『優しく?何言ってるの?殺し合って強くなって進化する!それがデジモンだよ。』 この焚竜という男の子はそう言った。だったら、私のやることは決まってるわねぇ? 「それじゃあお姉さんが……あなたに最初に優しくするデジモン、優しくする人間になってあげる。」 そう言いながら私は黄金の聖騎士型デジモンと睨み合う彼をそっと後ろから抱きかかえる。 「ちょっと何するの?お姉ちゃんも、僕と戦おうっていうの?」 「女子高生にハグしてもらえるなんてありがたいことよ?」訝しげな顔に、私は全力の笑顔で応える。 「……お姉ちゃん、高校生だったの?てっきり小学生だと思った。」 「誰の胸がぜっぺきバレーですって!どうせ私は身長マメモン女ですよ!」 「えっ、いや僕そこまで言ってない……」一瞬で崩壊した笑顔に、焚竜はちょっと引き気味だ。 ああ、やっちゃった……でもしょうがないわよね?不可抗力ってやつよ。 「話が逸れたわ……あのね、デジモンの生き方はひとつだけじゃないの。」 「ああそっか、お姉ちゃんも僕と同じ……」 「そうじゃなくてね、人間になる前は普通のデジモンだったのよ、私。」 少し嘘をついた。裏十闘士の後継として設計されたのは普通とは言えない気がするもの。 「そうなの?」さすがに少し驚いたような顔をする。こうしてると年相応な……そう言えばこの子何歳なのかしら? 「そうよ、だからちょっと……」 「それでおっぱいが小さいの?」 「じゃかあしいわ!」……全く無関係じゃないのが腹立たしいし説明に困るわね! ともかく私は彼を抱きしめたまま右手に『杖』を瞬間錬成する。 「マッテアーロン、アマルガムコーティング。」私の意思のままに、マーキュリーデジゾイドが私と焚竜を包み、そのまま硬化する。 「!!……お姉ちゃん何したの!?」もう遅い。そのまま私は次のコマンドを入力する。 「スピリット、コンフージョン。」スピリットが所有者に進化と肉体の変化を引き起こす信号、それを混信させ無効化する。 そのための回路は、私たちを覆っているマーキュリーデジゾイドの中に構築済みよ。 「……なんで?進化できない?」困惑する焚竜。 ただ、これには問題がいくつもある。 ひとつめは、マーキュリーデジゾイドに術者と対象の双方がかなりの面積で接触している必要があること。 ふたつめは、固めてしまうと術者、つまり私も全く身動きができなくなってしまうこと。 みっつめは、私もこの術の影響を受けるのでこちらもスピリットエボリューションできなくなること。 そして今わかったよっつめの問題……多分5分ぐらいで彼の『炎』で回路が焼かれて術が解除されること。 「そこのロイヤルナイツの方、ちょっとお願いがあるのだけれど。」 事態を見守っていたマグナモンに、私は声を掛ける。 「ちょっとアリーナまで私たちを運んでいただけませんかしら?できれば5分以内で。」 そして恨みがましい目で私を見る少年に更に顔を寄せる。うっかりほっぺにチュウしないように慎重に囁きかける。 「少しお話しましょ。何か私に聞きたいこと、ある?」