※注意 「お母様が言ってた。怪文書を読む時は部屋を明るくして画面から目を離して読む様にって…。それから、長時間に渡って画面を見つめ続けるのも禁物…適度な休憩を挟んで無理の無い様に…。みんなも守ってほしい。キャスとの約束…」 ───────── ここはデジタルワールドのどこかにあるという複合施設『アリーナ』。 ここアリーナでは来週、大きなお祭りが開かれるみたいです。 キャス子ちゃんこと木末 聖煌ちゃんは今からお祭りが待ち遠しいご様子。お祭りが始まるまでここで待っていると息巻いています。 そんなキャス子ちゃんにパートナーのチョコモンはとても手を焼いているみたいでした。 「おいおい、キャス…夏祭りが始まるまでここで待ってるって……祭りまでまだ一週間もあるんだぞ。それまでずっとここに居るつもりか?」 チョコモンの呼びかけにも応じず、キャス子ちゃんはその場から動こうとしません。 「(きゃすとらいとちゃん、どんな時でも自分の意志を貫いて凄いな…)」 同じお嬢様で同学年。蟹江 真珠ちゃんは自分と似た立場にありながら性格は真逆なキャス子ちゃんにちょっぴり憧れの念を抱いていました。 いつか自分もあんな風になりたい…。そう思いながらキャス子ちゃんと出会ってからこれまでの事を振り返ります。 訪れたカレー屋さんでタバコを吸っていたピチスー男に腹を立て、必要以上に消火器でブチのめすキャス子ちゃん…。 タバコを吸いたいから火を貸してくれないかと威張る様な態度で声をかけてきたピチスー男をグミモンのピニャタパーティーでピニャータに変え、生き埋めにしてしまうキャス子ちゃん…。 料金以下のマズイ飯を出してきたお食事処『イレイザー』ではピチスー店主を麺棒でぶっ叩いて最終的に稲庭うどんにしてしまったキャス子ちゃん…。 よくよく思い返してみると素直に尊敬して良いのかどうかわかりません。 「(………きゃすとらいとちゃんって実はすっごい不良なのかな?いつか私もきゃすとらいとちゃんみたいに…なんて思ったけど、やっぱりやめとこうかな…)」 憧れの感情をそっと胸の奥にしまっておく真珠ちゃんなのでした。 「んも〜、こんな所にいたら祭りの準備する人たちにも迷惑になるでしょ?」 梃子でも動こうとしないキャス子ちゃんに声をかけたのは大峠 佳織ちゃん。 キャス子ちゃんや真珠ちゃんにとっては頼れるお姉さん的存在です。今現在、キャス子ちゃんの手綱を握れるのはこの佳織ちゃんだけと言っても過言ではありません。 「でも佳織ねぇね……あそこの人もさっきからずっと居る」 キャス子ちゃんが指差した先にはピンクと黒のツートンカラーをした女の子が居ます。 どうやらその子もある人物をここでずっと待ち続けている様ですが…… 「こらこら、人を指差しちゃいけません! お祭りが始まったら一緒に回ってあげるから、今日のところは一旦出直そ?」 佳織ちゃんが窘める様に言い聞かせるとキャス子ちゃんは静かに頷き、佳織ちゃんの手をぎゅっと握りました。やっぱり頼りになる佳織ちゃん。流石のお姉ちゃん力です。 「一緒に…………回ってね、絶対…」 「うん、わかったから」 それから一週間後…… 待ちに待った夏祭り開催の日です。 お祭りの開始と共に打ち上げられた花火がアリーナの空を綺麗に彩っています。 キャス子ちゃんと真珠ちゃんの年少二人組は迫力満点の花火に大興奮。 最後により一層大きな花火が上がり、『三上竜馬LOVE♡』の文字が空高く描かれました。 「え?何あれ?」 高学年の佳織ちゃんは勿論、低学年ながらお嬢様故に英才教育を施されたキャス子ちゃんと真珠ちゃんにも書かれている言葉の意味がわかってしまいます。 「みかみりょうまって誰?」 「……多分あの人」 キャス子ちゃんが見ている視線の先にはトリケラモンを連れた男の子が空を見上げ唖然としています。 男の子はキャス子ちゃんの推測を裏付けるかの様に俯きました。表情を読み取る事は出来ませんが照れている事だけは何となくわかります。 すると突然、男の子の方へ向かってキャス子ちゃんが走り出しました。 下を向いている男の子の視界に入る様に潜り込んだかと思うと、上を向いて男の子をじっと見つめ返します。 いきなり現れたキャス子ちゃんに当然の事ながら男の子はびっくり。 大きく後ろへ下がります。尚も男の子を見つめるキャス子ちゃんでしたが… 「本っっ当にごめんなさい!!ほらキャス、行くよ!」 謝りながら乱入して来た佳織ちゃんに引っ張られて行ってしまいました。 男の子はまたまた唖然とした表情でキャス子ちゃん達を見送るばかりです。 「行っちゃった…。何だったんだろうね、竜馬。」 「わからない。ただあの子………いや、俺の考え過ぎか…」 「?……竜馬?」 急に現れ、そして行ってしまったキャス子ちゃんに対して何やら思うところがある男の子__竜馬くん。ほんの僅かな時間の出来事でしたが、キャス子ちゃんに一体何を見たのでしょうか…? ───────── 「もうキャス!なんであんな事したの!?」 「……」 一方こちらは佳織ちゃんのスーパーお説教タイム。 先ほどの奇行の理由を問いただしますがキャス子ちゃんはだんまり、それどころか佳織ちゃんの方を見ていません。 「おかげで真珠もどっか行っちゃうし…ってキャス、聞いてるの!?一体何を見て……」 キャス子ちゃんがじっと見ている自分の背後へと振り返る佳織ちゃん。 なんとそこにはスカルマンモン(X抗体)の姿が! 全身がウィルスに侵され骨だけになってしまったスカルマンモンは謂わば歩く屍。まともな知性など無く、あるのはウィルス種のデジモンを殲滅するという本能のみ。この個体もどうやらウィルス種であるヌメモンとウィルス種へと進化するチョコモングミモンに引き寄せられやって来た様です。 佳織ちゃんは咄嗟にキャス子ちゃんを庇う様な位置に立ち、ヌメモンを進化させようと試みましたが、とても間に合いそうにありません。 スカルマンモンがキャス子ちゃん達に覆いかぶさる様に襲い掛かりました。 ───────── さて、いつの間にか居なくなってた真珠ちゃんはと言うと… えっちなお姉さんの焼いた焼きそばを物凄い勢いで啜っていました。 自分が焼きそばを一回啜ると次はガニモンが、ガニモンが啜ると次は真珠ちゃんといった具合に交互に焼きそばを分け合いっこしています。 「真珠ちゃんはワイルドになりたいから、じっとしてなさいっていうお姉ちゃんの言いつけを破ってお祭りで豪遊しちゃうの。どう?蟹さん。ワイルドでしょ!」 ワイルドの意味を若干取り違えるお茶目な真珠ちゃんなのでした。 ───────── 一方、こちらはスカルマンモンに襲われ絶体絶命のキャス子ちゃん一行。