◇   ◇   ◇   ◇   ◇ まったくミレーンさんには困っちゃうよ…。こんだけの敵を僕一人で倒せだなんて…楽しくなっちゃうじゃん!!!!! ライトの表情が自然に笑みへと変わっていく。魔熊を右腕の刃で両断した後、オークの顔面を右手で所謂アイアンクローの状態で掴み握りつぶす…。 じゃぁ行くよぉ!!!! そこから先は味方として一緒に戦っていたはずのレンハート兵たちも身震いするような惨劇であった。 魔物たちの中で最後まで残っていた最強格のトロールをライトはいともたやすく右腕の刃で斬殺した。 事が終わり、竜が持つ本能であろうか興奮を治めるためにライトは勝利の雄たけびを上げる。 グルォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!!! 雄叫びを終え、気持ちがクールダウンしていく。目線を徐々に中空から下に降ろす…。 するとそこには一人の少女がいた。 ライトにはとても懐かしい思い出の中にいた少女が…。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 年の頃はライトと変わらない頃合い。逃げ遅れたのかそれとも魔獣に襲われかけたのか地べたにへたりこんだまま彼女は動けずにいた。 「おい、あんなところに生存者が…」 「でもあのバケモンの近くですよ!どうすんですか!」 生き残った衛兵たちの口論が聞こえる。 「ごちゃごちゃ抜かすな!あいつはとりあえず俺たちの味方だろ!」 現場の責任者であるジミーダ=ハンパーが近づいてくる。 「あの?! 大丈夫でしょうか…?」 部下を一喝した彼であっても耐えがたい緊張であったんだろう、ジミーダはそんな曖昧な言葉しかかけられなかった。 それとは逆にライトはとても冷静に答えた 「この子、怖くて腰抜かしちゃったみたいなんです。すみませんが安全なところに連れて行ってもらえますか…」 そう言うとライトは隠していたドラゴンの羽を展開させ中空へと消えていく。 「(ジミーダさん…サキちゃんをお願いします…)」 「あれはライトか?」 暴漢を衛兵に突き出し戻ろうとしたミレーンが見たのは、高速で飛んで逃げていくライトであった。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ モトマトー南端ほぼ人の寄り付かないスラムを覆う城壁の上、ブラックライトはここにいた。 「やっと見つけたぞ!面倒かけやがって」 息を切らせながらミレーンが城壁を登ってくる。 膝を抱えて座り込むライト。明らかに何かがあった様子だ。 何があったのかミレーンが聞こうとする前にライトがつぶやいた。 「すみません…。僕やらかしちゃいました…。ミレーンさんから頼まれて戦ってる内に段々と興奮してきて、楽しくなって、そんで気持ちよくなって…。全部終わって高笑いしたら、そこに知ってる子がいたんですよ。で、その子、信じられないような物見るような顔で僕を見るんです…。あちゃ~やっちまったぁーって。笑っちゃうでしょ…」 ライトはおどけた物言いで苦笑いをしている。おそらく泣いてしまうのを必死に食い止めているようだ。俺は彼に何も言えなかった…。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 時間が経ち、太陽は日没になりつつある。落ち着いた様子のライトに俺はこう言った。 「お前も会いたくない人に会っちまったんだな…。実は俺も会いたくない人と顔を会わせてしまってここにはいたくないんだ…」 無言でライトはうなずく。 「じゃあこんな時間だけど今からトンズラ決めるか。できるだけ遠くに逃げよう。この分だと野宿になるけど、まぁいつものことだしな」 「だったら僕に任せてください…」 ライトはドラゴンの羽を展開し、俺を抱えながら飛んでいく。 お前こんなことできたの? 今更ながらのカミングアウトにビビりながらも俺は空中散歩を堪能した。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ モトマトー北端、乗り合い馬車ロータリー近くの路地。