「スウォームハグルモン、お前に命令だ。リアルワールドに行って人間を1万…いや、2万ぐらい殺してこい。」 「ワレワレにお任せを、イレイザー様。」 「女か子供を狙えよ?その方がインパクトがあるからな。」 ─────リアルワールド侵攻から数時間前のスウォームハグルモンの会話ログより ━━━━━━━━━ 「なんだこれ…顔っぽいのがついた…デカい歯車…?」 ”それ”を見つけたのは、ある日の学校帰りだった。 「他のところにも似たようなの落ちてる…マジでなんなんだ?」 半壊してボロボロになっている、ロボットのような何か。 なんのために作られたものなんだろう…気になるな。 昨日この近くで大規模な爆発事故があったって聞いたけど…関係あったりする? 「…持ち帰ってみるか。」 俺は、それのパーツらしきものを集めて持って帰ってみることにした。 …けど、まずは一旦家から台車持ってこないとダメだな。 ───────── 「昌宏、お前また変なものを持ち帰ってきたのぅ」 「じいちゃんはこれ、なんだと思う?」 「ワシにはさっぱりじゃ。」 持ち帰ってきた”それ”をじいちゃんに見せてみたけど、やっぱり何かはわからなかった。 俺はそれを自分の部屋に持ち込み、一旦よく観察してみることにした。 落ちていたのは主に3種類。 まず、この…なんだろう。本体とでも言えばいいのかな… 大きな歯車の形をしていて、顔のようなものがついている。 その顔面の右半分には風穴が開いている。まるで大剣で貫かれたみたいだ。 次に大量の歯車。 小さいのが大半だったし壊れているのも多かったけれど、とりあえず拾ってきた。それと、歯のサイズがアンバランスな中くらいの歯車も一つあった。 最後に顔のような形のプレート。大小さまざまなものが落ちていて、本体のサイズに合いそうなのを一つ拾ってきた。 色は違うけど、形は大体同じだ。多分使えると思う。 「まぁ、なんとかなるか。」 細かいことはとりあえずバラしてから考えればいいよね。 「じいちゃーん!バールどこにあったっけー?」 「物置の右じゃー!」 穴が開いてる方の顔パーツの隙間にバールを突っ込んで、力任せに開けてみる。 「あれ…?基板じゃない…」 ロボットのように見えた”それ”の中には基板は一切なく、あるのは無数の歯車、そして…言い表すなら”コア”とでも言うべき、光り輝く何かだった。 「中身もズタズタだ…」 でも、落ちていた歯車を使えば元の動きをさせられそうだ。 俺は歯車を組み込み始めた。数はとても多かったけど、2時間ぐらいでなんとか全て組み終わった。しかし… 「まぁ…動かないよなぁ…」 歯車を動かしてみても特に変化なし。起動するわけでもない。 「…とりあえず形だけでも整えるか!」 直した…と言うか、歯車を詰め込んだ内部機構に蓋をするようにプレートを組み付けてみる。 「あれ?あ…ちょっとデカい…?」 ハマらない。サイズが合っていなかったらしい。別のを探してくるのも面倒だし… 「じいちゃーん!ハンマーと鉄ヤスリどこー?」 「物置の左の棚ー!」 ガリゴリ削ってガンガンブッ叩いて無理やり形を合わせた。 …一応ハマったけど、これじゃすぐ落ちちゃう。理屈はわからないけど、元のパーツの左の顔は固定できてるから、そっちとくっつけよう。 「じいちゃーん!ドリルどこー?」 「物置の下の棚ー!」 電動ドリルで穴を開け、ネジで固定する。 一個ネジ足りねぇ…マイナスネジでいっか。 「────よし!完成!」 …したはいいけど…結局何コレ? 顔のついたデカい歯車。前とわかることは変わらない。 「あー…お手上げだぁ〜」 そう呟いてなんとなくパーツを載せていた台車を見ると、見覚えのないものが一つあった。 「…なんだ…これ。こんなの拾ってないぞ?」 ちょうどこの歯車に似た銅色のデバイス。 液晶画面の下にダイヤルがついていて、その真ん中と左右の上にボタンがついている。 画面の上にはマイクのようなものがあって、通信できそうな機構もある。 「うわっ開いた!?」 デバイスの上部が展開して、中からVの文字が現れた。