二次元裏@ふたば

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133747 B25/08/10(日)23:06:09No.1341910248そうだねx2 00:36頃消えます
「お腹すいたなぁ」
彼女から食事をねだられることは珍しいことではない。思えば、彼女の家に初めて上がらせてもらったときもうどんを作った。
おかげで今となっては、彼女のちょっとした言い方や声音の違いで何が食べたいのかなんとなく察せるようになってしまった。
「…いいよ」
そして、さっきの悪戯を思いついたような少し蕩けた声のとき、彼女のほしいものは米やら肉やらといった普通の料理ではない。
「ありがと。ふふ」
いい加減慣れてもよさそうなものだが、これだけは何度やっても慣れない。彼女は上手なので痛みはそれほどでもないのだが、襟をくつろげて首筋を晒すのが未だに恥ずかしいのだ。
そんな恥じらいなど知らぬとばかりに、するりと懐に潜り込んでくる彼女がほんの少しだけ憎らしい。けれど彼女に抱きしめられて慈しむように頬ずりをされると、その柔らかくて温かい肢体と爽やかな風の匂いが、羞恥心を甘やかな胸の高鳴りに塗り替えてゆく。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/08/10(日)23:06:20No.1341910313+
「いただきます」
嬉しそうに呟く彼女の声とともに、ほんの少しの痛みと熱さが首筋を刺す。彼女は皮膚に軽く牙を引っかけたまま、血管を探し当てるのが上手いのだ。
「んっ…ん…」
『食事』を始めた彼女がゆったりとこちらに凭れかかってくる。首筋に埋まった頭を撫でてやると、嬉しそうに少し身体を揺らすのが可愛らしい。
血を啜る彼女の喉を鳴らす音が愛おしいと思えてしまうのは、それだけ毒されている証なのかもしれないな、と、甘い痛みの中で考えていた。
225/08/10(日)23:06:39No.1341910423+
彼女が吸血鬼だと知ったのは、出会って一年くらい経ったある梅雨の日だった。
雨の日でも構わず、むしろ喜んで散歩に行く彼女だが、それが祟ってかその日は熱を出してしまったのだ。
家を訪ねたときは少し気怠げな声で出迎えられたものの、食欲もあり割合と元気に見えた。けれど、横になった彼女の息が苦しそうに上がり始めると途端に心配になった。
「…ごめんね」
「何も謝ることなんてないさ。俺にできることなら、なんでも言ってくれ」
彼女らしからぬ弱々しい声でそう呟かれると、胸が潰れそうになった。額の冷感シートを替えてやることくらいしかできない自分が、ひどく情けなく思えた。
「ん…」
ひとつ呻いて寝返りを打った彼女がこちらに顔を向けた。その表情は瞼を固く瞑ったひどく辛そうなもので、ついその近くに顔を寄せてしまう。
「シービー…」
思わず漏れ出た名前に、彼女が薄目を開いた。熱で焦点が曖昧な視線がそれでもこちらの顔を見ようとするのがいたたまれない。
何かを取りたいのか彼女は身体を起こしたが、長くは持たずに前へ倒れそうになる。思わず抱き留めて倒れることは防いだが、ひどく肝を潰した。
325/08/10(日)23:06:59No.1341910542+
「何か飲むか?」
そう問うたが、首筋に顔を埋めた彼女は何も言わない。また眠ってしまったのかと思って身体をベッドに戻そうとしたが、その手は途中で止まった。
「…!」
一瞬だけ首筋にちくりと刺すような痛みが走った。その少し後に、今度は同じ場所から熱いものが流れ出ているような感覚に陥る。何かで首を傷つけたのかと思ってその場所に視線を向けたが、その答えはすぐに知れた。
首筋に傷をつけていたのは、他でもない彼女の歯だった。いや、牙と言ったほうがいいだろう。そして何よりも驚いたのは、彼女が喉を鳴らして、流れ出る血を美味しそうに飲んでいたことだった。
