二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1760278280874.png-(133747 B)
133747 B25/10/12(日)23:11:20No.1362277011そうだねx2 00:34頃消えます
ある朝、隣にいたはずの彼女の姿が忽然と消えて、一枚の落ち葉に変わっていた。
そう言うと何やら哀愁を呼び起こすような気もするが、彼女──ミスターシービーにとって、雲隠れは習性のようなものである。朝起きるといなくなっているというのは、彼女にとって珍しくも何ともない。
今日は少し詩的に消えてみたかったのだろう。眠い目を擦りながら机の上の落ち葉を拾い上げると、裏に何か書かれていた。
125/10/12(日)23:11:45No.1362277162そうだねx1
『秋を探しにいきます』

笑う口元を赤い葉で隠して、机に寄りかかる彼女の姿が目に浮かぶようである。そしてこの一文の後ろに、きみはアタシを探してみてよ、という目に見えない言葉が書き添えられているのも。
「…ふぅ」
こういうことは今までも度々あった。気まぐれに旅に出る彼女は、何も言わないで出ていくくせに見つけてもらいたがるのだ。なんとも理不尽な話だと思うが、見つけられたときの彼女の上機嫌な微笑みを見ると結局また探そうという気になってしまうのだから、自分の容易さにも困ってしまう。
225/10/12(日)23:12:09No.1362277302そうだねx1
近頃は秋になったといっても日中はまだ暖かく、この辺りの紅葉や銀杏はまだ青い。とすると、ウマ娘の体力を以てしても自力で辿り着ける紅葉を見られる場所というのは限られてくる。
「行くかぁ」
場所の当たりは大体ついた。だが、いざ出かけようと腰を上げたとき、ひとつの疑問が頭を過った。
彼女を見つけに行くのは確かに楽しい。けれど、いつも自分が見つける側というのは不公平ではないか。
かくれんぼは隠れる側がいちばん楽しい。だからこそ彼女は実に楽しそうに隠れては見つけられるわけだが、たまにはそんな彼女を出し抜いてみたいと思っても罰は当たるまい。
そう思うと、不思議な高揚感が生まれてきた。子供の頃に悪戯を思いついたときは、いつもこんな感覚を味わっていたと思う。
ただ見つけるだけでは面白くない。どうせ会いにゆくなら、彼女の期待を楽しく裏切ってやるのも一興だ。

そう思うが早いか、車を出して家を出た。だが、向かった場所は彼女がいると思われる場所とは真逆の方向だった。
彼女を引っ掛けるために、それなりの準備が必要だったからだ。
325/10/12(日)23:12:28No.1362277429そうだねx1
一面の赤の中で、恋しさに任せてぷらぷらと脚を揺らす。
「まだかなぁ」
彼がアタシの置き手紙に気づいて、場所の当たりをつけたなら、もう着いてもいい頃だ。尤も彼とは何の約束もしていないし、約束がなくてもアタシを見つけてくれるのが嬉しくてこんなことをしているのだが、何も言わないで出てきた以上、彼がここに来てくれるという保証はどこにもない。
それでも何も言わないのは、来てくれるかな、という一抹の不安が、彼の顔を見た途端に喜びと安心に変わる瞬間が楽しくて仕方ないからだ。彼にしてみれば無茶振りもいいところなのはわかっているが、もうすっかりそれが癖になってしまっている。
425/10/12(日)23:12:44No.1362277526そうだねx1
そよぐ風の中に涼しさを感じるようになると、夏の蒸し暑さに飽きていたこともあって、アタシはすぐに秋が恋しくなってしまった。そうしてアタシの心は、散歩中に見かけた赤く色づく山にすっかり囚われていたのだった。
山道を上るにつれて目の前の景色が赤と橙に染め上げられていく様は、そんなアタシの望みをぴったりと叶えてくれた。湖の澄んだ水面にその色彩がもうひとつ浮かんでいるのを見た時は、本当に来てよかったと心から思った。
だが困ったことに、いくらでも浸っていられそうなくらい美しい景色だったせいで、だからこそ早く彼と一緒に見たいという欲望もいっそう強くなってしまったのだった。