あのビジネスマン風の男はそこにいた。 「(あんなずさんな計画成功するとは思ってませんでしたが、とりあえずそれなりの利益を得たから良しとしましょう。脳みそお花畑なこの国ならいくらでも揺さぶりようはありそうです…)」 彼が木箱に座りながらぶつくさつぶやいていた時、ほほに冷たい刃の感触が伝わる。 「おい俺が誰だかわかるか?」 「あ、あの誰でしょう…?」 「お前達が名前を騙っていたヤン=デホムだよ…」 「ここからお前にできる選択肢は二つある。前者は俺に精一杯の謝罪をし、なます斬りにされた後、有り金とその面倒なブツを俺にいただかれること。後者はこれからやって来る女二人に捕まってボコボコにされて全部ゲロすることだ。どっちがいい?」 「えっ、あっ、あのっ、後者!後者の方で!」 ビジネスマン風の男がそう言った時に二人の女が現れた。 「ハァハァ…、こいつなんて逃げ足の速さなの…。私と王妃様の二人がかりでも捉えられないなんて…」 女二人とはレンハート王国王妃シュガーとその専属メイドのハナコであった。 「こいつが今回の事件の黒幕だ。これで俺の容疑は晴れたな。ったく何日も前から俺のことを付け回しやがって…」 「おいシュガー!ユーリンの奴に言っておけ。お前が呑気に歌っている間にめんどくさい連中がこの国に入り込んでるぞ。王様でなく勇者の仕事を全うしろとな!」 「あっ!ちょっと待て!お前には色々容疑がっ…」 ヤンを追いかけようとしたハナコをシュガーが押さえる。 これは彼女なりの礼であり危険信号なのだろう。 堕ちたとはいえ勇者の肩書を持つヤン=デホム。一筋縄ではいかない男であることは確かだ。 「なんだかんだ結局王様の言う通りでしたね…」 ハナコが悔しそうにこぼす。 『ヤンの奴がメロのライブを襲う?! あいつがそんなことするわけねぇだろ! アホでキモいストーカー野郎だけど、俺以外の奴には手は出さねぇよ。正確に言うと俺以外の奴は全く眼中にないだけなんだけどな』 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ レンハート王城内、ユーリン王の執務室。 今回の事件に関する調書が上がってきている。 「結局背後関係は不明というわけか…」 「捕らえた売人も結局、ウァリトヒロイで得たアイテムをこちらで使っただけの小悪党のようでして…」 「物体を縮小して持ち運びを容易くする魔道具。部下はリアル魔ケモンボールだなんて言ってましたが、こんな物が戦争にでも使われたらたまったもんじゃありません」 「おそらく手口的にウァリトヒロイの反社会組織が関わっているかとは思います。ですので今後も警戒は続けて行くつもりです」 事件の捜査に当たった大臣、キミー我聞が答える。 「そうか…で、俺にできることはないのかな?」 「ないです! 我が君には建国周年記念のライブのレッスンを行ってもらいます」(キッパリ) ユーリンはキレた。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 「あれだけのことがあったんだ、メロの様子は大丈夫か? 何かPTSDとか発症してないか???」 「おかしいかどうかわかりませんが、助けてくれた人にもう一度会いたいって言ってました。何か覆面被った聖騎士の人らしいんですけど…」 ハナコが答える。 「何だぁぁその馬の骨はぁぁ! お父さんそんなの許しませんよぉぉ!!!」 メロの自室。小窓から満天の夜空を見ながら彼女はつぶやく…。 「レンハートマンホーリーナイト…。どこか懐かしい雰囲気のする人…。ひょっとしたらこの先どこかでまた会えるかもしれませんね…」 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ レンハート郊外の名も知れぬ河原。ミレーンとライトはここで一夜の宿を取っていた…。 「(とっさに名乗ってしまったレンハートマンホーリーナイトだが、よくよく考えると… レンハートマン=レンハート人 ホーリーナイト=聖騎士 となって、しれっと自分の事バラシてるんじゃねぇのかこれ…)」 そんなことを考え始めたらコージンは今日も眠れなかった。