『勇者戦機ゴーファラオー第48話次回予告』  ついに勇者チームの前に姿を現した天空の支配者、魔天王ラポルス!その力はこれまで勇馬たちが戦ってきた数多の強敵をも遥かに凌ぐものだった!  「我は魔天王ラポルス。この宇宙(ソラ)を手にする者である」  「我の鋭い爪に勝てると思うたかァ!」  「うわあああああ!!」  「そんな、ゴーファラオーが…!」  秘宝の力を取り込んだ魔天王ラポルスの魔法と鋭い爪によって次々と倒されていく勇者たち!  「フハハハハハハ!これが我が野望(ユメ)の力よォ!」  笑うラポルス!倒れ伏す勇者チーム!闇に覆われていく世界!我々はもはや絶望に沈むしかないのか…!?  「嫌だ…!オレは…絶対に諦めない!」  「ボクもだ!ボクらはまだ、終わってなんかいない!」    だがその時、勇馬とアッシュの勇気が!ゴーファラオーたちと紡いできた絆が!奇跡の力を呼び覚ます!  「あれはまさか、伝説の超究極勇者合体!!!!!」  「知っているのですか、アイシス陛下?!」  「語らねばなりませんね、トト。あれは少年少女とゴーレムの湧き上がる勇気とお互いを想う心が限界を突破したとき、つまり実質結ば」  明けない夜はない!昇らない太陽もない!さあ、今こそ新しい伝説の幕開けの時だ!  「勇馬!アッシュ!ジャッカリオン!ダイルガッツ!バルチャンプ!シンキロウ!フカタロウ!超究極勇者合体だ!!」  「「「「「「おう!!」」」」」」  「えっ」  次回、勇者戦機ゴーファラオー第48話「新たな伝説!超究極勇者GGGゴーファラオー!」来週もまた見てくれよな! 『異世界転生』  私はユーコ。17歳のどこにでもいる普通の女子高生…だった。実を言うと引きこもりだったのだが…それはさておき、ある日私は気が付くと、何だか神々しい感じの人の前にいた。  同じように何だか神々しい感じの場所で、ナロー神と名乗ったその人もとい神様が私に言ったことを私なりにまとめるとこういうことだった。  「今からあなたにチートスキルとチートステータスを与え、あるシリーズの世界に転生させるので、勇者として世界を救ってください」  そしてそれを聞いた私はこう思った。  「マンガやゲームの世界に転生して無双するタイプの異世界転生じゃん!」  今となっては何の自慢にもならないが、転生する前の私はそのシリーズの大ファンで、そのシリーズに関しては何でも知っていると豪語しているぐらいだったのだ。  実際にこの世界に転生してからも「オリ主無双はそんなに好きじゃないんだよなー」とか「でも勇者になったらモテモテになっちゃうかもなー」とか「本物のヤンに会えたらどうしよう」とか考えていた私は、今思うと何も分かっていなかったのだろう。  いわゆる「最初の村」から旅に出てしばらくしたところで、ゴブリンの群れが馬車を襲っている場面に遭遇した時も、私がまず抱いたのは「異世界転生もの序盤にありがちな展開来たな」という緊張感の無い感想だった。だから私は深く考えずにそこへ近づいて行き ― 返り血だらけの革鎧を身に着けた人がゴブリンを剣で袈裟斬りにするも、直後に複数匹のゴブリンに飛びつかれて生きたまま貪り食われるのを目にした。  「ひ…」  私が思わず漏らした声にならない声をゴブリンたちは聞き逃さなかった。新たな獲物がやって来たと思ったのだろう。全身を人間の血と肉と脂に塗れさせた異形の怪物たちはその視線をこちらに向けて ―   あの時に何があったのかは今でもはっきりとは思い出せない。ただ我に返った時に周りにあったのは、ゴブリンだった原型を留めていない無数の肉塊と、大災害が起きたかのように荒れ果てた森の一角だった。私は知っていなかったのだ。暴力とはどういうものであるか。私は知っていなかったのだ。殺し合うというのがどういうことであるか。