「あ痛ぁーーーっ!!?」  拝啓、お母さん、お父さん。  ダンス教室の帰りに気づいたら知らない場所にいたあたしですが、何といきなりミサイルをぶち込まれました。  大変に痛いのですが、どうにか生きています。 「んもーっ!! なにさ、何でこんなとこでボサーっとしてんのさぁ!」  しかもこのミサイル、しゃべります。 「オマエのせいでボク墜落しちゃったじゃないか! どうしてくれるんだよ!」  そんなこと言われても。 「そうは言っても……そもそも、墜落して何が困るの?」 「それは! それはぁ……えっと、なんだっけ」  わからんのかい。 「そんな自分でもわからないようなことで怒られても──」 「っあーーーー!! そうじゃなくって! そうだった! ボクはあれに追っかけられてるから、落ちるわけにはいかなかったんだよ!」 「え?」  そのミサイルが指差す方向に振り返る。キュルキュルキュルと、聞いたことのない金属音がする。重い何かが草を踏みつける音、バキバキと枝か何かが折れる音。 「……せん、しゃ?」 「ハハッ、落っこちたカモ発見だぜ〜〜ッ!」  タンクモン!  傭兵デジモンの異名を持つ戦車の姿をしたサイボーグ型デジモン!  必殺技は砲身から強力なミサイルを放つ「ハイパーキャノン」だ! 「やばい、やばい、ヤバい〜〜〜〜っ!! 食べられちゃう! ホラ早く逃げて!」 「ええ〜〜……」  困りはしたものの、目の前にいるのはどう見ても戦車だ。どう見たってこの小さなミサイルの体当たりじゃ済まないくらいの痛い目に絶対にあわせてくるだろう戦車。逃げなきゃいけないのは見ただけでわかる。  そっこー立ち上がって走り出す。ダンスシューズ、履いてきたままでよかった。 「おらおら、逃げてんじゃねえよッ」  それは見た目よりずっと早くあたしたちを追いかけてきた。小さなミサイルを抱えたままただ走り続けるのはどう考えても無謀だ。 「ねえ、ねえっ! あれどうすればいいの!? どうにかなんないの!?」 「そんなのボクも知らないよ! オマエボクより大きいんだから何とかしてよ!」 「な、なにそれー!?」  体が大きいだけでなんとかできたなら、人間鍛える必要なんてないんだよう!  今はとにかくどうにかして、あの戦車に見つからないように逃げなくちゃ。でも、足が……もう……疲れて…… 「きみだけでも飛べないのぉ……」 「速さが足んないよ……せめて、進化でもできれば──ん? なにオマエ、その光……わあっ!?」  まぶしい光が走る。そのあまりの眩しさに、あたしもこのミサイルも、あの戦車もどうやら一瞬止まったようだった。 「ミサイモン進化!! スパロウモン!!」  そして、光が晴れたと思ったら、  あたしは、大空にいた。 「きゃーーーっ!?」 「舌噛むよ! 口閉じて! そんでちゃんと捕まって!」  言われた通りに、自分を乗せている……飛行機……? に、ぎゅっとしがみつく。さっきまであたしたちを追いかけてきていた戦車はもう、ずっと遠くに離れていた。 「ふーっ……ここまでくれば、もうボクたちを追いかけてこないでしょ。あ、大丈夫?」 「だっ、大丈夫ぅ……」 「よかった。うんと……とりあえずもうちょっと遠くまで逃げてから降りるよ」  / 「じゃあつまり、きみはデジモンで、あたしのおかげで、進化? して、その……」 「スパロウモン!」 「そうそう、それ。スパロウモンになったから、空を飛べたってこと?」 「そ!」  なんだか訳がわからなかったが、どうにも彼が運良くミサイルから戦闘機に進化したおかげで逃げ出せたらしい。ラッキーだ。 「で、そのときなんだけど。オマエの……」 「ちょっと、そのおまえっていうのやめて欲しいんだけど。あたしにはエミって立派な名前があるの!」 「あ、ゴメンゴメン。エミの足から光が見えたんだ」 「光……?でもポケットには何も入れて……うん?」  ごそごそとポケットを弄れば、そこにはころりとした機械。なんだろうと手に取ると、ピロリロとご機嫌に音を立てた。 「ぢぎもん……でてくと…ぢすこべー……えっと? 『D-3』?」  光る画面に表示されたのは、なんか読めない文字列と、「D-3」という文言。 「なんかよくわかんないけどすごそうじゃん! きっとエミがこれを持ってたからボクも進化できたんだよ!」 「へえ〜そうなんだ」 「ねぇエミ! ボク、エミについてっていい?」 「えっなんで?」 「エミについていけばボクはまた進化できそう! エミはボクがいればまたさっきのヤツみたいなのに追いかけられても逃げられる! ウィンウィンの関係ってヤツだよ!」 「え〜しょうがないなぁ。わかった、家に帰るまでだよ?」  あたしはこの時まだ、理解していなかった。  あたしが今いるのは異世界ってことにも、デジモンの危険さにも。