叩き潰した敵の残骸のそばで膝をつく。失意、と言うのであればその言葉が正しい。俺はいつもそうだ。  南盤千治の心が暗くよどんだ。何が護衛だ、聞いてあきれる、どんな理屈をつけようと己の愚かしさを証明しただけだ。 「あ゛ぁ゛――」  自責の言葉ならいくらでも吐けた、自嘲の念ならばいくらでも思えた。  目の前で古川雪花をさらわれたと言う事実に対して、ただひたすらに後悔を思う。 「は――」  そして即座に忘れた、やらねばならぬことをやるだけだ。  南盤千治は馬鹿だ、大馬鹿者だ、だから細かいことはすぐに忘れた、やることをただやらねばなるまい。 「どーすんだ、千治」  隣からパートナーの声がする、ブイモンの声。 「あ、決まってんだろ」  空をにらんだ。  取り戻すんだよ。  足を戻す、向かう先は数日前に向かったアスカシティだ、自分一人ではどうにもならないならば誰かの力を借りればよい、1人でもがいてきた男でもそれくらいは分かる、だが、大丈夫だろうか、暴れたせいで出ることになった、良い顔で見られることないだろう。  それでも己の恥をさらしてでもそこくらいしかアテはなかった。こんな時に雪花ならばもっとうまくやるのだろうが、あいにくとそんなことが出来るほど器用には生きていない。  走る、ただただ、足を動かし来た道を戻る。アスカシティにはすぐに着いた、妨害する敵も居なかったのはもう自分と言う存在が敵にとっても価値がない、とでもいうべきだからだ。  つくなりに、橋の近くで門番が驚きを見せる、仕方ないよな、追いだした人間が戻ってきたんだ、そんな顔もすらぁな。 「何用だ」  門番のデジモンが低い声を出した、最初に自分を受付した時のデジモンと変わらないが、警戒されているのがよく分かる。 「――頼みがある、ムシが良いことくらいは分かってる……それでもここしかアテがねえ、話を聞いてくれねぇか」 「……ダメだ」 「そこを承知で……頼む」 「ダメだ」 「――そうか、ダメか」 「ああ、問題を起こした以上、もういれるわけにはいかない――」 「だよな」 「だが――」 「あ――?」 「そこで独り言を言えば、もしかしたら聞き届けてくれる誰かはいるかもしれないよ」  声色が少し優しくなったのを聞く。ああ、と、思う、無理をさせてるんだな、と、昔ならば自分の思うがままに押しとおったかもしれない、だがそれをすればどうなるか、くらい、今は分かる。  声を漏らした、ここでの襲撃から毎日その後も襲撃されたこと、もう1人居た女の方がさらわれてしまった事、何とか助け出したいと言う事。  言葉に出来るすべてを口に出す、と、言っても短く、そして簡潔にだ、千治に情緒を交えて心に訴えかけられるような口は持ちえていない。だからただ、真っ直ぐに。 「――それは……無理だ」  デジモンがうめいた、 「大量のデジモンを配下にして送り出せるような相手、大体は究極体クラスしかいないけど…そんな存在が支配する領域を感知すること自体が難しいんだ……」 「だよな……ワリィ、無理言った」 「ごめんね、力に慣れなくて」 「いや……こっちが無理言っただけだ……仕事邪魔して悪かったな」 「……君、これからどうするの?」 「――何が何でも見つけ出すさ」  踵を向けて、また戻る、長い橋を渡り、また森へ、どうするか、当てもない旅を今からまたするのか、それも悪くない、必ず助け出しに行かねばならない。  どうしてここまでするのだろう、と考えた、簡単だった、気に入った、ただそれだけだった。  石橋の感触が土に変わる、とはいえどうするか、どうにかして感知が得意なデジモンを探し出すほかないだろう、だがそんな相手どこに居るだろうか、千治は敵を作ってもこれまで味方を作ったことはない。雪花ですら、自分から味方としたわけではない、今でこそ味方と思えてもあくまで偶然の産物だ。 「ちっ……どうすっかね――」 「よう、あんちゃん」 「っ!!」  声がくる。振り向けばそこにはデジモンがいた、小さな悪魔のような姿、おとぎ話の。見覚えがある。 「――インプモン、だったか?」 「おいおい、そこはもっと早く気付こうぜ?」 「……ああ、ワリィ」 「気にしちゃいねーよ」  小さくインプモンは笑う。 「なあ、お前」 「あん?話は聞いてたよ、大事なのかその相手」  インプモンの問いに、目をつぶる、大事かどうか、か。  ただの成り行きだった、デジタルワールドにきて偶然出会い、護衛としてしばらく付き添った、ただそれだけの関係性でしかない、だが、それでも―― 「大事だよ、そーだな、気に入ってる相手だから」  自分を怖がらない相手を気に入ったって、イイじゃないか。 「そうかい――なあ、取引しないか?」  インプモンは笑う。 「取引だ?」 「ああ、これでも俺はまあ?けっこー得意なんだ、あー、ま得意ってのは分かれよ」 「いまいちわかんねぇけど、連れてってくれるって言うならそれでいい」 「お、ごちゃごちゃ言わないのは良いね――お前の身体からよぉ、わずかにバルバモンの匂いがする」 「あん?」  袖に鼻を付ける、そんな匂いがするのか。 「人間にゃわかんねーよ、あー、匂いって言うから分かりにくいのか、気配って言うのかデータの残滓ってヤツ……でもその感じ、弱ぇからよ……多分手下か何かと戦ったんじゃねーか?」 「バルバモンは知らねー、でもずっと襲撃にあってたってのは……聞いてたか」 「おう、聞こえてたぜ、まあ多分一番上の奴がバルバモンってのは俺の勘だけど、間違ってないはずだぜ……俺はそいつとすこーしばかり縁がある、連れて行ってやるよ」 「本当か!」 「だから」 「……」 「よこせ、お前の1番大事なものを」 〇 「くっ…硬いっ」  何とかしようともがくも雪花の腕力では鉄、あるいは鉄のデータで出来た牢屋をどうにかすることはできなかった。0と1の世界は物理的な干渉以外にも多く何とかする方法はあるが、パートナーとDアークを没収された状態ではどうにもならない。 「うぐぐ…せめてシーラモンさどうにか逃がしてあげたいな」  魚型デジモンの相棒を思い浮かべる、ここまでずっと一緒に旅をしてくれていた相棒、データの海の世界からこれまで一緒にやってきたシーラモンは今Dアークの中に居る、操作しなければずっと格納されたままになってしまう。それはあまりにも無慈悲だ、雪花とシーラモンは似ている、好奇心の強さなどが特に。  ずっとリアルワールドに行きたいと言っていたパートナーについぞ故郷を見せてあげることはできなかった。こんな事なら寄り道をしなければよかったと今更ながらに後悔がくる。何だかんだシーラモンも楽しんでいたから、と、言い訳をしながら自分のやりたいことを優先してきた、まさに後悔先に立たず、と、言うほかない。 「はぁ……見せてあげたかったな」  故郷を、きっと目を輝かせていたんだと思う、しかしもう手立てがない。総ては自分の招いた事だ。  そして、もう1つ。 「千治、大丈夫かな」  ぶっきらぼうな少年の顔を、ただただ強さを追い求めていた姿を。  無理を言って護衛に引き込んだ、今更だが千治には千治の道があったと言うのに、甘えていたんだ、とここにきてようやく気付いた、これも自分のわがままだ。 「甘えてばっかりだったんだな、私」  自分の無力さに腹が立つ、今何もできないことへ。 「うぅっ……しっかりしないとっ……」  己の頬を自分ではたいた、なんだか心がネガティブによっている、状況が状況だ、仕方ないと思いつつもこのままではより悪い方向にものを考えてしまいそうだ、無理にでも思考をプラスにもっていかないといけない。 「ん?」  上着のポケットに硬い感触、まさぐる、 「あ」  貰ったネックレスが入っていた。雪と花をかたどった方、勢いのままもらってポケットに入れていた、本当はDアークにしまおうとして忘れていた――あるいはわざとそうしていた、今思えば無理してもらったものを大事にしないなんて、と思うが、今は結果オーライだった。よし、とそれを首にかける、鏡を見たいと能動的に思ったのは久し振りだった、風呂上がりや朝起きた時の歯磨きに使うくらいでしか見ようと思ったことはほとんどない。 「似合うかな…なんて聞いたら照れるよね、きっと」  送り主の顔が浮かんだ、自分で奥っておいて焦る顔が思い浮かんですこしばかり笑みがこもれる、無性に会いたくなった。