頭の中がぐちゃぐちゃだった。結果から言うと、私の心はそこで一度折れてしまった。  旅立ちから一週間もしないうちに逃げ帰って来た私を待っていたのは、私が「最初の村」としか思っていなかった村の人たちの言葉だった。  「何はともあれお前さんが無事でよかったよ」  村長さんは小さな村では貴重なポーションを私に使ってくれた。  「ありがとう。後は俺に任せてくれ」  村の冒険者さんは現場に残っていた遺体を私の代わりに回収して弔ってくれた。  「怖かっただろう」  宿屋のおかみさんは震えていた私を抱きしめてくれた。  誰も私を責めなかった。優しすぎるぐらいに優しかった。私が「名無しのNPC」だと思っていた人たちはみんな、私よりもずっと温かな「人間」だったのだ。私はおかみさんにすがりつきながら泣くことしかできなかった…。  だから私が今、邪竜から村を守った勇者としてここに立っているのは勇者プロデューサーさんのおかげだが、ここ、ミカイ村の人たちのおかげでもあるのだ。あれから私がミカイ村の住民として暮らすのを温かく受け入れてくれた人たちがいなければ、もう一度立ち上がる機会を掴むことはできなかっただろうから。  正直に言うと、今でも勇者としての自信は全く無い。戦うのは怖いし、モンスターを目の前にすると震えてしまう。でも、この世界の平和を脅かしているものを倒さない限り、昨日のようにこの村やどこかの村が魔物に襲われるのだとしたら…私にはみんなを守れる力があるのだとしたら…今度こそ胸を張って勇者と名乗れるような人間になりたい。私を救ってくれた人たちを今度は私が救いたい。  今、私の前には勇者プロデューサーさんが集めてくれた仲間がいる。最初に知ったときはとても驚いたのだが、三人とも私と同じように地球の日本からやって来た人なのだそうだ。まだ知り合ったばかりだからお互いを詳しく知っているわけではない。それでも顔を見れば分かる。私たちの思いはきっと同じだ。  「三人とも…私と『勇者パーティ』を結成してくれてありがとうございます。お待たせしてすみません…ミカイ村の人たちへの挨拶は済みました」  勇者プロデューサーさんが複数の意味を込めて私に尋ねる。  「忘れ物はないか?」  私は出発に必要なものは全て持ったと示すために答える。  「はい…だから、旅立ちましょう」  「魔王を討伐するために!」  「人魔善悪の全てを癒すために!」  「暗黒力士の侵略を土俵際で押し返すために!」  「全ての歩きスマホを再封印するために!」  ………………ん?  「えっ?」  「「「えっ?」」」 『エキドナ暴の中の暴概念』  ならず者たち、それも暴力を本職とする荒くれ者たちを従わせるのに必要なのは何だろうか。金か?それは確かに一つの答えだ。知恵か?それもまた一つの答えだろう。だが最も必要なものは違うのではないだろうか?少なくとも非合法組織ヒュドラにおいて最も必要とされるのは ― 武闘派揃いの構成員たちを跪かせるだけの暴力なのではないだろうか?  「鬱陶しいッ!」  ヒュドラの首領エキドナが腕を一薙ぎすると、彼女を覆い、焼き殺さんばかりに見えていた爆炎が瞬時に掻き消された。  「本物の龍のブレスにも引けを取らないザモの炎をこうも容易く…!」  無法都市ゴク=アックの一角、立ち並ぶ違法建造物を格子状の通りが区切っているエリア。そこに建っている三階建ての建物の屋上から、通り越しに見えた光景を前にジグワットは思わず声を上げた。    「そう簡単には行くまいよ」  ジグワットの傍らにいるのはザモ。犯罪組織九頭竜のボスにして背中のタトゥーのドラゴンの一部を実体化させる能力を有する竜人。今しがた、ドラゴンの頭部を実体化させて浴びせた炎が通用しなかったというのに、彼はジグワットと違いどこか楽しげですらあった。  