彼女が喉を鳴らす度に血の流れる感覚が走ること、そしてさっきまであれほど苦しそうだった彼女の息が、血を飲む度にみるみる安らいでいくことを見れば、答えはひとつだった。
彼女は吸血鬼なのだ。人の生き血を啜る、人外の存在。
425/08/10(日)23:07:20No.1341910691+
普通ならどうやって振りほどくかとか、あるいは自分も同じ怪物になってしまわないかという心配をするものなのかもしれない。
だが、縋るようにこちらを抱きしめて、熱に浮かされた身体を預けてくる彼女を見ると、彼女が楽になるなら血でもなんでもあげてしまいたいという想いに駆られた。
気づけば、こくこくと血を飲む彼女の頭を撫でていた。甘える幼子のような姿がひどく愛おしく思えて、振り払うなど考えられなかった。
それに、吸血鬼になっても何になっても、彼女は自分の知る自由で素敵な彼女のままだということは、何故かまるで疑わなかった。
525/08/10(日)23:08:05No.1341910929+
「ありがとう。すごく気分いいや。
ごめんね。びっくりしたでしょ」
数刻眠った後の彼女は、さっきまで熱を出してうなされていたのが嘘のようにいつも通りの元気を取り戻していた。だが、その爽やかな笑顔に時々覗く小さな牙が、今までは気づかなかったのにやけに目に付く。
「君は…吸血鬼だったのか」
「うん。
たまにいるんだ。ヒトにも、ウマ娘にもね」
彼女はどこか愉快そうに目を細めた。隠していたことを漸く打ち明けられたと言いたげなどこかほっとしたような笑顔だったが、自分がそんな彼女のことを怪しむきっかけになるようなことは今まで全くなかった。
「気づかなかったよ。だって…全然そういう感じじゃなかったろ。ニンニクはご飯作るときいつも多めにって言うし、十字架のネックレスもたまにしてるし…」
「あはははっ。そういうのは大抵迷信だよ。
本物の吸血鬼は、ほとんど皆と変わらないんだ。ニンニクや十字架だって平気だし、コウモリと仲良しなわけでもないし
625/08/10(日)23:09:04No.1341911304+
そう言いながらけらけらと笑う姿を見ていると、こちらもひどく安心する。あのとき思った通り、目の前にいるのは昨日までと何も変わらない、自由を愛する陽気なウマ娘だったからだ。
「あ、でも雨の日とか夜に出かけるのが好きなのは…」
「それはアタシだからかな」
おかげで少しふざける余裕もできてしまったのだけれど。
725/08/10(日)23:09:22No.1341911408+
その後は、彼女から吸血鬼の体質や風習について色々と教えてもらった。彼女の言う通り吸血鬼は普通の人間やウマ娘と大差ない体質で、普通に暮らす分には血を飲まなくても問題はないし、普通の食べ物が食べられないとか、流れる水や太陽の光が苦手という話も全部嘘なのだそうだ。まあ、いきなり海が見たいと言い出して、夏の日差しが燦々と照る中を楽しそうに走る彼女を見れば、そう考えるしかないだろうが。
「じゃあ、なんで血を飲むんだ?」
「すごく栄養のあるデザートみたいなものなんだよね。食べなくても死んじゃうことはないけど、怪我をしたときとか体調が悪いときに飲むと、すごく美味しいし治りが早いんだ」
では、なぜ血を飲むのか──吸う、という言い方だと蚊みたいに聞こえるから飲むと言うのだと、さっき彼女から教わったのだが──という根本的な問いに対する彼女の答えは、概ねそんな具合だった。吸血鬼にとっての血は、どうやら主食というより栄養価の高いサプリメントのようなものらしい。
825/08/10(日)23:09:38No.1341911516+
彼女のことや吸血鬼のことについては大体わかった。だが、一番知りたいことを訊いていない。
「…吸血鬼に血を飲まれると自分も吸血鬼になる、っていうのは本当か?」
彼女の話によると普通の人間と吸血鬼はそう変わらないということだが、流石に知らぬ間に自分の身体が作り変わっているというのは、あまり気分のいいものではない。
けれど、そんな不安が声音に出てしまっているこちらの様子とはうらはらに、彼女は口元を少しだけくつろげた。