千治に。そして苦笑、また甘えている、これじゃあだめだ、少しくらい自分で何とかしないと。そもそも最初は自分で何とかしていたはずなのに、どうして誰かに寄りかかることが当然と思う様になっていたのか。こんな時千治ならきっと自分でどうにかするんだろう。なら少しくらい自分で何かをしなければならない。 「って言っても」  ここから見うる限り、何か自分で行うだけの手立てはない。 「何か――何か――あ」  本当の事を言えば、あまりやりたくはないが、やるほかはないだろう。 「誰か――誰か――!」 〇 「俺の1番大事なものだぁ……?」 「ああ、そうだよ、まさかタダでなんて言わないだろ?」  少しだけ考えこみ、うなずく、 「ああ、持って行けよ」 「千治っ!?」  声を上げたのはブイモンだった。 「あん?何叫んでんだバカトカゲ」 「おめー自分の言ってること分かってんのか!?」  そんなモノ、言わずもがな分かっている、己の中で1番大事なものなどただ1つしかない、闘争心、ただそれだけだ。  だが、と、思う、ここでしり込みして何もしないような人間にこれからも戦い続けるようなことなど無理だろう。もしもここで目を背けた後の自分がこれからも戦い続けたとして胸を張って自分は戦い続けているなどと言えるだろうか、きっと言えない。己そのものに1度でも目を背けてしまえば、それは自分の有様そのものではなくなってしまう。  だから、 「てめーのケツくらいてめーでふかねぇとな」  己を優先し、さらわれるなどと言う醜態は自分の手でぬぐい取る。 「わりーな、ブイモン、今日限りみたいだぜ、ってことでじゃーな」 「待てやコラ」 「あん?」  足下から声。 「何てめーだけで格好つけてんだボケ」 「おめーにゃ関係ないだろ」 「――あるわ!」 「どこがだよ」 「うっせーな、んなもんてめーの頭で考えておけっての」  ブイモンが並ぶ、 「一応オレとお前はパートナーなんだぜ……精々真人間になったお前を笑ってやっから、突っ走ってんじゃねー」 「……おめー」 「んだよ」 「へ――なんでもねぇよ、んじゃ行くとすっか」 「あたぼう」  ブイモンが深く帽子をかぶった、 「おい、そろそろ準備出来てっか?」  インプモンの声がする、ああ、と同時に声をかけた。 「へ、良い返事してんねぇ!んじゃひとっ飛びだ――インプモン……進化――!!」  声、同時、光が降り立つ、まばゆいまでの光は力の顕現、成熟期、完全体すら超えてそれは現れた、黒い魔王だ、人の形をした人ならざる者、どこからかきたバイクにまたがっている。 「ベルゼブモン――さあ、乗りな、地獄までの道案内――だ!」 〇 「うるさいぞ!人間!」  そう答えてやってきたのは球体に翼を付けた様な小さな悪魔だった、一見すれば可愛いと思う誰かも居るかもしれない。 「あ……確かピコデビモン、だよね?」 「そうだけど……ああ、別のヤツに逢ったことがあるのね、なんだそれよりうるさいなぁ!人間はやかましいものなのかい?」  不服そうな表情とやや甲高い声、どこか子供にも思える、やや申し訳ないと思いつつ、しかし手段を選んでいる場合ではない。 「も、申し訳ないんだけど、トイレはどこかなって」 「は?トイレ……まさかうん――」 「やめて、その言い方は尊厳的によろしくない」 「でも事実だろ」  こんなところで種族差を感じるとはおもってもいなかった、だが、もう、四の五の言っていられない、 「わかったそれでいいよ、だからトイレはどこか教えて欲しいんだ!」 「はぁ、しょうがないなぁ……今トイレデータ出してあげるから」 「違う!そうじゃない!」  雪花は必死になって叫ぶ。 「えぇ……何なんだよきみぃ」 「いいか、人間は……見られながらとかないんだ、いい?」 「面倒くさいなぁ……はあ、しょうがない……排泄物データなんて残しておきたくないし……まあパートナーも居ないなら大丈夫か、ほら、あけるから」  石が擦れる音と同時に牢が開く、拍子抜けの気分はある、しかし特殊な人間でなければ成長期でも人間だけで戦えたりすることはない。本当は見張りもせずにいてくれればマストだったが流石にそれほどのことはなかったようだ。 「ありがとう、助かる!……それで何だけど、シーラモンにご飯はあげてくれてる?」 「そんな訳ないだろ、って言うよりデジヴァイスに入ってるなら問題ないじゃないか」 「そういう問題じゃないよ、ずっと一緒にご飯食べてきた相手が今は1人なんて悲しいでしょ?」 「むぅ……それはそうかもだけど……」 「ね、お願い、分かった、見張っててくれていいからせめて食事データくらい渡しに行かせてよ!」 「むぅっ…まあ、非力な人間がちょっとやったくらいなら――」 「そう、私非力な人間だから!!」 「……しょうがないなぁ、変な真似はするんじゃないぞ」 「助かるよ!」  押して、押して、押す、大体これでどうにかなる時があるとデジタルワールドで学んだ。デジモンにも当然だが個体差がある、力が強いもの、頭が良いもの、あるいは足が速いなど、同時に性格も千差万別だ、この個体は少々お人好しな所があったようだ、騙すような真似をするのはあまりにも心苦しいが、先に手を出してきたのが相手である以上ここは失態には我慢してもらおう。  後ろから監視されつつも石で出来た道を歩く、雪花の靴の音だけがこだまするように響く。 「――ねえ、他に見張りのデジモン達はいないの?」 「いないよ、沢山いたけど倒されちゃったって言うし、残った幹部の皆はもうバルバモン様の所にいる、ボクは弱いから君なんかの見張りだ、やってられないよ」 「はは…それは災難だったね」 「原因が笑ってるんじゃないよ!もうっ!……と、ここだよ、早くご飯でも肉でもあげてきてよ」 「うん、ありがとう」  廊下に見える一室、扉を開き中に入れられる、部屋は六畳程度の長方形の部屋で、奪われたDアークは真ん中の机の上に乱雑に置かれている。ゴメン、と思いながらも手を伸ばし、 「何をしている?」  声、ピコデビモンのものとは比べ物にならない程に低い。 「デビモン様!?」  進化したわけじゃないらしい、ピコデビモンは別にいた。 「このバカめ!どうして牢の外に出した!」 「ご、ごめんなさい、そいつがトイレに行きたいって、それにパートナーにご飯を上げたいって言うから……」 「――罰は後だ……貴様、出し抜こうなどとは小癪な」 「はは、それは私に言ってるのかな?」  雪花の背筋に冷や汗が流れた、寸での所で希望が立たれそうな感覚、しかし動く。既に諦める等ない、少し前の自分ならばここで立ち止まっていたかもしれない、しかしいまはもう影響を受けていた、ちょっとやそっとの事で諦めるほど柔ではない。  体を捩り、左手を伸ばす、無理な動きだから少しだけ身体が痛い、しかし、届く、唖然とした表情が見て取れた、ここまで動くとは思っていなかったようだ、舐められているのか、あの時何もしてなかったから。 「きて――シーラモンっ!!」  Dアークのスイッチを起動、画面に光がともる、即座に操作、ボタンを押して――呼ぶ、パートナーを。 「っはあっ!!雪花っ!大丈夫っ!!?」 「うん、私も油断しちゃってたみたいだから!行くよっ!」  ポーチから1枚、カードを取り、 「カードスラッシュ!『湖のぬしの笛』」  海のデータが入りこんだカードを読み込ませる、水棲デジモンであるシーラモンは本来陸上での戦いを得てしない、ならば環境を変えてしまえばいい、カードの効力が続く限りシーラモンの周囲は海と同義だ。 「さーて、よくもやってくれたなっ!ここからはお返しだよ!」 「小癪な……」  激突、結果はすぐに出る、シーラモンが押された、レベルは同じ、鍛えていない訳ではない、しかし状況は五分五分ではない。純粋な戦闘種のデビモンとシーラモンがぶつかり合えば地力の差が出る。 「くっ…」 「どうした、お返しじゃなかったのかっ!」 「まだまだ!!」  シーラモンは必死になって跳ねる、弱いなどと言うことはない、爪部分のデータは本来一撃でも当たれば硬く鋭い、それをさせない程の敵の動きが洗練されていると言ってよい、悔しくはあるが敵の方が上手であることを雪花は分析できる、ならばこそこちらも知恵で乗り切るほかなかった。 