二次元裏@ふたば

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162749 B25/10/11(土)23:56:23No.1361918857+ 01:19頃消えます
「痛っ」
そう小さく呟いたトレーナーさんの声は、給湯室まではっきりと聞こえました。淹れていたお茶の湯呑みを置いて飛んでゆくと、左手の人差し指を抑えたトレーナーさんが苦い顔をしています。
「どうされましたか…?」
「あー…紙で切っちゃった。けっこう深いかも」
赤い雫が数滴、今飛び散ったとわかる鮮やかな飛沫を周りに描いて、真っ白な紙面に刻まれていました。
「まぁ…!
少し待っていてくださいね。絆創膏をお持ちします」
トレーナーさんが心配で、急いで救急箱を探しに行ったのは本当です。
けれどあの血が、あの方の体から滴ったばかりの温かい命の一部だと思うと、その赤さがやけに目についてしまって、私の内側で獰猛な声がどうしようもなく高まるのを隠すためには、他に仕方がありませんでした。
『無理に止めなくたっていいのに。あなたの魂の片割れなら、いくらでもこの口で啜ってあげる』
頭を振って、そんな声を必死で振り払います。今は貴方のために、ただ尽くすひとりの女でいたいのです。
125/10/11(土)23:57:35No.1361919388+
救急箱は戸棚の奥にありました。随分と使われていなかったのか、棚の中は一緒に入っていた薬の臭いが充満していました。
ですが、救急箱を開いても肝心の絆創膏はありません。どうやら切らしたまま放っておかれていたようです。
普通なら、保健室なり教室なり絆創膏のありそうなところに行って、いただけるようにお願いするところでしょう。でも。
「申し訳ありません、絆創膏が見つからなくて…
あまり長くそうしておくのも傷に障ります。今朝洗ったばかりですから、よろしければこちらを…」
あの方の前に、私は自分のハンカチを差し出していました。
225/10/11(土)23:57:47No.1361919476+
ハンカチを手に持ったまま、私は黙っていました。是非使ってくださいと薦めることも、引き下がることもしませんでした。
最後の一線は、貴方に踏み越えてほしかったのです。たとえいけないとわかっていても、他の道があったとしても、貴方に私を、ワタシを求めてほしかったのです。
「…ごめんな。じゃあ、有難く使わせてもらうよ」
暫く悩むように黙っていた貴方が漸くその言葉を発してくれたとき、私は一体どんな顔をしていたのでしょう。温かい血の滴る肉を目の前にした獣のような、はしたない笑みを浮かべていたかもしれません。
でも、いいのです。そんなことは。
私の顔をもう一度見た貴方は、照れくさそうに小さな声で、ありがとう、と呟いてくださったのですから。
325/10/11(土)23:58:19No.1361919669+
私が蒔いた種は思わぬ形で、しかし思ったよりずっと早く実ることになりました。
「この間はありがとう。ハンカチ、返すよ」
「そんな、お気になさらなくてもよろしいのに…
これは…?二枚あります」
あの方から受け取ったのは、二枚のハンカチでした。ひとつは私がお貸ししたものに間違いありません。しかしもうひとつは見覚えのない、花と蔓を象った美しい柄のハンカチでした。
「ああ、それ…新しく買ったんだ。
貸してもらった方に血がついててさ。頑張って洗ったんだけど、取れてるかわかんなかったから。もし気になったら新しいほうを使って」
425/10/11(土)23:58:53No.1361919874+
本当に、いけないひと。
貴方に尽くせることが何物にも代えられない喜びなのに、貴方は私の浅ましさにも、やさしい贈り物で応えてくださるのですね。
「ごめんね。どういうデザインが好きかよくわかんなくて、俺がいいって思うやつにしちゃったんだけど」
「…いいえ、とても素敵なハンカチですよ。
ありがとうございます。こういうものは持っていなかったのですけれど、今、好きになりました」
そんな貴方の優しさも、背伸びした私の言葉に頬を赤らめるいじらしさも、ぜんぶ私のもの。
そう思うと、私は世界一幸せな女だと心から感じるのです。
525/10/11(土)23:59:30No.1361920094+
貴方にいただいたハンカチは、その日抱きかかえたまま眠ってしまうほど素晴らしい贈り物でした。けれど、あの日貴方が私にくださったものはそれだけではないと、貴方は気づいていらっしゃるのでしょうか。
「…いかがですか?お気に召していただけたでしょうか」
「ありがとう。
こんなにいいものもらっちゃって…ちゃんと着こなせるかな」
一枚のハンカチが二枚になって返ってきたことは、私にお返しをする理由を与えてくださいました。貴方はそのお返しに対するお返しを、律儀に考えてくださいます。
いつしか私たちは、お互いに似合うと思うものを贈り合う仲になっていました。
「そんなにご謙遜なさらないでください。
…貴方はご自分が思うより、ずっと素敵な方なのですから」
625/10/12(日)00:00:06No.1361920329+
貴方への贈り物をネクタイと決めて、それを選んでいるとき、私は不思議な優越感のようなものに浸っていました。想い人のために普段遣いするものを選ぶというのは、恋人という段階さえ一足飛ばしにした行為のように思えたからです。
貴方が誰かの視線を集めている時は、普段なら身を焼かれるほどの嫉妬に駆られるものですが、私が選んだものを貴方が身に纏っているが故のことであれば、その嫉妬の味も甘露に変わるでしょう。
贈り物を選ぶときに、貴方のことだけを想う瞬間も、何物にも代え難い喜びです。貴方に似合うもの、素敵な貴方の魅力を少しでも引き立ててくれるものを選びたいですから。
──でも、その片隅にほんの少し、赤い色をあしらったものを選んでしまうことは、許してくださいますか。

