二次元裏@ふたば

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408091 B25/09/27(土)23:23:50No.1357461393そうだねx12 00:54頃消えます
学園能力バトルの二次創作小説を書きました( ›_‹ )
主な登場人物です(((o(*゚▽゚*)o)))
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アニメの範囲しか知らないので解釈違いはごめんなさいm(_ _)m💦
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/09/27(土)23:24:02No.1357461464そうだねx1
 しとしとと窓を叩く雨の音が、廊下いっぱいに広がっている。
 外は薄灰色の帳が下りたようで、校庭の木々も輪郭をぼやかし、静かに首をもたげている。その景色を横目に、私は静かな廊下を一歩ずつ歩いていた。

 床板に響く足音は、雨音と溶け合うようにささやかで、この世界から私という存在の痕跡を消してしまうようだ。乾いた靴底がきしむたび、ほんの少しだけ現実に引き戻される。
 振り落ちる雨粒が窓を滑れば、透明な肌に伝う水の筋が世界を歪めて、昨日までとは違う景色をその向こうに見せていた。

 ――――雨と言うものは嫌いじゃない。青空を覆う黒雲とは対照的に、雨粒が鳴らす音はとても透き通っていて、実に静粛だ。返る音は全てその中に呑みこまれ、世界は一時の間だけ凛とした雨の音、ただ一つだけを奏でるようになる。
 煩雑とした世界の声が全てこの心地の良い静寂の前には、足並みを揃えてしまう。私はこの整然とした規律が気に入っている。
225/09/27(土)23:24:13No.1357461527そうだねx1
やがて、小さな雨はスコールへと様を変える。下方に臨む生徒達も、談笑など諦めて帰宅へと舵を切っていた。
 落ちていく音は不均一に、そして荒々しく。一方、放課を直前に終えた学校の廊下には恐ろしいほどの静寂が吹き抜けていた。
 自然の音だけをそこに残して、全ての人間が消え去ってしまったかのような感覚が全身へと走る。
 
 そんなことはありえない。一万を超えるだけの生徒がごった返すほどの大規模な校舎に私一人なんて状況は、如何な長期休暇であったとて起こり得ない。それは大いに理解している。だが、思考とは裏腹に喉元を掻き立てる漠然とした違和感が私の足を逸らせた。

 校舎の最上階、その最奥に鎮座する重厚な赤漆の扉へと手をかける。そのまま青銅の丸いノブをひねると、大きなドアが蝶番を軋ませてゆっくりと口を開ける。
325/09/27(土)23:24:23No.1357461576そうだねx1
「おはようございます、万華生徒会長」

 それは極めて自然に、そして出来る限り朗らかな声色で。いつも繰り返している放課後の活動へ向けたルーティンの再現だ。
 しかし、背後から向かう声はなく、目の前の掛け金が締まる音で以って返事となる。

「おー、抜きちゃん。悪いわ、氷華ちゃんは今空けとって。きくりさんで我慢してや」

 語尾の伸びる気が抜けた声に振り返ると、三年の兵塁屋きくり先輩が応対用のソファへと腰を掛けていた。言葉を持たない私を見るなり、にへらと表情を崩して彼女はテーブルへ置いた煎餅を口へと運んだ。
425/09/27(土)23:24:37No.1357461655そうだねx1
「なー、聞いた?ブル先、また飛んだんやって。あれ、初見はビックリするけどな。あんなもんであの人がどうにかなるもんでもないと思うんよな」

 背もたれにへばりつく兵塁屋先輩の横をすり抜けて、木製の書架の前へと立つ。そして、並ぶ色とりどりの書類入れの中から、青い一冊を選び自身の席へと持っていく。
 普段会長が勝手にやってしまっている書類作成の仕事も、今なら幾らか残っているはずだ。
 大雑把に「書類」とだけ書かれた表紙を捲り、オルガンのように羽を広げる紙の群れへと目を通す。しかし、どれも会長によって確認済みの判を押されてしまっており、私が出る幕などどこにもない。
 
 普段なら、今頃は大量の書類を抱えた会長が生徒会の面々へ苦笑いと共に、作業を要求していただろう。だが、今日は違う。
 急な手持無沙汰が赤い絨毯を叩いた。会長が居ない今、何をすればよいものか。
 
