【ライク・ア・チョーク・アンド・チーズ】 「ザッケンナコラー不審者!止まりなさい!」「スッゾ!職務質問!」「ナンオラー!防犯月間!」喧騒から離れた暗い裏路地に響き渡る物々しい足音と怒声。 路地を駆けるのはオナタカミ社製の白い装甲服を纏った治安維持機構ハイデッカーの隊員達、屈強な体格と声色は双子か三つ子めいて不自然なまでに全員同一。 「ボウフラみたいにウジャウジャと……いい加減しつこいのよ」執拗な追跡を常人の三倍の脚力で躱し続けた女は、いよいよ袋小路に追い詰められ嘆息した。 彼女はニンジャである。ライトグリーンの髪の美しい顔立ち、肌の露出の一切ないロングコートに包まれてなお大きく主張するそのバストは豊満であった。 ……表社会に着々と伸長するアマクダリ・セクトの野良ニンジャ狩りは日に日に激しさを増している。スカウトと呼べば聞こえは良いが、大人しく応じた先で待って いるのは、生体LAN端子埋設手術による完全管理の自由無き奴隷めいた恭順。抵抗を見せれば容赦なく制圧され爆発四散……それだけならばまだ良い。 反抗した者、恭順した上でアマクダリとして不適格と見なされた者は、冷凍チャンバーに詰められ禁固刑に処されるだの。自我破壊研修施設に送られるだの。脳髄を 摘出され戦闘兵器に埋め込まれるだの。顔を削がれたおぞましきバイオニンジャの素体となるだの……恐るべき都市伝説めいた噂がアウトローの間では絶えない。 「……私もついに年貢の納め時って?冗談!」女のオレンジ色の瞳に妖しい輝きが灯った。狭い一本道の路地を塞ぎ、じりじりと迫るハイデッカー部隊は直線上に 並んでいる。好都合だ、非ニンジャそして同一のニューロンを持つクローン生物であれば彼女のカナシバリ・ジツで容易に一掃可能だ。その時である。「マッタ」 一声と共に突如歩みを止めたハイデッカー部隊を女ニンジャが訝しむと、隊列を割いて男が一人歩み出た。気崩したジュー・ウェア或いはホストめいてはだけた 白いスーツ。コートの襟元には「天下」のピンバッジ。アマクダリ・セクトのニンジャである。アルカイックな微笑みを浮かべるその顔は並であった。 「これはこれは、不審な野良ニンジャを捕捉したと聞いて足を運んでみれば。混沌の泥濘に咲く可憐な花、と言うべきかな」「アラお上手。それなら野に咲くまま そっとしておいて貰えると有難いのだけど」歯の浮くような気障な台詞に応じながらも警戒を解かず豊満な胸を張る女の様に、白い男はやれやれと肩をすくめた。 「確かに、摘み取るには実際惜しい。どうかな?今後についてお互いサケでも酌み交わしながらじっくり話し合うのは」白い男が鷹揚に両手を広げると、ハイデッカー 達は銃口を下げ、宮廷近衛兵めいて一糸乱れずライフルを肩に路地の壁際に整列する。敵意を感じられぬリラックスした態度に、女は怪訝に眉を吊り上げた。 「連行って感じじゃないわね、ひょっとしてナンパかしら。あなたアマクダリでしょ?良いの?公私混同なんて」「厳格な秩序の執行者であればこそ、モチベーション に大事なのは遊び心とささやかな秘密さ。それを共にするトモダチが欲しいんだ、君のような美しいトモダチが」「悪い人」女が瞬くと瞳からジツの輝きが消失した。 「夜は長い、交友を深めようじゃないか。君のこと、よく知りたいな」ウィンクし手を差し伸べる、誘惑めいた甘い声色の囁き。「……フフッ!」女が思わず破顔し アトモスフィアが和らぐと、白い男の口角が僅かに釣り上がった。いつもの手口だ。サケで惑わし薬物で沈める、各所に囲う自我破壊オイランがまた一人増えるのだ。 「情熱的なお誘いね。けど交友の前にまずアイサツが先じゃなくて?紳士=サン」「これはシツレイ」白い男はゆるやかに胸の前で手を合わせ、オジギした。「ドーモ、 はじめまして。崇高なるアマクダリ・セクトに名を連ねる、秩序に在りて混沌を、ハッカーにしてカラテを愛す孤高の美丈夫とはこの私。エンジェルフェイスで」 「ドーモ」エンジェルフェイスの長口上を待たず、女も豊満な胸の上で手を合わせ……と見せかけおもむろにロングコートの襟元を掴み、コウモリの羽根めいて一気に 広げた!