二次元裏@ふたば

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214288 B25/08/02(土)22:40:26No.1339360237そうだねx5 00:07頃消えます
621戦場騎士くんが記憶を失うまでの怪文書2話Chapter5です
2話Chapter5:fu5387109.txt
1話〜2話Chapter5までの総まとめ版:fu5387104.txt
ティンカーモンかわいいよね
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このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/08/02(土)22:41:43No.1339360739+
 アスファルトに染み込んだ昨夜の雨が、生温い空気を立ち上らせる。
 ユンフェイは、目的もなく歩いていた。手にしたスマートフォンには、大手IT企業からの「不採用通知」のメールが冷たく表示されたままだ。
 これで何社目だろうか。もう数える気にもなれない。
「985大学」──誰もが羨む国内トップクラスの大学の卒業証書は、今のユンフェイにとってはただの重荷だった。
 入学した頃は、輝かしい未来が約束されていると信じていた。
 しかし、現実は「内巻(ネイジュアン)」と呼ばれる終わりのない競争地獄。
 自分より優秀な人間はいくらでもいて、彼らもまた数少ない安定した職を求めて必死にもがいていた。
「お前の兄さんは、また昇進したそうだ。お前は一体いつになったら…」
 父親の言葉は、ため息と共に吐き出された。向かいに座る母親は何も言わない。その沈黙が何よりも雄弁に失望を物語っていた。
 金融街で成功を収めている二人の兄は、もはやユンフェイをいないものとして扱っている。
 彼らにとって、卒業しても定職に就けない弟は一族の恥でしかなかった。
「まだ若いんだから選り好みしないでどこかにまず入ったらどうだ?」
225/08/02(土)22:41:58No.1339360836+
 選り好みなどしていない。プライドを捨て中小企業にも何十社と応募した。
 しかし、返ってくるのは無慈悲なまでの「お祈りメール」か、良くて異常な長時間労働を前提とした低賃金の「996」求人だけ。
 あまりの過酷さに、全てを投げ出して無気力に寝そべる「躺平(タンピン)」という言葉が、甘美な響きをもってユンフェイの心を誘惑する。
 だが、それを許さない家族の視線が鉛のように彼を地面に縛り付けていた。
 居場所がない。家にも、この社会にも。
325/08/02(土)22:42:12No.1339360928+
 ふと、ユンフェイは路地裏に寂れたゲームセンターの看板が灯っているのに気づいた。
 子供の頃、兄たちに連れられて何度か来たことがある。
 吸い寄せられるように中へ入ると、最新のVRゲームが派手な音を立てる中で、隅の方に古びたアーケードゲーム機が数台忘れられたように置かれていた。
 その一台が奇妙な光を放っていた。

『WELCOME DIGITAL WORLD』

 引き寄せられるようにユンフェイが画面に手を伸ばした瞬間、スマホがポケットの中で激しく振動し、画面が勝手に点灯した。
 表示されていた不採用通知の文字が、緑色の0と1の羅列に変わっていく。
「!」
 スマホから溢れ出した光が、ゲームセンターの筐体の光と共鳴し渦を巻く。
 視界が真っ白に染まり強烈な浮遊感が全身を襲った。
 父親の怒声も、母親の失望のため息も、兄たちの冷たい視線も、急速に遠のいていく。
425/08/02(土)22:42:31No.1339361066+
 意識が浮上すると、鼻腔をくすぐったのはアスファルトと排気ガスの匂いではなく、乾いた土と金属が錆びるような匂いだった。
 ユンフェイが体を起こすとそこは見渡す限りの赤茶けた荒野だった。