 棚から代わる代わる取り出した資料の山を前にしながら、手元へと寝かせた筆が文字を綴ることは終ぞ無かった。
525/09/27(土)23:25:10No.1357461831そうだねx1
「抜きちゃん、暇なん?じゃあ、ウチも会計の仕事終わってもうててん。暇でしゃあないから遊んでや。」
 
 黙りこくった私を見かねたのか。背もたれに乗せた両の腕へ更に顎を伏せて、先輩がこちらへと話しかけてくる。その手には、副会長がふらっと現れては棚へ置いていくピコピコ?の類が揺られていた。
 
 静けさこそあれど、今は生徒会活動の真っただ中だというのに真面目さに欠ける。だが、仕事を終わらせたというのは間違いないことだろう。
 軽薄な雰囲気と強い関西の訛りに誤魔化されてしまいそうだが、この人もお忙しい会長を支える無くてはならない存在。与えられなければ職務を全うできない人間とは違う。
625/09/27(土)23:25:21No.1357461900そうだねx1
「不満やろうけど、氷華ちゃんはここんところ忙しいみたいでな。こういう日が続くかもしれないんやて」

「え…」
 
 急に何を言うかと思えば。私がいつ会長の名前を出しただろうか。二の句を継ぐ前にきくり先輩は見栄を張った。

「なんでわかったかって顔やな。そら、5秒おきに生徒会長の机を睨む抜きちゃんを見れば誰だって分かるで」

 よほど態度に出ていたらしい。小さく離した私の唇を見つめながら、先輩はにんまりと悪戯に笑った。
725/09/27(土)23:25:31No.1357461957そうだねx1
「あの…」
 
「なんや?」

「他の方々はどこに?」

 さほど気に留めていたことではない。しかし、これ以上この人にこの場の話題を任せていれば不味い。そう思った。

「あー、そうか。えー、結愛ちゃんは闇部活動の掃討に行くって言っとったな。ほんで、バーちんはそのお供。闇部員は状態異常ばら撒いてくるのが多いし、副会長は割と脳筋思考やからな。あわれ書記は仕事を残して悪者退治ってところ。だから、しばらくはウチと抜きちゃんの二人っきりって訳」

 言われてみれば、机の上の書類はそのままに書記の姿だけがない。副会長と兵塁屋先輩の乱雑な机に苦情が止まないほど神経質な彼が、書きかけを放置したまま離席する場面など見たことがない。
 本当に今更なのだが。
 
 皆、誰かに必要とされているという事なのか…
825/09/27(土)23:25:56No.1357462090そうだねx1
「であれば、私はこのまま帰宅させてもらいます。これから私一人居ない程度で生徒会が回らないような仕事が舞い込むとも思えないので。失礼します」
 
「ちょっ!ちょい、待ちぃや!なんでそないなことになるん!」

 生徒会を背にした途端、両肩へと衝撃が走る。焦りを目元に湛えた兵塁屋先輩は珍しい。
 両腕で私を掴んで引き戻そうとするが、彼女のしなやかな細腕では微動だにもしない。当然の事だ、鍛え方が違う。
 だが、押し合い圧し合いの末に観念したのはこちらの方だった。
925/09/27(土)23:26:11No.1357462175そうだねx1
「なんですぐそう出ていこうとするんや。美少女後輩と二人きりなんて激レア展開、みすみす逃すなんて勿体ないやんか」

「しかし…」

「しかしもへちまもあらへん。抜きちゃんがそこに座ってるだけでウチは楽しいの」

「それで良いのであれば…」

 いるだけの置物に何の価値があろうか。
 この人の言うことは偶に良く分からない。

「抜きちゃんって普段なにしてん?学校生活とか日常生活でもええで。あ、色恋とかだったら大歓迎やで。ウチの口は銀行の金庫よりカッチカチやから安心してや。この間も、新聞部に盗み聞きした情報を半分しか渡してへんからな。それはもうカッチカチのお墨付きで……」

 座っているだけでいい。とは言われたが、対面に腰掛けた瞬間、速攻で私的な領域へと土足で踏み入れてくる。それも殆ど返す隙間もないほどにまくし立てて。
 やはり、この兵塁屋先輩のことは良く分からない。
1025/09/27(土)23:26:44No.1357462363そうだねx1
「普段と言われても、私は勉学に着いていくだけで精いっぱいですから。日常生活も、鍛錬以外のことは特には……えぇ、特にはやっていません」