「半分は本当、かな」
「半分って?」
はぐらかすような言い方に余計不安が募るが、彼女の言い方はこちらを安心させるように穏やかなものだった。
「大丈夫だよ。さっきので吸血鬼になったりはしないから。
だから、これからもよろしくね」
意味深なその言葉を咎める前に、彼女はまたくすくすと笑いながら、さっきまで寝込んでいたとは思えない軽やかな足取りで台所へ駆けていった。
925/08/10(日)23:10:37No.1341911874+
これからもよろしくね、と言った彼女の言葉の意味はすぐに知れた。それから彼女は、度々血を飲ませてほしいと頼んでくるようになったのだった。
言ってくるタイミングは彼女らしく気まぐれなのだが、レースに勝った後やデートの最中に頼まれることが多くて、ついつい許してしまいがちになる。
とはいえそう頻繁にねだってくるわけではなく、血を飲むといってもその量はさほど多くないので終わった後に貧血気味になるということもない。血を抜かれる方法から言っても、献血の方がよほど体調に悪いくらいである。
1025/08/10(日)23:10:56No.1341911974+
何より、血を飲み終わった後の彼女はいつにも増して可愛らしく見えるのだった。血を飲むときに自分の身体に何らかの変化が生じているのか、好物を口にした後だからそう見えるのかはわからないが、彼女のうっとりと蕩けたような瞳を独り占めできるのならば、血の数滴くらいは差し出してもよいと思えてしまう。
「迷惑かなとも思ったんだけどさ。やっぱり自分の気持ちに嘘は吐けないや。
きみの血を飲んだあとは、あったかくてぽかぽかするんだ」
彼女に触れられる度に、その言葉を思い出す。そんな彼女を突き放すなんて、初めからできるはずもなかったのかもしれない。
1125/08/10(日)23:11:20No.1341912095+
血を吸われたあとの感覚は、風呂に浸かった時に少し近い。身体を動かすのが少し億劫だけれど、ぽかぽかしてなんだか心地良い。
だから、仕方ないのだ。飲み終わったあとも抱きついたままの彼女にされるがまま、そのまま一緒に眠る体勢に入ってしまうのも。
「食べてすぐ寝ると牛になっちゃうぞ」
「ふふ。牛の吸血鬼ってちょっと面白いね」
血を飲んだ後の彼女は、少し酔ったようにご機嫌になる。飲む前のスキンシップを止めるどころか、もう離さないと言わんばかりに上に乗られるのだが、こちらも正直悪い気はしなくて、もう少しこうしていようと伝えるように頭を撫で続けるのがお決まりになっていた。あまりやりすぎると盛り上がった彼女に『おかわり』を要求されてしまうから、程々に留めておかなければいけないのだけれど。
1225/08/10(日)23:11:33No.1341912167+
お腹いっぱい、と言うように、彼女が満足げに息を吐く。脚の間に気に入ったものを挟んで、喉を鳴らしながら匂いをつけるようにすりすりと頬ずりをする姿は、吸血鬼というよりむしろ猫のそれだった。
「好きだなぁ。いつもやってるじゃん」
「こうすると血が美味しくなるんだよ」
いつもどきどきさせられっ放しだから仕返しにからかったつもりだったが、彼女は悪びれる様子もなく、あっさりとそう言ってのけた。
「ほんとか?」
「ほんとだよ。それだけじゃないけどね」
試してあげようかとでも言うようにさっきの噛み跡をぺろりと舐められては、信じるほかはない。
「じゃあ、他の理由は?」
噛まれこそしなかったが、気に入ったのか彼女はずっと首筋に顔を埋めたままだった。だから、こちらの問いに答える彼女のくぐもった声と吐息が、首筋に直に感じられた。
「アタシがそうしたいから」
反論のしようもない、実に彼女らしい理由だった。けれど、それが好きだというのはなんだか悔しくて、返事の代わりに彼女の頭を少し乱暴に抱き寄せた。
耳元の彼女の微笑みが、しょうがないなぁと言っているようだった。
1325/08/10(日)23:11:54No.1341912306+
