二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1756906850036.png-(174355 B)
174355 B25/09/03(水)22:40:50No.1349733169+ 00:11頃消えます
私だけが日常に戻っていた。

スティルインラブは、もう居なかった。

あれから学園へは行っていない。自室に篭もり黙々と作業を進める。一切の生活音が無い室内にキーボードの打鍵音だけが虚しく響いている。

部屋の外にさえ出る気にはならなかった。それよりも彼女が歩んだ道のりと輝かしい功績を早急にまとめ形に残しておきたかった。彼女の事が人々の記憶から忘れられてしまう事など絶対にあってはならない。

ンラブスティルインラブスティルインラブスティルインラブスティルインラブスティル

彼女の軌跡を着実に綴る。いつから書き続けているのかもう分からない。肉体は疲労を訴えている。疲労というよりもはや悲鳴に近い。だが強い意志と衝動が悲鳴を退け身体を動かし続けている。

突如として視界が霞む。眠気ではない。こみ上げる涙が視界を乱していた。まただ。時折流れる涙だけはどうにも止める事ができなかった。私は深い溜息を吐き、一度手を止め、洗面所で顔を洗うことにした。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/09/03(水)22:41:09No.1349733281+
洗顔を終え鏡の中の自分を見る。顔は青白く頬はこけ、眼は充血し表情は虚ろで生気を感じない。眼前の鏡が映す人物は死人のようだったが、あの狂気に身体を蝕まれた日々と比べれば今の状態はまだまだ健康そのものだった。まだやれる。そう思いつつ眼を閉じタオルで顔を拭いていた時だった。

何かが、いる。

異質な、何者かの気配。すぐ後ろにいる。

誰だ。学園の職員が様子を見に来たのか。別の人間か。鍵は何重にも掛けたはずだ。様々な憶測が浮かぶ。思考は十分に働いた。だが身体は完全に萎縮しており金縛りにあったが如く静止していた。

ふと思いだす。そうだ。この洗面所には今の私の唯一の味方がいた。目の前にある鏡だ。身体が動かずともこの鏡を私の第二の眼にすることができる。部屋の隅の塵にすら悟られないよう自然に、ゆっくりと目を上げ正面の鏡を凝視する。

瞬間、全ての感情が吹き飛んだ。

スティルインラブ。

鏡が映し出す景色の先、僅かに映し出されているリビングに彼女が居た。遠征する時、二人で外出する時、彼女が好んで着用していた服。間違えようもない。幾度となく見てきた彼女がいた。
225/09/03(水)22:41:43No.1349733476+
石像のように微動だにしない彼女はリビングに立ち尽くし私に背を向けている。それ故に表情を追うこともできない。

なぜ、きみが。

言いかけた言葉を呑み込む。声ひとつ出しただけで煙のように消えてしまいそうな儚さと寂しさを彼女から感じたため、私は声を掛ける事も、振り返る事も、瞬きひとつすることもできなかった。

スティルインラブの視線の先を追う。彼女はリビングの壁を見ていた。

違う。リビングに掛けたコルクボードを彼女はじっと見ていた。コルクボードには一枚の写真がピンどめされていた。メイクデビュー戦を勝利した後、彼女と共に撮った写真だった。

雲一つ無い晴天の下、写真の中で私はかつて漲っていた活力を誇示するかの如く空に向かって両手を突き上げ、これ以上は出せないであろう笑みとともに隣に立つウマ娘の勝利を心から祝福している。

写真の中の彼女は、いつものように遠慮がちに、ただとても嬉しそうに私と並び立ち、笑っていた。

スティルインラブは、とうに過ぎ去った一枚を寂しげに見続けていた。
325/09/03(水)22:42:29No.1349733754+
スティルインラブは悲しみを背負っていた。

スティルインラブは自身を責めていた。

スティルインラブは、私の幸せを願っていた。

愕然とする。自分は、何もかも間違っていたのだ。

「スティル」

意を決し鏡の中の彼女へと声を掛ける。ほぼ同時に彼女の姿は見えなくなった。再び溢れ出した涙をもう一度タオルで入念に拭った。

忘れていたものを心の奥底から全力で掴み引き揚げる。眼を閉じたまま彼女がまだどこかにいると信じて言葉を続けた。

「全力で生きるよ。生きて。生きて。きみが幸せになるくらい生きる事にするよ」
425/09/03(水)22:44:01No.1349734286+
眼を開く。すぐ目の前、鏡の中にスティルインラブは居た。指が触れられそうなほど近く、すぐ隣に彼女がいる。鏡の中から私を見つめている。