「…ほんまか?」
 
 眉間へ、彼女の垂れた視線が刺さる。聡明な人はこれだから困る。
 だが、他に言うべく事もなし。すべてが事実なのだから。
 前のめりな彼女へ毅然と返す。
1125/09/27(土)23:26:59No.1357462435そうだねx1
「本当です。私はつまらない人間なんです。他人にひけらかす情報もないほどに」

「誰もそこまで言うてないやんか。それだけ実直に研鑽を積んどるってことやろ、かっこいいやんか。ウチなんか趣味が3分持てばええ方やで」

 そう言うと、先輩は煎餅を一つ口に入れた。すると、それすらあっという間に呑みこみ、前のめりの姿勢を強めた。

 「そんで、肝心な部分答えてもろてへんで。好きな人とかは居るんか?」

 彼女の大きな瞳が一際輝きを伴って、間近へと迫った。

「もちろん、LOVEの方やで。生徒会は誰も彼もそのあたり疎いからな。折角の青い春がドン曇りで、おじさん枯れてまうわ」
 
 好きな人。考えたこともない。憧れの人なら考えるまでもなく自然と一人浮かんでくる。
 美しい青髪をなびかせ、瞼を半月にしならせて柔らかい笑みを私に向けてくださるあのお方。
1225/09/27(土)23:27:15No.1357462525そうだねx1
だが、それを好きと呼んでいいのだろうか。好きとは、愛とは、すなわち独占欲。何かを支配したいという浅ましいエゴだ。
 あの人は誰かのものではない。ましてや、私なんかのモノでは断じてない。忠義という一方向的な関係にこそ、心地よさを覚える。
 ともすれば、居ないと答えるのが筋だろう。しかし、一度浮かべてしまった以上、それは不誠実に思えてならなかった。
 
「まーた、難しい顔しちゃって。この話題を出すと、全員同じ顔するねん。まぁ…ええけどな」

 目の前であからさまに俯いてしまった私を見るや、先輩は袋の中からもう一枚取り出した。
 
「ウチも氷華ちゃんのことが大好きやで。それはもう食べちゃいたいくらいに愛おしゅうてしゃあない」

 白い歯が艶やかな茶色の上に立つと、パリッと小気味の良い粉砕音が室内に響いた。同時にふんわりとした醤油の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
 
 私もこの人のように簡単に自身の内を明かせたのなら……いや考えても仕方ないことか。私は違う生き方を選んできたのだから。
 この人と二人で居ると変な気持ちがもっと絡まって仕方ない。申し訳ないが、帰ってしまおう。
1325/09/27(土)23:27:37No.1357462654そうだねx1
ソファから腰を離し、ゆっくりと立ち上がった瞬間、背中の方からドアの唸る音が聞こえた。
 
 それはもう速い動きだったのだろう。
 振り向いた私の眼前で|そ《・》|の《・》|男《・》は酷い目付きで、私を睨みつけていた。

 焼けたような紅の髪。鋭く太い眉の下で、人の色の薄い目を眼窩に携えたその男。

「おー、燃えチンやんか。珍しな」

「風紀委員の奴らに追っかけ回されててよ。全く、ちょっと校舎燃やしたぐらいでケツの穴の小さい奴らだぜ」

 1年の分際で、3年である兵塁屋先輩に平然とぞんざいな口調を投げつける男。その名は、珍毛燃男。
 学校を騒がせる生徒会と風紀委員の胃痛の種。私…いや会長にすらも一度は土を付けた不倶戴天の敵だ。
1425/09/27(土)23:28:02No.1357462778そうだねx1
「なんだ、会長は居ないのか。ちょうどいいや、しばらく匿ってくれよ」

 入室の許可も聞かずに、神聖な空間へずけずけと上がり込む奴は、そのまま生徒会室の一番奥に鎮座する生徒会長の机。その大きな腰掛けへと遠慮なしに沈み込んだ。
 会長がいつもお座りになられているアンティーク調の大椅子が、予想外の重量を受けて酷く軋む。

