「人間は、此のデジタルワールドを救う為に選ばれる……。
一介のデジモンが稀人を元の世界に帰すなど。貴様の考えは私が許さぬ」
クラヴィスエンジェモンが、傷ついたあいつを見下ろす。
「ましてや、人との絆を結んでいないデジモンが何を言う。
大方、勾引かし連れてきたのであろう。人間を害をなす者、即ちデジタルワールドに害をなす者……。
貴様は私が裁きを下す」

「な、何を言ってるの……？」
リアルワールドに帰るための手がかりを探しに来たことを伝えると、クラヴィスエンジェモンは静かに怒り出した。そして、あたしではなく隣の芋虫を狙い始めて。進化して応戦したあいつは、やられてしまった……。

「聞け、人間よ。貴様は去るが良い。此処を出て──己が使命を抱き、デジモンと往くのだ。
甘言につられたとはいえ、此の世界を去ろうとした貴様の罪もいずれは赦されよう……」
訳が分からない。何言ってるかも、攻撃された理由も。
で、でも。あたしは逃げていいって……？

あたしが碌に口を開けないでいると、クラヴィスエンジェモンが話を続ける。
「……私には分かるぞ。貴様等の不和が。此のドクネモンは、私がデータに還す。
貴様は真に心を許すデジモンを見つけ、パートナーとしての契りを……」
「ね、ねぇっ！あたしが行ったあと、そいつはどうするの……？」
「データに還すと……。あぁ、人間でも分かる表現を求めているのだな。
殺す。正確にはデジタマを遺し、此の個体は消えるだけだ」

ころす……。意味は分かっても、実際に耳にすることなんてない言葉。
だけど、このクラヴィスエンジェモンはきっと本気だ。

「あたしは、いいのね？そいつが狙いで、あたしは逃げても……」
「然り。デジタルワールドに招かれた人間には恐らく、デジタルワールドに存在する必然性がある故に……」

少しだけ、落ち着いてきた。なんだ、あたしが困ることなんてないじゃないか。
今まであたしが嫌っていたお邪魔虫を居なくして、新しい旅の機会を得るんだ。
あいつさえ見捨てれば……。

……。

「……待って。待ってよ。……こいつ、そんな悪い奴じゃないから。
バカで、あたしの邪魔ばっかりするけど。……気に入らないことがあるなら、きっとあたしのいう事なら聞くから。殺す必要なんて、ないよ……」

何やってるの？あたし？

「ここに来たのも、あたしが決めたことだから！元の世界に帰りたいのも、あたしの目的だから。これだけお仕置きされたら、こいつだって反省してるはずだから……」

クラヴィスエンジェモンとの間に割り込んで、何故かあたしの口からは倒れているこいつを守ろうとする言葉が漏れてくる。
こんな奴、ほっとけばいいのに！あたしにくっついて驚かせてくる大嫌いな虫なんて！！
なのに！なんで！？

「ならぬ。私の判決は下った。ドクネモンは人間を良くない方向へ導く。幼年期に生まれ直し、矯正が必要である」

当然というか何というか、クラヴィスエンジェモンは聞く耳を持たない。

……。

ああ、もう。

もう！！！

あーっもう！！！！！

なんっで！！デジモンって！！どいつもこいつも話を聞かないの！！！

思わず走り出したあたしは来た道を引き返す──。
「あﾞ あぁーーーーーっ！！！嫌！！いやっ！！！嫌ーーーーっ！！！」
名誉のために言うと、これはクラヴィスエンジェモンを怖がってる悲鳴じゃない。
腕の中にこいつを抱えてしまったキモ声だ。

なんで！？何回目か分からないけど、なんで！！？
あたしが虫を嫌う理由。芋虫のぶにぶにした肌が──今は、いいから！！！
あたしが虫を嫌う理由。変な汁を出す奴らが、手とか服を汚して──それもいいから！！！！
嫌な理由はいくらでもあるけど！！それでも今は、助けたくなっちゃったの！！！

クラヴィスエンジェモンの言う通りだ。あたしはこいつにおかしくされている。変な毒気が回って、変にさせられてるんだ。
……でも。嫌いだって思ってるけど。殺すとかなんとか言われて。そんな目に遭う奴じゃないって、あたしの身体は動いていた。

こいつを嫌う気持ちは確かにあって。
それでも、こいつを頼りにしていた気持ちもあって。
あたしが一人だけなら、こんな場所にさえ来れなかった。
大きなデジモンとも、クラヴィスエンジェモンとも戦うことは出来なかった。