万事休すかと思われたその時でした。 「ウェェェェェェェイ!!」 奇声を発しながら一人のお兄さんが現れ、スカルマンモンに飛び蹴りをかまします。 「キンパチ!チガウァナイカ!?(君たち、ケガは無いか?)」 助けに現れたお兄さん__チャラ男さんは二人に大丈夫かと問いかけますが、チャラ男さんの大丈夫じゃない滑舌のせいで何を言っているのか聞き取れません。 「ヤツノアイテハオリガフキヌケル!(奴の相手は俺が引き受ける!) キムタチハハヤクッコロカラヌゲルンダ!!(君たちは早くここから逃げるんだ!)」 とりあえずここから逃げるように言っている事だけはわかったので佳織ちゃんはキャス子ちゃんの手を引き、すぐにその場から離れました。彼女達のパートナーデジモンもその後に続きます。 佳織ちゃんとキャス子ちゃんが逃げたのを確認したチャラ男さんは再びスカルマンモンの方へ向き直り啖呵を切りました。 「オリガアイチダ!アンデッド!!(俺が相手だ!アンデッド!)」 取り出したバックルにカードを1枚装填したチャラ男さんはそれを腰に当てて装着します。 勢いよく走り出して変身ポーズを取るチャラ男さん。同時にスカルマンモンもチャラ男さんに向かって走り出します。 「ヘシンッ!!」 『Turn up』 音声と共にバックルから射出された青白く光る畳がスカルマンモンを弾き飛ばし、その畳をくぐり抜けたチャラ男さんはロイヤルナイツとしての姿に変身。手にした得物で力一杯スカルマンモンを斬りつけました。 「ウェーイ!!」 ───────── その頃、夏祭り会場に設けられた大きなステージでは眼鏡をかけたお姉さん__橘樹 文華さんが舞台に上がって何やらパフォーマンスの準備をしています。 お祭りのステージイベントに呼ばれた大物ゲストの到着が遅れているとの事で適当に何かやって時間を稼いで欲しいと言われた橘樹さん。一先ず一曲歌う事にした様です。 「なんで私がこんな事しなきゃいけないのよ…女装大会の審査員はやらされるわ型抜き屋の店番押し付けられるわでもう散々よ…。そもそも織姫さんが嫌がる私をこんなところに無理矢理連れて来るから……」 本命がやって来るまでの引き延ばしとは言え、橘樹さんの意気込みは十分。 集まった観客の歓喜の声と共にイントロが流れ始めました。 ───────── 『Absorb Queen』 場面は変わってこちらはスカルマンモンと激闘を繰り広げるチャラ男さん。 周囲への被害が出る事を考慮し、早期決着を望むチャラ男さんは左手首に嵌めたチベット産の玩具に1枚のカードを装填。そこへ更にもう1枚、カードをスキャンさせます。 『Fusion Jack』 音声と共に現れたのは光り輝く鷲を模したエンブレム。 黄金の鷲はチャラ男さんと一体化する様に重なり、彼を新たな姿へと進化させます。 眩いほどの金色を放つボディと大きく靭やかな3対の翼…その名はチャラ男さんジャックフォーム_____。 ───────── またまた場面は変わって…。 熱気に包まれたイベントステージ…上がり続ける観客達のボルテージの中、熱唱する橘樹さんの歌声が会場全体に響き渡ります。 『─新しい強さでよみがえる想い─』 「ウェイ!!ウェイ!!ウェーーイ!!」 橘樹さんの唱にリンクするが如く、チャラ男さんも聖槍グラムによる怒涛の連撃でスカルマンモンを追い詰めて行きます。 『─はじき出されてく もっと出来ること─』 派手に転がされ、満身創痍となったスカルマンモン。チャラ男さんはとどめの必殺技を放つべく、2枚のカードをグラムから取り出しました。 『─探した答えは 変わり続けてく─』 『Slash』『Thunder』 『Lightning Slash』 カードをスキャンした事によって帯電状態となったグラムを構えたチャラ男さんは背中の翼を大きく広げ、飛び立ちます。 『─生まれ変わるほど 強くなれる─』 スカルマンモンはそれを捕捉しようとチャラ男さんを目で追いかけますが、物凄いスピードで飛び回るチャラ男さんに追い付く事が出来ず翻弄される一方…そうして生じた大きな隙を百戦錬磨のチャラ男さんが逃す筈もありません。 『─辛味噌─』 「ウェェェェェェェェェェェェェェェイ!!」 電撃を纏ったグラムによる一撃がスカルマンモンに見事炸裂。頭上から振り下ろされた一刀のもとに斬り伏せられた像のアンデッドの身体は大爆発を起こし、激しい火柱を上げました。 『─辛味噌─』 炎に包まれるスカルマンモンの巨体目掛け1枚のカードを放り投げたチャラ男さん。 骨だけの像さんに突き刺さったカードは吸引する様にマンモスのアンデッドをその中へと封じ込めます。 そしてスカルマンモンの封印を終えたカードはまるで意志を持っているかの如くチャラ男さんの手元へ戻って行きました。 戦いの幕切れと同時に歌い終えた橘樹さん。目一杯の拍手と歓声が彼女を迎え入れました。 橘樹さんの余興は大成功、アンコールの声が会場を埋め尽くします。 「……………勘弁してよ、もう」 ───────── その頃、無事逃げ果せる事が出来たキャス子ちゃんと佳織ちゃんは人気の無い場所に来ていました。 おや?近くの物陰で何やらヒソヒソと話し声が聞こえて来ます。 好奇心が旺盛なキャス子ちゃん。言うまでもなく声のした方へ駆けて行きました。 見てみると薄暗い所で大きいお姉さんと小さいお姉さんが仲良くちちくりあっています。 「奈良平さん…確かに何でも我儘を一つ聞くとは言いましたが、流石にこんな場所で……」 「何でもって言いましたよね〜?それとも織姫ちゃんは私との約束を違えるおつもりですか〜?」 「そんなつもりは……っ!」 大きいお姉さんは小さいお姉さんの服の中に手を入れ、身体をまさぐる様にモゾモゾと手を動かしています。 対する小さいお姉さんは口元を押さえ必死に声を押し殺そうとしていますが、まるで繊細な機械でも扱う様な手つきに抗う事も出来ず、その小柄で華奢な身体は時折ピクンと跳ねるが如く肩を震わせ、どんどん荒くなる呼吸からは甘い声が漏れ出てしまいます。 「っっ!……ひぁっ!?奈良…っ…平さん…そんなにしたらっ…声…誰かに聞こえ…あぁっ」 「心配は要りませんよ〜。こうしてお口を塞いでしまえば誰かに声が聞こえる事もありません。」 「んむっ!?」 不意に大きいお姉さんから交わされた口づけ。小さいお姉さんは始めこそ困惑していましたがすぐに受け入れ、そのままお互いに舌を絡ませ合いました。 「んっ…はぁ……」 「佳織ねぇね、あれ何してるの?」 「キャスは見ちゃダメ!!」 「……なんで?」 「いいからっ!!