「シーラモン!何とか、何とか持たせてっ!」 「任せて雪花っ!」  頼もしい限りの返事に、ただただ機会を待つ、デビモンの攻撃は変幻自在だ、腕が自在に動き、方向を問わずに襲ってくる。生えている爪そのものが鋭く課するだけでもデータが抉れているのが見て取れた。それでもなおシーラモンは耐えていた、雪花を信じているからだ。信頼に応えなければならない、腹の奥底が冷えた、雪花は千治のように強烈な勝負勘を持ち合わせてはいない、それでもなお間違えてはならない場面くらいあることを知っている、それが今だ、何が合っても間違えることなど許されないのだ。  ただただ観察に徹する、相手がひたすらこちらをなぶり、そして勝利を確信した瞬間を。 「どうした!防戦一方になりおって!」 「ええい!好き勝手言わないでもらえるかな!」  腕が動くたびに部屋を破壊されていく、段々とデビモンの動きが乱雑になっている、飽きてきているようだった、弱い者いじめに。  ならば今はそれでいい、だから早く隙をされせと。 「ああ、これ以上時間をかけるのは不毛――くたばれ」  ようやくくる、待ちに待った瞬間が。 「カードスラッシュ――『高速プラグインH』『パワーチャージャー』!」  カードを2枚引き、読み込ませた、同時シーラモンが動く、 「な――!?」 「これ以上時間をかけるのは不毛……ダネ!」  シーラモンのひれが、デビモンの胸を斬り裂いた。そのままに倒れ伏す、音を立てて。 「デビモン様ぁっ!?に、人間いったい何をっ!?」  後ろで様子を見ていたピコデビモンが叫んでいる。答えなくていいかもしれないが、言ってやる。 「相手の1番強い技にこちらの威力が上がるプラグインと、相手の攻撃を上回るプラグインを使ったんだ――」 「汚いぞっ!卑怯だぞっ!」 「誘拐した君たちが言わないでよね――」  そのままに傷ついた相棒を見る、 「シーラモン大丈夫?」 「ギリギリね……守りに入ってたから何とか耐えれたよ……流石に疲れた」 「ならさっさと逃げよう……千治たちに合流しないと」  自分が戦ったわけでもないのに、随分と身体がへとへとだ、心労かもしれない、今は早く逃げて身体を休めよう、心配しているかもしれない少年の元に行って安心させないと。  引きずるように足を動かし、 「待て」  声、聞きたくもなかった。 「……はは、やっぱりきちゃうかぁ」 「これほどまでの騒ぎで聞こえぬわけないわな…」 「バルバモン……逃がしてくれても良いんだよ?」 「不要……すでに用意は整った、来い、そして世界の礎となれ」 「嫌だよ、私も結構好奇心の強い方だって思っててね、まだ知らない事いっぱいあるんだ……それを見るまでは無理かな」 「そうか、ならば力づく……だ」  背筋が冷えた、自分以上に強い相手と戦った後に連戦になるなど考えても居なかった。冷静な部分が言っている、もう、流石にだめかもしれないと。  思わず目をつぶる、死に対する猶予への防衛反応がそうさせた。息をのむ、こわばりが筋肉を固めた。  爆音。 〇  インプモン――ベルゼブモンが駆るバイクは、道なき道を何もなきが事気に駆け抜ける。 「準備は良いか!」  声、即座におう、と返した。よし、と来る。バイクの速度が更に上がる、風、振りほどかれそうになる、加速、加速、加速、幾度もの加速は音をも超えたのではないかと錯覚させる、デジモンならばともかく人が感じて良いものではないしかし掴みこらえた、何が何でも行かなければならない場所があるのにこの程度でと言う気持ちだけがそれを支えた。 「バルバモンの城が見える!ぶちかますぞ!!」  うっすらと目を開いた、城だ、何か空間に浮くように城がある、俯瞰してみている、巨大な城をいつの間にかエリアが変わっていたらしい、しかし知る必要はない、重要なのは目の前に敵がいると言う事実だけ。  ベルゼブモンが銃を構えている、 「へ……一度このいけすかねえ城叩き潰したかったんだ――行くぜ、ブラストモード――」  バイクが消え、ベルゼブモンが飛ぶ、代わり右腕に巨大な銃が生えていく、 「ぶっ壊れろ――カオスフレア!!」  巨銃が吠える、もはや銃という枠組みを超えた破壊衝動の塊がもう1つの生命となり破壊を欲している、巨大な波動、フレアなどと称しているが炎などでは決していない、力のうねりそのものだ。それは光と言う減少となり城に降り注ぐ、穴が開く、おおよそ1体のデジモンが行えたと言うことが奇跡の、しかし、眼前んで起きた事実を正しく理解しなければならない。  敵は前に出会った究極体の竜かと思っていた、しかし、まだまだ違った強い存在は他にもいる、闘志が滾った、そして残念に思う、この高鳴りは今日でお別れだ。 「それじゃ俺の道案内はここまで、あとはbreak upっ(お別れ)てやつさ……生きて帰れよ、お前の大事なものはまだ徴収してねぇんだからな」  ニヒルな笑い、凶悪に返す、 「奪えキレねぇぜ?」 「楽しみだ、ほら行けよ」  言われなくとも、と、開いた穴に身を飛び込ませた、砂塵が待っている、知るものか。  前を見た、古風な城に見合うように、古風な壁が広がっている、石の壁だ。しかしそんなことはどうでも良い、 「ブイモン、はぐれてねぇよな!」 「あん!テメェがはぐれてねぇか心配だったぜ」  そうかい、と、憎まれ口を聞く、少しだけ寂しく感じた、今日で聞き納めだ。 「んで、敵はどっちに居るかね」 「――こっちだ、こうもでけぇと流石にオレでも分かるな」 「どこだ?」  ブイモンが壁を指さす、 「向こうだな、壁の先にいらぁ」 「ちっ、遠回りか!?」 「んなわけねぇだろ――おい」 「なんだ――ぶべらっ!?」  ブイモンの鉄拳が千治の腹にめり込んだ、 「おま、何しやがるっ……」 「前に……テメェがあの何だったかな、悪魔型のデジモンと殴り合ったときのこれでチャラだ」  あ、と、その瞬間にブイモンの身体が光に包まれた、デジソウルだ、 「ブイモン――進化っ!!」  光とともに、姿が変わっていく、二回り大きく、身体には装甲が生える腕周りはより太く変化する、杭、爆音とともに装填された。 「バンチョーパイルドラモン!!」  進化の光が晴れる、巨躯がそこにはあった、千治よりも一回り大きい、動く、同時に壁に向かって爆ぜ、拳を叩き込む。 「こんな薄いんじゃなぁ!障壁にだって――ならねぇぜ!!」  強拳の一撃が、壁を薄紙1枚を割くように砕く、開いた空間の先に、雪花が見える。 「雪花――」  走る、近づいた、もしかしたら振り払われるかもしれないと思った、まともに護衛の1つも出来なかったのだ、拒絶されても仕方がない。だが、それでもなお、やることだけはやらねばならないと。  立つ、雪花は唖然とした表情だったが、今はいい、目を合わせる。 「ワリィ……あんときは俺が好き勝手やっちまた」  そうだ、護衛をするといったのに自分はそれから目をそらした、言わねばならない、己の非を認める言葉を。 「千治――」 「おう?」 「千治!!」  勢いに任せた雪花の突撃が腹に食い込む、まだブイモンに殴られたばかりだと言うのに今日は腹部にダメージを食らう日のようだった。 「ああもう!色々言いたいことあるけどっ――助けに来てくれてありがとう!」 「……気にすんな、約束だからよ、護衛のさ」  抱きついた雪花を引きはがし、後方、今だに倒れない敵の姿を見た、バルバモンだったか、敵は。 「よぉ、バルバモンつったか、舐め腐った真似してくれてありがとうよ、腑抜けてた自分を見直せた気分なんだ……礼だ、喧嘩売ってやるよ」 「小癪――」 「待てよ、そこのチビ人間じゃねぇんだ、相手は」  並び立つようにバンチョーパイルドラモンが来る、 「俺が相手だぜ」 「完全体風情が――」 「究極体がザコみてぇな口上はいてんじゃねぇよ!」 〇  激突、右巨椀を振り上げ、一気に振りぬく。バルバモンは難なくそれを受け止めた、バンチョーパイルドラモンは内心で舌打ちをした、流石に究極体と言うやつだ。  元より油断をするつもりはない、敵の方が圧倒的に強いことくらいは重々承知だ。しかしその上で尚戦いを避けると言う選択肢はなかった。