息も絶え絶えなどという事になるとは思っていなかった、あるいは想像する以上に肉体の負荷が大きいことをこれまで虎子は知らなかった。焦らしに焦らされ性感を隆起させられるだけの快楽拷問を2時間続け、何を考えているのかもわからないようになるまでぐちゃぐちゃに溶かされた。  もし、考えたくもないがこれが嫌いな相手やあるいは敵などといった存在であればこうはならない、虎子は女であり常識も備えている。自らを脅かすような相手に心をくれてやりはしない。相手が恭介という男だからこそ徹底的にメスに堕とされていられた。  しっかりと尻を撫でまわされ、一度もまんこを刺激されないままゆったりとした愛撫に背筋を痺れさせながら帰宅すると同時に制服を脱ぎ汁に塗れた下着を放る。もう数時間は勃起したままの敏感な部分が物足りなさを訴える、触れた、セックスをするようになってからは久しく1人でしていない。あるいは正しく解消の為に。  虎子にとってオナニーという行為は自分の性欲を解消するものではもうなくなっている、雄の、恭介の前で痴態を見せて性欲を煽るためであり、同時にそんな無様なイキ姿を披露した己の羞恥で性感を増幅するための物であった。 「あ………」  久しぶりの自慰はすぐにダメだと分かった。自分の身体の事で、特に性的な事ともなれば分かりやすい。手加減してしまう、壊れないラインを知っていてそれに沿って手が動く、気遣っているとは言え容赦なくイカせる恭介の手が、ちんぽが、それらから与えられる快楽を知った後では児戯にすら劣る。  何より羞恥が足りない、嗜虐心に沈んだ瞳を、そそらせるために告げられる言葉も、欲を向けて自分の身体のそこまでを望む相手がいてくれない。 「うっ…ぉっ…ぉぉっ…!!」  怒ればいいのかそれとも喜べばいいのかあるいはどちらもか、自らの身体は大好きな男に愛されて手の入れられていない部分が無い訳だがそれほどまでに好き勝手をさせているというのも事実。  ふと、机に目をやった、音がする。振動音はスマホの物ではない、もっと小さくチープな感じの物、カバンからだ、力の入らない身体を叱咤し倒れこみそうになりながら歩く。  カバンの中には教科書と板書を取るためのノート、あとはいくつか化粧品など小物、そして小さく虎子の手に収まる程度のオモチャにも見える電子機器があった、赤色のボタンを長押しすれば液晶画面が光り起動を告げる。 『姐さん!大丈夫ですか』  声、甲高い女の声が機器から聞こえる。オモチャによくある電子音が声を模した様なものではなく正しく音声、それは当然だ、オモチャに見えるそれは実際はもっと高度なもの、デジヴァイス、あるいはD-3、現実あるいはリアルワールドと呼ばれるこの世界と、デジタルワールドなどと称される電子の異世界をつなぐ機器だ。  今デジヴァイスの中には電子生命であり虎子のパートナー、レナモンがおさまっていた、デジヴァイスに入っている間電源が切られていてもあくまでデジヴァイス自体が休止状態になっているだけであり実際は中に入っているデジモンが過ごすために一定の機能は起動し続けている。 「大丈夫って何が……」 『バイタルが朝から凄まじい動きを――って何ですか姐さんその恰好っ!?』 「あ………?」  そう言えば全裸のままだ、見てしまえば驚くのも無理はない。仕方なく適当な理由をでっちあげる。 「あー…あれだ、着替え途中」  しかし納得いかないレナモンは声を上げる。怒声を耳をつんざいた。 『下着まで脱ぐ必要ないでしょうっ!…ま、まさかあの野郎に!』 「レナモン……それ以上はメっ、だ」 『姐さん…』 「まあさ…好きでいいようにされてんだから怒ることはないんだって」 『でも………』 「……私とあいつの関係を全部分かれって言わないけどさ…好きになるってこういう事なんだよ」 『………そう言うのでしたら、こちらからは何もっ………でも………』 「んー?」 『とっちめたくなったら言ってくださいっ!そしたら必ず力貸しますから』 「そっかぁ……その時はお願いしようかな」 『もちろん任せてください姐さんっ!』  少しばかり申し訳なさを感じた、その瞬間が来ることはありえないからだ。  デジヴァイスを置きタオルで身体を軽くぬぐう、汗を取り切れていないからどこか気持ち悪さを感じつつも身体をベッドに倒す、本当は洗濯機に下着を投げ入れなければならないが力が入らない。