彼に向ける目は、仕事上の付き合いを遥かに超えた甘い熱を帯びていた。 けれどあくまで外面では、彼女は努めてそれを隠そうともした。 教え子たちにそのことを見抜かれていたとしても、時折艶声の出るのを止められなくても。 なればこそ、夜の訪れるのが待ち遠しいのである――そこでは彼女は一人の女になる。 待ち遠しいように帽子を脱ぐ。赤い髪がさらりと鈴の音を奏でる。 そして一言を交わす暇すら惜しく、彼女は愛しい男の唇に熱烈に口づけた。 その姿は雛が親鳥に嘴を伸ばすのと何も変わらなかったし、 舌の上に残る彼の唾液を一滴たりと漏らすまいと喉を鳴らす様などは、 日がな砂漠を歩いた旅人がようやく水にありついた姿を思わせるのである。 舌を絡め、舌をねぶり、しかし女の目は、常に不安げに男に注がれていた。 こんな甘え方をして我慢の利かぬやつだと軽蔑されはすまいか。 日ごとに彼の肉体の一部の不在に耐えられなくなっていく己の浅ましさは、 既に教鞭をとる資格を失わせているのではないか――目端にはじんわり涙が滲む。 この時間が幸福であればあるほど、彼女はそれ以外の時間の不幸さを呪った。 慰めるように頭を撫でてくる彼の指の、固く、しなやかな動き――髪を梳かれ、 強張った感情はゆっくりと、“今”を愉しむための柔らかさを取り戻していく。 男の胸板に押し付けられている柔らかでたっぷりとした大きな乳房は、 その内側に迸る情熱によって、既にじんわりとまんべんなく汗をかいていた。 鼓動が耳の裏まで届く。全身の火照り、上がった息、もどかしさに裂けそうな肢体。 先程散々に彼の唾液を飲み込んだはずの喉はもうからからに渇いて粘りつき始め、 彼女の口の中で、上顎と下顎をつなぐように幾筋もの糸を引いては切れていた。 そして下腹部に押し付けられているもの――下着と服を通してさえ、 一拍一拍の脈が如実に伝わってくるようである。今にも破裂しそうな、爆発的な―― なけなしの唾液が、無意識に喉の下へ降りていった。恥ずかしいほどの音を立てて。 女の指先は急いて、自ら裾を捲り上げようとひくひく動く。 それを男は上から包み込むように握って、優しく、強く制止した。 もう一方の手で、彼女の服の裾を強く掴みながら――それは自分の役目だ、と。 あっ、と一声、吸い終わるより先に彼の手は勢いよく彼女の服を捲り上げる。 赤い包みの中の白い肌が表面にしっとりと水滴を蓄えて、 黒い鞘に窮屈そうに収まっている姿が、途端に彼の目の前に晒された。 こうなることを予測して――自ら望んでいてさえ、羞恥の赤は頬を染める。 彼の指が、下乳の汗を拭いながら――ゆっくり沈んでくる感覚に、 女はほとんど泣きそうなほどに、だらしくなく大きい己の乳房を恥じた。 服の中に籠もっていた雌臭い体臭が彼の鼻腔に絡みつくのを恥じた。 だが、彼はそれを責めるどころか、言葉を尽くしてその下品な重さを褒めるのである。 さらに服を捲くられて、彼女の身につけているのはもう下着一対きりだ。 男の指は、どちらから降ろそうかと楽しげに揺れているのに対して、 それがいずれかに向こうと止まるたびに、女の肉体は緊張に震えた。 大きな胸も。それに負けない尻も。細く絞った腰も――それら全ては、彼のためのもの。 いや、彼の精を受けて――命を繋ぐ営みのために、あるもの。 男の指が下腹部、臍下の――まだ目的を果たせていない箇所の直上を撫でながら、 彼女にその意志の有無を確認したとき――返事より先に、甘えた声が飛び出していた。 まだ下着の中に収まっている乳房は、彼が下からたぷたぷ叩くだけでこぼれそうで、 谷間の湿り気は一層増したようだった。そして留め具が外れるや否や、 彼の掌に着地した肉塊は、自重を支えるのも億劫だとばかりに水平に広がる。 乳房同士が左右に――そして下方向にも動いていくことによって開いた谷間は、 そこに濃縮された彼女の体臭を、一気に彼の顔に向けて吹き上げた。 