掌に落ちてきそうなくらい、丸くて綺麗な月が出た夜のことだった。カーテンを閉めてしまうのが惜しくて、屋根に引っかかったように近くに感じられるその光を、他に何をするでもなく窓を開けたままずっと眺めていた。
その白い光が、唐突に欠けた。丸い月面に差し込まれた黒い三日月のような影は、何か愉快そうにぱたぱたと揺れていた。
「ちょっと不用心じゃない?こんな夜に窓を開けたまま寝るなんてさ。おなかを空かせた吸血鬼に食べられちゃうかもよ?」
影の方から声が聞こえてきたときには、その影はもう不敵な微笑みになって、窓敷居に腰かけていた。
1425/08/10(日)23:12:14No.1341912418+
彼女はそのままの姿勢で軽やかに跳躍した。どこかに重さを忘れてきたようにふわりとベッドに着地して、布団の中に滑り込んでくる姿を見ると、いよいよ猫だなと可笑しくなる。
そんな姿が恋しくて、ずっと待っていたのだけれど。
「…来ると思って開けてたって言ったら、信じる?」
待ち切れないと言うようにこちらをきつく抱きしめた彼女は、一瞬驚いたように目を丸くした。けれどもすぐにその顔が満足そうな微笑みに変わるのを見て、彼女も同じ気持ちでいてくれたのだと思うと、胸の奥の隙間がぴったりと埋まるような心地よさが溢れてくる。
「うん。
だって、きみとアタシの幸せのかたちは、きっと同じだもん」
1525/08/10(日)23:12:30No.1341912518+
開けた首元に、彼女はいつものように頬ずりをした。けれどそれで満足したかのようにじゃれてくるばかりで、それ以上は何もしないのが少しもどかしくなる。
「飲まないのか?」
上目遣いでこちらを見る彼女の顔が、からかうように綻ぶ。飲んでほしいの、とでも言っているようで、恥ずかしさで少し顔が火照った。
だが、次に彼女が発したひとことは、恥じらいをすっかり吹き飛ばしてしまうほど強烈なものだった。
「前にさ、血を飲まれただけじゃ吸血鬼にはならないって言ったでしょ。
教えてあげよっか。吸血鬼のなりかた」
唐突にそう告げられてどきりとしたが、心の底ではいつかこんな日が来るのではないかとも思っていた。
いつの間にか、こんな日を望むようになっていた。
1625/08/10(日)23:12:49No.1341912637+
きみを好きになったのはいつだろう。
初めてきみが家に来て、アタシにごはんを作ってくれたときだろうか。昔訪ねた思い出の場所を、くたくたになるまで一日中探してくれたときだろうか。それとも、ただ気ままに走るだけのアタシを、自分の夢というとびきりの宝物で飾ってくれたときだろうか。
きっとそのどれでもあって、どれでもない。誰にも合わせられないアタシの歩みに、このひとはぴったり寄り添ってくれるのだとわかったときに、いつの間にかきみがいなくなることが考えられなくなっていた。
「…どうすればいい?」
だから、きみがアタシの言葉を待っていたのだとわかると、どうしようもないくらいうれしくなる。
きみといて初めて見える景色を、きみもずっと見ていたいと思ってくれていたことが。
1725/08/10(日)23:13:42No.1341912930+
「アタシが血を飲むときに、好きって言えばいいよ」
この話をお母さんから初めて聞いたときに、初めに吸血鬼になったひとは恥ずかしくなかったのだろうかと、身も蓋もない感想を抱いたのを覚えている。そのときはそんなことをしてほしい相手ができるなんて想像もできなかったけれど、今ならその気持ちがわかる。
アタシの本性をさらけ出しているときに、きみが頭を撫でてくれるのがすごく好きだ。だからそんなときにきみに好きって言ってもらえたら、きっとおかしくなってしまうくらい幸せだろう。
「吸血鬼はね、好きなひとの血しか飲めないんだ。
そのひとと想いが通じ合ってるほど、血が美味しくなるんだよ」
どうして血を飲む前にあんなに触れていたのか種明かしをしてやると、きみの顔がみるみる赤くなる。それがとても楽しくて、もっともっと恥ずかしくなるようなことも喋ってしまうのだった。