闘争とは意思そのものだ、戦いとは生き様そのものだ、それを避けてしまえばバンチョーパイルドラモン――バンチョーブイモンからは何も無くなってしまう、ただ強さをただ高みを目指している以上多少の不利は理屈にすらなっていない。 「は――細っこいクセにちったぁやるっ!」 「減らず口を――ふんっ」 「ごっ――」  一打、何の呼び動作もなく来る、杖の一撃、バルバモンが持つ杖はバルバモンの意思に沿い、動く。サイズで言えばさほどの者でなくとも、念動力によって振り回されるそれは並みのデジモンならば必殺のそれだ。  バンチョーパイルドラモンがそれを防げたのは単に運か、そのようなことは無かった、自らより常に高みにある存在と戦い続けたことによるタフネスは究極体の攻撃すらも防いでいる。  しかし出力の差は如何ともしがたい。 「どうした、この儂を叩きのめすのでは無いのか?」  縦横無尽の杖、それを掴むことはできない、早い、目視できていてもそれを掴むための素早さが足りない、腕を伸ばすと同時に消えている。 「ちょこまかとしやがって――」 「大口をたたくなら、この程度どうにかしてみせい――」  その通りだ、と、うなずく、この程度で弱音を吐くほどではない、神経を研ぎ澄ませる、敵の動きがこちらにあわせるのであれば、先を読むまでだ。 「疾ッ!!」  杖に目掛け、腕を振るう、 「甘い!!」  当然のように杖は動き、腕を避けた、それでいい、狙っていたのはまさにそれだ。 「射ァ!!」  同時、尾の一撃、身体を捻るようにぶん回す、確かな感触は予想通りの軌道を描いたと理解した。腕による打撃が買わされるのならば、もう一つ手を使えばいい、バンチョーパイルドラモンは馬鹿だ、パートナーの千治とタメを貼るほどに、しかし戦いに関してのみ、それは無い。 「やるではないか!」 「武器失って大見栄コいてんじゃねぇよっ!」  追撃の一撃を仕掛けようとし、 「愚かは――死なねば治らぬか」  左脇腹の痛覚が蠢く、目が白黒に染まりそうになる。何が起きたのか脳が追い付いていない、 「テメっ……杖、壊したはず――」  尾の一撃を食らわせて潰したはずの杖が今だに浮遊している、何が起きたのかと、しかしバルバモンは笑った、嘲笑だ、見下す笑みがそこにはある。 「完全体如きの力で壊れるものかよ…壊れたとしてもこの杖は我がデータの内より出ているもの、この儂がある限り不滅なのよ」 「っちっ」  見せつける様に杖を回す、腹が立った、遊んでいる、格下相手だからと余裕を見せつけているのだ――だからどうした、こちらが格下なことくらい分かっていて挑んでいるのだからいくらでも見下せばいい、それに対する怒りこそが立ち上がる原動力にほかならない。 「ご高説――垂れてくれるじゃねぇか」 「うっとおしいのだ、弱いのだから立ち上がるな、儂にはやることがあるでな」 「そうか、んじゃダークエリアに送ってやるからよ、そこで精々やってろって言うんだ!!」  力の抜けそうな足に無理くり力を込めて立ち上がる、1度がだめなら100度、100度がだめなら1000度でも、立ち上がり戦うのだ、何より後ろで見ているヘタレ人間なんぞに弱い姿を見せるなどあっていいはずがない。  震える足に喝をいれ、立ち、右腕をふるう、 「お、ぉ、雄ぉぉぉぉぉおぅっ!!」  絶叫と共に、衝撃、 「温い――」  しかし気合いは所詮気合いでしかない、止められている、振りぬいたと思った一撃は片手間で、とばかりに。 「打撃と言うのはな、こうするのだ!!」  ぐる、と、杖が回り、振り下ろされる、脳天が一撃で割られたかのような感覚が来る。 「ガっ!?」 「これが格の差だ、埋められぬ完全体と究極体の差よ」  力が抜ける、倒れ伏す、立ち上がろうとして、崩れた。進化がほどけていく、巨体がブイモンに戻っていく、 「か――は…… 「これで仕舞か、ならばもうよかろうよ」  馬鹿言ってるんじゃない、誰が終わったといった、まだ、まだだ、闘争心は萎えていない、まだ戦える、まだだと、心は叫んでいる。なのに身体が萎えかけていた、情けないことにもう立てないと弱音を吐いているようで、それがあまりにも悔しい。 「はは……これが差というものよ、愚かなお前にもわかるだろう?」  苛立ち、上から目線で好き勝手言っている何かがいる、それ以上に舐め腐った言葉を吐かせているのに一打も入れられない自分に。 「おい、バカトカゲ」  声、それは男の、千治のもの、 「あ――あ、テメぇ…またこのバンチョーブイモン様の事を――」 「っせーよ、ダセー格好になりやがって」  千治が気付けば近くにいる。それに気付いたのはバルバモンも同じで、 「貴様は……ああ、あの娘の近くにいた……逃がしてやったと言うのにでしゃばるか」 「は…逃がしてやった、だ?俺の事、叩きのめせねーからセコセコ逃げただけだろ?」 「主従揃って減らず口を叩く」 「ああ、このバカトカゲ俺に迷惑ばっかりかけやがってよ」 「あ?何言ってんだボケ人間、おめーがこっちの足引っ張ってんだろうがい」 「あ?」 「あ?」  互いににらみ合い、笑った、千治の顔は闘争心に満ち溢れていた、負けるなど一切考えていない顔だ、触発される、内心の炎が燃えた、そうだ、この程度で倒れ伏せている場合ではない。 「立てんじゃねーか」 「この程度じゃな」  千治が拳を突き付けてくる、 「やろうぜ」  へ、と、笑い、それにあわせるよう拳を付ける、 「やったるぜ」  溢れる、精神が具現化する、それはデジソウルだ、溢れ得る力は心そのものだ、 「――弱い2つが合わさったところで……結局は雑魚よ!!」  バルバモンが叫ぶ、そうか、なるほどまだ弱く見えているらしい、 「違うね、俺たちは力を合わせて何ざいねぇ」 「オレたちは高め合っているんだ――!」  千治が叫んでいる。 「行くぞ!!」  バンチョーブイモンは応えた。 「応!!」  互いの身体から光が爆ぜる、奔流、千治を殴っただけとは違う、より輝きを増した光が身を包んでいる、熱だ、そこに温度などありはしないはずなのに確かに心が燃え滾る熱さがあった。 「進化とは――」 「――人とデジモンの」  声が重なる。 「「合体だ!!」」  炸裂する、光が、砕けた装甲が再度身を包む、傷など最初からなかったかのようにあるいはもとより傷などなかったかのような。 「バンチョーパイルドラモン!!」 「へ……パイルバンカードラモンだろ」  憎まれ口を叩く相棒の姿を見た、その腕は人間の物ではない、デジモンの――己と同じ巨大なバンカーへと変化していた。 「おい」 「んだ、千治」 「負けんなよ」 「――誰にモノ言ってんでぃ、バーカ」  互いに背を向け合った、千治は千治でやることがるのは分かる、ならば行かせるほかない、そして行かせたら後は勝つ、それだけだ。 「ふん、お涙頂戴の茶番か」  バルバモンが嗤った。 「は――今からてめーに涙流してやるぜ」 「図に乗るんじゃないぞ」  再度、激突。 〇 「雪花」  歩き、フラフラとした体の雪花のそばによる、震えていた、恐怖、あるいは別か、どちらにせよ、 「守るだなんてもう言わねぇし、言えねえが、けじめはつけに来た」 「え、そ、そんな、気にしてないと言うか……私も甘えすぎてたって言うか……」 「おう……だからよ」  倒れているデビモンの姿を見た、にらみつけ叫ぶ。 「テメ―いつまでそこで三味線引いてるつもりだよ」 「――気付いていたか」  のそりと立ち上がる、黒い身体が。 「え……や、やっつけたはずなのに!?」 「デリートしなきゃな、どーせ倒れてたのも油断させる算段だったんじゃねーか」 「うぐ……手を抜いてたつもりはないんだけどなぁ……」 「だろうな、まあ、良いさ」  千治は前に出る、 「目、つぶってろよ、あんまりいい気分にはならねーぜ、きっとな」  雪花に促す、本気の喧嘩は少しばかり刺激が強いはずだ、 「――よう、前は世話になったなお前」 「なんだ貴様……?」 