何か別のことをして気を紛らわせたいところだが、生憎ここを離れることはできない。彼を待つためにここにいるのだから、それをしてしまっては本末転倒だということくらいアタシにもわかっている。
「きみのせいだよ。アタシのこと、早く見つけてくれないからさ」
彼にしてみれば、まったく理不尽この上ない文句だろう。
でもそのくらいアタシの期待にいつも応えてくれる彼が悪いと、彼に甘えるのもやめられないのだった。
525/10/12(日)23:12:58No.1362277630そうだねx1
湖を横に見ながら、アタシはその縁に沿って歩いていた。汗が乾いて冷え始めた体を温めたかったこともあるが、何よりも湖の反対側から煙のようなものが上がっているのが見えたからだ。森に隠れていて気づかなかったが、どうやら対岸にはキャンプ場があったらしい。
湖畔の風に当たりながら焚き火で沸かしたコーヒーを飲むというのは、確かになかなか悪くなさそうだ。

対岸に着くと、煙の他にもうひとつアタシを惹きつけるものが現れた。
煙の上がっている方向から、何ともいい匂いが漂ってくるのだ。紅葉を見るのが楽しみで歩いている最中は気にならなかったが、思えばアタシは朝から何も口に入れていないのだった。
625/10/12(日)23:13:11No.1362277704そうだねx1
対岸の森を抜けると、草を低く刈った広場があった。端には小さな水汲み場があって、思った通りここはキャンプ場だとわかった。
決して大きくはなく閑散としているが、秋の静けさには却ってそれが相応しいだろう。一目見ただけで、アタシはここが気に入ってしまった。
そして匂いの正体も同時にわかった。広場の端に男の人がひとり、こちらに背を向けて熱心に焚き火をつついている。いい匂いの正体は、彼が焚き火で作っている焼き芋なのだった。
725/10/12(日)23:13:25No.1362277785そうだねx1
焚き火を見ている彼の隣には誰もいなかったが、誰も腰掛けていないキャンプ用の折り畳み椅子がひとつあった。
連れは薪を拾いにでも行っているのだろうか。けれど私の心は、すっかり目の前にある焼き芋に向いてしまっていた。
『中等部の子かな。おいも栗ごはーん、って歌ってるの聞いちゃったんだよね。
今度作ってよ。食べた分だけちゃんと走るからさ』
ちょうど昨日、寝る前に彼とそんな話をしたばかりなのを思い出してしまった。行儀が悪いのは重々承知しているが、アタシの思考は完全に、どうやったらあの焼き芋を分けてもらえるだろうか、ということに費やされていた。
825/10/12(日)23:13:38No.1362277877そうだねx1
「美味しそうだね」
声をかけると、彼は驚いたようにぴくりと体を震わせた。知らない相手にいきなり後ろから話しかけられたのだから、当然かもしれないが。
「アタシ、おにぎり持ってきてるんだ。ちょっと焼き目をつけたら美味しくなると思う。
だからもしよかったら、きみの焼き芋と交換しない?」
なるべく彼の気を悪くしないように、明るくそう伝えた。彼がどんな人柄なのかまるで知らないが、他に誰もいないこの場所を同じように選んでいるのだから、何か通じ合うものがあるかもしれないと、どこか淡い期待を抱きながら。
だがその期待は間もなく、その何倍もの驚きで塗りつぶされることになった。
「そんなのなくてもあげるよ。
シービーのために焼いてるんだから」
振り向いた彼の微笑みは、アタシが今までずっと待ち望んでいたものだった。