ほら行くよ!!」 ───────── この物語の主役はキャス子ちゃんです。故に行く先々で何らかのトラブルに巻き込まれてしまうのは致し方のない事なのでしょう。 現に今も理由はわかりませんが佳織ちゃん共々、七大魔王に取り囲まれてしまったみたいです。大丈夫でしょうか? 答えは無論イエスです。どんな窮地に陥っても心強い味方が颯爽と現れピンチを脱する…それが主人公というものです。 今回現れた味方は……一人のデジモンのお姉さん。 「トリャアアアアアア‼︎」 デジモンのお姉さんはいの一番に向かって来たバルバモンに一本背負いをかまします。 「オリャアアアアアアッ‼︎…デヤアアアアアアッ‼︎…セイャアアアアアアッ‼︎」 デーモン、リリスモン、ベルゼブモン…次々と掴みかかっては投げ飛ばし、更には大きさなんてなんのその、ベルフェモンやリヴァイアモンが相手であろうと問答無用でぶん投げました。 「トォォリャアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼︎」 最後まで残ったルーチェモンもお姉さんの体落としの前に倒れノックアウト。 「サタノ……ダイナモン……………」 満身創痍の中、お姉さんを見上げたルーチェモンがボソリと一言告げます。 ─サタノダイナモン─。そう呼ばれたお姉さんは 「セガサターン、シロ!!!」 とだけ言い残すと力尽きたルーチェモンの側に何かを置いてそのまま去って行きました。 サタノダイナモンの手土産…それはキャス子ちゃんや佳織ちゃんが見た事も無い様なレトロな雰囲気の漂うゲーム機でした。 「何だったんだろうね、キャス…」 唖然とする佳織ちゃんがキャス子ちゃんに声をかけますが返事がありません。 「あれ?キャス?」 佳織ちゃんが視線を下に向けた時、そこに居たのはグミモンだけ。キャス子ちゃんの姿はありませんでした。 「グミモン?キャスとチョコモンは?」 「わかんねぇ。気が付いたらこのありさまだ」 佳織ちゃんは大きな溜め息を吐くと踵を返し、元来た道を急ぎ足で歩いて行きました。 「…もうっ!あの子はまた…!」 ───────── 再び人通りの多い場所へ出たキャス子ちゃん。偶然前を通りかかったフルーツ飴のお店がふと目に留まりました。 屋台の店先に並んだ色とりどりの飴にキャス子ちゃんは一瞬にして視線を奪われてしまいます。その中でも特にイチゴ飴が気になったご様子。 「佳織ねぇね、イチゴ飴食べたい」 早速佳織ちゃんにおねだりするキャス子ちゃんでしたが、キャス子ちゃんが佳織ちゃんだと思って手を繋いだ相手は全くの別人でした。 「………!?……!?」 キャス子ちゃんはとても人見知り。見ず知らずの人間と話をするのは得意ではありません。知らない人とうっかり手を繋いでしまった事でとんでもなく狼狽えています。 「えーと……ちょっと待ってて!」 キャス子ちゃんに手を繋がれたちょっぴり小麦肌の男の子(?)は少し考えた末にフルーツ飴のお店に並び、イチゴ飴を持って戻って来ました。 「ひとまず、このイチゴ飴食べて落ち着いて?ね?お嬢ちゃん。」 「すまねえな、兄ちゃ…ん?いや、姉ちゃんか?とにかく飴、サンキューな!」 「兄ちゃんだから!」 親切にも出会ったばかりのキャス子ちゃんに飴を奢ってくれた優しいお兄さん。 キャス子ちゃんも貰った飴を嬉しそうに舐めています。 「……もしかしてあなたは佳織ねぇね?」 「なんでそうなる!?俺は浅野ヒバリ。佳織ねぇねじゃないんだ…ごめんね」 ヒバリと名乗るお兄さんはキャス子ちゃんのわけのわからない質問にも優しく答えてくれました。 「嘘……キャスを騙そうとしてる。キャス知ってるもん。佳織ねぇねが女装大会ってのに出ようとしてたの。変装してるのがバレるとまずいから他人の振りしてる!」 「だから違…そうだ!一緒に佳織ねぇね探そ?ねぇねもきっとキャスのこと探してるかもしれないし」 ヒバリくんはキャス子ちゃんを宥める様に頭を撫でてやりますが、キャス子ちゃんは全く聞く耳を持ちません。 「キャスは騙されない……!!!」 感情を抑える事が出来ず、ついには癇癪を起こしてしまいます。 そんなキャス子ちゃんの憤りに同調するかの如くチョコモンが目を赤く光らせたかと思うと、やがて全身が眩い光に包まれました。 進化が始まったのです。成熟期の暗黒デジモン__ウェンディモンへと姿を変えたチョコモンが一気にヒバリくんのすぐ側まで接近すると、どこからともなく一陣の風が吹き抜けました。 突然の強風に思わず腕で目を覆い隠したヒバリくん。 彼が次に目を開けた時、ヒバリくんは我が目を疑いました。なんとヒバリくんの体が見る見るうちに幼くなって行くのです。 「……え?何これ!?嘘でしょ!?嫌……誰か助けてぇぇっ!!」 ───────── 『Faction faction 曖昧なもんさ!怪・抽象的 !Faction life!』 その同じ頃、イベントステージでは遅れていた大物ゲストがようやく到着。 観客達の熱気に包まれた中、楽曲を披露しています。 長らく待たされただけあってオーディエンス達の盛り上がりは最高潮。物凄い歓声です。 そんなライブステージに集った人々とは対照的に狼狽して今にも泣き出しそうなヒバリくん。 対象の時を戻し、幼児化させてしまう…それこそがウェンディモンとなったチョコモンの能力です。 その力で過去の姿にしてしまえば変装も解けて本来の佳織ちゃんの姿に戻ってくれる…そうキャス子ちゃんは思った様ですが、キャス子ちゃんの予想に反して幼くなったヒバリくんはどう見ても佳織ちゃんとは別人でした。 「ねぇねじゃない!?なんで!!ね゛ぇ゙ね゛!!ね゛ぇ゙ね゛どこ!?゛」 ヒバリくんが佳織ちゃんの変装ではないと知った途端、キャス子ちゃんはヒバリくん以上に狼狽え泣き喚きます。 周囲の人やデジモン達が何事かとキャス子ちゃん達に注目する中、やって来たのは肩の上にアルマジモンを乗せた男の子。どうやらヒバリくんの知り合いの様で、彼の声を聞いて駆け付けた様ですが… 「ん?あれ?」 「イブキの聞き間違いだったんじゃないのか?」 「そんな筈ないって!確かにこの辺りでヒバリ君の声がしたんだよ!助けてって……」 推定5歳児の姿に変えられている上、パートナーのハニモンも幼年期に退化させられてしまっているが故に目の前の子がヒバリくんだとは気付きません。 そうこうしているうちにキャス子ちゃんが男の子の存在に気付いてしまいます。 「佳゛織゛ね゛ぇ゛ね゛!!!」 恐らく男の子の年齢は佳織ちゃんと同じくらい。見境がつかなくなっているキャス子ちゃんにとってはこの子も変装した佳織ちゃんに見えている様です。 