 雲にはモザイクのようなパターンが薄っすらと走り、時折データの欠片のような光が流星のように消えていく。
 その非現実的な光景に呆然としていると突如、地響きと共に爆音が轟いた。
「何だ!?」
 音のする方へ視線を向けると丘の向こうで激しい戦闘が繰り広げられていた。
 チェスの駒、それも城壁を模したような巨人を筆頭に、重厚な陣形を組んでいる。
 その中心で、褐色の肌をした凛々しい女性が冷静に腕を振り、指示を飛ばしていた。
「ルークチェスモン、防衛線を維持してください! ヴォルクドラモン、前へ! タンクモン隊は引きつけてから砲撃です!」
 彼女の号令一下、屈強なモンスターたちが一糸乱れぬ動きで敵の攻撃を防ぎ、反撃に転じる。
 統率の取れた、まさに軍隊だった。
525/08/02(土)22:43:42No.1339361552+
 それと対峙しているのは、統制も何もない、獣のような雄叫びを上げるモンスターたちの軍団だ。
 炎の羽を持つ巨大な鳥や、神話に出てくるような飛竜の群れ。
 数で圧倒しようと波状攻撃を仕掛けるが、ルークチェスモンたちの鋼の装甲に阻まれ、次々と弾き返されていく。
 あまりの光景に、ユンフェイは現実感を失っていた。
 あの「不採用通知」も、家族の冷たい視線も、まるで遠い世界の出来事のようだ。彼は本能的に近くの岩陰に身を隠し、ただ固唾をのんで戦いを見守った。
625/08/02(土)22:44:08No.1339361740+
 その時、足元で小さな物音がした。見ると、青い鱗に覆われた小さな竜の姿をしたデジモンが、傷つき、怯えきった様子で震えている。
 その翼は破れ、つぶらな瞳には恐怖の色が浮かんでいた。
「……大丈夫か?」
 思わず手を差し伸べると、小竜はビクリと体を震わせたが、ユンフェイに敵意がないことを感じ取ったのか、おずおずと彼の腕の中に潜り込んできた。
 その小さな温もりが、凍てついていたユンフェイの心をわずかに溶かす。
 これが、恐怖に怯える「ドラコモン」との出会いだった。
725/08/02(土)22:44:18No.1339361807+
 戦況は、指揮官の女性が率いるルークチェスモン軍の優勢で進んでいた。このまま押し切るかと思われた、その瞬間だった。
 戦場に天を裂くような咆哮と共に、何かが現れた。
 それは、まさしく暴竜だった。ティラノサウルスを彷彿とさせる獰猛な頭部、燃えるような赤い鎧に覆われた屈強な体躯。
 そして何より目を引いたのは、両腕に備わった巨大な剣だった。
 それは単なる武器ではなく、体の一部として融合しているかのように、禍々しくも美しい青白い光を放っていた。
 竜人は、どちらの軍に味方するでもなくただその圧倒的な存在感を戦場に誇示していた。
「邪魔だ」
 低く地を這うような声が響くと同時にその姿が霞んだ。
 次の瞬間には、鉄壁を誇っていた亀のような怪獣の前に移動しており両腕の剣が閃光を放つ。
 甲高い金属音と共に、分厚い装甲がいとも容易く豆腐のように切り裂かれた。
 防御も、陣形も、戦略も、その絶対的な「個」の力の前に意味をなさなかった。
825/08/02(土)22:44:35No.1339361952+
 ユンフェイが息をのむ前で、戦場のパワーバランスは完全に崩壊した。
 突如現れた竜人型デジモンの圧倒的な暴力は、統率された軍という概念そのものを嘲笑うかのように次々とその剣閃で薙ぎ払っていく。
 追い詰められた女性指揮官は、しかし冷静さを失ってはいなかった。
 その瞳の奥には、全てを覆すための冷たい決意が燃えていた。彼女は高く掲げたデバイスを握りしめ、叫んだ。
「もはや出し惜しみはできません!! ルークチェスモン、ヴォルクドラモン、タンクドラモン、メイルドラモンをデジクロス!」」
 その号令が、戦場に響き渡る。
 火山のような甲殻を持つ巨大な竜ヴォルクドラモン。
 無限軌道を軋ませ銃火器を備えたタンクドラモン。