「コソコソ話してるんじゃねえッ!!」  エキドナがまた力任せに腕を一薙ぎすると、今度はザモとジグワットが立っていた場所が「建造物ごと」爆ぜた。それは言葉で表すなら「殴る」という至極単純な行為の結果だった。しかし法の外に生きる裏社会の住人たちをも支配している掟というのは、ある意味ではこのようにとても単純明快なものなのだ。  「生きているか?」  背中に翼を実体化させて飛び、今の一撃をすんでのところで回避したザモは、空中から土埃が舞う地上の瓦礫の山に向かって呼びかける。  「ハッ、何とかな」  瓦礫の山の下から、ひしゃげた鉄塊を押しのけて一人の竜人が姿を現す。  「ハハ!流石だな!」  どうやらジグワットもまたザモと同様、自身の能力により間一髪で難を逃れていたようだ。  「急ごしらえとはいえ、俺が鉄骨で作った盾が一瞬でオシャカだ。俺まで危うくオシャカになりかけたぜ…今のは何だ?」    「殴られれば痛い、子供でも分かる理屈だ。エキドナは俺たちを衝撃波で殴りつけたのさ」  ザモは改めて前方に目を向ける。ザモは理知的な男だ。彼にとって戦いとは勝負を決めるためのものではなく、既に勝負が決まっている状態を作り出してから行うものであった。だが今、この場においては、そんなことはどうでもよかった。通りを挟んだそこにあるのは、ザモが惚れ込んでいる女の姿に他ならなかったのだから。  「俺がスクラップになりかけたというのに、やけに嬉しそうじゃないか、ザモ」    「そう見えるか?」  「さっきからずっと口元が緩んでいるぜ」  「ハハハッ!否定はしない」  「何を笑ってやがるッ!!」  憤怒を瞳に宿した美しい女の声がザモの耳朶を打つ。己の鼓膜が震えているのを感じながら、ザモは己の心も震えているのを感じた。久しく顔を合わせられていなかったが、ザモの知っているエキドナとはこういう女だったのだ。  「いや、なに。ケチな商売にあくせくしているより、そうやって感情のままに振舞っている方がずっとお前らしいと思ってな。口調もそちらの方がずっと似合っている」  「あ“あ”!?舐めた口利いてんじゃねえぞトガケ野郎がゴラァ!!蠅みてえに逃げ回りやがってよォ!!スカしてんじゃねえぞダボがア!!もっと早くにこうしてりゃ良かったぜ、クソが!!ブッ殺してやるッ!!」  今にしてみれば随分と昔の話だ。ある女がその比類なき暴力だけでゴク=アックの裏社会の最上層にまでのし上がったのは。当時の彼女は成り上がり者であったが故に体系的な組織と呼べるものは有しておらず― 故に彼女は何者にも縛られない剥き出しかつ純粋な暴力だった。そう、今この瞬間の彼女のように。  「はあ…お前とは短くない付き合いだが、女の趣味だけは未だに理解できないぜ」  「よく言われる」  ザモは心底嬉しそうに口角を吊り上げた。  『彼女の本当の姿は』  開けるなと言われたモノを開けてしまう。見るなと言われたモノを見てしまう。数えきれないほど存在するその手の逸話を、彼は自分とは無縁なものだと思っていた。彼はこう考えていたのだ。この世の中にはやらなければならないことがただでさえ沢山あるのに、どうしてわざわざやる必要のないことをやるのだろうか、と。  しかし彼は今や、それらがある種の真理を物語っていたと思い知らされていた。  彼は常日頃から動画の視聴に慣れ親しんでいた。だから自分の魔動端末にインストールしていたメッセージ魔プリにその生配信動画のリンクが届いた時も、届いた先が私的な魔カウントだったこともあり、趣味を共有している仲間の誰かが送ったものだろうと思ってしまったのだ。幸か不幸か、ちょうど昼寝から目を覚ましたところだった彼は、何とはなしに魔導端末を操作してメッセージ魔プリを開き ― リンクを見るや否や、理屈では説明がつかない不吉な予感に支配された。