あたしが嫌がって泣いても、こいつはあたしの自己紹介の邪魔をするし。
文句を言っても、ずぶとく着いてきた。あたしが、気分のいい対応をしてる訳でもないのに。
それでも、戦う時には前に出てくれたし、あたしをどこまでも案内してくれた。

イヤなはずだけど、こいつには助けられてて──好きだとか嫌いだとか、どっちかの一言じゃ割り切れない気持ちを抱えていたのが、こいつとの関係だったんだ。

確かに言えることは──あたしとこいつは、一緒にいた。
ずっと一緒だったんだよ。デジタルワールドに来てから、どこまでも。
割り切れない気持ちがあっても、同じ時間を共有していて。
何度も驚かされたけど、それもきっとあたしの日常になっていて。

多分、あたしは──こいつがいることを受け入れていたんだ。
心に壁を作っていたけど、それでも。一緒にいることが当たり前だったんだ。

腕の中のこいつは、ぐったりとして動かない。
……なんで。あたしのために戦ってくれたの。

「ねぇっ……なんで寝てんのよ…… 」
なんで、着いてきてくれたの？

「あたしがあんたを運んであげなきゃいけないの！？ねえ！」
あたし、あなたの事ちっとも知らないよ。

「あたしの邪魔しないで、自分で歩いてよ……」
もう少し、話をすればよかった。

「だから……」
だから。

今は、目を覚まして欲しかった。
お邪魔虫でもなんでもいいから、騒いでる姿をもう一度見たかった。

……でも。たかが小学生のあたしに出来ることなんて、大してあるはずもない。

涙でぼやける視界に、クラヴィスエンジェモンの姿が映る。
強大な力を持っているデジモンを相手に、あたしの足で逃げ切れることは出来なかった。

限りなく薄く引き伸ばされる１秒に、あたしの頭はクールに回る。

──ああ、なんていうんだっけ。確かこういうのゲームで──
──しかしまわりこまれてしまった！ってやつ？──
──手に負えない敵を前に、逃げ出して痛い目に遭う──
──あいつが狙うドクネモンを庇ったあたしも──

ここから逃げて、助かるなんて。
ただの女の子に、奇跡は起こらなかった。
奇跡なんて……。


……そう。

奇跡を起こせるとすれば、それはきっと──

おわりです
次回！！！土倉クエスト第四章！！"呼応"！！！
雑談スレが見つからないのでお風呂に行きます

-絆-

頑張れどぎゃああああちゃん

ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━ !!!!!

おちくび…

それは思ったけども

土倉ちゃんのとこのドクネモン健気で可愛いから好き

案の定ケオケオしてる力天使モン…

>1762430126627.png
お乳首ありがとうございます！
自分で描いてそう見えたけどまぁいいかと思ってたものを…！

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あと前回不法侵入だからボコられて当然って言われてたんですけどもあっしの頭が悪いのでその辺は考えてなくてェ…
ダンジョン突入する感覚だから悪くないって思っててェ…
人間がDWにやってくるのはDWの為だと思ってたけどドクネモン達が帰ろうと話しかけたのでキレた系エンジェモンになります
書いた人間の倫理が薄いため登場人物もその辺薄いという理由によってなんとか成り立つ気がしました
セーフ

>人間がDWにやってくるのはDWの為だと思ってたけどドクネモン達が帰ろうと話しかけたのでキレた系エンジェモンになります
>書いた人間の倫理が薄いため登場人物もその辺薄いという理由によってなんとか成り立つ気がしました
>セーフ
何か理由があるからDWに来てるに違いないのに
使命を果たさずに帰すとはけしからん！！！！
は安定の秩序型ケオりで安心すら覚える

>土倉ちゃんのとこのドクネモン健気で可愛いから好き
ありがとうございます！次々回にはかっこよくなると思います
triと同じだけ章がある長丁場になったので…

>何か理由があるからDWに来てるに違いないのに
>使命を果たさずに帰すとはけしからん！！！！
>は安定の秩序型ケオりで安心すら覚える
何がとは言いませんが良い感じの名前で敵役に選んだらいい感じだったと思います

デジモンの思考は0か1かのデジタルだから
なんか理由があるんだろうなーって考えることが出来るのはだいぶ穏健派だよこのクラヴィスエンジェモン

事情があるだのなんだの思い浮かべる想像力なんてないし人間かどうかとか与えられた使命より気にすることではないぐらいが一般的な秩序型デジモンだよね……

楽しみにしているぞ