 そして鋼の鎧を纏ったメイルドラモンが光の粒子となって分解され、一体の巨大なルークチェスモンへと殺到した。
925/08/02(土)22:45:05No.1339362168+
 城壁のごとき巨体が核となり、そこに火山の翼と砲塔が装着され、全身がさらなる重装甲で覆われていく。
 それはもはや単なるデジモンではなく、戦略兵器と呼ぶべき威容を誇っていた。
 翼から灼熱の空気を放ち、肩の砲塔が敵意をむき出しにする、まさに「鉄壁の移動要塞」。
 その力は、先ほどまでの個々のデジモンとは比較にさえならないだろう。
 だが、赤い竜人型デジモンは、自らを遥かに超える巨体を前にしてもなお、静かだった。
「グラニットガーディアンズ最強の守護神の前に震えて、声も出ないでしょう!」
 興味深そうに、あるいは、つまらなそうに新たなる融合体を一瞥する。
「無駄にデカくなりやがって。ネオデスジェネラルである俺様の歩みを邪魔すんじゃねぇ」
 そして、ゆっくりと両腕を天に掲げた。
1025/08/02(土)22:45:21No.1339362271+
 両の掌の間に、大地から吸い上げた空間が歪むほどの高エネルギーが凝縮されていく。
 世界中の光を吸い込んだかのような、灼熱の球体へと姿を変えた。太陽の如き絶対的な力の塊。
 しかし、技はそこで終わらなかった。球体は急速に収縮しながら、凄まじい速度で回転を始める。
 甲高い耳を劈くような高周波を放ちながら、その姿は光り輝く漆黒の円盤──―あらゆるものを切断する、死の円環へと変貌を遂げた。
「焼き斬れ」
 竜人型デジモンが、技の名を宣告する。
「────『テラーズイグザーション』!」
 放たれた光の円盤は、音さえ置き去りにして空間を裂いた。
 デジクロスによって誕生した超巨大要塞は、その全砲門から迎撃の弾幕を放つが、すべてが無意味だった。
『テラーズイグザーション』は弾幕を霧散させ、重装甲をバターのように貫き、抵抗する時間すら与えずに、その巨大な胴体を一撃で両断した。
 一瞬の静寂。 そして、デジクロス体が断末魔の叫びを上げる間もなく歪んだかと思うと大爆発を起こし、0と1のデータの嵐となって消滅した。
「そん……な……」
1125/08/02(土)22:45:51No.1339362458+
 褐色の女性の顔から、冷静さとプライドが剥がれ落ちた。
 そこに浮かんだのは、理解を超えたものに対する、原初的な恐怖。彼女の最強の切り札が、文字通り一撃で粉砕されたのだ。
「ひっ……!」
 短く悲鳴を上げると、彼女は踵を返した。そして、まだ生き残っていた配下のデジモンたちに向かって、震える声で叫んだ。
「て、敵を食い止めろぉぉぉぉ! ここで私を守って死ぬのは貴様らの誉れと思え!!」
 それは、もはや指揮官の命令ではなかった。
 ただ生き延びたいという一心で、今まで忠誠を誓ってきた部下たちを「捨て駒」にする、卑劣な絶叫だった。
 何らかのデバイスを操作すると、その足元にトランポリンのようなものが現れ、彼女の体は瞬く間に遠く離れた場所へと飛んでいた。
 それを繰り返し、あっという間にその姿は見えなくなった。
 戦場には、敬愛する主に裏切られたデジモンたちの絶望と、それを静かに見下ろす竜人型デジモンだけが残された。
「哀れだな。だが俺様は優しい。まとめて楽にしてやるよ。ダークネスローダー、強制デジクロス!」
1225/08/02(土)22:46:13No.1339362580+
 褐色の女性が使っていたものよりも禍々しい形をした黒いデバイスを掲げると、残されたデジモンたちは1つに融合する。
 彼らは合体することで強くなった。これならば大将を倒したこのデジモンにさえ勝てるかもしれない。そう考えた。
 そして、暴竜はそれを容赦なく一太刀で斬り捨てると、はじめから何もない道だったかのように、ゆっくりと前へと進んでいった。


 岩陰でそのすべてを見ていたユンフェイは、言葉を失っていた。
 圧倒的な力。