その予感は彼にはっきりと告げていた。「見るな」と。  後に彼は思う。この時の予感に素直に従っていれば良かったのかもしれないと。しかし同時にこうも思うことになる。開いてはならない「それ」に遭遇した時点で自分の運命は決まってしまっていたのだろうと。つまるところいわゆる「見るなのタブー」とは破られるためにあるのかもしれない。    「いぇ〜い!ジャイくん、見てる〜?」  配信の視聴画面を開いた彼の目に映ったのは、彼のよく知る女性の姿だった。ただ一ついつもと違うのは、その女性が本来いるはずのない場所に、いるはずのない相手といることだった。  「どうして…」  彼は自分の喉が急速に乾いていくのを感じながらも、画面から目が離せなかった。分からない。どうしてこの二人がそんな場所で一緒に…画面の中の女性は彼ではない相手に親密そうに抱き着いていた。  「ごめんね〜。ボクも迷ったんだけどさあ、でも…ジャイくんが悪いんだよ」  やめろ。やめてくれ。  「今から〜…ジャイくんの隠れ家にあるゲームコレクションの前でヘムちゃんとイチャイチャしちゃいま〜す!」  「やめろおおおお!」  画面に映っていたのは彼、ジャイール・ムタファニスンがいつぞやの魔海調査以来、何かと縁のある魔物たち、水密のパースカル ― 膨大な体積を有する肉体を普段は人間型の容れ物に押し込んでいる上古種のスライム ― が凍海のヘイムニル ― 全身が鋭利な鰭と棘で覆われているシーサーペント ― を彼の隠れ家にてハグしている光景だった。  「ジャイくんがダースリッチ様に連絡をくれたらやめてあげるかもしれないけど、それまではぁ、ぎゅ〜」  「…情熱的…ぎゅ〜…」  「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」  パースカルがヘイムニルの鼻先に抱き着くと、街一つをも飲み込む巨大な肉体を圧縮・内包しているビニール状の被膜に、刃物以上の切れ味を持つ棘がめり込む。二人の魔物が種族の垣根を超えて仲睦まじくしている様子は微笑ましいかもしれないが、その結果として予想されうる事態は少しも微笑ましくなかった。というかシーサーペントが頭だけでも中に入っている時点で、僕の隠れ家半壊してない…?  「斯様に見目麗しき者たちと知己であるとは、貴公もなかなか隅に置けぬな、ジャイール」  魔王城近郊に幾つか存在するサボりスポットの一つにて、彼と共に仕事をサボっていたサー・ヴォーリが、横から魔導端末を覗き込みつつ呑気な口調で言った。  「他人事だからって気楽そうに!」  「他人事で気楽であるからな」  「ちくしょう…!デスキマイラの改修作業なんか絶対にやりたくないから、ダースリッチ様に捕まらないように一か月以上連絡を絶って逃げ回っていた僕が悪いとでも言うのかよ…!」  「ハハハ!重要な仕事を任せてもらえるとは光栄ではないか。まあ、頑張れ」  「僕は仕事せずに給料だけもらいたいんだよおおおお!!あっやめろ、頬擦りするな!あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」  魔界の一角に不定形の怪物の叫びが木霊した。   『後日談』  「…というようなことがあったらしいぜ。ああ、もちろん話せねえところは話してねえけどよ」  店主の口の堅さで知られるバーのいつものカウンター席で酒を飲みながら、ディエックスはかつての同僚から聞いた話を掻い摘んで隣席の相手に語った。  「ジャイールが言うには『一生分働かされた』んだと。あいつも大変だな」  自分のグラスを傾けると、魔海ラム酒の独特の風味が口内を満たす。魔王海軍が解散してから少なからぬ時が過ぎたが、ディエックスは魔王海軍に所属する海の男と海の女たちの友だったこの酒を今でも愛していた。  