二次元裏@ふたば

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47865 B25/09/26(金)20:28:38No.1357047593+ 21:44頃消えます
トレセン学園を卒業して数年が経ち、24歳になってから半年が経った

「えーっと、お店ってどこだっけかぁ………?」
「人がいっぱいで迷子でえええええええす!!!!!!!!!!」
「エール。地図見れるか?」
「見ています!!!!!!!アプリではこの辺りのはずなのですが!!!!!!!!!」

外国人観光客が賑わう東京某所の商店街の中で、私たちは途方に暮れていた
腹ごしらえを済ませた後。私とエールは、本日のメインである、とあるお店へと向かっている道中だった
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/09/26(金)20:29:31No.1357047952+
「スン………スンスン!!!!!!!!!」
「………どした、急に」
「………ソングちゃんあっちです!!!!!!!向こうから匂いがします!!!!!!!!!」

私の返事を待つこともなく、興奮気味に手を引くメイケイエール
暑さも落ち着きようやく初お披露目となったカンカン帽子が、商店街の照明と重なり笑顔のエールの上で踊る
………やっぱお前、犬みたいだよな。もともと犬みたくハイテンションなのはそうだけども、お目当ての場所が嗅覚でわかるだなんて
ならば私は、さながら毎度リードに引っ張られる飼い主か。もうすぐアラサーなんだから、早く飼い主離れして欲しい
225/09/26(金)20:30:10No.1357048210+
「おそらく見つけました!!!!!!!!!こっちです!!!!!!!!!!」

エールの嗅覚を頼りに、迷いなく商店街を進む。人混みを掻き分け、表参道の脇から地下へ続く階段を降りてゆけば、地下の空間には不釣り合いなかわいらしいデザインの扉が見えてきた
そして、その扉を開けた瞬間――

「わぁ……… 子犬だらけだ!!!」
「かわいいいいいいでええええええええす!!!!!!!!!!!!」

ガラスを挟んで見える店内では、多種多様の犬が部屋を歩いている。チワワにコーギーに、ドーベルマンまで!
そう。今日はエールと共に、犬カフェに来ていたのだった
325/09/26(金)20:30:41No.1357048424+
「わんこさんにご飯をあげられるんですって!!!!!!!!!」

木の温もりを感じさせる受付カウンターで、人懐っこい笑顔を浮かべた女性スタッフが、ラミネート加工されたメニューを差し出してくる
どうやらここでは、ワンちゃんたちに触れ合えるだけでなく、餌やり体験のようなものもできるらしい
メニューの写真を見ると、ペット用のささみやチュールが木皿に盛り付けられている。なんだか量が少ないと感じてしまうのは、きっと私たちウマ娘のサガだろうなぁ……

「たらふく食べさせて、ぶくぶく太らせましょうか!!!!!!!!!!」
「犬もあとで食べるつもりなのか?」
425/09/26(金)20:30:55No.1357048537+
続いて、スタッフさんは利用上の注意事項を丁寧に解説してくれる
自分から抱っこするの禁止、大声禁止、フラッシュ撮影禁止、追いかけ回すの禁止……動物に過度なストレスに与えない工夫が盛りだくさん。さすが、ワンちゃん想いのお店だ
大声禁止に引っかかりそうな奴が約一名隣にいるが、心配ご無用。学生時代からそうだが、エールはちゃんとTPOをわきまえるヤツなのだ、うん

「えっ、ワンちゃんにご飯与えちゃダメなのですか!!!!!!!?!?!?」

……ごめん、やっぱり心配かも。さっきからエールの声に反応して、スタッフも引き攣った顔してるし
525/09/26(金)20:31:16No.1357048677+
「声、声!」
「あ!すみません!」
「………てか、ちゃんと読めメイケイエール。えさを与えちゃいけないのは、服を着た子限定だぞ」

私が指差した注意書きには、確かにそう書かれていた
ふむふむ、なるほど?どうやら、お洋服を身に纏っているわんこ達は、獣医さんの指導のもとで厳密なカロリーコントロールを行っている最中らしい
一頭一頭の健康状態にまで気を配るなんて、その徹底した管理体制には頭が下がる