「イブキくん、こっち!」 ヒバリくんは咄嗟の判断で男の子の手を引っ張り、出来るだけ遠くへ逃げようと走り出しました。 「ちょっと待てよ!何なんだ!?一体!」 「まずなんで俺の名前知って…」 ヒバリくんに連れられた男の子__イブキくんとアルマジモンは何がなんだかわかりません。 ですがヒバリくんは詳しい話は後回し、今はとにかく逃げるぞとばかりに一目散に走ります。 次の瞬間、逃げる三人を背後から貫く様に強い風が吹きました。 ヒバリくんの健闘も虚しく、イブキくんとアルマジモンの二人もチョコモンの手によって幼い外見へと変えられてしまいます。 「へ!?…もしかしてアルマジモン?なんかすげぇ可愛らしくなっちゃってない?」 「そういうイブキこそ…何か縮んでないか?」 「え?マジ?…うお!?本当だ!?俺ちっちゃくなってる!?」 お互いに目の前で起きている事が信じられないイブキくんアルマジモンペアと結局守りきれなかったと唇を噛み締めるヒバリくん。全員の耳にひたひたと迫る足音が聞こえてきました。キャス子ちゃんです。 紅い瞳を爛々と光らせ、ゆっくりゆっくりと歩み寄って来る様はヒバリくんやイブキくんにとって今までの冒険の中で出会ったどんなデジモンよりも恐ろしく、そして得体の知れないものに感じられました。 「…………この子も………違う…!!!」 キャス子ちゃんが涙ぐんだ目で睨んだ先に居たのはまた別の男の子。道着に身を包み、ムーチョモンを連れています。 「あっ!大峠さん!居たっすよ!あの子っすよね?」 男の子が振り返って口にした大峠という言葉も破れかぶれになっているキャス子ちゃんの耳に届く事は無く、彼等もまたチョコモンの毒牙にかかってしまいました。 「違う……違う!ちがうちがうチガウ違うちがうちがうちがうちがうチガウ違うちがう違うちがうチガウ違う違うちがうちがうちがうチガウちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうチガウ違う!!こ  いつも佳 おリね   ぇねジゃない!!!」 血の様などす黒い涙を流しながら泣き叫ぶキャス子ちゃん。 その時でした。 「いい加減にしな…さいっ!」 「あぅ…!」 背後から現れた佳織ちゃんがキャス子ちゃんの脳天にチョップを食らわせます。 キャス子ちゃんの小さな悲鳴と共に吹いていた風もピタリと止み、ウェンディモンが姿を現しました。 「佳織……ねぇね?…本物?」 言いたい事は色々とありますが、まずは寂しがって泣いていたキャス子ちゃんを慰めてやる事が先決だと思った佳織ちゃんはそっとキャス子ちゃんを抱きしめ頭を撫で撫でしてやりました。 キャス子ちゃんもすっかり落ち着いた様子で、それに伴ってウェンディモンもチョコモンに退化。同時に幼い姿にされた子達も元の姿へと戻ります。 「やった!元に戻れた!!………ぁ」 小学5年生の姿に戻れたヒバリくんは大喜び。ガラにも無くはしゃいでしまいますが… 「ほんと、良かったっすね!」 「ちっちゃくなった時はどうなるかと思ったよー」 イブキくん、ゲキくんがこちらを見ている事に気付き顔を真っ赤にしてフリーズ、数秒が経った後に咳払いをしていつもの調子に戻ります。 「……うん。みんなもう何とも無いか?」 「大丈夫…だと思う。」 「ジブンも恐らく」 各々が無事を確認する中、突然キャス子ちゃんが三人の男の子のもとへやって来ました。 「………………!!」 「ん?どうしたの?」 「ご………………ご………ご…ご………………!!」 必死に何かを伝えようとしていますが、元来人と話すのが苦手なキャス子ちゃん。中々声が出てきません。 ゲキくんは頭の上に?を浮かべ、ヒバリくんは困った様に苦笑い、イブキくんは落ち着いて言ってごらんと優しく声をかけています。 結局声に出して言えなかったキャス子ちゃんはパンダモンのぬいぐるみで顔を隠してしまいました。 そしてぬいぐるみを揺らしながら三人に一言… 『みんなひどいことしてごめんなー』 「ちゃんと言えたじゃん、キャス。」 佳織ちゃんとヌメモン、チョコモンにグミモンはその様子を微笑ましく見守っています。 キャス子ちゃんは佳織ちゃんと無事再会し、小さな子供の姿にされてしまった皆も元に戻れてめでたしめでたし…………とはなりません。 「ところでチョコモン」 「何だ?佳織」 「いかにも暴走してますみたいな雰囲気出してたけどさ……あんた普通に正気だったよね?なんでキャスを止めてあげなかったの?」 「……テイマーの望みを叶えてやるのがパートナーとしての矜持ってもんだろ!」 「こんにゃろ…開き直りやがったな…」 キャス子ちゃんの暴走を敢えて止めなかったチョコモンは佳織ちゃんからお叱りを受けている様です。 そんな二人の傍ら、グミモンがカメラ目線でふわりと飛んで来たかと思うと一言、こちらに向かって声をかけました。 「もうちょっとだけ続くんでいっ!」 ─────────── 『踊れ! ダンダンス獲ったれナンバーワン!指輪の光が示す方へ パンパンクラップでナンバーワン!誇り高いはぐれものよ』 イベントステージで歌う大物ゲストの歌唱がお祭り会場全体に響き渡る中、流れで夏祭りを皆で回る事になったキャス子ちゃん達。偶然居合わせたヒバリくんやゲキくんのお友達__日矢見 大蛇くんも加わり、一行は更に賑やかになりました。 「来るの遅いっすよ、大蛇」 「真打ち登場って言葉もあるだろう。主役ってのは常に遅れてやって来るものなのさ」 「でも考え様によってはあの場に居なくて良かったんじゃないかな。おかげで大蛇君は幼児化を免れたわけだし」 「このボクが?おまえ達の様に不覚を取るとでも?」 話していてもわかる様に大蛇くんは相当なナルシストな様で、これには佳織ちゃんも苦笑い。この日矢見って奴いつもこうなの?とヒバリくんに問いかけます。 そんな子供達の談笑に割って入るかの如く、一人の男が立ちはだかりました。 「見つけたぞ…。さっきはよくもやってくれたな」 「あーー、キャス?こいつに何かしたのか?」 ぴっちりスーツにグラサンという出で立ち。いつもキャス子ちゃんと行動を共にしているグミモンにはあまりにも見覚えがあり過ぎる格好でした。 そう、この男こそがデジモンイレイザー。デジタルワールドにその名を轟かせる大悪党です。 同時にいつもキャス子ちゃんから理不尽な仕置きをされている悲劇の悪役でもあり、様子を見るに今回もまた何かされた様ですが、全く身に覚えの無いキャス子ちゃんはグミモンの質問に対して首を横に振ります。 「たかだか数分前の事だろ!忘れたとは言わせんぞ!」 