「だからね、仲のいい恋人や夫婦を探すと、けっこう吸血鬼同士のカップルが見つかるんだよ。
お父さんとお母さんもそうなんだけどさ」
1825/08/10(日)23:14:12No.1341913103+
だから、もうわかるよね。
きみのことを考えると、それだけで一日が過ぎちゃうんだ。そうして気づいたら、きみの隣が恋しくなる。
「無理強いはしないよ。今こうしてきみといるのも、すごく楽しいし。
でも、もしきみがアタシと同じになって、アタシと一緒の時間を生きてくれるなら、アタシはすごく幸せ。
そのくらい、きみのことが好きだよ」
きみも同じくらい、アタシに酔っていてほしい。
アタシをこんなにわがままにしちゃったきみも、アタシのことだけ考えてしまうようにしてしまいたい。

気持ちを打ち明け終わったあと、彼はしばらく何も言わなかった。一度にいろいろと伝えすぎて飲み込めていないのかと心配になって彼の顔を見上げようとしたのだが、それは叶わなかった。
彼の手がアタシの頭を抱きしめて、美味しそうな首筋に押し当てたからだ。
「俺だって好きだよ。
気持ちの大きさなら負けないから。シービーにも」
1925/08/10(日)23:14:31No.1341913202+
今、アタシはどんな顔をしているんだろう。
きっとさっきのきみにも負けないくらい、頬を真っ赤にした恥ずかしい顔だ。
「…ずるいなぁ。
大事なときに、きみはいつもそうだよね」
いつもアタシの心の隙間を、思いもしないやり方でぴったり埋めてくる。その予想外が、どこまでも心地いい。
でも、いいもん。こんな顔は、きみに見せなくていいから。
きみのくれた「好き」を味わうことしか、今はもう考えられないから。

おいしい。おいしい。好き。好き。大好き。
腕の中で熱るきみの身体と、同じ気持ちの温度で溶け合っていく。
だから、もっと抱きしめて。
きみと同じになれたって、もっと感じたいから。
2025/08/10(日)23:15:09No.1341913427+
「…意外と何もないんだな」
「ね。言ったじゃん。普通のひととそんなに変わんないって。
でも、もうちゃんと変わってるよ」
拍子抜けしたような顔をしている彼に、牙に変わった犬歯をゆっくりとなぞって、もうアタシと同じ体になったんだと教えてあげる。
せっかく同じになったんだもん。この身体でしか味わえない楽しみを、教えてあげないと。
「ね。
お腹空かない?」
その問いに、彼はどきりとしたように目を見開いた。でもまだ、自分から踏み込む勇気は出ないらしい。
やっぱり、先輩のアタシが教えてあげないと。
「聞き方を変えようか。
アタシの血は、美味しいと思う?」
2125/08/10(日)23:15:31No.1341913537+
ゆっくりと、よく見せるように服の前のボタンを外して、首筋と胸元を晒していく。できるだけ美味しく見えるように。
いつも優しい彼が、怖いくらいに目をぎらつかせてアタシの肌を見つめているのが、不安だけれどそれ以上に楽しい。アタシを大事にしたいという優しさと、アタシがほしいという欲望の間で揺れているのだろうが、アタシはどっちも大好物なのだ。
「嫌?」
自分でもずるい聞き方だと思った。アタシも吸血鬼なんだから、好きなひとのそれにどれだけ焦がれているかなんて、わかりきったことなのに。
2225/08/10(日)23:15:58No.1341913668+
たとえヒトでなくなってしまったとしても、アタシを変わらずに大事にしてくれるのは、本当にきみらしくて好きだ。
でもアタシは欲張りだから、きみのぜんぶがほしい。
優しいだけじゃ足りない。剥き出しのきみがくれる気持ちに、心の底まで溺れてみたい。
「アタシはきみが好き。きみも、アタシのことを好きでいてくれてる。
それ以上に大事なことなんてあるのかな」
一回り大きな彼の身体に、包み込まれるように組み敷かれる。優しさと独占欲が混ぜこぜになった手つきが、余計にもどかしさを煽った。
「あ…あっ…!