一通りの注意事項を聞き終え、貴重品やバッグを入り口脇のロッカーへと預ける。手のアルコール消毒も怠らない
受付で購入した犬用ご飯の木皿を手に、いざ、子犬たちが待つ楽園へ
私が柵に手をかけ、扉を開けようとした、その時だった
625/09/26(金)20:31:29No.1357048774+
「わわわ! ワンコさんが集まってきてます!!」

柵の扉の前に群がる、沢山の犬!犬!犬!
人懐っこいゴールデンレトリバー、くしゃっとした愛嬌のある顔のパグ、そしてさっき遠くから見えたドーベルマンまでが、扉の前にぎゅうぎゅう詰めになっていた
尻尾をふりふり。足をパタパタ。私たちのことを、興味津々ってふうに興奮して集まっている
可愛い、めちゃくちゃ可愛い、けど
このワンちゃん達の熱烈な歓迎のせいで、扉が開けないんですけど!!

「どどど、どうするメイケイエール!」
「体でゆっくり押し切りましょう!」

大声を禁止され、マナーモードで感嘆符控えめのメイケイエール(テンションまでは抑えきれていないけど……)
彼女の提案通りに、犬たちを踏みつけないよう、ゆっくり扉を開けてなんとか店内へ
さて、どこか落ち着ける場所は……と部屋の奥へ進もうとするが
725/09/26(金)20:31:46No.1357048878+
「……まずいぞメイケイエール」
「これじゃ、どこに行こうにも進めませんね…!」

一歩、また一歩と進むたびに、足元に群がるワンちゃんの数が増していく。ぴっとりとくっついていて離れない
そして、無数のキラキラした瞳が、ある一点を熱心に見つめていることに気がついた
そう、私がその手に持つ木皿を

「狙いは餌か!」

脳裏に、先ほどのスタッフさんの言葉が蘇る
『わんちゃんは皆様の餌を常に狙っています、取られないように十分注意してくださいね』
これか!このことか!
私は奪われまいと、咄嗟に両腕を高く掲げ、木皿を天に翳す
けれど、食欲旺盛なわんこ達は諦めない
私のズボンの裾を前足でカリカリと引っ掻き、布地を頼りにクライミングを敢行しようとすらしてくる
825/09/26(金)20:31:58No.1357048963+
「おいおい!どんだけ食欲旺盛なんだ君たちは!」
「ソングちゃん! 私にパスです!!」

声がした方を向けば、いつの間にやら犬たちの包囲網を鮮やかに潜り抜けたエールが、少し離れた場所から救いの手を差し伸べていた
託したぞメイケイエール! 早速木皿を彼女に渡す。すると、子犬たちはターゲットをエールに切り替える

「わ!わ!わわ!!」

今度はエールが、大勢の犬たちの歓迎に囲まれた。後ろ足で器用に立ち上がり、エールの体にぐいぐいと寄りかかりながら、木皿へ向かって前足を伸ばす
その身体能力を見るに、たとえテーブルの上に木皿を置いたとしても、ぴょんとひとっ飛びで奪取されかねない
どうすれば……この状況をスマートに打開できるアイデアはどこかにないものか
店内をぐるりと見渡した、その時だった
925/09/26(金)20:32:17No.1357049084+
「ご飯保護カバー……?」

テーブルの隅に、ぽつんと置かれた透明な箱
それはまるで箱ティッシュのような形をした直方体の容器で、手に取ってみると底が抜けた構造になっている
………なるほど、そういうことか!使い方、完全に理解した!

「メイケイエール!もう一回、私にパスだ!」

エールは頷き、餌を狙う犬を優しく押しのけ慎重に木皿を手渡す。受け取った後私は、素早く木箱をテーブルの上に置き、そのさらに上にカバーをかぶせる
『ご飯保護カバー』なる物は言葉通りの防衛策だった
一回り大きな透明のカバーで覆われたことで、犬たちの鼻先も前足も、もう餌に届くことはない
これで食い散らかされる心配はないと、私とエールはほっと胸を撫で下ろした
1025/09/26(金)20:33:02No.1357049387+
………だが、さっきまでの喧騒が嘘のように、犬たちはピタリと動きを止めた
そして、餌が絶対に手に入らないことを悟ったのか、ぷいっと顔を背け、蜘蛛の子を散らすように皆どこかへ行ってしまった
私たちの足元には、もう一匹のワンちゃんも残ってはくれなかった