「流石の一年生筆頭様も風紀委員にはタジタジって訳だ」

「いいところまでは行ってたんだ!だが、廊下じゃ火の回りが早すぎてまともに戦えないからよ。まったく、外が雨じゃなきゃ…」

 悔し気に握った両手を机に突いて、そいつはそのままニス塗りのプレジデントデスクに上半身を倒した。
 私が触れたことすらない会長の机にだ。
1525/09/27(土)23:28:15No.1357462841そうだねx1
「会長もこんな良い椅子と机で作業なんて人が悪いぜ。俺達ヒラの生徒はケツも上もプラスチックだぞ」

「行儀悪いで、燃えチン。氷華ちゃんに見つかったらどうなるかわからんで」

「なんなら、こっちから再戦願いたいところだぜ。前回は、勝手に調子崩されて釈然としない決着だったからよ」
 
 この男はどこまで行っても…
 思う前に体は動いていた。

「っにすんだよ!俺じゃなかったら死んでたぞ!」

「そこをどけ」

 瞬間的に距離を詰めて、上段から振り下ろした刀。殺す気の一刀を男は座ったまま易々と躱す。その軽口混じりの口調が、神経を逆なでし、抱えていたモヤモヤが苛立ちへと変わっていくのが嫌なぐらい冷静に理解できた。
1625/09/27(土)23:28:25No.1357462896そうだねx1
「抜守とか言ったな……あんたが相手してくれるって訳か?」

「それで気が済むなら構わない。すぐにその汚い首をどぶ川で洗ってやる」

 会長の席を挟んで、視線が交差する。こちらの臨戦態勢を感じ取るなり、男も立ち上がって構えた両腕に青筋を走らせた。
 話が早いことだけはこいつの美徳と言っても良い。
 奴の時間に次はない。納めた刀に再び重心を預け、己が出方だけに全ての神経を集中させた。

「こないな所で争ぉてどないすんねん!椅子どころの問題とちゃうやろ!」

 動く。次の瞬間、死線に飛び込んだ兵塁屋先輩を避けるように、奴の炎と剣閃がすれ違った。視線の先で書架が真っ二つに裂け、音を立てながら崩れ落ちる。恐らく、背後でも同じことだろう。
1725/09/27(土)23:28:59No.1357463102そうだねx1
「命拾いしたな、抜守。今頃その奇麗な肌、焦げ付くじゃ済まなかったぜ」

「貴様に名を呼ばれる筋合いはない。第一、私の方が速かった」

 先輩の取り持ちで、特別に体育館を借りて1vs1の模擬試合という運びとなった。
 とはいえ、お互いに直に損傷させる行為はなし、寸止めという条件付きでだ。もっとも、万一怪我を負ってもすぐさま保険委員が駆けつけてくるのがこの学園だが。
 
 広いフローリングに向き合うアイツと私。
 そして、遠くから見届け人の声が木霊する。

「ジブンら、こうでもせんかったら気ぃ済まないやろ」

「ありがとうございます、先輩」

「お前にも一回正式に勝ちたいところだったんだ。模擬ってのは気にくわないが、格付けにゃちょうどいい」
1825/09/27(土)23:29:11No.1357463161そうだねx1
顔面を突きさす奴の指に言葉を返す必要はない。戦いが終われば自然とカタが付く話だ。
 戦いのゴングは、先輩の鳴らすベルの音一つ。
 ルールは殺傷NG。相手を傷つけさえしなければいい。実に簡単だ。

「よーい、はじめ!」

 ベルが鳴る。
 瞬間、振り抜いた居合が、体育館上部の壁を切り裂いた。

「避けたか」

「そいつは読んでいたからな!」

 即死の初撃をしゃがみこんで避けた男。不敵な眉の歪みにすぐさま距離を取ると、先ほどまで私が居た地点に巨大な火柱が数本立ち昇った。
 こちらも直撃すれば即死は免れなかっただろう。
1925/09/27(土)23:29:23No.1357463230そうだねx1
「あの子達、全然ルール守る気ないやん!」

「気が合うみたいだな、女」
 
 似ている?冗談を。だが、容赦なく首を飛ばして良い相手というのは助かる。
 
 続いて振り抜いた高速の腕。無数に飛ばした剣閃が体育館の地面を翔る。
 
 私の能力は居合。納刀から抜刀へ移行する時、斬撃の射程と速度が向上するもの。
 準備から攻撃へのタイムラグこそあれど、私自身の鍛えた抜刀術を持ってしまえば、誤差はまばたきにも満たない。
 このまま、全身を切り刻んで、あの生意気な口を二度と開けなくしてやる。