きみはいつでも期待に応えてくれると言ったけれど、あれは嘘だ。
きみは時々、アタシの予想も期待も気持ちよく飛び越してくれるから。
925/10/12(日)23:13:50No.1362277948そうだねx1
「ん、いいね。ちょうどよく焼けてる」
ゆったりと腰掛けて焼き立ての芋を頬張ると、疲れた体が思わず喜びの溜め息をもらす。そんなアタシを見る彼の笑顔は、どこか誇らしげだった。
「どういたしまして。火をつけるのにちょっと手間取ったけど、意外と上手く焼けたな」
慣れない彼の努力は、実に甘くて美味しかった。舌にも心にもよく沁みる、アタシのいちばん好きな味だ。
「でも芋一本でシービーが獲れるなら、いくらでも焼いちゃうかも」
「ひどいなぁ。ひとを動物みたいにさ」
彼の思惑通り見事に誘い出されてしまったわけだが、動物扱いには異議を唱えておきたい。
人でなかったら、きみの笑顔をこんなに好きになんてなっていない。
1025/10/12(日)23:14:05No.1362278030そうだねx2
「赤いね、きみの手」
「ああ…このへんはやっぱり寒いな」
風に吹かれたきみの手が、秋を運んできたように思える。
だから、離したくない。アタシは秋が好きだから。
「秋だね。
ちいさい秋、みつけた」
「…うん」
秋は美しい季節だ。でも、もうすぐ散ってしまう木の葉が最後のお洒落をする、少しさみしい季節だ。
きみの手のぬくもりが、恋しくなりはじめる季節だ。
「秋は好き?」
「好きでも嫌いでもなかったよ。
でも、最近好きになった」
1125/10/12(日)23:14:17No.1362278106そうだねx3
ありがとう。アタシのこと、追いかけてくれて。
「アタシも秋、もっと好きになったよ。
きみが好きにさせてくれたから」
きみのくれた秋風は、なんだかとてもあたたかい。
1225/10/12(日)23:14:37No.1362278236+
1325/10/12(日)23:14:40No.1362278250そうだねx3
おわり
てのひらを風がなぞれば秋の文
1425/10/12(日)23:15:28No.1362278565+
おいもでCBを釣りたい…
1525/10/12(日)23:17:06No.1362279140+
多分このままキャンプして一緒のテントで寝てる
1625/10/12(日)23:17:58No.1362279452+
やるじゃないか
1725/10/12(日)23:19:22No.1362279963そうだねx1
CBにサプライズ仕掛けるためだけにキャンプ道具用意するあたりシビトレも大分毒されてる
1825/10/12(日)23:22:18No.1362281017そうだねx1
それはそれとして出し抜かれたのは悔しいので後日トレーナー宅に押し掛けてびっくりさせるシービー
1925/10/12(日)23:25:01No.1362282021そうだねx2
どんなにアタシが捕まえられないと思ってもアタシを諦めないでねって言った
諦めないどころかおいしいもの作って待っててくれた
2025/10/12(日)23:27:41No.1362282975+
おいも
2125/10/12(日)23:35:31No.1362285784+
ひとりで歩くのもいいけど寄りかかって休むのもいいなと思い始めているCB
2225/10/12(日)23:43:34No.1362288817そうだねx3
自由人に見えてすごい面倒くさいやつ
2325/10/12(日)23:45:07No.1362289340+
秋なのでいつもより遠慮なく甘えるしびちゃん
2425/10/12(日)23:47:24No.1362290085+
>自由人に見えてすごい面倒くさいやつ
自分の自由も他人の自由も大事にしたいけど本当に気に入った相手にはアタシのこと見てよって言ってくる
2525/10/12(日)23:51:45No.1362291778+
かっこよくてめんどくさくて手がかかる分かわいい
2625/10/12(日)23:56:51No.1362293539+
なつきにくい分なついたらめちゃくちゃ甘えてくる猫
2725/10/13(月)00:12:40No.1362298563+
このトレーナーいつも束縛されてるな


1760278280874.png