どうもデジモンイレイザーの話を聞いていると先程キャス子ちゃんが暴走した際にどさくさに紛れて子供の姿にされてしまった様ですが、極悪非道で下衆なイレイザーが自身の野望の為に人やデジモンを手に掛けてもそれを意に介さないのと同じ様に、キャス子ちゃんにとっても自分の与り知らぬところでデジモンイレイザーがどんな目に遭おうと知った事ではありません。 「この屈辱晴らさせt…ごふっ!?」 いきなり目の前に現れたぴちぴちスーツのおっさんが喚き散らして鬱陶しい…そう思ったのは無論キャス子ちゃんだけではなく、いい加減にしろと言わんばかりにゲキくんもデジモンイレイザーの土手っ腹に強烈な正拳突きを食らわせます。 予想外の攻撃にたじろぐイレイザーにゲキくんの更なる追撃。腹を抱えて蹲ったが故に姿勢を低くしてしまったイレイザーの顔面にすかさず膝蹴りを浴びせ、続けてダメ押しとばかりの縦蹴りを仰け反ったピチスー男の顎目掛けてお見舞いしてやりました。 小学生ながらも重いゲキくんの連撃を食らい、よろめきながら後退るデジモンイレイザー。ついに彼は怒りの矛先をキャス子ちゃんから子供達全員へと変えました。 「おのれ選ばれし子供達!!このスーパーイソノインナナヨⅡ(ツヴァイ)で始末してくれる!!」 イレイザーが悔恨の叫びを上げたその直後、激しい地響きと共に体長40mはあろうかという巨大な女が地面からせり上がる様に姿を現しました。 突如として現れた謎の巨女に会場は大パニック!……になるのかと思いきや案外そうでもありません。みんなお祭りのパフォーマンスの一環だと思っている様です。 とは言え当事者である子供達にとっては明確にこちらへ悪意を向けている存在が居る事は紛れもない事実。一同に緊張が走ります。 「さぁ行け、スーパーイソノインナナヨⅡ!」 切り札を切り、勝ち誇った様な態度を見せるデジモンイレイザーはスーパーイソノインナナヨⅡに合図を送りますが、スーパーイソノインナナヨⅡはイレイザーの方を見向きもしません。 「どうした!?スーパーイソノインナナヨⅡ!返事をしろスーパーイソノインナナヨⅡ!」 思い通りに事が運ばず、憤慨するデジモンイレイザー。子供達も何事かと困惑しています。 イレイザーが痺れを切らしかけたその時でした。 「……ソンナノイナイヨ」 スーパーイソノインナナヨⅡが口を開いたのです。次の瞬間、イレイザーの身体は粒子状に分解されスーパーイソノインナナヨⅡに取り込まれ始めました。 「貴様っ!何の真似だ!?スーパーイソノインナナヨⅡ!!」 「ソンナノイナイヨ」 「やめろ!スーパーイソノインナナヨⅡ!こんな事をしてタダで済むと思っているのか!?スーパーイソノインナナヨⅡ!!」 「ソンナノイナイヨ」 「うわああああああああ!!おの…れ……スーパー…イソノインナナヨⅡ………」 デジモンイレイザーを完全に吸収したスーパーイソノインナナヨⅡは次なる標的をキャス子ちゃんら選ばれし子供達に定めると、その巨体をゆっくり前へと進めました。 「みんな!行くぞ!」 アルマジモンの掛け声と共にデジモン達は一斉にスーパーイソノインナナヨⅡに立ち向かいます。 その時、デジモン達の身体が、テイマー達のデジヴァイスが、激しい輝きを放ちました。 「アルマジモン進化ぁぁぁぁ!!!パンゴルモン!!」 イブキくんのアルマジモンはパンゴルモンに、 「ウォォオオッ!ムーチョモン進化ぁぁぁあああッッ!!ジンバーアカトリモン!」 ゲキくんのムーチョモンはジンバーアカトリモンに、 「ハニモン………は危ないから隠れててね」 ヒバリくんのハニモンは傍観に徹し、 「ロップモン!ケラモン!デジクロス!!」 大蛇くんのロップモンとケラモンはデジクロスする事でロップモンケラケラカノンに、 「オレ達も行くぜグミモン!」 「おうよ!」 キャス子ちゃんのチョコモン&グミモンは二人揃ってウェンディモンに、 「ヌメモン超進化ぁぁぁぁああああああああ!!!チョ・ハッカイモン!!」 そして佳織ちゃんのヌメモンはチョ・ハッカイモンに、それぞれ進化して聳え立つターゲット__スーパーイソノインナナヨⅡに攻撃を仕掛けます。 まず手始めに挨拶代わりのジンバーアカトリモンによる斬撃とチョ・ハッカイモンによる打撃がスーパーイソノインナナヨⅡを襲い、続けざまに二体のウェンディモンが放ったダブルパンチが炸裂。更に怯んだ隙を逃さずパンゴルモンがスーパーイソノインナナヨⅡの巨体に強烈な転がり攻撃を浴びせます。 「ソンナノイナイヨ」 パートナーデジモン達の連携攻撃によってスーパーイソノインナナヨⅡを後退させる事は出来たものの、大したダメージが通っている様には見えません。体勢を立て直したスーパーイソノインナナヨⅡは尚もこちらへと向かって来ます。 「なんて強さなんだ。スーパーイソノインナナヨⅡ」 「デジモンイレイザーとかいう奴が最後っ屁で出してきただけの事はあるっすね、スーパーイソノインナナヨⅡ」 「一体どうやって倒せばいいの、スーパーイソノインナナヨⅡ」 窮地に立たされる選ばれし子供達……その時でした。 「メルダイナー!!」 「ダークネスウェーブ!!」 どこからともなく放たれた熱線と黒い波動…。これらが同時にスーパーイソノインナナヨⅡに着弾し、その巨体に大きな爆発を起こしました。 子供達が視線を向けた先にはラヴォガリータモンとレディーデビモン、そしてそれらを駆る男の子と女の子の姿がありました。 助太刀に現れた二体のデジモンは緩やかに高度を下げ、乗っていたお兄さんとお姉さんが駆け寄って来ます。 助っ人の登場によってこの戦いをお祭りの催しだと思っているオーディエンス達は大いに沸きました。 「ちょっ!?何これ、うるさっ………勇太、やっぱりこれこういう感じの単なるイベントだったんじゃないの!?」 「そう言わないでよ、光…俺の取り越し苦労だったならそれで良かったって事でさ」 お兄さんとお姉さんもどうやらこの一件を夏祭りのイベントだと思った様ですが、 「違うんです!聞いて下さい!」 子供達のリーダーっぽいポジションに収まっているイブキくんが二人を呼び止め、事情を簡潔に説明しました。 話を聞いたお兄さんとお姉さん__日野 勇太くんと鬼塚 光ちゃんは快く協力すると言ってくれました。 しかしながらキャス子ちゃんは一人、難しい顔をしています。 「キャス、どうしたの?」 心配した佳織ちゃんが何事かと尋ねますが、キャス子ちゃんは答えようとしません。 スーパーイソノインナナヨⅡと戦っていたウェンディモン(チョコモン)がキャス子ちゃんの隣に降り立ち、代わりに質問に答えます。 「こいつはアレだ。