 体育館中に飛んだ斬撃。男はその悉くを回避するが着実にその体力を削っている。
 この間合いが続く限り、勝ちは揺るぎない。
2025/09/27(土)23:29:40No.1357463320そうだねx1
「やっぱ速いなお前。だが、こいつならどうだ!」

 劣勢にも関わらず、余裕の表情で男は火球を放つ。飛来物が陽炎を伴って視界を忌々しい赤に染める。離れた距離であっても表皮を炙るような鈍い熱が伝った。
 以前、戦った時よりも火力が増している…

 私も……会長もこの炎によって地面を舐めた。 
 だが、こいつの能力の根本は只の毛を媒介とした概念的な燃焼に過ぎない。
 
 振った剣を素早く鞘に納め、そのまま即座に居合斬る。
 飛翔するかまいたちが炎の燃焼の源を分断すると、炎塊が消失し黒黒とした二本の毛へと姿を変える。
 炎の元さえ絶ってしまえば、所詮は抜け毛。奴の得意な意表を突いた炎攻撃も目の前にのみ集中すればいいだけだ。
2125/09/27(土)23:30:14No.1357463531そうだねx1
「これだけの精密な居合…以前から強くなったのは俺だけじゃないってことか」

 知ったような風に言葉を並べつつも、男がその攻撃の手を緩めることは無い。だが、それでいい。真っ向からこいつを倒してこそ初めて会長の屈辱を拭うことができるというものだ。
 この勝利は、全てあの人の為に。

「そんなものが通用するものか!」

「へっ、どうだかな…!」

 群れを成して飛ぶ火球を次々に叩き斬る。
 左右へ分かたれる光の先で、男の姿が間近に揺らめいていた。
 
 この攻撃は全て目くらまし。煙に巻いて居合の懐に自ら飛び込んでくるつもりか
 舐められたものだ。こんな児戯で不覚を許すほど私は弱くはない。
 追い詰められて稚拙な真似に走るような愚か者に負けたとあっては、一生の恥だ。
2225/09/27(土)23:30:26No.1357463594そうだねx1
ちまちまと…無駄だと言っている!この状況が続くほど、不利になっていくのは貴様の方だ!今日、その血で以って会長の汚名を濯いでみせる!」

 弾切れがある奴の能力に比べ、こちらは納刀の隙を除けば残弾は無限。距離を取り、直接攻撃だけ警戒すれば…
 荒ぶる大火炎に対して、後ろへ飛んで髪一重で切り裂く。その次も。そのまた次も。寸前で距離を取り、幾重にも切り裂いていく。
 
 この繰り返しが、真綿のように奴に死を近づけていくのだ。
 
 だが、その目論見とは裏腹に、突然背中を激しい痛みが襲った。

「逃げ場なんて無いぜ…」

 気絶するかのような痛みが脊髄へと走り回る。振り返ると、背にしていた空間は炎で阻まれ、そこにあった広々とした地面は高温によって熱されて、泡沫さえ沸き立つ移動すらもままならない領域に置かれている。
2325/09/27(土)23:30:47No.1357463740そうだねx1
なぜだ…?

 疑問が脳をよぎる。ここは体育館、屋外ほどの広さは無いが、人ひとり動き回るには余りある。第一、正面以外からの攻撃を許した覚えは…
 
「この尋常じゃない延焼速度…まさかフラッシュオーバー!?」

 フラッシュオーバー。火災によって室内上空に形成された超高音の可燃性ガスが可燃物へ引火し、空間内を一気に発火させる現象のこと。

 戦いの最中に天井付近へ浮かんだ毛束が火種となって、知らずの内にこの炎の牢獄を形成していたというのか…!!?
 こいつは私が炎を破った時からこの展開を狙っていた!
2425/09/27(土)23:31:03No.1357463852そうだねx1
「だから言ったろ?俺の炎は火の回りが速いって。この体育館がアスベストで出来ていなくて助かったぜ」

 不敵に笑うその男との距離、僅か数m。珍毛燃男は、この間合いにあって大人しく居合の隙を与えてくれる相手ではない。
 
「俺は熱に耐性がある。このままお前が蒸し焼きになるところを見てやってもいいが、時間も無いからな。直ぐあの世に送ってやる!」

 獲物を見つけた獣のように瞳孔を窄め、男の手に灼熱が宿る。

 ――また、負けてしまうのか。すいません、会長…やはり私では貴方のお傍には…

 待ち受けるその瞬間に、私は目をつぶった。そうだな、走馬灯は会長だけがいい。
 せめて、不甲斐ない番犬にも最後には夢ぐらい見させてほしい。

「…やめだ」
2525/09/27(土)23:31:19No.1357463958そうだねx1
 ……は?