「ま、覚えてないなら結構だ、バカな俺より馬鹿ってのは中々見ねぇ、いいもん見れた」 「ああ、本当に今日はイライラさせられる」 「大丈夫だ、それは今日までだからよ」  千治が爆ぜる、デジモンの両腕に変化したからと言って他が変わらないと言う訳ではない、肉体能力もまた向上している、人の物よりもよほど、こんなものなくとも戦えると思っているが心起きなく相手と対峙するならばこれもまた良い、打撃、殴打、振りぬく、阻むのは相手の腕、鈍い感触が拳に感じる、良い一撃が入ったのが分かる、そのままに攻撃を継続、右、左、右、フェイントを差し込んでまた右の一撃、しかしそのどれもが阻まれる、敵もさるものと言うやつかもしれない、それはそれとして視界に写る小さいのが邪魔だった、隙を伺ってこちらに何かをしようとしている、面倒だ、一度デビモンにケリを入れる、防がれるのは承知の上でそのケリ足を軸に飛んだ、デビモンの後ろに控えている小さいデジモンに、 「な!?」 「邪魔だ」  真正面、顔面に一撃、そのまま地面にたたきつけデリート、データの粒子となって消えていく、 「貴様!」 「何怒ってんだ?喧嘩で弱いヤツからってのはセオリーだろ」  そして、 「後は雑魚のテメーをぶっ飛ばして終わりだぜ」 「吠えていろっ!」 「おい、余裕なくなってるじゃねーか、さっきの冷静さはどこにやった、よ!」  跳ねる、視線同士が合う、そのままに思い切り額をぶち込む、痛覚が刺激される、しかしそれは相手も同じようで、体幹がぶれていた、隙だ、逃がすわけがない、打撃、弱ったところを見逃すほど柔ではない、防がないのならばそのまま拳撃を叩き込み続けるだけだ、鈍い音が鳴り続ける、何度でも、弱ったとして、知った事ではない。 「が――」 「んだよ――100匹近く連れてきてたからもっとつえーと思ってたぜ……じゃーな」  パイルを構える、胸部に突き付けた、そのまま杭を解放する、炸裂、胸部を貫く。 「おま――え」 「喧嘩したけりゃもっと強くなって出直しな」  粒子になって消えていくのを見る、息をついた、おい、バカトカゲ、こっちはやったぜ?おめーもさっさとやっちまえ」 〇 「おぉ、らああ!!」  咆哮と共に腕を振るう、先ほどまでの動きとは違う、更に迅く、機敏に。  認めたくはないが正しく進化したと言うのであればこれほどの力が出ると分かる、やはりまだいけるじゃないか、オレ、と笑った。飛び回る杖は宙を舞い、仕掛けてくる、だから何だと言う、やはり究極体だからというのは理由にならない。  杖が来る、勢いがあった、回転とともに。 「ふっ……んっ!!」  つかみ取る、そのままにへし折った、そのままに尾を振るい一撃叩き込む、鈍い音共にはじけ飛ぶ杖が見えた、杖が来ているのは察していた、バルバモンは言っていた、アレはバルバモンに付随するデータそのものだと、ならば何度だって同じことが出来ることくらい想定は出来る。だがこんなお遊びをしている暇はない、跳んだ、バルバモンの眼前に。 「この――」 「ぶ――っとべ――!!」  力任せの一撃、バルバモンは防ごうとして――、 「がっ!?」  それは不可能だった、盾代わりにした腕ごと殴り飛ばす。防げると思っていたらしい、確かに見た目は変わっていない以上その判断はおかしくない、あるいは究極体と言うあり方に胡坐をかいたか。  確かに進化のレベルに差は存在する、だが覆す方法もいくらだってあることをバルバモンは知り得なかったようだ、確かにバンチョーパイルドラモンは完全体だ、だが、究極体に迫ることはできる、 「なぜ――」 「何がだよ」  バルバモンが驚愕に染まった顔をそのままに表す、取り繕えていないのが分かった、少し面白い、笑ってしまう。 「このわずかの時間で――なぜこうも強く――!」 「は――ま、男子3秒合わざるば刮目して何とやらってやつよ!」  所詮は気の持ちようでしかない、そうだとも、結局それ以外ない。  一人でやると最初は考えた、あの馬鹿(千治)が一番大事なものをくれてやるなんて馬鹿な約束してどこかいらだっている自分がいて、だからもう好きにやろうとして、しかし、結局は――認めたくはないがどうもあのテイマーとは、波長が合う。  だからこそ、千治と共に進化しただけで一切の不安も何もが消えた、それだけで本来の力が出せるのは当然だった、教えてやらねばならない。 「なあお前――」  笑みを浮かべる、きっと、恐らく凶悪な。 「究極体でも――弱い方だろ?」  バンカーを装填する、力が込められるのが分かった、 「貴様――」  同時、相手も何かをしようと力を込めている、なるほど、すさまじいと思う、究極体の名にたがわない。流石にこれは当たればひとたまりもないだろう、しかし、それは所詮当たれば、でしかない。 「おせーよ」  所詮発動できなければ、何の意味がない、攻撃の組み立てがなっていない、大技はそれを支える為の牽制を混ぜ込んで防げない状況に持ち込んでから使うものだ、それこそ杖の一撃による打撃を組み込めばいくらでもやりようはあるはずだ。  しかし怒りに任せての一撃、フェイクかと考えたが杖は気配のないままに動いている、完全に飲まれているのだろう、戦い慣れていない。 「だ―――らっしゃぁ!!」  拳を叩き込む、同時にバンカーを解放、何の気兼ねもない一撃がバルバモンに見舞われた、弾けるように吹き飛んでいく、肉体を維持できない程だったらしい、肉体が粒子に変わっていくのが見えた。 「おのれ――しかし――ただでやられたりは……せんよ」  あん、と、言う前に、光、視界を覆うような。 〇  バルバモンが何かの攻撃をしようとしているのは千治にも見えた。天井の側、上から光が降り注ごうとしている。  パイルバンカードラモンは叩き潰して終わったような気分になっているようだが詰めが甘い。  走る、そして隣に並んだ、 「何油断してんだ、バカトカゲ」 「は――この程度俺だけで十分だっての」  また憎まれ口を言いやがる、いつまでも、でもそれもいいか、だって今日までなんだから、 「おい――合わせろ」  横目に視線を入れた、返す様に来る、 「てめぇが――な!」  嫌になるほどの似た者同士だ、まだ打ち込んでいないバンカー、左手に残っている。突き上げる、吹き飛ばす様に。それはパイルバンカードラモンも同じだ。  物理攻撃?知った事ではない、干渉できるのならばそれで良い、エネルギーすらも穿って見せる。  圧力が来る、バルバモンが残した一撃の、強大な熱量が解き放たれているのが分かる、だからどうした?世界最強を目指す男を焼き尽すのにこの程度では温い、それはパイルバンカードラモンにも同じだ、世界最強のバンチョーとやらを目指している手合いがこの程度で落ちるわけがない。 「「お、ぉぉぉおっ!おおおおおおおおお雄ォォォォォォオオオオオ!!」」  何秒経ったか、知りはしない、バルバモンの光がどれほどの威力を秘めていたかなどもわかる訳がない、だが1人と1匹が――否、最強を目指す2つの存在が合わせたのであれば、月並みとはいえ打ち砕けぬものなど何も存在はしない。  やがて、光が晴れていく、風、ぬるい風、終わりを告げる。 「へっ――学ラン1つ焼けねぇぜ」 「オレたち焼きたきゃ…この100倍は持って来るんだな!」  同時、粒子、腕のバンカーが消えていく、それはパイルバンカードラモンも同じようで進化形態を保てないのか元のブイモンに戻っていった。 「千治っ!」  声、雪花の。 「おう、終わったぜ」  笑って見せる、久し振りの、すこしばかりの笑い。 「もう、無茶しちゃって!」  しかし雪花は顔をぐしゃぐしゃにしたままだ、こんな時かける言葉を千治は知らない、だから、 「まあ、悪かったよ」 「本当に……悪いんだ、もう……ねえ」 「ん?」  雪花が胸元を見せてきた、光るものがある。 「似合う?」  それは上げた――と言うことにしておこう、ネックレス、雪と花のデザインの方の。 「――ああ、似合うよ」  それだけ告げる。ほんの少しだけ、この瞬間が許されて良かったと思う、こんなのも今日で終わりだから。 「おい、ベルゼブモン、居るんだろ?」  虚空に叫ぶよう言えば、バイクの音、エグゾースト。同時、空間を斬り裂いてやってきた。 「よう、終わらせたんだな」 「ああ――」  取引、終わっている、後は徴収の時間だ。 「ほら、さっさと持って行けよ」 「え、ちょ、何、何なの――?」  後ろで狼狽する雪花は今は無視だ。 「ん?こいつはここに乗り込むために俺と取引したんだ、連れてってやるから一番大事なモンをよこせってな」 「何説明してやがんだコラ」 「良いだろ?