「サボり癖のあるやつはたまに痛い目を見るぐらいがいいのよ。私たちだってアイのサボり癖には苦労させられたじゃない」  「ハハハ、アイの気まぐれか。懐かしい話だ」  話を聞いた相手がかつての同僚なら話を聞かせた相手もかつての同僚で、さらには引き合いに出されたのもかつての同僚だということに何となくおかしさを感じたディエックスは、昔と変わらず歯に衣着せない言葉を口にした隣席の女、ティアロトの言葉に思わず笑いをこぼした。  「不思議なもんだな。俺は酒が入るといつもあの頃の仲間の話ばかりしている気がする」  「酔っ払いの話なんてそんなものよ。別に特別なことじゃないわ」    「ハハ、お前は相変わらず塩対応だな…」  ディエックスの頭を魔王海軍に所属していたシーサーペントたちの姿がよぎる。新しい職場でも仕事をこなしているトワイラース、ヘイムニル、サイコアトロン。魔王海軍解体後は気ままに暮らしていたが、最近運命の出会いをしたらしいインヴィディアイガー。今日もどこかで性的な意味で船を襲っているだろうニグルグーンはまあ…うん。それから今は塩屋をしており、ある時偶然再会してからというもの、時折こうして一緒に酒を飲むようになったティアロト。  「でもお前たちは皆、新しい場所でも上手くやっているよ」  「貴方は違うの?」  「どうだろうな…今の職場にも不満はねえんだ。やりがいだってある」  「ネガティブなことを言われたら貴方も足を洗えば?…と言うつもりだったけど、だったら良いじゃない。貴方、デジタル総合調整課…だっけ、でも部下に慕われているそうだし」  「確かにそんな気がしねえと言えば嘘になる。だが俺は未だに骨の髄まで荒っぽいシーサーペントのままだからよ、部下のこともちゃんと理解できているのか」  「貴方こそ相変わらずだわ。真面目というか不器用というか。ごめんなさい、魔海ラム酒を二杯もらえるかしら?」  ティアロトがカウンター越しにバーテンダーに声をかけると、バーテンダーは我が意を得たりというように軽く頷き、魔海ラム酒を注いだグラスをすぐさま二人の前に並べた。  「一杯は私の、一杯は貴方のよ」  「何だ、今日は優しいじゃねえか」    「失敬ね。私はいつだって優しいじゃない。なにせいつもアイの話や酔っ払いの話に付き合ってあげているんだから」  ティアロトは何か意を決するようにグラスの中身を一気に飲み干した。魔海ラム酒は彼女にとっても懐かしい香りがした。  「でも…そうね。そんな風に真面目で不器用な貴方だからこそいつも魔王海軍の中心にいたんだと思うわ。貴方は誰よりも海の男だった」  「よせよ。励ましてくれいるのかもしれねえが、褒められると背中が痒くなる」  「だったらせいぜい痒くなりなさい。天使軍の軍艦を三百隻沈めるのに比べたら、大抵のことはどうにかなるはずよ。貴方なら大丈夫。自信を持ちなさいな」  「そういうもんだろうか…?」  「そういうものよ。私がお世辞を言ったことがある?」  「俺が知っている限りは…ねえな!ハハハ、成程、道理だ。よし、そういうことなら、ここは素直に励まされておいてやるとしよう!なにせ俺は魔王様にも功績を称賛されたエースなんだからな!」  「単純ねえ」  「そう褒めてくれるな。…ありがとよ」  「別に。これぐらいで良ければいつでも」  笑い話も苦労話も酒と共に飲み干して、彼らは今夜も語り合う。魔海と陸地。大きく異なる場所ではあるが、美味い酒を飲みながら友と語り合う楽しみはどこでも変わらないのだ。  バーの店主であるコモネーはそんな二人を見ながら「元魔王海軍の魔物さんなら喜んでくれそうだし、今こそでっかい唐揚げとか揚げるチャンスなんじゃないかしら」と思ったが、会話に割って入れるような雰囲気ではなかったため、彼女の望みは叶わなかった。