「本気じゃねえ奴を燃やしたとて気持ちよくねえ」

 取り囲んだ炎を消滅させると、男は言葉に苛立ちを混ぜて踵を返す。男の内側に吸収されていく炎の尾が、瞬間的に充満する熱をくらっていく。
 急激な温度変化に寒々とする体とは反対に、頭へと煮えたぎるような熱さが昇っていった。

「まがりなりにも一度はこの俺を追い詰めた奴がこの程度の小細工に気が付かないはずがねえ。ましてや素直に敗北をうけいれるなんてこともな。興が削がれた。邪魔して悪かったな」

 ──この私が…こんな男に情けを受けた?こいつ……どこまで人を舐め腐れば…!!!
 
 気が付けば、刀を手に走り出していた。

「入ったぞ。このまま、真っ二つに……!」
2625/09/27(土)23:31:32No.1357464037そうだねx1
 ぬっ、抜けない!!?
 胴へと切り込んだ刀がクリーンヒット。そのまま、斬り抜こうとするも、男の筋肉の圧力によって締め上げられ、ビクともしない。

「狙うなら首にするべきだったな」

 どころか男は刀を無理やりに引き抜くと、力のまま投げ捨てる。鮮血が宙へ踊り、模造刀の軌道を紅色に染めあげる。弧を描いて地に落ちた模造刀がカランと虚しく鳴いた。

「せっかく仕切り直してやるって言ってんのによ……胸糞悪い真似しやがって!!」

 瞬間、顔面に押し当てられる掌。その中央の段々と激しい熱が集まっていくのが鼻先からでも伝わった。
 免れない死に、無念さだけが胸中にひしめいた。
 
 瞼の裏で眩しい光が突き刺さる。しかし、浴びることとなるのは炎とは真反対の包み込むような冷気だった。
2725/09/27(土)23:32:17No.1357464330そうだねx1
 
「きくりちゃんが慌ててくるから飛んで来れば…抜子、貴方は自分が何をしでかしたのか分かってるの!?」

「えぇ、それは…」
 
 場所は移って生徒会室。赤塗りの絨毯に正座する私と、同じく正座する万華氷華生徒会長。
 珍毛燃男と私が決闘したと聞いて、対外向けの説明会を放って来てくださったらしい。

「己が怒りに身を任せ、学園の施設を破壊した上に、生徒会の名に泥を塗りました…」

 私は、愚行の一部始終を話した。結局のところ、ただの憂さ晴らしだ。あの男には前科こそあれ今回のことは注意だけに済ませるのが穏当だ。
 だが、瞬間的な怒りを抑えられず、不甲斐なさを他人に押し付けたのだ。

 そうか、これで終わりなのか…嫌だな……
2825/09/27(土)23:32:30No.1357464424そうだねx1
「全然わかってないじゃない!私が止めに入ってなかったら貴方が怪我していたのよ!?」

 ──何の話だ?
 
 私の手を握り、眉に鋭敏さを纏わせた生徒会長は何について語っているのだろうか。
 そこで、私が話題に出てくる意味が分からなかった。
 怪我など治せる。だが、事実を消すことはできない。それを叱責されるのが当然の事だと思っていた。

「明日は生徒会をお休みしていいから。お家でゆっくり頭を冷やしなさい…」

 その会長の言葉を最後に、釈然とされないまま私は帰らされた。
2925/09/27(土)23:32:53No.1357464562そうだねx1
「絞られたみたいやな」

 雲間から差した斜陽が入り込み、一面に琥珀色が滲んだ生徒玄関。その中腹に下駄箱へ後頭部を預けた兵塁屋先輩が立っていた。

「えぇ…明日は来なくてもいいとも。あの会長を怒らせるなんて私は…」

 会長が怒るところなんて見たことがない。あのお方は聡明だ。感情に振り回されるなんてみっともない真似をするはずがない。
 何より、そんなことをさせてしまった自分が惨めで仕方ない。