 その力の前では、忠誠も絆もたやすく踏みにじられるというこの世界の冷酷な現実。
 しかし、ユンフェイには竜人のその圧倒的な姿が恐ろしいと同時に、どうしようもなく美しく映った。
 ユンフェイはふと、思い出した。
 子供の頃、アニメや映画のヒーローに夢中になった。
 剣で悪を討つ孤高の剣士に強く憧れていた。
1325/08/02(土)22:46:37No.1339362730+
 いつしかそんな気持ちは、受験戦争や「内巻」の波の中で擦り切れ、忘れてしまっていた。
 社会の歯車になること、安定した職に就くことだけが正しいのだと、自分に言い聞かせてきた。
 だが、今、目の前にいるのは何だ。
 誰の指図も受けず、何者にも媚びず、ただ己の力と剣技だけで、この世界にその存在を刻み付けている。
 腕の中で恐怖に震えるドラコモン。それを守る術を持たない無力な自分。そして、全てを切り伏せるあの圧倒的な剣。
 ユンフェイの中で、何かが音を立てて繋がった。「985大学」の卒業証書も、大手企業の肩書も、ここでは何の価値もない。
 ならば、何に価値がある?
 ──強さだ。
 あの竜人のような、絶対的な強さだ。
 恐怖に震えるドラコモンを見て、ユンフェイは決意した。もう、他人の評価に怯えるのは終わりだ。
 誰かが敷いたレールの上を歩く人生は、ここにはない。
「怖がるな」
 ユンフェイは、ドラコモンに優しく語りかけた。その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
「俺は、あれになる。あの暴竜のように、強くなる。この世界で、剣の道で生きていく」
1425/08/02(土)22:46:49No.1339362803+
 彼の瞳から、現実世界でまとわりついていた無気力と絶望の色が消えた。
 燃えるような赤い鎧を纏う全てを焦がしたような黒き竜を映し、初めて確かな意志の光が宿った。
1525/08/02(土)22:50:59No.1339364435そうだねx1
終わりだけど貼ってる途中であとで書こって途中になってた部分発見したんだよねヤバくない?
> 炎の羽を持つ巨大な鳥や、
txt版はこれで切れてます
この過去編自体はだいぶ前に書いたからすっかり忘れてたんだよね
火の鳥はバードラモンで飛竜はウィングドラモンです
修正版:fu5387211.txt
1625/08/02(土)23:08:20No.1339370761そうだねx2
>終わりだけど貼ってる途中であとで書こって途中になってた部分発見したんだよねヤバくない?
よくある
1725/08/02(土)23:11:38No.1339371928+
一人また一人と減っていく…
1825/08/02(土)23:26:23No.1339376699そうだねx2
ユンフェイさんは中国の名門大学出たけど仕事なくて絶望してウロウロしてる時にデジタルワールドに飛ばされて
突然なんか全部薙ぎ払ってったウォティラ様に脳を焼かれ
夢も希望もない現実世界捨てて子供の頃の夢に生きる覚悟をした剣士RPしてる人です
そしてウォティラ様の必殺技描写めっちゃ格好良いと自画自賛しているけど本当にこんな技なのかしらない
でもウォティラ様はダークネスローダーはこんなふうに敵を一纏めにして殺すのに使ってると思う
1925/08/02(土)23:27:00No.1339376898そうだねx1
ウォティラ様の戦い方の全貌知ってる人いないからセーフ
2025/08/02(土)23:39:42No.1339380780+
こっちきてから剣士初めてあれだけ実力つくんだ凄い…
2125/08/03(日)00:02:50No.1339388506+
赤字出ました
読んでくれた「」に感謝を
完結まであと3回以上は必要そうでなんでこんな長引く構成にしたんだろ…!


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