評議会が求めていた安定的な戦力の確保としての成功例とおもわれるのですが…」 「ふむ、確かにそうだ、これはあくまで一例だが、この成果をもとに研究を進めていけば一般人でも戦闘機人として適合可能となる。そうすればただの兵士であっても上級の魔導士たちと肩を並べられるだけの戦力を量産する事も可能だ。 だが、今更彼らに渡してやる理由もないじゃないか。もともとは彼らから進めるように言われた計画だが、一方的に破棄したのも彼らだ。今更こちらの成果を送った所で裏社会で生かされている私たちの待遇を良くしてくれるわけでもないさ。 いずれ処理するつもりの相手をわざわざ強くしてあげる必要もないしね」 「確かに、我々が評議会にこの成果を報告したところで何のメリットもありませんね…」 「ああ。 それに…」 「それに…?」 「それに…どうやら彼は愛しい彼女の元に戻りたがっているみたいじゃないか。評議会や管理局に彼の存在が知られて、捕らえられて我々の知らない所に送られたり保護という名の枷をはめられたりしてしまっては彼がその子の下に戻れなくなって可哀想じゃないか」 「…フフッ、そうですね。それでは今回の実験では"実験素体は実験の途中で耐えられずに死亡した"として報告しておきます。」 「よろしく頼むよ。もはや彼らは'失敗作'には興味もないだろうからね、実験の犠牲が一人増えてても何も気にしないだろうさ」 ------------------------------------- ……違う アレはヒコくんじゃない。 みんなアレをヒコくんだと思ってるけど私チャンには分かる。 だけど、どうやったのかは分からないけどあれはヒコくんがやったものなのは本当だ。 そんなに苦しかったんだね…ゴメンね… …でも、私チャンは絶対ヒコくんの事諦めないから…絶対探し出してみせるんだから!! そういえばアレの近くで出会ったあのキュウべえとかいう生き物が出てきてどんな願いでも一つだけ叶えるって言ってたけど、私チャンの願いは… でもアイツも「あの子の死がそこまで気になるのかい?」と言っていたし、コイツもヒコくんが死んだと思ってるんだ。本当にどうしようもない時じゃない限りアイツには頼りたくない。 私チャンの手で、私チャンだけでヒコくんを探さないと、絶対探さないと!!