疼いた身体を抱えて眠る。 〇 「ふむ、やり過ぎたかな?」 『……うーん、それを自分で判断できないのはちょっと変わり過ぎだね恭介』  どこか呆れたかのように恭介に言うのはどこかタヌキを思わせる風貌をしたデジモンだ。 「変わった自覚はある、どうも虎子を前にしていると歯止めがきかないんだ」 『前はドが付くにぶちんだったのにね』 「ああ、恥ずかしいな、虎子の思いに気づいてやれなくて……何度も気づ着けていたかもしれない」 『まあ………うーん』 「どうしたラクモン」  パートナーの顔を見る、複雑な表情を浮かべていた。いつものやや能天気ともいえる顔が、苦々しさを中心にいくつもの感情が渦巻いているように見えた。 『こう…言いたいことはいっぱい有るんだけどね、言葉にならないよ』 「そうか、ならば浮かんだら言うといい」 『僕そう言う割り切りの良い恭介尊敬しちゃう』 「そうか、嬉しいな、やはり信頼関係は互いの心理の上に成り立つ以上尊敬を勝ち取れているのならよいに越したことはない」 『うん、そういうところだからね』 「??」  まったく意味が分からなかったが、まあ悪い感情ではなさそうだと放っておく。とりあえず、と、深呼吸し椅子の背もたれに深く沈んだ、今日は時分自身すらも追い込む1日となった。正直に言うのならばすでにきつい、休みにすべて解消するつもりとはいえまだ日数がある。しかし自慰行為は行えない、というよりももう虎子とすることに慣れきって自分の手で欲求を吐き出せなくなっていた。  自分の性欲は薄い方だと前は思っていた、周囲で性的な話をしている時にもあまり興味が持てずそもそも自分で処理するのも1週間2週間みっちりと勉強漬けか生徒会の活動ばかりになった後でようやくその気になる程度。  しかし今では週に3~4はしてもおさまらないでいた、欲を言うのならば5回はしたい、それも最低で3回は射精してようやくひとまず落ち着くほどになっていた。  どうしてこうもあっぱらぱーになったのか自分自身理解できずにいるがとりあえずそれほどまでに虎子が好きだと結論をつけて思考を打ち切る。  問題はこれからどう過ごすべきかだ、少し触れあうだけでも脳が崩れていったのにまた同じことをすれば触れられていないのに射精をする自信がある。そうなれば容易に虎子に襲い返される糸口を与えてしまうのは間違いない。「なっ♡触らないのにびゅっびゅってするくらい溜まってんなら私とした方が絶対気持ち良いからおまんこしよ♡な♡」などと誘ってこられてしまえばたやすく溺れてしまうに違いない。 「全く…僕もままならないものだ」  シたい気持ちと壊したい気持ちが入り交じりあらゆることに手がつかない。勉学については何の問題もない、目標を見据えている分計画が立てやすいからすでにかなりの予習を行えている、多少サボった程度ならリカバリがきく。しかし一応は優等生で通している身として授業に上の空など頂けるわけがない。 「さて、気合いを入れようか」  言葉にするとまだ少しだけ頑張れる気がした、学生として勉学を、彼氏として虎子の壊(愛)すを両立しなければならない。  男ならばそれくらいできるはずだ。 〇  時間は過ぎるものだ、何があろうとも平等に  虎子が次呼び出されたのは夜の公園だった、家の近くにある大きめの公園は日中は子供や家族連れの憩いの場となっているが夜は一気に人気がなくなる。立地が住宅街だからということもあるだろう、一戸建てが多くアパートやマンションが少ない、独り暮らしが多ければ夜の散歩などで人気も多いのかもしれないが普通は家族団らんに時間がとられる。  静寂がある、風の音が、葉のこすれる音だけが、人工的に整えられた自然でありながら生命力は不自然を感じさせない。だからこそ余計に虎子の足音が、人の音が大きく聞こえた。  あわただしく周囲を見渡しながら歩く、恭介以外には万が一にも見つかるわけにはいかないからだ。  自らの恰好を見る、痴女だった。  顔はマスクをつけているが、身体はパンツだけつけてブラジャーは無い、服は公園の入り口で1枚脱いで先に着こんでいたシースルーのワンピースのみ、布地が透けて衣服の体をなしていない、当然のように腫れあがった乳首は実質見えているようなものだ。  見つかろうものなら不審者として通報されても仕方がない。  だがなぜか高揚感を虎子は感じている。