「なんか、寂しいな……」
「わんこさんは、みんなお腹が空いているみたいですね!」
「餌がないと来てくれないってことかい」

まー犬たちにとっちゃ、私たちは突然自分たちのテリトリーにやってきたアンノウン。餌があれば寄ってくるが、それがなければ興味の対象外、ということなのだろう
実家の飼い猫(ガンコ)にめちゃくちゃ懐かれているエールが羨ましくて、私も動物と触れ合いたくてここに来たわけだが………現実は、そう甘くはなかったようだ
1125/09/26(金)20:33:25No.1357049548+
「そういうものですよ!ささっ、触れ合いたいのでしたら、今度はご飯をあげてみましょう!!」
「そうするかぁ………」

底抜けに明るい声で励ますメイケイエール。私は小さく息を吸い込み、覚悟を決める
私は保護カバーを外して木皿を取り出し、再び立ち上るささみとちゅーるの香り
右手に木皿、左手に小さなスプーンを持ち、ペースト状のちゅーるを少しだけ掬い取る
さて、どの子からにしようかな、なんて考えていた、まさにその刹那

「早っ! もう感づかれた!」
1225/09/26(金)20:33:39No.1357049632+
スプーンを構えた私の足元には、いつの間にか三匹の子犬たちが包囲している
垂れた耳が愛らしいビーグル、くりくりお目目のトイプードル、そして人懐っこそうな雑種のミックス犬
へっへっへっへっと舌を出し、餌が与えられることを待望している。三者三様の熱い視線を一身に浴びながら、一番近くまで顔を寄せてきていたビーグル犬の口元に、そのスプーンを寄せる
ガブっ! 掬ったちゅーるが一舐めで消えた!

「うわっ、わあ」
「ソングちゃん慌てすぎです!!」
1325/09/26(金)20:33:51No.1357049701+
もう一度、木皿からちゅーるを少しだけ掬い取り、次なるターゲットを探す
よし、今度は、白いトイプードルの子にあげよう
……そう思ったのに、さっき満腹になったはずのビーグル犬が、その行く手を阻むようにグイグイと割り込んでくる

「あ! こら! お前は今さっき食べただろう!!」

横取りされまいと、私はスプーンをひょいと退避させる
なんとかして、あのトイプードルに餌を届けたい
スプーンを巧みに動かし、ビーグルをフェイントでかわそうと試行錯誤するが………

「ちょっ! 誰だ君は!!」
1425/09/26(金)20:34:06No.1357049790+
ぬっと、私の視界に巨大な影
新たに現れたのは、あの凛々しい顔つきのドーベルマン
ビーグル犬とは反対側から、トイプードルにあげる用のちゅーるを横取りせんと、その大きな体をぐいっと乗り出してきたのだ

「てかこの子、服着てるじゃん!」
「服を着たわんちゃんは餌やりNGです!!」
「こらっ! あっちいけ!」

もちろん、動物相手に力任せに追い払うなんてことはできない
だからなんとか身をかわして逃げようとするも、反対側にはビーグルが陣取っていて逃げ道を塞いでいる
か、完全に詰んだ…… 逃げ場を失った私は、自分の体を後ろにのけぞらせるしかない
しかし、ドーベルマンはそんなのお構いなしに、後ろ足で立ち上がって私にのしかかってくる!
くそっ、なんでこんなアグレッシブなんだよぉ!君はダイエット中だろぉ!?
1525/09/26(金)20:34:42No.1357050025+
「た……助け………」
「パシャパシャパシャパシャパシャ」
「なに写真撮ってんだメイケイエール!!!!」
「ソングちゃん。大声禁止ですよ!」
「おま………ふざけんじゃ………早く助けてよぉ……!」

すると、颯爽と現れたスタッフさんが、慣れた手つきで私からドーベルマンを引き剥がす。「ダメでしょー」と子供を指導するような低い声で叱り、どこかへ連れて行ってくれた
私は急いで餌の木皿を保護カバーで隠し、餌が消えたことに気が付いた足元の犬たちも徐々に解散していく
胸を撫で下ろすのも束の間。私は、エールの鬼畜の所業を見逃しちゃいない
あのスタッフさんと同様に、低い声で圧をかける
1625/09/26(金)20:35:00No.1357050153+
「エール、スマホ貸せ」
「え?なんでですか?」
「とぼけるな」
「………や、嫌です!」
「早く」
「なんでですか!! この一枚も、せっかくの思い出ですよ?」