いつもと何も変わらない彼女がいた。笑顔を浮かべ鏡の中から私を優しく見守ってくれている。それに応えるように自分も今できるいちばんの笑顔を見せる。

彼女は穏やかな笑顔を浮かべ、嬉しそうに目を細めていた。

会話こそできなかったものの、私はいつまでもスティルインラブを見つめていた。スティルインラブもいつまでも私を見上げていた。それだけで気持ちが落ち着いていくのが分かった。

次第に耐えられないほどの強烈な眠気が急激にやってきた。意識が朦朧とする。執筆のため抑えこんでいた疲労が反逆を始めたのだ。

限界が近い私の身体を支えるように鏡の中の彼女が身を寄せているのが見える。意識が曖昧になってきているせいもあるのか彼女が本当に傍にいるようだ。ふたりの小指が絡みあった気さえした。

意識が遠のく。しばらく忘れていたひとときのやすらかな暗闇が迫っていた。おやすみ。スティル。想った瞬間、声が聴こえた。

『おやすみなさい。あなた…』
525/09/03(水)22:44:25No.1349734412そうだねx14
その後もよくお傍にいるみたいです
625/09/03(水)22:45:51No.1349734885そうだねx4
こういう形でおそばにいるのもいいよね
725/09/03(水)22:46:40No.1349735147+
もうちょっと派手に現れてくれてもいいんだよ?
825/09/03(水)22:46:47No.1349735192そうだねx3
送り返す説も綺麗だよな
925/09/03(水)22:46:58No.1349735252+
夢の中なら逢えるよ
1025/09/03(水)22:47:25No.1349735399そうだねx2
大丈夫?普通に影が薄くなってるだけじゃない?
1125/09/03(水)22:54:42No.1349737854+
ホラーかと一瞬身構えたが優しい話で助かった
1225/09/03(水)22:59:58No.1349739768+
なんか切ない感じですね…
1325/09/03(水)23:00:33No.1349739993+
でもこれ普通に不法侵入ですよね?
1425/09/03(水)23:04:36No.1349741358+
1525/09/03(水)23:08:31No.1349742661+
>でもこれ普通に不法侵入ですよね?
霊体だから…
1625/09/03(水)23:14:23No.1349744627+
鏡に映ってるし招き入れなくても入ってきてるから吸血鬼ではないと考えられる
1725/09/03(水)23:22:51No.1349747422+
トレーナーさんからしたら幻覚なのか本当にそばにいるのか分からないのではとか一瞬思っちゃったけどこの調子なら別にそんなこともなく大丈夫そうだな
1825/09/03(水)23:23:46No.1349747779+
変な言い方かもだけどこういうの見ると離別エンドでもよかったな幸せだったなって思った
1925/09/03(水)23:27:07No.1349748874そうだねx4
あの世界なら何らかの形で憑いてきても全く不思議じゃない
2025/09/03(水)23:27:33No.1349749016+
ひとりだけ還ってきたら気が狂っちゃいそうだけどたまに来てくれるならなんとか割り切っていけるかもしれない…
2125/09/03(水)23:28:10No.1349749213+
憑いてく…憑いてく…
2225/09/03(水)23:36:40No.1349751794+
>あの世界なら何らかの形で憑いてきても全く不思議じゃない
カフェのお友達が公式にいるのがデカすぎる…
2325/09/03(水)23:38:15No.1349752246+
出来れば毎晩いて欲しい
満月には現世に帰ってて欲しい
2425/09/03(水)23:53:27No.1349757158+
>出来れば毎晩いて欲しい
>満月には現世に帰ってて欲しい
そういうの悪霊って言うんですよ…
2525/09/03(水)23:55:25No.1349757703そうだねx3
そばに立つもの!
スタンドと呼ぶ!
2625/09/03(水)23:57:51No.1349758492+
>そばに立つもの!
>スタンドと呼ぶ!
スティルインラブが急にスタンド名に見えてくるからやめろ
2725/09/03(水)23:58:43No.1349758743+
競走馬の名前ぐらいならスタンド名の元になってそうな気もする
2825/09/04(木)00:00:33No.1349759356+
>競走馬の名前ぐらいならスタンド名の元になってそうな気もする
馬名→曲名→スタンドの流れかな…


1756906850036.png