男の鼻の穴がひくり、と動くのを見て、女は一層の羞恥に囚われた――が、 彼の口端から歯列の覗くのを見ると、自分の肉体に興奮してくれている、という事実、 異性との間に子を成すという雌雄の本懐を果たせることへの悦びがそれを上回る。 さらに雄々しさを纏う彼の性器が、今にも自分の最奥を蹂躙する様を――夢想する。 男は彼女のぷっくりとした乳首に唇を当て、歯列を当てながらころころと舌で転がした。 一吸いごとに電流が走る。視界がちかちかと明滅し、腰が砕けてしまいそう。 今、彼のためだけに在るこの胸は――直に、彼との間の子のためのものになる。 けれど、彼女自身そうできる気がしないのであった。彼が母乳を要求したならば、 我が子に注ぐ分さえも、すっかり彼の玩具に供してしまいそうな己を自覚していた。 どうしようもなく、彼に、求められている、ということを嬉しく感じてしまっている―― 無意識のうちにむっちりとした両腿を擦り合わせながら、彼女は“次”を待った。 唾液と歯型で白と赤とに乳頭周りを飾られた後で、彼の指が下へ―― 濡れる、を通り越して溺れたような有様になった陰唇に触れられるたびに、 興奮と羞恥に何度も息が詰まりそうになって、目を白黒とさせた。 それでも、指先がとぷん、と蜜の内に沈む感覚だけははっきりとわかる。 こんな姿、教え子に見せられるか――と彼の声が妖しく耳元に響くと、 ぞっ、とするような――冷たさが背中を通り過ぎて、のぼせた脳を冷やす。 彼女のいる島に、教師は一人きりだ。教え子は何人もいるというのに。 そしてそのたった一人が身重になったからといって、子供たちの大切な時間を、 一年も――それどころか一分一秒たりとて無駄にすることなどできない。 “ここ”に生命を宿したまま、人前に出る覚悟はあるか、と、問われているのである。 理性ある大人としては、わざわざこの雄に妊娠させられましたとの証を抱えて出歩けない。 だが、もし――その姿を、彼女たちが、まだ恋を知らぬ乙女が見ればどうだろう? 幸せを胎一杯に詰めた自分を、教え子たちはどう思うだろうか。 そんな想像が一度頭の中に産まれてしまうと、祝福の目で見られる喜びと、 裏腹の軽蔑の目で見られる被虐的な喜びとが、激しく点滅するように入れ替わる。 どちらになったにせよ、みっともなく孕まされた己の姿は、酷く魅力的に映った。 はやく、“ほんとう”にしてほしい――と、雌の本能が疼いてたまらなかった。 愛し合うもの同士の、絆を確かめるようなこれまでの行為とは違う。 雌が、雄の子を孕むために相手の全てを受け入れて支配されるための行為である。 彼の前に一糸まとわぬ姿をさらけ出して、今からこの人に――一生を捧げて、 何人もの子を生して産むのだと思うと、それだけで女は軽く達した。 下腹部に添えられた彼の性器の、あらゆる全てを制するような存在感にも。 陰唇が押し広げられて、膣内を焼けた槍で刺し貫かれる感覚に、全細胞が悦んでいる。 まだ半分も入っていない。なのに、既に子宮の奥まで埋まってしまっているかのようだ。 だが当然、男は待ってくれない。ぎち、ぎち、ぎち。より深く、奥まで、挿れる。 そしてようやっと挿入が止まったかと思うと、その余韻を虫のように踏み潰して、 勢いよく引き抜きながら、抜くのと同じ速度でまた最奥まで打ちつけるのであった。 一度開いてしまった膣道は、その往復を止められない。縋り付くような襞の蠢きも、 彼の抽挿には何の影響も与えずに、ひたすら、快楽を押し付けられている。 腰と腰がぶつかるごとに、悲鳴のような声が漏れる。脳細胞のざわめきが聞こえる。 完全に、彼の精を受けて――胎を膨らませ、乳を垂れ流すだけの存在へと、 かつては軍人として、今は教師として在った女が、作り変えられていく。 壊され、溶かされ、捏ね回され、新しい自分へと心身が変わっていく最中の、 寸断され霧散していく自我の断末魔に他ならないのであった。 