「エマ…エマ……」 なんやかんやあって大魔女…月代ユキは無害化されて現世へと肉体を得て以降、桜羽エマの元を離れようとしなかった。 「もう…ユキちゃんったらそんなにくっつかなくてもどこにも行かないよ?」 対するエマはといえば、口ではユキを窘めつつも満更でも無い、といった顔を浮かべて結局は二人でいるのが日常となっていた。 「ねぇユキちゃん」 「はい、なんですか…?」 ユキにすっぽりと抱きしめられたエマが彼女を見上げて呼びかける。 「ユキちゃんはボクの偽善が好きって言ったけど…それは今でも?」 すぅ…とエマの瞳が細くなる。ナノカの放つ弾丸のように鋭い視線がユキを貫いていく。 「…ふふ、どうでしょう? でも…エマのことが好きなのは本当ですよ」 曖昧に笑って答えをぼかすと、その代わりにこれが答えだと言うようにエマを抱きしめる。決して強くはなく、エマが望めば簡単に抜け出せるであろうその拘束だったが、エマはそこから抜け出す必要を感じていなかった。 「そっか、ボクもユキちゃんのこと好きだよ」 「ヒロよりもですか?」 「もー! それは意地悪な質問でしょ!」 ぷんぷんと頬を膨らませてばたばたと暴れるエマにユキは対照的にクスクスと楽しそうに笑う。 「さっきエマが意地悪な質問をしたからお返しです」 「じゃあこれでおあいこだね」 「ええ、おあいこです」 見つめあって頷くと、どちらからともなく顔を近づけあえば、重なる唇。ちゅ、と小さく音がすればその場に流れる沈黙。やがて時計の秒針が一周…はたまたもっとかもしれないが、回れば離れる顔と顔。 「好きです、大好きですエマ」 「大好きだよ、ユキちゃん」 二人の少女は笑顔を浮かべ、抱き合った。