小学生グループの並びに高校生が割り込んで来たら見栄えが悪くなるだろ、ふざけんな!って顔してるぜ」 「…は?何それ?」 「………チョコモン」 「あぁ、任せときな」 せっかく厚意で協力してくれた勇太くんと光ちゃんですが、キャス子ちゃんの我儘のせいで無慈悲にも小学生の姿にされてしまいました。 「え!?ちょっと何よ、これ!?私の身体、縮んで……って勇太もちっちゃくなってる!?」 「光、落ち着いて!一体何が起きているのか俺にもわからない。でもまずは皆で協力してあいつを倒さなi…べふっ!!?」 小さくなって混乱する光ちゃんを落ち着かせようとする勇太くんに突如キャス子ちゃんによる不意打ちのビンタが炸裂しました。 初対面の相手と話すのはやはり苦手なキャス子ちゃんですが、今はそんな事を言っている場合ではありません。勇気を振り絞って、頬を押さえながら素っ頓狂な顔をしている勇太くんに思っている事をぶちまけました。 「慌てたくなる気持ちもわかる……でも、聞いて。キャス達がまず一番にしなきゃいけない事はあのでっかいのを皆で力を合わせて倒すこと…目的を、見失わないで」 「……へ?………へ!?」 驚きのあまり、あんぐりと開いた口が塞がらない勇太くん。光ちゃんも目を丸くしたまま固まってしまいましたが、光ちゃんを落ち着かせるという目的は一応は果たす事が出来ました。 それを見た大蛇くんはなるほどなと頷いています。 「本来ならばボクがチョコモンの手で幼児化させられていた筈がそうはならなかった…。だけど確定した未来は変わらない。結果、アトラクターフィールドの収束によってお兄さん達二人がボクの代わりに幼児の姿にされてしまったという事か…」 「大蛇君…どうした急に」 突然早口で語り出した大蛇くんにイブキくんはびっくり。ですが大蛇くんはそんな事は織り込み済みだと言わんばかりに説明を続けます。 「つまり歴史を書き換えるなんて事はそう簡単には出来ないという事さ」 「流石、大蛇くん。物知りなんだね」 「当然さ。ボクはてぇんさぁいジェネラルだからね。」 大蛇くんの話を聞いて納得したイブキくんは再びスーパーイソノインナナヨⅡへと目を向けました。 子供達がお喋りをしている間にもパートナーのデジモン達は必死に戦っています。 完全体二体が加勢しても尚、決定打を与える事が出来ず戦況はまさに膠着状態。 その様な状態が続いた事にスーパーイソノインナナヨⅡは痺れを切らしたのか、急に足を止めて徐に自身が穿いていたスカートをめくり上げました。 「こいつ、一体何しようってんだ?ヌメモン、俺にもわかる様に教えてくれい」 「いや、オレだって知りたいよ!」 「テメェらこんな時に喧嘩すんな!」 危うく言い合いになりかけたウェンディモン(グミモン)とチョ・ハッカイモンをジンバーアカトリモンが窘めている最中、限界までスカートをたくし上げたスーパーイソノインナナヨⅡがゆっくりと顔を下ろし、デジモン達を見下ろします。 そして何やら恍惚の表情を浮かべたかと思ったその刹那、ぱっくり開いた股の割れ目からおびただしい数のミニイソノインがわらわらとまろび出てきたのです。 「うわ何これ、気持ち悪っ!?」 「アネゴ!何かキモいの出てきた!」 ただでさえ攻めあぐねている現状で援軍まで召喚されては戦況はますます悪くなるばかり…。何か打開策は無いものかと子供達がみな考えたその時、ロップモンが何か言いたげな様子で大蛇くんのもとへ戻って来ました。 「ねぇオロチ。あのでかいのの中からずっと声みたいなのが聞こえて来るんだけど」 「声……か」 「ロップモン、一体どういう事だい?」 何かを考え始めた大蛇くんに代わってイブキくんがロップモンに疑問を投げかけます。 「あれの心臓……くらいの位置、かな。何かあれとは別物の女の声がずっとしてる。オホー、オホーって」 「恐らく依代となる何かがあの中に居るんだろう。デジモンイレイザーは捕らえた何者かを媒体としてスーパーイソノインナナヨⅡを喚び出し、使役していた。これはあくまでボクの仮説だがスーパーイソノインナナヨⅡは傷を負わないのではなく、依代の効力によって傷を負っても即座に再生し、あたかも無敵の存在であるかの様に見せかけている。」 「大蛇君…どうした急に」 またもや早口で語り始めた大蛇くんにイブキくんは詳しい解説を求めました。 「つまり何とかして依代を取り除く事が出来ればスーパーイソノインナナヨⅡを倒せるかもしれない。」 「やっぱり凄いな大蛇くんは。何でも知っているんだね」 「言ったろ?ボクはてぇんさぁいジェネラルだって」 「それにしてもロップモン、どうしてそんな大事なこと今まで黙ってたんだ?」 「誰も、聞かなかったからだよ」 「………」 兎にも角にも、これで一筋の光明が見えました。 あとはどの様にして依代を取り除くか……一番に名乗り出たのは佳織ちゃんでした。 「だったらあたしらに任せてよ!その依代ってやつを相棒の力で抉り出してやる!」 その想いはパートナーであるチョ・ハッカイモンも同じな様で、群がるミニイソノインを薙ぎ払った彼女はこちらへ振り返り、静かに頷きました。 そこへ更にウェンディモン(チョコモン)もやって来ます。 「よっしゃ!だったら援護はオレに任せときな、ブタ」 「おい待て、誰がブタだ」 憎まれ口を叩き叩かれ合う間柄ながらも二人のやり取りには確かな信頼が垣間見えました。 「なら俺達は雑魚の掃除だな。」 「依代を引っ張り出すの、僕がやりたかったな〜」 「今回はあいつらに花を持たせてやんな」 話がまとまったところで作戦開始。チョ・ハッカイモン&ウェンディモン(チョコモン)がスーパーイソノインナナヨⅡ目掛けて跳び上がり、同時に襲い掛かってきたミニイソノインをジンバーアカトリモン、ロップモン、パンゴルモン、ウェンディモン(グミモン)が迎撃。ラヴォガリータモンとレディーデビモンの二人は上空からスーパーイソノインナナヨⅡをぺちぺちと叩いて撹乱します。 『VIBES×VIBES!!!』 一方その頃、ライブステージでは選ばれし子供達のパートナーデジモン達が攻撃を開始した絶好のタイミングで大物アーティストが新たな楽曲を歌い始めました。 テンションが上がりに上がった観客達は限界突破したバイブスを抑える事が出来ず、周囲で溢れかえっているミニイソノインに殴りかかって戦闘を始める者までいます。 仲間達の援護を受け、スーパーイソノインナナヨⅡのすぐ眼前まで辿り着いたチョ・ハッカイモンとウェンディモン(チョコモン)。まずは手始めにチョ・ハッカイモンが手にした武器『炉傑塔釘鈀』でスーパーイソノインナナヨⅡの胸部に殴りかかりました。 