言葉にならない恐怖に耐えるために、女は彼の背中に両腕を回して抱きつき、 やがて彼の子のために乳を蓄えるための乳房を胸板に擦り付けて、甘えた。 唇を尖らせて口付けをねだり、少しでも胸中の渦を鎮めてくれるよう求めた。 その可愛らしい要求を男は一つ一つ誠実に実現してやる――誰のために? 一際激しくなった腰の動きは、この時間の終わりを意味していた。 蕩けた頭にも、そのことはわかる。ただ、女は必死にしがみついている。 次に辿るはずの復路がなく――彼女にとっては永劫に等しい間の空いたあとで、 これまでになく生物的に脈打つ彼の性器のもたらす振動に、女の身体は震えた。 避妊具越しの、あるいは安全日を狙いすましてのお遊びのような性交ではない、 本当に、妊娠させるための――濃く、分厚い、精液の津波。 この一度の射精だけで、一切疑う余地なく妊娠が確定したかのように思えたが、 男は最後の一滴が彼女の胎内に無事呑み込まれていったのを感触だけで確かめると、 にたりと笑って下腹部を撫で――この一回だけじゃ足りないだろう、と呟いた。 そして女がその言葉を理解するより早く、また性器を奥へと突き立てて穿つのである。 絶頂の余韻にあった彼女の四肢は、もう思い通りには動いてくれない。 不安を紛らわせるために彼に抱きつくこともできない。口付けをねだるのが精一杯。 けれど男はそれにも応じてはくれず、道具に成り果てた彼女の肉体を使う。 彼のものになる、のがどういうことか――ただ、思い知らされる。 その日以来、夜の意味は変わった。愛の確認などというままごとの時間ではない。 一対の雌雄が、目的を持って交わるための、生々しい時間に変わった。 夜ごとに、昼は涼やかなる声を奏でる喉から――獣のような嬌声を絞り出され、 年号、数式、公理、それら何一つ言うこともできず彼への愛の言葉を誓うだけにされる。 肌と肌の境界があやふやになり、心と心の境界もまた曖昧になっていく。 子を作る、という一つの目的のための、一塊の何かに変わってしまったかのよう―― 嘔吐感と疲労感、心中にふいに起こる小波。その正体に彼女が思い至り、 やがて手を添えるだけでもそこに生じた曲線を確かに感じられるようになると、 男は己の口端をよりにたにたと露骨に歪ませ、目的の成ったのを寿いだ。 妊娠できてうれしいか、と彼女に問いかけて――曇りない笑顔で是と答えると、 彼の笑顔は、人としての喜びを超えた、何か暗いところからの空気を纏うのだった。 だからといって、彼が彼女の身体を求めることをやめることはない。 胎を気遣うという名目で――口づけをしながら胸全体を揉み尽くして性感帯に仕立て上げ、 乳首をつねられることはおろか、乳輪の外と内をとん、とん、と指で跨がれるだけで、 容易に達せてしまう堪え性のない雌へと彼女を作り変えた。 尻穴も彼の性器をやすやすと呑み込めるように仕込まれたし、舌と手での奉仕技術も、 元々覚えのいい彼女が覚えきるまでに、何の苦労もかからなかった。 妊娠によってより大きさを増した乳房で挟んでの奉仕も――当然覚えさせられている。 半年もせぬうちに、彼女は彼専用の娼婦のように淫らな肉体と振る舞いを身に着けて、 夜になれば自ら乳と胎とを揺らしながら、彼の精をねだるようにもなったのである。 そのような立ち振る舞いは、昼の間の――教師としての時間にも浸食を始めた。 男が助手として彼女の仕事を“手伝う”というのは一年前と変わりもしなかったが、 熱っぽい視線を彼に頻繁に投げかけるだけでなく、授業の真っ最中であったとしても、 子宮が疼いてしまえば、口付けをねだり胸を触ってくれるように求めた。 そして中断のたびに――おおよそ教職者には相応しくない乱れた姿を教え子の前で見せ、 教科書の上に、甘ったるい乳汁の飛沫を吹き散らすのである。 