それと同時に、画面にも明かりが灯る。 「名前を…言え?」 画面にはそう表示されていた。 「……俺の名前は…弦巻昌宏」 『initialize.』 表示がそう変わった次の瞬間、”それ”が目覚めた。 「────!ワ…ワレは一体…こ…ここはどこであるか!?」 ”それ”はとても混乱している様子だった。 「う…動いた!?しかも喋った!?」 俺もかなり混乱していた。まさか治るなんて、全く思っていなかった。 「貴様は誰だ!ワレに何を!」 「一旦落ち着いて!俺が君を直したんだ」 そう言うと”それ”は少し落ち着いて、何かを考えるような表情に変わる。 鉄板か何かに思えた硬いプレートが、まるで人間の顔のように滑らかに動いて表情を作っている。一体何でできてるんだ…? 「直し…た?うーむ…うまく思い出せぬな…」 「データが飛んじゃってるのかな…?そもそも記憶領域がどれかもよくわからなかったけど…。」 あんな歯車だらけの内部機構でこんな流暢に喋れるロボットが動くなんて…一体誰が作ったんだろう… 「自分が何かとか…わかる?」 「ワレは…ソーラーモン…であったような…。」 とりあえず、いつまでも”それ”じゃ呼びにくい。名前があった方がいいと思って聞いてみると、そいつはそう答えた。 聞き覚えはないけど、呼びやすい名前だ。 「ソーラーモン?そんなロボット聞いたことないな…」 「ワレはロボットではない!デジモンである!ちゃんとした生命体であるぞ!」 生命体?まさかそんなはずない。あんな歯車で動く生き物なんているはずが…いや待てよ? 「…超ロボット生命体みたいな?」 「変形なら多分できぬぞ。」 こいつ記憶ない割にそれはわかるのかよ。 ───────── ソーラーモンの記憶は案外はっきりと残っていた。 自分たちがデジタルワールドに住む、デジタルモンスターと言う電子生命体であること。 この銅色のデバイスが『クロスローダー』と言うものであること。 しかし、デジタルワールドでどんな風に暮らしていたのか、どうやってここに来たのかは全く思い出せないらしい。 「うーむ…ワレの記憶にあるソーラーモンとはやはり少し異なるような…」 ソーラーモンは手鏡を持ち、そう呟いている。 あのアンバランスな歯車はマニピュレーター…というか手であったらしい。 本当はもう一つあるはずだけど、あそこには落ちていなかった。他のもので代用できればいいんだけど… しかしこの手、直接繋がってはいないのに自由自在に動かせる。 …体が宙に浮いてる時点でそう言うことは気にしちゃいけないのかな。 「…ソレ、なんであるか?」 鏡から目を離したソーラーモンがふと、俺の部屋の戸棚を指さす。 「これ?スタークジェガンだよ。カッコいいだろ?」 そこにあるのは、俺が作ったプラモデルたちだった。 「こいつは特務仕様で推力が高いんだ。ミサイルランチャーもついて隙がない。その隣にあるのがプロトスタークジェガンでその横のがエコーズ仕様でこの頭がデカいやつがEWACジェガンで─────」 「もう良い…!どれもワレには同じようなものに見えるわ…」 「全然違うって!ほらこれとかよく見て!これは専用機で…そうだ!」 「…何を思いついたのだ?」 「名前、変えようよ!」 「何故だ?」 「だってソーラーモンとは何か違うんでしょ?だったらちゃんと名前つけなきゃ。」 「ふむ…どう変えるのだ?」 「そうだな……ソーラーモンリペア、とか?」 だって、片腕ないしね。 「安直であるな…。まぁ、悪くはないであろう。」 「じゃあ決まりだ!……ところでさ、それ…どうやって浮いてるの?」 「逆に聞くが、マサヒロは自分がどうやって歩いているか理解しているのか?どうやって浮いているかなどワレにもわからん。」 ───────── この時の俺はまだ知らなかった。 これがデジタルワールドでの旅の序章であることを。 ソーラーモンリペアが何故リアルワールドに来たのか。 何故壊れていたのか。 彼が何者だったのか。 この時の俺は、まだ何も知らなかった。