「エッ」な、なんと!?弾むようにまろび出た剥き出しのバスト!そして!BRATATATATATATATA!!「グワーッ!?」「メロンボール(豊満)でェーーーッす!」 ナ……ナムサン!女ニンジャ・メロンボールはアイサツに応じると思わせ、ガトリングガンによる激しい銃撃で返答した!あまりの予想外に一瞬呆気にとられたエンジェル フェイスは無惨に被弾!しかし彼をウカツと責めるべきではなかろう、神聖不可侵のアイサツの掟を冒涜するメロンボールのなんたるシツレイ!スゴイ・シツレイか!! ……ところで読者の皆さんは疑問に思った筈だ。メロンボールの両手は身体の左右に開き猥褻なピースサインを掲げている。ではこの銃撃はどこから?彼女が晒け出した 豊満なバスト、これは単なる目晦ましなどではない。おお……見よ!左右のバストの肉厚なピンク色の先端部の内からせり出し、激しくマズルフラッシュする銃口を! この豊満なバストこそがメロンボールの武器、強力なガトリングガンを搭載したオモチシリコン製の精巧な胸部サイバネである!それだけではない、広げたロングコートの 下はバストのみならず靴以外一糸纏わぬあられもない全裸!露出狂だ!そもアマクダリの秩序支配以前に逮捕重点の下劣なる性犯罪者!それがこのメロンボールである! 「「「「アバーーーッ!?」」」」オモチシリコンをぶるぶると波立たせて暴れ狂うダブルガトリングガンの掃射に、狭い路地に整列待機していたハイデッカー部隊は成す すべなくネギトロ殺!エンジェルフェイスは咄嗟に付近のダストコンテナの影に身を屈めて困惑し叫ぶ!「アイエエエエッ!露出狂!?チキビナンデ!?銃弾ナンデ!?」 やがて嵐のような銃撃が止み、ガトリングガンはリロードシーケンスに入る。赤熱した銃身からは煙が上がり、排熱冷却のもたらす余韻と装弾のむず痒い感覚にメロンボール は恍惚し身震いした。「アハァー……イイ……たまらな…アッ!」カクカクと小刻みに震えるカニめいて開げた脚の間から、腺液が透明な糸を引いてアスファルトに垂れた。 ……そもそもハイデッカーの出動自体が野良ニンジャ狩りが目的ではなかった。近隣の通学路での女の露出魔騒ぎに寄せられた市民からの多数の通報で現場に急行した際、 常人の三倍の脚力で逃走する人影をシステム・アルゴスが捕らえニンジャソウル反応を検知。因果関係は不明のまま近隣のエンジェルフェイスに派遣要請がかかった形だ。 その時である。「アイエエエッ!?」スイスチーズめいて銃創にまみれた無残なダストコンテナの影から這い出たエンジェルフェイスの叫び。酩酊者めいて陶酔していた メロンボールは興が削がれたように舌打ちする。「チッ……なによあンたまだ生きてたの」エンジェルフェイスの白い装束は所々が裂け、出血する頬を抑えて狼狽している。 「血!血が!?私の美しい顔に!傷が!?」「アハハハハハッ!美しいって!ツクシかタンポポみたいにその辺に幾らでも生え散らかしてそうなその顔が?さっきから笑い 堪えるのが大変だったわ!コントかなにか?」エンジェルフェイスは何を言っているのか分からない、と言いたげに一瞬唖然とし、激昂した。「き、貴様ァーーーッ!?」 先程までのアルカイックな笑みも狼狽も消え失せ、瞬時にオニめいた憤怒の表情と闘志を並の顔に浮かべたエンジェルフェイスは跳ね起き、カラテを構える!「豊満とは名 ばかりのハリボテの倒錯ヘンタイ発狂マニアックの分際でよくも!もはや法廷で審理を待つ必要すらなし!美しき我がカラテで死ね!メロンボール=サン!死ねーーーーッ!」 「誰がハリボテだコラーッ!?あンたの並のツラの網膜とニューロンの生涯最後の光景に私の痴態をありがたく焼き付けながら死ね!エンジェルフェイス=サン!死ねーー ーーッ!」メロンボールもまた激昂!邪魔なコートを脱ぎ捨てもはや完全な裸!スゴイ・ヘンタイ!己を誇示するように豊満を揉みしだくと、再び先端は激しい火を噴いた! 「「イヤーーーーッ!」」BRATATATATATATATATATATA!!!! 【続かない】