これくらいよぉ」  待って、と、雪花が叫ぶ。 「ちょ、ちょっと、一番大事なものって!」 「――あ、俺のなら決まってんだろ」  軽く握った右手、親指を己の胸に突き付けた、 「心だ、俺を俺って言えるもんはただ一つ、戦いを望む心しかねぇよ」  だから、 「ってことで、俺はもう俺じゃなくなる、護衛はここで解消だな――おい、早く持ってけよ」 「バカ!何考えてるのさ!」  馬鹿、か、また言われてしまったな、などと、軽く思う。  ベルゼブモンは笑い、 「おう、そんじゃ貰っていくぜ」  そのまま軽い足取りで歩き、 「!?」  千治の横を通り過ぎて雪花の前に立つ、そのまま胸元のネックレスを引きちぎり、 「じゃ、こいつは貰っていく」  雪と花をかたどったネックレスを見せびらかし笑った、 「言ったろ?大事な『モノ』ってさ、心はモノになり得ねぇよ」 「お前――」 「っつー分け…これは貰っておく…ずーっと眺めてたのさぁ、外で眺めてたぜ、俺はよ」 「――は、悪いやつだ」 「そりゃ、大悪魔でね、俺様は」 「そうかい、じゃあ駄賃ついでにここからどう出ればいいか教えてくれよ」 「……この城には転送装置がある、元はバルバモンがリアルワールドに向かうつもりで作ったであろうな…そこを使え」 「そうか…ありがとよ」 「気にすんな――あれだ、道案内に回復フロッピー9個はちっとばかし吹っ掛け過ぎたからな、その釣りだよ」  そう言ってベルゼブモンは再度バイクの爆音を鳴らして消えていった、ホイールと共に砂塵が舞う。 「へ……無欲な大悪魔様だこって…」  軽く笑い、振り向き、 「んじゃ、行こうぜ、転送装置に――「あ――!!!」うぉっ!?」  行こう、と言う前に雪花が叫ぶ、 「あ、アレもう私のだよ!持っていかれた!!」 「お、おいっ!」 「うぅ~~…お、追いかけないとっ!」 「落ち着けって…」  頬を膨れさせながら怒る雪花をなだめ、どーしたもんかね、と溜息を吐く。  雪花の機嫌の悪さをなだめるのには1時間を要した、女の気分の浮き沈みは激しいと聞いた事はあるが本当で、結局また護衛を続けてデジタルワールドを旅する、という約束でやっとなだめる事が出来た。  後は早く、バルバモンの作っていたと言う転送措置を地下で見つけ、しばらくのお別れとして久し振りのリアルワールドへの帰還となる、とはいえ現実の時間はさほど建ってはいない、時間の流れがすこしばかり違うからだ、こちらで過ごした何か月も、向こうではまだ数日程度しかたっていない、便利なのかあるいは……それはどちらかと決めることはできないのだろう、特に千治にはそれをどうと思うつもりもなかった。 「ふぅ――」  久しぶりの部屋だった、不登校とバックレはいつもの事だがそれでも数日間外を出歩いていたことは学校から自宅謹慎のペナルティとして課されていたためだ。いつもならばそんなものはぶっちぎっているが、激戦の後だからかたまには、と、身体をゆっくり休めていた。  自室、閑散としている、外で喧嘩三昧に生きているから私物というものが酷く少ないだけとも言えた。小学生の頃に祖父や祖母が買ってくれた学習机、空っぽの本棚、あまり着ない私服の入ったタンス、押し入れには古い教科書が入っている、ほぼ新品同様のばかりが。  何も考えずにただゆっくりとしているなんていつ以来か、母に日がな一日家に居る事を驚かれる程度には毎日外に出ている、しかし嫌ではなかった、もしかしたら何らかの心境の変化なのかもしれない、柄にもなく机に座ってみた、雑に置いてある教科書を手に取る、ある程度は読めた、バカだが流石に文字が読めない程ではない、だがすぐに飽きが来る、閉じてまた机に放り投げる。  音、インターホンの音だ、恐らく家に言える母が対応するだろう、面倒だしもう1度寝ようとして、 「千治――!!」  大声、何事か、と思えば母親の声、あわただしい足音と共に2回に駆けあがりいきなりドアを開いた。 「アンタ!!」 「んだよ…」 「い、いつの間に彼女なんて作ったんだいっ!?」 「はぁ!?いねぇよそんなの!」 「でも、アンタに用事があるって女の子が!!」 「は?」  何が起きたと思い、下に降り、カメラに映る先を見れば、 「雪花――」 『あ、千治?来ちゃった♡』  立っている、見覚えのある相手が。 「や、やっぱり彼女じゃないのっ!あんたみたいな乱暴なのでもひっかけれるのね!?」 「じゃかしい!余計なこと言ってんじゃねぇよ!」 「あ、とりあえず上げちゃいなさい!わ、私お茶用意してくるから!」  勝手に盛り上がって母親は台所に消えていく、仕方ない、とドアを開けば、 「えーっと、こっちだと数日ぶり、になるのかな」 「……ああ、まあそうなるかね」  デジタルワールドで見た姿とは違う、ややユニセックスのパンツルックだがすこしばかりフェミニンな感じの雪花がいる、見間違いではない。 「とりあえずなんだ…中、入るか」 「入れてくれるなら」 「ああ、じゃあ入れよ……おふくろー!とりあえず部屋、連れてく」  聞こえているかは分からないが叫び、2回の自室にあげる、物珍しそうに雪花はあたりを見渡していた、 「なんだよ、何もねぇぞ」 「んー、でも男の子の部屋って初めてだし」  ああ、そう、と、適当に返す。 「んで、わざわざウチまで何の用だよ……ってか、よく分かったな、場所」 「いや、普通に聞いてた情報を合わせたら来れたよ……こういっちゃなんだけどさ、今時普通に荒れて喧嘩してる高校ってそうないしさ、後は今時高校だってSNSで活動報告する時代だからそこから範囲を絞れば」 「……探偵か何かかよ」 「普通の女子高生かな……あ、でも、学区が違うとはいえ電車一本って言うのは良かったなあ、デジタルワールド経由だとそれはそれで大変だし」  そういう問題かよ、と、思いつつも雪花がそれで良いのなら、良いのだろう、多分。 「まあ、場所については分かった、んで、わざわざここまで何の用だ?」 「会いたくなったから」 「は……?」 「デジタルワールドをずっと一緒に旅してた相手の顔、直接見たくなったから!……ダメ?」  わざとらしいくらいにぶりっ子だ、が、男と言うのは硬派を気取っていてもどうもこの手のには弱いらしい、はあ、と、ため息、ダメじゃねえと返せば小さくやった、と声がする。 「ったく、俺のツラなんざ見たって詰まらねーと思うけど」 「そんなこと無いと思うな、これでもずっと君の事、考えてたんだよ?」 「へ、恋する乙女かよ」 「あはは、近くはないけど遠くもないかもね」 「はぐらかしやがって…まあ、良いや、言っておくが俺は女相手に楽しませるような真似できねぇから、飽きたらさっさと帰んな」 「じゃあ1週間くらいはお邪魔しようかな…?」 「話聞いてんの…?」  呆れたかのように、言うが、雪花は笑うだけだ、聞いているのかあるいはいないのかは分からないが。  下から声がする。 「千治ー!ちょっとご飯良いの買ってくるけど何がいい!」 「何変な気合い入れてんだよ!普通にしとけ普通に!!」  なにさー、と言う母の声とドアの開く音を見送り、息をつく。いったい何を考えているのやら、 「はぁ――あれだ、お袋に変な勘違いされたくないなら…帰れよ」 「いいよ、別に」 「あ?」  気付けば近づいている、雪花の顔が近い、眼前にある。 「異性の部屋に入り込んでただの友達、みたいな顔をする程じゃないってこと」 〇  恋とか愛とか、そう言ったものとはすこしばかり違う気がする。  それでも、と雪花は思っていた、普段よりすこしばかり大胆になっている自分をどこか冷静に眺めていた、どうしてか、なんて言うのは簡単で、下世話な話下半身の感覚がそう言っているからにほかならない。  デジタルワールドから帰る前の事を覚えている、千治が自分の1番大事なものをベルゼブモンに渡すと言う契約の下助けに来てくれたと言う事実を。そんなことをする必要はどこにもなかった、最初はちょっとした寂しさからの提案だった、ボディガードだなんて、旅は道連れ世は情けなどとは言うがほぼ勝手に言いだしたことでしかない、真面目に守る約束でないと切り捨てられたって仕方がないものだ。  それを何にもかけて守ってやって来てくれたと言う事実は雪花にとって言葉にはしにくい、それでもなお嬉しいことであると言う事実と言えた。  