が、大蛇くんの言っていた通り、スーパーイソノインナナヨⅡの胸は大きく抉れたものの瞬時に再生してしまいます。 「あのガキの言ってた通りか!」 「なら、こっちにもやりようはあるってもんだ!ちょっとそこどけブタ!」 「だからブタじゃねぇって!」 チョコモンの為に道を開けるべく飛び退いたチョ・ハッカイモン。それを受けたチョコモン__ウェンディモンは突如全身の関節がぐにゃぐにゃとあらぬ方向へ曲がり始め、黒い塊へと変化しました。完全体への超進化が始まった様です。 塊をぶち破って中から現れたのはベアビヲモン。かのカオスモンと同様、存在そのものがバグとされる特異型デジモンです。 ゆらりゆらりと不規則な動きを見せるベアビヲモンはスーパーイソノインナナヨⅡのすぐ間近まで急接近したかと思うと、「キェェェェェェェェェェェ!!!」と謎の奇声を発しました。 次の瞬間、スーパーイソノインナナヨⅡの身体はプルプルと痙攣と起こし、その巨体はまるでフリーズしたかの様に動かなくなったのです。 「今だブタ!こいつはデジモンじゃねぇ!動きを止めていられる時間はそう長くねぇぞ!!」 ベアビヲモンの必殺技『ケオ゛ヴ』は相手がデジモンであるなら、バグによってその内部データを破壊し永続的に行動不能にしてしまう恐ろしい技なのですが、デジモンではないスーパーイソノインナナヨⅡには効果が薄く、一時的に動きを止めているのが限界の様です。 しかしながら味方に作って貰った千載一遇の好機を逃す手はありません。チョ・ハッカイモンは再び振りかぶり炉傑塔釘鈀による一撃をスーパーイソノインナナヨⅡに力一杯浴びせました。 チョコモンの読みは見事に的中。ケオ゛ヴによって動きが停止したスーパーイソノインナナヨⅡは再生能力さえも機能不全に陥り、抉れた箇所が元に戻る様子はありません。 「オラオラオラオラァッ!!」 チョ・ハッカイモンは更に一撃、もう一撃と追撃を加え、その攻撃の手を徐々に早めて行きます。 『もっとVIBES×VIBES!ぐっとVIBES×VIBES! 地球上の同志よ 吠えろ皆 OH OH OH,OH OH OH!!』 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ…オラァァーッ!!」 息をもつかせぬ怒涛の連撃。 抉られ続けたスーパーイソノインナナヨⅡの体内に何かが見えます。 物凄いボリュームの金髪にまるで冗談みたいな乳のデカさをしたお姉さんです。 チョ・ハッカイモンはついに捉えた依代へと手を伸ばし、金髪超乳お姉さんを力任せに引っ張り上げました。 「オホーーー」 スーパーイソノインナナヨⅡの体内から救出されたお姉さんは勢いあまって宙を舞い、そして光の粒子となって姿を消してしまいます。 「大蛇君…何か依代っぽい人、消えたけど大丈夫?」 「問題無い。あの人が元居た場所に戻されただけさ。多分、恐らく、きっと。」 大蛇くんの言葉を裏打ちする様に依代を失ったスーパーイソノインナナヨⅡはケオ゛ヴの効果が切れると同時に苦しみの声を上げ、その眷属たるミニイソノインも糸が切れた様に項垂れてしまいました。 「あいつら…やりやがったな!」 上空を軽く見やったジンバーアカトリモンが回転斬りでミニイソノイン軍団をスパスパと輪切りにし、 「ならこっちもさっさと片付けないとな…!」 パンゴルモンの鋭い爪がミニイソノイン達を次々と肉片に変え、 「これで終わりでいっ!」 「ダダダダダダダダダダダダダッッ!!」 ウェンディモン(グミモン)のデストロイドボイスとロップモンのケラケラカノンがミニイソノインの群れを木っ端微塵に吹き飛ばします。 『VIBES×VIBES!VIBES×VIBES!VIBES×VIBES!VIBES×VIBES!!!』 戦っていたオーディエンス達もミニイソノインを各個撃破し、ライブステージのアーティストが歌い終わったのとほぼ同じタイミングでミニイソノインは全滅。 残すは親玉のみとなりました。 「行くぞォォォォッ!!トドメだぁぁっ!!!」 チョ・ハッカイモンがスーパーイソノインナナヨⅡに向かって吠えたのを皮切りにベアビヲモンが、ラヴォガリータモンが、レディーデビモンが、地上に居るジンバーアカトリモン、ロップモン、パンゴルモン、ウェンディモン(グミモン)が一斉にスーパーイソノインナナヨⅡ目掛けて一直線に突き進みます。 次の瞬間、子供達の持つデジヴァイスが光り輝き、それに呼応するかの如くデジモン達の身体も眩いオーラに包まれ、そして…… 「「「「「「「「ウォォォォォオオオッ!!」」」」」」」」 「「「「「「「「トリニティ………バーーーーースト!!!」」」」」」」」 「みんなトリニティの意味わかってる!!?」 これまで傍観に徹していたヒバリくんがここへ来て初めて激しいツッコミを入れました。 光芒を放つオーラを纏ったデジモン達に次々とその身を貫かれたスーパーイソノインナナヨⅡは身体のあちらこちらで連鎖的に爆発を起こし、大きな炎に包まれます。 「……ソンナノナイヨ…………ソンナノナイヨ」 燃え盛る爆炎の中、キラキラとした粒子へと姿を変えたスーパーイソノインナナヨⅡは静かに天へと昇って行き、彼女の生前のものと思しきにこやかな笑顔を夜空に浮かび上がらせながら消えてしまいました。 「靖子さん………」 それを見た勇太くんはこの光景に感動してうるっと来たのか、その目元にはうっすらと涙が浮かんでいます。 かくして、デジモンイレイザーによる身勝手な逆恨みから始まった悪霊騒動はここに幕を閉じたのでした。 ─────────── 『グッバイナウガッズィーラ、グッバイナウガッズィーラ♪』 戦いを終え、一段落ついた子供達はライブを見物中。 スーパーイソノインナナヨⅡの体内に捕らわれていためもりお姉さんもステージで元気に歌う姿が確認され、一件落着です。 立ち見していたヒバリくんの隣にキャス子ちゃんがチョコバナナを持ってやって来ました。 「ヒバリにぃに…これ、イチゴ飴のお礼…」 「え?俺にくれるの?」 ヒバリくんの問いかけにキャス子ちゃんは頷き、チョコバナナを差し出します。 「ありがとな、キャス」 お礼なんていいのにと内心思うヒバリくんでしたが、同時にここで断るのも何だかなぁ…とも思ったのでチョコバナナを受け取る事にしました。 早く食え、感想聞かせろ。キャス子ちゃんの目がそう訴えかけていたので、早速一口頬張ります。 「あ…これ、美味し」 バナナをコーティングしているチョコレートは随分と本格的なものでヒバリくんは思わず唸ってしまいます。 そんなヒバリくんを見つめるキャス子ちゃんが不意に口を開きました。 