2人だけの秘密であるはずの事を外に持ち出すなど普通に考えれば関係に亀裂が入ってもおかしくはない、恥ずかしさがもさえられない、だというのにその感覚がスパイスとばかりに股間を疼かせる、すでに内股は濡れ切っていた、なおの事変態的な事になっていた。  歩いてすぐのところに恭介はいた、ベンチに腰掛けて待っている。普段あまり見ない、緩くラフな格好だ。デートで見るよりもよほど。 「ん?虎子」  待っていたとばかりに立ち上がり声を掛けてきた。 「お、おぉ…来たぞ♡」  動悸が激しくなりながらも、右手を上げて呼びかけ返す。本来ならば怒るところかもしれない、なんてことをさせているのだと、しかしもうそんなことはどうでもいい、今日はどんなことをしてくれるのかという期待だけがあった。 「うん、僕が頼んできてもらったとはいえ…なかなかいいな」 「へ、変態め♡ばれたら恥ずかしいぞ!?」 「大丈夫だ、バレやしない」  断言だった、いっそ自信満々などと言うよりも確信と言った方がいい。 「根拠はあるのかよ…」 「ああ、使い道のなかったお年玉を使ってね、機材をそろえたんだ」 「は………?機材?」 「ちょっとした催眠装置を設置してある、デジヴァイスのフレンド機能と連動させて僕が指定した人間以外は入ろうとすると唐突に何か別の用事を思い出す仕掛けだ」 「た…タチわりぃ………」 「そうだね、だけどこれでもかなり気を遣って計画したんだ」 「……なあ、もしかして前からこういうの考えてた?」 「当然だ、一朝一夕で準備できるわけがない」 「……恭介がさ、情熱注ぐとホントヤバいな」 「どういう方向性のヤバイかはわからないが虎子の言葉だから誉め言葉としておくよ」 「ポジティブぅ……まあいいけど」 「とりあえずは理解して貰えたかな…なら僕も」 「ん?」  言うや否や服を脱ぐのを見た、緩い服だからかあっという間に脱げた、全裸だ、下着すらつけていない。身に着けてるのは靴だけ、ある意味自分より過激な恰好をしている。 「流石に緊張するものだね」 「バカ?」 「そうだ」 「い、言いきっちゃったよ…」 「だが先日も言った、フェアにやろうと」  思い出すハッカ油を塗られたときのことを。壊すと言った以上自分だけに来るのかと思ったが、恭介自身も塗られることを望んだ。とことん不器用で誠実な男だ。 「ま、まー…もう驚かない、そうだね、恭介はそういうヤツだもん」 「分かってくれて何より、あとはこれを頼む、サイズはあっているはずだ」  手渡されたものを見る。 「……首輪?」  犬の首輪にも見えた、黒くシンプルな装飾の無いものに、リードがついている。 「ああ、男女兼用のヤツだぞ、つけてくれ」 「……いや、もう何も言わないからね?それじゃつけるよ」  恭介がかがみ首を見せてくる。ベルトと同じ要領でサイズを調整し、リード側を前に持ってきた、はたから見たら間抜けそうだ。 「ん……思った以上に妙な感覚がするな」  首輪を軽く弄りながら恭介が言う。心なしか頬が赤く、息も荒い。 「ってか何で急に首輪?」 「対等であるためだ」 「あー…またフェア的な」 「そうだ、フェア的にな……どうしても男とは女性の身体を弄らせてもらう側に回ることが多い……昨日もだいぶ無茶をさせた」 「あぁ――…まあ、結構、うん」 「ならば僕だって同じくらい無茶をしなければそちらの割に合わない」 「割に合うとか合わないとかそういう話かなっ!?」 「じゃあ僕の納得だ」  真面目な視線が来る、現在の状況を思えば見とれるほどの。 「僕は君を壊すと宣言した」 「う、うん、された…」 「だから君も僕を壊すべきだ」 「どういう論法!?」 「僕の理屈だから僕の論法かな」 「な…なるほど?」 「と、言うわけでこれを持ってくれ、今僕は君の犬だから」  リードを手渡される。  ぞく、とした、自分が不良であるという事実を今思い出した気がする。  ビビリヤンキーだのと言われてはいるが、立ち向かうことを恐れたことはない。恭介に振り回されることもあるがそれは相手が相手だからであり、本来は他人を振り回す側にいる。デジモン関係で丸くなった部分はあるが、中身がそっくり変わったわけではない。  犬になると、支配されるという物言いが弱者の面を覆い隠していく。 「……優しく出来ないかんな?」 「望むところだ」  あ、この顔なんかいいな、やっぱちょっと優しくしちゃうかもしれない。  支配者の面はヨワヨワだった。