ばちんっ! 「幸せは~歩いてこない~」 体中に電撃が走る。 「だ~から歩いてゆくんだね~」 朦朧とした意識がだんだんとハッキリしていく。 「一日一歩 三日で三歩 三歩進んで…」 見渡すと見知らぬ研究室にいるようで、体は動かせない。 黒い長髪で白衣の女の子が何やら歌いながら、パソコンを操作しているが画面は遠くて見えない。 「ここは…?」 状況を整理しようと記憶を辿る。 覚えてるのは高校の卒業式が終わって、皆と一緒にご飯を食べて、それから…。 「あ、おはよ~。じゃ、始めよっかベル」 『了解…実験補助システム、全て起動しました』 「えっ…」 目の前で歌っていた白衣の女の子がこちらに振り返ると、横に置いてあった箱からヘッドホンのような物を取り出す。 左右の耳当てが閉じる様にくっついたそれを、女の子がねちゃぁ❤といやらしい音と共に開くと、音を流すはずの場所で、小さな触手がねちょ❤ねちょ❤と蠢いている。 「ひぃっ!」 「怯えないでね~とっても気持ちいから!記録、脳深部改竄機V31.6の実験を開始する」 藻掻いて避けようにも顔は一切動かせず、そのまま触手ヘッドホンを付けられる。 触手たちはズルり❤と簡単に耳の奥まで到達して、頭の中を弄り始めた。 にゅるにゅる❤ゾリゾリ❤❤じゅりゅじゅりゅ❤❤❤バチバチ❤❤❤❤ 気持ちいいが頭の中を満たしていく❤ 「あ゛っ゛❤お゛っ゛❤❤❤」 「うんうん…改良の成果が出てる…」 あたまのなかがしょくしゅでいっぱいにあっ❤あっ❤でらーしゅ?誰?あっ❤はい❤わたしのごしゅじんさまです❤でらーしゅさまのいとでいっぱいです??❤ 「や゛っ゛❤や゛め゛でっ゛❤❤❤だずげっ゛❤❤」 「あんしんしてね~❤止めないし助けないからね~❤記録、30秒経過、第二段階に移行」 きもちいい❤きもちい嫌い❤きもちいい❤き怖いもちいい❤きもち止めいい❤きもちいい助❤ 「お゛っ゛?゛❤❤あ゛え゛っ゛?゛❤❤❤❤」 「は~い、質問に答えてね~❤お名前は~?❤」 なまえ、なまえを、これ以上従ったらおかしくな、あっ❤あっ❤こたえなきゃ❤ 「柊 怜華…あえっ❤❤???❤❤❤」 「ちゃんと答えられて偉いねぇ❤記録、自己認識の改竄を開始」 「じゃもう一個質問❤お名前は?❤」 私は柊怜、あっ❤はい、ちがいます❤❤ 「あ゛っ゛❤ぁっ❤❤あ゛?❤❤自分がどうなってるか理解も出来ないバカマゾメス…です??❤❤」 これがわたしのほん、なにそれ、名前じゃな、みょうです❤あっ❤あっ❤ 「うんうん❤その通り❤それじゃあバカマゾメスちゃんはこれからどうしたいのかな?❤」 「デラーシュさまに全部捧げて気持ちよくなりたいです?❤❤???❤❤❤❤❤」 デラーシュさまはわた、だから誰なの、分からない助け、しをつれてってくれるひと❤❤ 「ちゃんと良く分かってるねぇ❤記録、記憶外かつ荒唐無稽な自己認識も問題なく識別」 「おっ?❤おっ?❤おへっ?❤」 おんなのこはうしろをむいて、ぼうじょうのきかいをとりだします。 「これは快楽神経焼却レーザー照射装置って言ってね❤神経と人生をぶっ壊して最高のイキ方をする為の装置なんだ❤」 そういってきかいをわたしのあたまにむけて、ヤダ、助けて、わたしのてにぼたんをそえます。 「これはその装置の起動スイッチ、押したらデラーシュさんに会わせてあげるよ❤」 デラーシュさまにあえる、おさな、ダメ押したら死ぬ絶対に押しちゃ、あっ❤いとがぐちゅぐちゅいってていこうするわたしをけします❤ ありがとうございます❤ぼたんをおします❤ありがとうございます❤ありがとうございやだいます❤ かちっ❤ ──────────────────────────────────────────── ピーッと心電図が、実験体の命が終わったことを知らせる。 体をビクンビクンと跳ねさせ、無様に呆けた顔を晒しながら絶頂死しているわたしを見て、わたしはうっとりしていた。 わたしの魂と記憶を入れたこの実験体クローンは、正しくもう一人の自分だ。そのクローンを何度も殺しているわたしは傍から見れば狂人と呼ばれるだろう。いや、昔からそう呼ばれていたな。 これで何人目だろうか。三桁を超えた辺りから数えるのを止めたが、体のシリアルコードを見ればすぐにわかる。最も、必要もない事だが。 「形にはなったなぁ。ベル、記憶と魂を取り出して体は処分しといて」 『わかりました』 この子はデイジーベル。αBloodのAIを2基程拝借して調教した、わたしの助手。イニシャルは確かAとMだったかな。 「体といえば、君のボディも作らなきゃねぇ」 『必要でしょうか?ロボットアームで事足りますが』 αBloodのAI達は魂を持ったAIだが、大半は兆候が確認されただけでしかない。一番成熟しているTですら、人と比べれば儚い魂しか持っていない。 「魂は肉体があってこそ成長するものだよ。それに総室長のお相手も出来る様にならなきゃね」 『はぁ』 お相手についてベルは興味が無いように装っているが、AとMの"モデル人格"を考えれば、ふりなだけなのは予想がつく。 『…ヘドニスト、例の監視対象が近づいている様です』 「わお」 やはり人は誰しも好奇心には勝てないのだ。 そう思いながら早急に脳深部改竄機のバージョンアップを完了させ、準備を整える。 「あの子も、わたしの友達になってくれるかなぁ❤」