…ふふふっ」
もうどこにも行けないように抱きしめられて、首筋に一瞬だけ痛みが走る。
痛いのに、気持ちいい。血が出ていく代わりに、きみの想いが入っていくみたいだ。
このまま血の代わりに、きみの「好き」でいっぱいになるのも、いいかも。
2325/08/10(日)23:16:15No.1341913755+
口を離したときには、アタシもきみも全力で走ったあとみたいに汗をたくさんかいて、息が上がっていた。
本当に、全力で走り切ったあとみたいだ。疲れているのに、それがひどく心地いい。
「うれしいけど、ちょっとさみしいな。
血を飲むだけでこんなに伝わるなら、言葉を編む意味がなくなっちゃうかも」
贅沢な悩みだ。気持ちがぜんぶ通じ合うと、今度は心の浅瀬で遊ぶような言葉が恋しくなる。
「心配しなくてもいいんじゃないか」
でも、きみは楽しそうだ。これからアタシと生きる永い時間が素晴らしいものになると、ひとつも疑っていないみたいに。
「好きって言われたら、今でも嬉しいしさ。
シービーと話すことに、飽きることなんてないよ。きっと、これからも」

やっとわかった。
言葉は想いに着せるドレスだ。
どんなに美しくなっても、着飾る喜びがなくなることはない。
きみが仕立ててくれるその色が、アタシはどこまでも好きだったんだ。
2425/08/10(日)23:16:28No.1341913844+
「好き」という言葉の味は、どんな形で堪能してもちっとも飽きない。
血の温かさで、言葉の美しさで、アタシはずっとそれを追いかけてきた。その旅路の果てに、きみが待っていた。
そんなきみを見つけた夜に、もう一度「好き」を味わえるなんて。
運命があるとするなら、きっとこういうことなんだと思う。
「血はいっぱい飲んだのにね。
まだ、キスはしてなかったね」

「好きだよ。
大好き」
零れ落ちそうな月の出る夜に。
小さな愛が、ひとつ花をつけた。
2525/08/10(日)23:17:46No.1341914336+
おわり
月がきれいな夜にはCBみたいな陽気な吸血鬼と過ごしたいだけの人生だった
2625/08/10(日)23:18:17No.1341914501そうだねx2
…!……!(一生添い遂げろ―――――――――――!!!!!!!!!)
2725/08/10(日)23:19:57No.1341915138+
ライスやスティルみたいなしっとり系もいいけど爽やかに血を吸われたいときもある
2825/08/10(日)23:22:02No.1341915821+
寝る前にぎゅっと抱きついてきて血を飲まれてそのまま抱き枕にされて一緒に寝るんだ…
2925/08/10(日)23:26:58No.1341917429+
照れてなかなか言葉にしてくれないシビトレの血を飲みながらアタシのこと好きな味じゃんってにやにやするCB
3025/08/10(日)23:34:28No.1341920028+
吸血鬼になってもトレーナーが中々吸ってくれなくて拗ねるシービーいいよね
3125/08/10(日)23:37:39No.1341921089+
正直シービーが首と胸元を出して「…吸って?」って誘ってきたら我慢できないと思う
3225/08/10(日)23:41:44No.1341922494+
我慢の限界でちょっと強引に吸っちゃったり逆に寝てるところに首筋を差し出して吸わせたりすることもあるとよい
3325/08/10(日)23:44:19No.1341923325+
身体も心もいつまでも歳をとらない陽気な美人いいよね
3425/08/10(日)23:51:50No.1341926022+
吸血鬼というより猫の甘噛みに近いこともある
3525/08/11(月)00:15:16No.1341933479+
3625/08/11(月)00:32:50No.1341939161+
スレッドを立てた人によって削除されました
男性トレーナー前提スレ感謝
3725/08/11(月)00:33:07No.1341939247+
スレッドを立てた人によって削除されました
>男性トレーナー前提スレ感謝
ちゃんと公式に沿ってるね


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