何かを返したいと思った、大事な何かを差し出してまで助けようとしてくれた心に、自分も何か、と。考えて考えて…最終的に知性も何もない本能に落ち着いたのは、旅の最中に感じたあの疼き、アスカシティのホテル、偶然とはいえ思い起こされた。胎の奥底に感じた熱、相応しいか、なんて分かりはしないけれど。 「覚悟って言うのかな……んっ……」  千治の顔に手を添えて、そのままに近づく、距離が消えた、唇同士が重なる、小さくなる水音がそれは確かにキスだと告げている。初めての感触だった、ある意味当然だ、今時彼氏のいない女子高生くらいごまんといる。娯楽の選択肢が増えて、愛が恋が全てではなくなった、もちろん比重は男子に比べればずっとあるとしても。そして今までは雪花も不要の側だった、何よりも好奇心を求めている側だったから。 「んっ、ぅぅっ!?」  千治が暴れる、しかし本気ではないだろう、本気で動けばこちらにけがをさせるとでも思っているのかもしれない、それは正しい、千治が本気になれば自分などすぐに滅茶苦茶になると雪花は理解していた、その上で絶対にされないとどこか信頼もしている。 「ぷはっ…」 「っ、はぁ……雪花、何考えてんだっ……!」  大声ではあるが怒りではない、困惑が正しいか、確かにちょっといきなりすぎたかもしれない。 「キスだよ、嫌だった?」 「嫌とかそんなんじゃねぇ…だから何考えてんだって」 「――千治がさ」 「お、おう」 「1番大事なもの賭けてまで私の事助けに来てくれたでしょ?」 「そりゃ…ボディガードするって約束したからな」 「そうだね、でも他に色々やりようがあったかもしれないのに――それでも、1番大事な…自分の心をかけてまで来てくれたって聞いて、後で思ったんだ、それに見合うだけの何かって」 「それが、これかよ?」 「違うよ」  上着を脱ぎ、トップスに手をかける、すこしばかり恥ずかしくはあるが、それでも、いい、肌を露出する、もう1度見られたとはいえ、それでも見てもらうに値するとは思っている、2度でも3度でも。 「その……女の子のハジメテはさ…君がかけた1番大事なものに…釣り合うと思う?」 「――本気で、言ってんのか?」 「本気じゃなきゃ…こんな事はしないよ」  腕を背に回し、抱きとめる。 「それとも…私とはお断り?――わ」  同時、力がかかる、引きはがされて布団の上に、 「挑発ばっかしてるなよ…止まらねぇぞ、俺」 「無理やりにでも進む千治は……女の子相手には止まっちゃうのかな?」  言えば、顔今度は向こうから来る。貪るようにキスをされる、ん、と、小さな声が出る、決してイヤではなかった。 「雪花……前に言ったよな」 「どれかな」 「俺はお前を気に入ってるってよ…だから、もう知らねぇ」 「理屈になってないけど、うん、それでいいよ」 〇 「んっ……っ、ブラ、外し方分かる……?」  ぎゅぅっ……♡ 「んっ……分からないならいいよ、教えてあげる、ここ、見える谷間、フロントホックってやつ……こっちの方が興奮するかと思って…じゃあ、ちょっと手、貸して」  くいっ… 「んっ……♡」  ぶるんっ…♡ 「あはは…今日は事故じゃないね……♡どうかな、ちゃんとみたおっぱいは……♡」  ぐいっ 「……ちょっと、こっちが勇気出してるんだから…目、逸らさないで…」  ぐいっ…! 「ちゃんと見てよ…もうっ…戦いの時は結構格好いいのに、結構照れ屋なタイプ?」  ぶんっ! 「……硬派でもやれる人はやれると思うけど…やっぱり臆病゛だけじゃ――」  ぎゅっ…むにゅぅっ♡ 「あんっ♡はっ、あぁ♡やっとやる気になってくれたんだ♡あんっ♡いいよ、好きに触ってっ♡  むにゅっ…むにゅぅっ…むにゅぅっ♡むにぃっ…♡ 「んっ……♡あっ…♡はぁんっ♡夢中っ、だね…♡そんなに、いいっ…♡私のっ……おっぱいっ♡」  むにゅぅっ…かりっ 「っ……あぁっ♡んっあっ♡ち、乳首ぃっ……だ、だめだよぉっ♡あっ♡」  かりっ…かりかりかりかりっ…♡ 「んっ、ひ♡くすぐったくてっ、んっ……♡あんっ♡いじめっ子めっ♡」   どさっ… 「私ばっかりじゃなくてっ…そっちも見せてよ!」  ずりゅんっ……ぼろんっ!! 「……あ、あれ……?」  ぴたっ……きゅっ……♡ 「は、はは、い、位置合わせたら……え、私の……こ、こんなところまで届くの……?」  どくんっ! 「だ、大丈夫……わ、私から言い出したんだからこんなところで止めたりしないって……で、でもっ」  ぎゅぅっ…… 「も、もう少しだけ……ゆ、勇気感じる時間が欲しいな……だ、だめ?」  ぶんっ 「あ、よよかった……はは、ちょっと言葉が震えてる……なら、さ」  くちゅっ……♡ 「え、えっと…み、見えるかな…わ、私の…ナカ♡い、言っておくけど本当に男の人、見せるなんて初めてなんだからっ……!」  ぐっ… 「その、触ってよ…そっちはそっちで、確かめて…♡こっちはこっちで弄るから!」  くちゅっ…♡くちゅっ…くちゅぅっ…くちゅっ…♡ 「んっ…お、お互いにっ…弄り合うって結構…へ、変な感じっ……するね…んっ♡」  ぬちゅっ…ぬちゅぬちゅぅっ…ぐちゅぅ 「ふっ…ぅっ……わ……ぁ……さ、先っぽ、て、テラテラしてきてる…お、女の子で濡れるって言うのは…表現であるのは知ってるけど…お、男の子も濡れるんだね…」  にちゅっ♡くちゅぅっ…くちゅぅっ♡くいっ♡ 「はっ、あぅっ…んっ…あ…♡んっ…そ、そこ…やっぱ気になる…?♡んっ…♡」  くちゅっ…♡くりっ♡ 「ふっ、ぅっ……そうだよ…く、クリ…トリスぅ…♡び、敏感な所だしっ…♡い、イジメ過ぎないでよっ♡…その……少しなら…いいけどっ!」  ぎゅぅっ!♡ 「んあっ!?あ、ぅっ……は…ぁっ♡も、もぅっ…ば、馬鹿っ…言った傍からっ…もぅっ!♡」  きゅぅっ…ちゅこっ…ちゅこっ♡ 「くっ、ぅっ……!?ひゃぅっ!?♡あ、ぃっ…な、なんれっ…♡ここまでされてっ、えるのにぃっ…♡は、あぁ~~っ♡か、身体っ……び、びくびくしてっ、ひぎゅぅっ♡」  びくっ…♡びくっ♡ 「はぁあぁ…♡やった、なぁっ…♡」  くちゅぅっ…ぬつゅ…ぬちゅぅっ…! 「ここ、び、敏感っ…なんでしょっ♡た、多分っ……♡くっ、こんな事ならっ…もっとエッチな本でも見ておけばよかったよっ…♡」  くちゅっ…♡くちゅっ!ぬちゅぬちゅっ!ぬっちゃっ…びちゃっ…ぴちゃっ…びちゃっ…♡  くちっ…ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅっ… 「あっ、ぅっ……あぁっ♡あぁっ…れぇ…なんかっ…クるっ…かもぉっ…♡」  びくっ!くちゅっ…ちゅっ……ちゅこっ…ぎゅぅっ!ぶちゅっ!♡ 「ひぎゅぅっ!?」  びくんっ!びくびくっ!ぶしゅぅっ!!!♡がくっ…カクカクっ♡  びくっ!びゅくっ…びゅるっ…!! 「はぁ…はぁ……♡うぅっ……体…凄いっ…はは……い…イっちゃったよ…私…♡……それに射精まで…♡エッチすぎて、夢中になっちゃった…?なーんて――」  ぶんっ! 「え、あ、うん、そ、そう…♡な、何かちょっと嬉しいかな…私に魅力あるって言ってくれてるみたいで……♡」  ぐぅ―― 「…な、何か言いなよ、もぅっ……!」  ぐっ…… 「す、素直にそう言えばいいのに……でも、そ、そっか、あるんだね…あはは…♡」  どさっ… 「あ……押し倒され――……う、うんっ……わ、分かってるっ…きょ、今日…そのつもりで…き、来たよ♡…ねえ、最初は…顔見ながらが、いい♡……千治のハジメテの顔…見せてよ♡」  ぬぷっ……♡ 「んっ……」  ぬちゅっ…ぐちゅ…ずりゅりゅりゅぅっ!! 「はっ、あ、ぅっ……あぁ~~~~~~!?」  ぐちゅっ…ずちゅんっ!! 「はぁ……♡はぁ……♡……入っちゃった……あ♡」  ぎゅぅ~~~~~~♡ 「は、あぁ…♡な、膣(ナカ)…勝手に…し、締まるっ…だ、抱きついちゃってる、のかも……♡」  ぱちゅっ! 「んあっ…?!」  ぱんっ…ぱんぱんぱんぱんっ!!! 「はっあぁっ♡あ、千治っ、そ、そんなっ…い、いきなりっ、動いてっぇっ♡あ、あっ♡」  ばちゅっ!ぱんぱんぱんっ!ばちゅばちゅっ!ずちゅんっ!!  ぶちゅっ!ぶしゃっ♡ぱちゅぱちゅっ♡びちゃっ!!!