 言葉尻を震わせて、己の不甲斐なさを訴える自分の姿は、傍からは未熟に酔いしれているようにすら見えていたかもしれない。
 意に反して、先輩は肩を組むと、あっけらかんと告げた。
3025/09/27(土)23:33:18No.1357464722そうだねx1
「氷華ちゃんは誰にでも優しいからな。勘違いしてしまうかもしれへんけど、あれでよく怒る方なんよ」

 よく怒る?あの生徒会長が?
 私の憂慮も他所に、先輩は続けた。

「でもな、それは本気で相手の事を心配しているとき。そして大切な誰かが傷ついてしまうときだけ。会長は自分で気が付いてほしかったんやろうけど、ネタバレすると抜きちゃんがそれだけ大事ってことやで」

「しかし、私はそんな存在では…」

「寂しいんやろ、抜きちゃん!」

「寂しい?私が?」

「せや、いつか氷華ちゃんが自分の下から離れてしまうんじゃないか、会長の為になれていないんじゃないかってことばかり考えてる。そう顔に書いてるわ」
3125/09/27(土)23:33:33No.1357464809そうだねx1
何を言いだすかと思えば。完全に意表を突かれた私の丸まった目を睨んで、兵塁屋先輩はしみじみと言い聞かせるような声色を続けた。

「ウチにも覚えがあってな、よくわかるんよ。でもな、あの子は絶対どっかに行ったりしない。大切な友達を見捨てたりもしない。ウチが保証したる。あの子は強い子やもん」

 完全に言い切られてしまった。彼女と会長は私よりも深い仲だ。疑う余地はないのだろう。
 だが、だけど、それでも。私はそれを素直に飲み込むことができない。

「あ、でもああ見えて抜けてるところもあるからな。そこをなんとかしたるってのもウチらの仕事やで」

 他人を真剣に諭したかと思えば、会長を腐して笑うこの人のことは、やはり分からない。きっと、会長が伝えたかった本当のことも私には分からない。
 私自身のことすらも未だ私は理解していないだろう。
3225/09/27(土)23:33:49No.1357464911そうだねx1
「しかし、感情に流されるようでは…」

「何言うてんねん!思春期なんて情緒不安定上等やで!第一、ウチは嬉しいんよ。いつもぶっきらぼうでド真面目な大切な後輩が寂しいなんて可愛いところを見せてくれて」

 胸に渦巻いたざわめきは、先輩の言葉を受ける度に波を打つ。形も分からなかったそれが、ようやく鋭い輪郭を持っているものだということに気が付いた。
 振り返れば、たったそれだけのことだ。依然として、それはそこに居る。

 だが、不安も臆病も、確かに自分の一部だ。
 それを理解してしまった今、頬が熱くなるほど悔しいはずなのに、不思議と重荷が少しだけ軽くなったようにも感じる。
3325/09/27(土)23:35:21No.1357465368そうだねx1
「そ…そんなことは…」

「そうだ、今度ケーキバイキングでも食べ行こか?ちょっと多く出したるで」

 弱さを曝け出すことは恥だ。少なくとも私にとっては。
 誰に諭されようと、耐えて堪えて強く在ろうとするこの生き方だけは恐らく変えられない。

 でも、それでもこの場は良いと思えた。
 これからも私は惑い続ける。何度でも自分に失望し、幾度に渡って弱さに拳を握り続けるだろう。
 その度に、何度だって立ち上がって見せる。
3425/09/27(土)23:35:31No.1357465418+
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3525/09/27(土)23:36:20No.1357465704そうだねx1
私は弱い。だが、それでいい。それがいい。

 あの人の為に。そして、何よりも自分自身の為に。
 弱さを否定し、克服する。この揺るぎない思いが、私であり続ける為の力だ。
 こうして、私たちは橙と影とが混じり合う、暮れの向こう側へと溶けていった。
「そうだ、珍毛燃男を八つ当たりで斬ってしまって、後で謝りに…」