つがいを見つけた雌は、結局こうなってしまうのだと実演して――人目も憚らず、甘える。 教え子たちは、師の痴態に釘付けになっていた。何一つ誤魔化しの入らない、 生殖、というものの行き着く果てを目の前で見せられているのだ。 ごく自然の成り行きとして――生徒に見せるのは、口づけや愛撫に留まらなかった。 彼によって使い込まれて黒々と育った陰唇を自ら開いて雄を誘い入れ、 臨月の胎に思いっきり性器を突き立てられながらも、止まることのない絶頂に溺れる。 自分たちも大人になれば――してもらえれば、ああいう風になる、なれる。 そんなことを思うと、初潮からそう経たない若い雌達の子宮は生意気にも疼き、 目の前で激しく出入りする“それ”が自分の中に入ったらどうなるか――と、 いまだ知らぬ感覚を想像しては、無意識にくちゅくちゅと縦筋を指で擦る。 男は身重の、既に自分のものにした雌をたっぷりと堪能しながら、 そこに無防備に幼い雌をさらけ出す肉穴二つにも、ぎらついた視線を向けていた。 どろり、と塊になった精液が黒を跨いで垂れる――粘ついたそれは、 それそのものが蓋になるかのように重たく、女の胎内にしつこく残っている。 ゆっくりと分泌されゆくその様を、少女らは食い入るように見つめた―― そして見られている孕み穴は、その膣道の奥に赤子がいるのだと、 己の肉体を教材として、荒くなった息を整えながら教えてやるのである。 これが胎の中に出されただけで、こんなに大きく重たく育つだなんて―― 生命の神秘を目の当たりにすると、それと同じものが己にも付いているのが不思議になる。 果たして同じように機能するのかどうか、少女らの好奇心は燃え上がるのだった。 二匹の新しい穴をゆっくりと指でほぐしてその感覚を覚え込ませながら、 男は半日ほど前からいきみ始めた女の様子をじっと見守っていた。 安産型の尻は、よもや産むのに苦労はすまい――が、痛みがなくなるわけではない。 しっかりと拡げてやった産道をさらに拡げて、赤子が奥の奥から這い出てくる。 その苦痛は、快楽に蕩けきった彼女に束の間の正気を取り戻させるであろう。 どうして自分は今、子を産んでいるのか――そんな疑念も起こすだろう。 けれど排臨まで辿り着いてしまった今、その思考に何の力と、意味があろうか? 永遠の愛と、子宮での奉仕を誓った雄の前で、雌が超えねばならない最後の山場、 それを教え子に見せ――良き手本になるのが、教師の本懐であろう。 師の悲痛なるいきみ声を聞きながら、むしろ少女らは胸の高鳴りを感じていた。 必死に、自分たちに女としての全てをさらけ出してくれていることへの感謝の念、 自分たちが往くべき道程を目の前で歩いてくれていることへの、尊敬の念。 早くこうなりたい――ずるい――そんな想いも、混ざっていたことだろう。 毎日丹念に男によって刺激され続けた彼女らの未成熟な膣口は、 ようやく、彼の指の先端一本分が入るようになった――だが、まだまだだ。 真の大人になるには、彼のような大人の男の性器を奥まで咥え込めないといけないし、 それによって処女を相手に捧げて永遠の奉仕を誓わねば、真の雌にはなれぬのだ。 師が実演していることが、どれだけ遠い道のりであるかを、少女らは改めて思う。 赤子の肩までが抜け、一息ついたように、ずるん、と残りが出始める。 終わりの近づいてきたことに、女は安堵した――だがまだまだ始まったばかり。 一人産んだ程度で満足してはいけない、孕める限り彼に奉仕するのが自分の役目。 それを教え子たちに示さねばならぬのだから――何のために? 臍の緒と胎盤だけを残して赤子の全体が出ると、少女らは感激のあまりに泣き出した。 女もまた、産婦がどうするかの手本を見せるために、最後の気力を振り絞る。 空虚になった心身は、ほんの一瞬、疑念を起こして――すぐ、母性の奔流に満たされる。 彼と出会ったのはいつで――なぜ、彼を愛するようになったのだったか、と。