♡ 「ひぅっ♡ね、ねえ、は、初めて同士っ、なんだよ、私たちっ…!も、もっとっ、落ち着いたって――」  ぱんぱんぱんぱんっ!ぱんぱんっ!ばちゅばちゅっ!!!! 「あっ、ぃっ!?お、お落ち着けないっ!?そ、そうっ――♡あ、ああ、も、もうっ…分かったからっ!♡い、一緒にぃっ…き、気持ち良くっ、なろっ♡」  ばちゅっ!ぱんぱんぱんっ!!ばちゅばちゅばちゅっ!! 「あ、あ、お、おちんちんっ、すっごぃっ…♡おくっ、おまんこっ…奥ぅっ♡っあぁ、太いし…長いしっ、せ、セックスぅっ…すごぃっ…♡」  ぱちゅっ…♡ぱちゅっ!ぬちゅぅ~~~♡ 「はっ、あぁ♡デジタルワールドっ…んっ…♡いるときにさ…お、覚えなくてっ…良かったねっ…これっ♡そ、そう言う雰囲気じゃなかったってのはあるけど……そ、それでもっ、も、もしぃっ♡」  どちゅっ!ぐちゅぐちゅつ!ぱんぱんぱんっ!ずちゅんっ!!! 「お、覚えちゃったらさっ…ぼ、冒険っ…そっちのけになっちゃってたよっ♡おまんこよすぎるよこんなっ♡あ、あっ♡」  ばちゅっ!ずちゅっ!ばちゅばちゅっ!ばちゅんっ!どちゅっ!!ぱんぱんぱんっ!!! 「や、っぱりぃっ……千治もぉっ…そ、そう思うよねっ♡っ、んっ、あんっ♡も、もっと、ごりごりえぐってっ♡ナカのぉっ♡エッチなところ全部暴いてぇっ♡」  ぱんっ!ぱんっ!!!  きゅぅっ…きゅぅ…!♡ 「んっ…♡ちょっとだけっ、な、慣れてきたっ♡かなっ♡どうっ、こ、こっちからっ、ぎゅぅってっ♡ごめぇんっ♡おまんこぉっエッチすぎてぇっ♡気持ちいハグするの止まんないよぉっ♡ねえ、精液ぃ、で、でちゃうぅっ?♡」  どちゅっ!ずちゅっ!!! 「んっあっ♡すっごぃっ…いぃ、みたいだねっ♡はぁはぁ…うん、いいね…そのっ…感じてるっ…顔♡私でよくなってる…顔っ♡わ、私のことぉっ、ままにしたいって顔してるぅうっ♡なるよぉっだから受精させてぇっ♡何人欲しい?10人?20人???いくらでも産むからぁ頂戴精液ぃ!いっぱい出てる卵子のこと受精させてよぉっ!!♡」  ぱんっ…ぱんっ…ぱんっ…びくんっ!!びゅくっ!! 「んっ、あ…身体っ…跳ねさせちゃって…♡……出そう?♡」  ……… 「黙っちゃっても……態度で分かるからね……んっ……いいよ、今日だけ、ね…その……偶然だけど大丈夫だから…特別♡」  …… 「良いのかよって……じゃあ、我慢して外がいい?私は……知りたいな、千治のこと、もっと……だから、感じてよ、私の事も」  ―― 「んっ……あっ…♡わかった、私今ママになるね、一杯卵出すから全部受精させて、あ、おっぱいは全部千治に上げるからぁ♡」  ぱんっ!ぱんぱんぱんぱんっ!!!ずちゅっ!!!ぱんぱんぱんっ!!!! 「はっあぁ、っ♡あ~~~~~~~っ♡」  ぎゅぅっ――びゅくんっ!!! 「っ――は、あぁ……あぁ……♡あはぁ……♡パパ1人ぃできちゃったぁ♡ねえ、どう、私のミルクぅ、美味しぃ?もっとしゃぶってぇ♡……おっぱいミルクぅ……♡全然止まらないのぉっ♡一杯飲んでぇっ♡トロトロミルクぅっ♡」 〇  ああ、と、冷静になってから千治の頭に冷たいものが来る、やってしまったという感覚と、同時、征服感、男性的な本能の欲求と理性的なものが合わさって大体トータルで理性が勝っている。やったところまでは自分の意思だ、言い訳もするまい、しかし欲に流され過ぎて中にぶちまけたのはどう考えてもやりすぎだった、いや、気持ち良かったが、と頭の中で思いつつ、横を向く。女を孕ませたいと思ったのは事実だし、孕んでしまえと思ったのも事実だ。 「……ったく、気持ち良さそうにねこけやがって」  体力って言うのは向こうも使うらしいからか、それとも移動疲れか、色々な汁にまみれたままの布団で寝息を立てていた、この顔を見てるだけで色々吹き飛んでいく。結局単純な人間であることは変わない、と、千治は思う、もっと気にする事色々あるはずなのに何だかどうでも良くなってきている。本当のことを言えばもうすでに膨らんだちんぽから一気に射精して、受精待ちしている卵子に合流させたいと思っているのもまた事実だ。  何でやらないのかと言えばそっちの方が興奮するからだ。ギリギリのところで受精していない卵子に自分の卵子を受精させるのは実に気持ちいいだろうが、そうすればその後のことがつまらなくなる、だから今我慢しているのだ、本当のことを言えば十つ子くらい産ませたいんだが、まあの雪花にはわからないだろう、だって、気持ちよさに白目をむいているんだ 「なあ……どーせ聞こえてねーか……なあ、俺はお前が気に入ってるんだ」  囁くように言う。いや、声自体は大きいが、相手が聞こえていないと、ある種の信頼をして。 「もっと気に入っちまったんだぜ?――お前はきっとまたデジタルワールドであっちこっち行こうとするんだろうな……ぜってぇ食いついてやる……覚悟しておけよ」  馬鹿なこと言ってるもんだ、と思いつつもあくび、何だか自分も眠くなってきた。相手の子宮に一杯の精液をぶちまけながら言う事ではないと分かりつつも、新鮮な精子を送り付けるのは忘れていない。  少雨時期に言えば、自分の将来など忘れていたのだから。  もし母親が帰ってきたとして、どうしようか……怒られた時にでも考えるとしようか。 〇 「――離れてなんてあげないからね」 〇  調べものに夢中で泊まり、と言うことになった、嘘だけど、あるいは男の身体を調べた、と言う点ではある意味事実か。女性の身体もしっかりと覚えさせた、夕食をご馳走になり、そのまま風呂を頂く、本当は近くのネカフェは検索していたからそこに泊まろうとしていたが、結局千治の家が寝床に変わった。部屋もまた、千治のもの。 「寝ちゃったからさ、眠れないね」 「ああ――」 「セックスもしちゃったもんね」 「……だな、なんつーか、気持ち良かったぜ、うん」 「だろうね、すごい夢中になってたし」 「おい」 「んー?」 「その、なんだ……今度、勉強教えろよ」 「どういうカゼの吹き回し?」 「――その、まかり間違ったらお前ん所の親父に殴られに行くし、それに馬鹿じゃいられねーだろ」 「……ふぅん、もしもの時の事、考えてくれてるんだ」  何だか、言いようもなく胸が熱くなる、芯のある男が、自分を優先しようとしていることに何だか込み上げるものがある。つまり価値を証明した。  一応避妊用のピルを飲んできたのを後悔した、3人くらい産んであげたいと思った、今新鮮な乱視があるのになんてもったいないことを敷いたんだろう。もし受精していればこの強い雄が父親になっていた、その上自分の父としての欲求も強い雄を、今自分は逃がしてしまったということになる。なんてもったいないのだろう、仕方ないから今後何回も分裂してこの男を篭絡しようと決めた。もう、自分以外に目がいかないように。 「千治って結構真面目だよね…出力が喧嘩ってだけで」  この後は喧嘩もできないからね♡私のオマンコに夢中になってくれていいんだよ♡と、いう意訳。まあ通じてなくていいかな、とりあえず5つ子くらいは産もう、この時代の親……まあ、私が言いくるめれば何とかなるさ。。 「さーな」  そっけない態度を取る千治の布団にもぐりこみ、背中に抱きつく。あ、ちょっと愛が漏れた♡他に浮気にしないようにマーキングしよ♡他にメスがいなくて良かったな♡おっぱいくっつけるのはありとして、やっぱりおまんこからあふれた雌汁嗅がせた方がいいかな?♡ 「おい……俺はもう気兼ねしねーで雪花の事、襲うぞ」  あ、来て、そっちの方がいいな♡ 「好きにしていいよ♡…って言いたいところだけど……親大丈夫?」 「――やめとく」  なんで断るんだよぅ……でもそういう謙虚なところもいいな♡ 「賢明だね」  ヤった後だからか、それとももとよりなのか、すこしばかり好かれていることに安堵、身体を押し付けるようにして、 「……うん、中々丁度いいね、抱き枕」 「人を勝手に…おい」 「んー?」  腕を引きはがされる、力が強いからどうしても抵抗は出来ない、代わりにそのまま抱き寄せられて、 「こっちの方が、いい」 「わ……」   腕が回される、同じように抱き返した、言葉が無くなる、鼓動だけがある、それがやけに心地よい。  これも、中々好奇心が満たされるじゃない、眠りに落ちる前にそんなことを思う。