「あー、まぁそのぐらい大丈夫ちゃう?そのぐらいのことしとるやろあの子」

 続・学園能力バトル風雲記 徒花の章冥暗編-終幕-
3625/09/27(土)23:38:39No.1357466453そうだねx3
以上ですm(_ _)m

書きやすいからで始めたら他人のキャラで一人称の心理描写書いてましたΣ(゚д゚;)ナンデヤ
ここは二次創作ということで手打ちということで(^_^;)
えっダメっ!?( °Д° )そんな〜(´;ω;`)
3725/09/27(土)23:38:39 ID:rS7YMTdcNo.1357466457+
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「あの子たちはルールを守るつもりなんて全然ない!」
3825/09/27(土)23:39:19No.1357466669+
とんでもねえ熱量でぶったまげた…そして抜子メインとは夢にも思わなかったからめちゃくちゃびっくりしたぜ嬉しい…超ありがたい…
3925/09/27(土)23:39:40No.1357466784+
中学生みたいなキャプションしやがって…
長文でめちゃくちゃ読み応えあっていいね
4025/09/27(土)23:40:51No.1357467181+
なんでそんな口調なの……
4125/09/27(土)23:41:42No.1357467458+
抜子が1から10まで解釈一致すぎてすげえ
4225/09/27(土)23:41:43No.1357467469+
やっぱり燃男が出てくると緊張感あるな
4325/09/27(土)23:43:01No.1357467902そうだねx10
    1758984181499.png-(21294 B)
21294 B
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
4425/09/27(土)23:43:40No.1357468125そうだねx3
軽い気持ちで読み始めたら大作がスイと出た
4525/09/27(土)23:45:53No.1357468902+
抜子ちゃんが実は独占欲強めなの好き
あと燃男がちゃんと強者の戦い方するじゃん!
4625/09/27(土)23:48:13 ID:rS7YMTdcNo.1357469742+
スレッドを立てた人によって削除されました
「全然わかってないじゃない!私が止めは入ってなかったら貴方が怪我していたのよ!?」

 ──何の話だ?
 
 私の手を握り、眉に鋭敏さを纏わせた生徒会長は何について語っているのだろうか。
 そこで、私が話題に出てくる意味が分からなかった。
 怪我など治せる。だが、事実を消すことはできない。それを叱責されるのが当然の事だと思っていた。

「明日は生徒会をお休みしていいから。お家でゆっくり頭を冷やしなさい...」

 その会長の言葉を最後に、釈然とされないまま私は帰らされた。
4725/09/27(土)23:49:14No.1357470178そうだねx2
ぬききく来てる?
4825/09/27(土)23:52:28No.1357471377そうだねx1
校舎を燃やすな
4925/09/27(土)23:52:59No.1357471584そうだねx1
35レスまで本文でダメだった
めっちゃがっつりくるじゃん…すげぇな
5025/09/27(土)23:58:57No.1357473702+
>1758984181499.png
すげえよかった
このお手書き来るまでスレ画の絵柄で勝手にきくり「」かと思ってた
在野にここまでの大作を投下できる人間がいるなんて何者なんだ
5125/09/27(土)23:59:01No.1357473728そうだねx8
    1758985141413.png-(47055 B)
47055 B
感謝…本当感謝…
5225/09/28(日)00:02:05 ID:rS7YMTdcNo.1357474792+
スレッドを立てた人によって削除されました
>校舎を燃やすな
たしかに
‌な‌ん‌で‌そ‌ん‌な‌口‌調‌な‌の‌…‌…‌
5325/09/28(日)00:02:12No.1357474836+
燃男が勝負に対しては誠実な奴に見えてきた
5425/09/28(日)00:06:30No.1357476166+
能力でバトルしてるところ初めて見た
5525/09/28(日)00:17:10No.1357479529そうだねx1
こう…文章で喋って動いてると生徒の奥行きと輪郭がぐっと深く濃くなるな
とても良かったし正直めっちゃ羨ましい
5625/09/28(日)00:30:31No.1357483573+
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>感謝…本当感謝…
よく聞けいいか?中学生みたいなキャプションしやがって…
長文でめちゃくちゃ読み応えあっていいね
5725/09/28(日)00:32:27No.1357484251+
めちゃくちゃ良かった…解釈通りだった
5825/09/28(日)00:35:11No.1357485263そうだねx1
燃男が出てきた時ヒグマと目が合った時みたいになるよね


1758984181499.png 1758983030131.png fu5641232.jpg fu5641231.jpg 1758985141413.png