「ヒバリにぃに……」 「ん?何?」 「ヒバリにぃにって………ねぇねだよね?」 「……へ?」 『Lin-Link My Lin-Link My Lin-Link My Ring 信じる者がナンバーワン』 まさに鳩が豆鉄砲を食らった様な、そんなきょとんとした顔でキャス子ちゃんを見つめ返すヒバリくん。そして、まるでその反応に被せるかの如くステージ上のめもりお姉さんが別の曲を歌い始めました。 『今日だってあちこち響くゴング みんな忙しそうだ』 「ヒバリねぇねと手を繋いだ感じ……何かお母様みたいだった…。だからヒバリねぇねは女の子…にぃにじゃなくてねぇね…」 「ななな何を言っているんだ?キャスは」 『争奪戦そうだったと気付くなけなしの夢取り留めたい』 「……………またキャスを騙すの?」 「あ゛〜〜〜〜〜もうっ、みんなにはし〜っ…ね!良い?」 「わかった」 ヒバリくんが実はヒバリちゃんだった事がバレてしまったヒバリくんちゃん。 このまま白を切り通そうとも考えましたが、変にまたキャス子ちゃんを刺激してあんな目に遭うのはまっぴらです。 皆には自分の正体を黙っておいて貰うという事で手を打つ事にしました。 『興味ないフリって簡単』 二人が仲良くお話する様子を見て、妹分に新しい友達が出来たとにっこりな佳織ちゃん。 ですが、心の中で何かが引っ掛かる様です。 「(何か忘れてる様な………)」 『でもハートピカピカ乱反射』 「……あーーーーーーーーっ!!!真珠!!」 『“ほんとう”だけは隠せないから』 その時、遠くで叫んだ佳織ちゃんの声に反応するかの様に真珠ちゃんが振り返ります。 もぐもぐとハンバーガーを頬張るそのお口はケチャップで真っ赤に染まっていました。 ─────────── Next Digimon Img-enture!! 選ばれし子供達に襲い来る黒い炎!? 「やあ、お嬢さん達。僕の名は龍ヶ崎 焚竜」 「お前は!?あの時の…!」 「近一、こいつのこと知ってるの?」 「はははっ!もっと僕を楽しませてよ!!!」 「あれ?よく見たらこいつ、あの時の奴じゃないっす……」 「僕は龍ヶ崎 焚竜だ…。誰が何を言おうと龍ヶ崎 焚竜なんだ……。」 第××話『龍ヶ崎 焚竜、食デジの流儀』 Ready go!! 『Lin-Link My Lin-Link My Lin-Link My Ring 信じる者がナンバーワン』 ─────────── 「おのれ、選ばれし子供達……次はこうはいかんぞ……」 ゴミ捨て場から這い出て来たデジモンイレイザー。スーパーイソノインナナヨⅡに吸収されてしまったかの様に見えた彼ですが、スーパーイソノインナナヨⅡが子供達の活躍によって倒された事で事なきを得たみたいです。 身体中に付いたゴミをパンパンと払ったその時でした。 「へぇ…あんたがデジモンイレイザー?聞いていた通りのイキリ小悪党って感じね」 突然声を掛けられ振り返ったデジモンイレイザーがの視線の先には一人の女の子が居ました。恐らくこの子が声の主でしょう。 「何だ貴様は…誰がイキリ小悪党だt…痛っ!?」 女の子はデジモンイレイザーをゴミ箱認定したのか、持っていたドリンクのカップをイレイザー目掛けて投げつけます。 イレイザーの頭に命中したカップはコンッ…と軽い音を立てて跳ね、見事にゴミ箱の中へと入っていきました。 「許さんぞ貴さm…!?」 バカにされたイレイザーはもうカンカン。怒りを露わにして女の子に制裁を加えようとしますが、既に目の前に女の子の姿はありません。 どこへ言ったのか…、確認する間も無くイレイザーは一瞬にして間合いを詰めていた女の子から強烈な回転横蹴りを腹に貰ってしまいます。 並の人間であるなら恐らく身体の中がぐちゃぐちゃになっていたであろう威力ですが、そこはデジモンイレイザー。後退りしつつもすぐに体勢を立て直し、腕時計型のデジヴァイスを手にします。 「この俺をコケにした事、後悔させてやる!」『Img-enture Time!!』 「良いね、やってみなよ」 デジヴァイスを起動させ、イグドラシル_7D6に変身したデジモンイレイザーに対し、女の子は漆黒の竜人型デジモン__グルスガンマモンへと姿を変え、これに応戦。 イグドラシルの力を纏い、意気揚々と戦いに臨むデジモンイレイザーでしたが、これが完全に悪手だった様で、動きの緩慢なデカブツなどグルスガンマモンにとってはただの的でしかありません。 挨拶代わりに放たれた拳の一撃でボディにヒビを入れられたのを皮切りに、傷口に尻尾の先端の棘を何度もぶっ刺されて風穴を開けられたかと思えば、追撃の踵落としで蹴落とされ、瞬く間にイレイザーは床ペロしてしまいます。 苦し紛れに放ったファンネルミサイルもグルスガンマモンの拳から放出される闇の炎『デスデモーナ』によって敢え無く撃墜されてしまい、いよいよ後が無くなったデジモンイレイザー。 それでも再起を図り、よろよろとその巨体を立ち上がらせるイレイザーですが、グルスガンマモンの攻撃の手は止みません。 両手に纏わせた炎を剣の様な形に変えたかと思うと、再び間合いを詰めてイグドラシル_7D6の眼前へと急接近。 すれ違いざまにグルスガンマモンがイグドラシルにX字の斬撃を浴びせた事で勝負は決しました。 「バカなっ!?ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 グルスガンマモンの背後でド派手なナパーム爆発を起こし、木っ端微塵に吹き飛ぶイグドラシル_7D6ことデジモンイレイザー。 爆炎に照らされ、妖しげな輝きを放つグルスガンマモンの両手の切っ先はまるで十闘士の一人、闇のダスクモンが持つ妖刀『ブルートエボルツィオン』を彷彿とさせるものでした。 「あたし様に勝とうなんざ、2万年早いぜ!…ってね。」 戦いを終え、元の姿に戻った女の子が立ち去ろうとしたその時です。 「ここに居たんですね、ぷりんちゃん。もう十分遊んだでしょうし、そろそろ帰りますよ〜」 やって来たのは奈良平 鎮莉さん。先程、人気の無いところでよろしくやってたお姉さんです。 「もうママ!そのぷりんちゃんって呼び方やめてよね!」 「そんなに嫌ですか?可愛らしくて良いと思いますけど〜」 「あたし様は織姫お母様みたいな格好良い系で行きたいの!」 「あらあら〜ごめんなさいね、ぷりんちゃん」 「また言った!!」 「うふふ♪カステーラ焼き、食べます?」 「…………………食べる」 「はい、どうぞ」 仲良くカステーラ焼きをわけわけしながら帰路につく鎮莉さんぷりんちゃん親子なのでした。 (おしまい)