ネクタイをそっと貴方の首に巻いているとき、この時間がこれから何度も訪れることを願わずにはいられませんでした。
──重ねた時間の分だけ、貴方の心も私の魂と同じ色で染まってくれればいいいのに。
725/10/12(日)00:00:21No.1361920446+
次は何をくださるのだろう。次は何を差し上げたら、笑ってくれるだろう。
そんなことを考え続けているうちに月日は流れて、いつしか木枯らしの吹く季節がやってきました。
「乾燥してきたからかな。唇が切れちゃって」
私は本当に欲深い女です。ばつが悪そうに唇を舐めるあの方の姿を見て、はっきりと声が聞こえました。
『次はあれがほしい』と。
「あの…こちらを向いていただいてもよろしいですか?
私の使っているものでよければ、差し上げます」
「え、いいの?
…じゃなくて、塗ってもらうのは」
「ふふ、大丈夫ですよ。買い置きはたくさんありますから。
それにこのリップクリーム、少し塗り方にコツがいるんです」
825/10/12(日)00:00:36No.1361920549+
リップクリームを塗られている間、恥ずかしそうに目をぎゅっと閉じている貴方を見ていると、愛おしさと浅ましさが溢れ出して仕方ありません。
もし私が、この場で貴方の唇をいただきたいと思っても、貴方はされるがままに受け入れるしかないのですから。それは愛し合っていることを確かめた後にと決めていますから、そんなことはしませんけれど。
「…ありがとう。
お返しはどうしたらいいかな。ほら、買い置きがあるって言ってたし、女の子はこういうの自分で選びたいだろうし…」
だから今は、約束だけでいいのです。
貴方の唇を、その魂を、いつか私にください。
「…では、ひとつお願いを聞いていただけますか。
…口紅を、トレーナーさんに塗っていただきたくて」

──私も、貴方のものになりたいのです。
925/10/12(日)00:00:46No.1361920618+
口紅を塗るあの方の手つきは、少し戸惑いながらも優しく、確かなものでした。
どうか、できるだけ綺麗に、美味しそうに塗ってください。
──この唇はもう、貴方のものなのですから。
1025/10/12(日)00:01:18No.1361920863そうだねx1
おわり
一緒に間違い続けるふたりが好きです
1125/10/12(日)00:02:42No.1361921447そうだねx2
久しぶりにまともなトレスティのスレを見た
ありがたい…
1225/10/12(日)00:03:39No.1361921886+
リップクリーム塗ってあげてるときのスティルは他所様に見せられない顔してると思う
1325/10/12(日)00:06:10No.1361922889+
懐に入れて寝てたせいでもらったハンカチに何回洗濯してもなくならない甘い匂いがついてそう
1425/10/12(日)00:10:00No.1361924354+
本当は指から直飲みしたかったスティル
1525/10/12(日)00:16:27No.1361926696+
見てるかアルヴ
これが愛だ
1625/10/12(日)00:24:47No.1361929808+
普通の甘々カップルありがたい…
1725/10/12(日)00:50:18No.1361939298+
なんか普通にキスするよりエロいことしてるな…
1825/10/12(日)00:56:09No.1361941168+
>久しぶりにまともなトレスティのスレを見た
>ありがたい…
お前これで3回目だろスレ「」
1925/10/12(日)01:08:34No.1361944388+
まともとかわざわざ書いちゃうのが臭い


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