それでも彼女は、大切な宝物を守るように、ぎゅっと自分のスマホを胸に抱いた
まあいい。私には対エール必殺の呪文がある

「あと3秒で、LANEブロックと着信拒否」
「ハイ スイマセンデシタ」
1725/09/26(金)20:35:15No.1357050270+
瞬間、屈服してスマホを献上するメイケイエール。ご丁寧にパスが解除されたそれを受け取った後は、すぐにアルバムアプリから自分の恥ずかしい写真を隠滅した
後から復元できないよう、ゴミ箱フォルダも空にしておこう

「全く。この一枚がなんかの拍子で漏れたら、どうするつもりだったんだ」
「一枚くらい、残したって良いじゃないですか!!」
「ふざけんなよ…… 写真撮られること自体好きじゃないのに」
「そんなっ、すごく可愛かったですのに………」
「そういう問題じゃないの」

その言い訳で許すわけが無かろう。助けを乞う私を無視して写真を撮りやがって!おのメイ
1825/09/26(金)20:35:34No.1357050406+
さて、こんどは手のひらを使ってエサを与えてみよう
スプーン越しだけだと味気ない。もっとこう、私もワンちゃんたちと触れ合って、ぬくもりを感じたい。のしかかられるのはもう御免だがな
手のひらにささみを乗せて、ゆっくりと床にしゃがみこみ、彼らと同じ目線になってみる。「さあおいで」と、心の中で呼びかける
すると、部屋の隅で丸まっていた小さな白い毛玉が、ぴくりと耳を動かしたかと思うと、次の瞬間にはこちらへ向かって猛ダッシュを仕掛けてきた。一直線に私の手のひらへと飛び込んでくる
それは、つぶらな瞳が愛くるしい、真っ白なチワワだった
カリカリ、もしゃもしゃ。小さな口で一生懸命に、私の手のひらに乗っていたささみを食べ尽くしていく

「か、かわいいです!!」
1925/09/26(金)20:35:48No.1357050509+
「なんか、めっちゃ手を舐めてくる!」

やがて、ささみを綺麗に食べ終えたチワワちゃんは、今度は私の手のひらをぺろぺろと舐め始めた。残った欠片も、匂いも、全てを掬い取ろうとしているかのようだった
ざらり、とした小さな舌の感触。濡れていて、温かくて、そして……どうしようもなく、くすぐったい!
その小さなぬくもりで、私の心がじんわりと溶かされていくような感覚。これが……命!

「ソングちゃん! いかがですか〜〜? わんこさんに触れ合えるお気持ちは」
「………胸がキュッとして、心臓が持たないかもしれない」
「ふふっ♪ 大袈裟ですよ!」
2025/09/26(金)20:36:03No.1357050625+
その一匹のチワワが呼び水となったのか。私が続けて手のひらに少しずつささみを乗せていると、どこからともなく、いろんなわんこ達がどんどん集まってくる
私の膝にちょこんと顎を乗せてくるポメラニアン
前足で「ねえねえ」と私のズボンを引っ掻いてくるダックスフンド
少し離れた場所から、じっと健気な瞳でこちらを見つめてくる柴犬

なんだこれ
やばいこれ
ちょう楽しい………!!

視界のすべてが愛くるしい生き物で埋め尽くされ、頬が自然と緩んでいくのが自分でも分かる
日々の辛さとか、ストレスとか、全てがどうでもよくなってしまうほどの、圧倒的な幸福感
私が求めていた天国が、今目の前にある!!!
2125/09/26(金)20:36:17No.1357050712+
……そうして、時間が許す限りの間
このワンちゃん愛があふれる犬カフェの中で
私とエールはワンちゃんへの餌やりに夢中になっていたのだった
2225/09/26(金)20:36:57No.1357050963そうだねx4
舎弟リスペクト大人メイソンした
犬カフェはめっちゃ楽しいのでおすすめです
2325/09/26(金)21:09:58No.1357063930そうだねx1
久しぶりにありがたい…
2425/09/26(金)21:32:16No.1357072562+
楽しんでんじゃねぇか


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